最終回
紗南ちゃんが学校の朝読書という時間に読む本を探しているらしい。そして私の好きな百合の小説を進めた。
だが⋯
「⋯⋯そもそも恋愛自体好きじゃなくて、」
気づけば私は、校舎の外へと歩いていた。
足は勝手に動いて、どこへ向かうかもわからない。
ただ、胸の奥がじくじくと痛んで、まともに考えられなかった。
さっきの紗南ちゃんの言葉が、何度も頭の中でこだまする。
私は、ずっと引かれていたんだろうか。
ラインで「好き好き」って言って、迷惑だったのかな。
そう考えると、涙が滲みそうになった。
だが、泣くのは違う気がして、私は強く目を閉じる。
そのとき、後ろから息を切らした声が響いた。
「待って!!」
振り返ると、紗南ちゃんがいた。
「⋯⋯なんで来たの」
冷たい声が出る。
だが、紗南ちゃんは怯むことなく、真剣な目で私を見ていた。
「さっきの、違うの」
「何が違うの?」
私の声は震えていた。
「私は……恋愛ものに興味がないっていうのは本当。でも、だからって、琴ちゃんのことを引いてたわけじゃない!ことちゃんの気持ちに気づいてたんだよね」
思わず、息を呑む。
「むしろ⋯⋯どうしていいかわからなかった。あなた、すごくまっすぐに私に好きを向けてくるから。私はそういうのに慣れてなくて、どう答えたらいいのか⋯⋯でも、嫌だったわけじゃない」
紗南ちゃんの顔が、少し赤くなっている。
「⋯⋯じゃあ、嫌いじゃないの?」
「うん」
「私が好き好き言うのも?」
「⋯⋯正直、最初はびっくりした。あんなに静かだったことちゃんが、、でも、今は⋯⋯」
言葉が途切れる。
私は、心臓が早鐘を打つのを感じながら、そっと問いかけた。
「今は?」
紗南ちゃんは、私の目を真っ直ぐに見つめ、少し口を引き結んだ後、小さく息を吐いた。
「嬉しい、かも」
「ほんと?」
「ほんと。でも、私、恋愛ってどうすればいいのか全然わからないから⋯⋯」
そこで紗南ちゃんは、ふっと微笑んだ。
「だから、ちょっとずつ教えて」
その笑顔を見た瞬間、私は胸がぎゅっとなって、でもすぐに嬉しさが溢れた。
「⋯⋯うん、任せて!」
涙がこぼれそうだったけど、それはもう悲しい涙じゃなかった。
朝読書の本を探していたはずなのに、なんだか大切なものを見つけた気がした。
こうして、私と紗南ちゃんの関係は、ゆっくりと新しい形を探し始めるのだった。