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見えて来た現実

「私だ。オスカーだ。約束通り今日は帳簿を見せて貰おう」


 おはようとか、今日も宜しくね、とかの挨拶は当然なく、今日も昨日と同じ時間にオスカーはやってきた。


 それも 『約束だ』 と言っている。

 一体いつアメリアと約束したのだろうか。勝手に決めて帰ったのに。


 喉元とまでそんな言葉が出かかったが、アメリアは取りあえず笑顔で出迎える。


 何となく今日もオスカーは早いだろうなとそんな予感がしていたアメリアは、昨日のうちにちゃーんと帳簿を準備しておいた。


 それに朝もいつもより少し早く起きて身支度を整え、グレイに持って行くパンも焼き終えている。


 完璧完了のアメリアには心の余裕があった。


「オスカーさん、こちらへどうぞ、帳簿はちゃんと準備してありますよ」


 ちょっとドヤ顔になりながら、アメリアはカウンター横にある小さなデスクにオスカーを案内する。


(ふふん、どう、私だってやれば出来るのよ)


 そんな気持ちが顔に出そうになるが、ここは我慢だ。

 今日を乗り越えれば全てが終わる。

 そう思いアメリアは笑顔を作り続けた。


 そんなアメリアの事を気にすることなく、オスカーはサッと椅子に座り帳簿を見始める。

 怪しい所は何も無い。

 堂々としていればいいのだが、やっぱり気になるアメリアはオスカーの背後から様子を覗き見してしまう。

 するとブルーベリー色の瞳がアメリアに向けられた。


(邪魔だったかしら?)


 ごめんなさいと謝ろうかと考えていると「他の帳簿は? ここには今年の分しかない様だが?」と言われアメリアは困惑する。


「今年の分だけではダメなんですか?」


 きょとんとするアメリアを見て、オスカーの眉間に皺がよる。

 何を言っているんだこいつは。

 そう思っていることがその表情だけで分かる。

 この人は意外と思っている事が顔に出るのかもしれない。


「……最低でも五年分。あれば十年分の帳簿が見たい」

「十年分?! ですか?」

「ああ、あれば、で良いのだが、あるのか?」

 

 祖母が几帳面な性格だった為、十年分以上の帳簿や顧客名簿はきちんと取ってある。

 アメリアもそれに習い、普段の販売内容を書き記しているのだが、十年分は流石に多い。

 オスカーは本当にあの量の帳簿を見るのだろうか。


「あ、ありますけど……十年分だと凄い数ですよ。それに古いものは顧客名簿と一緒に屋根裏にしまってあるので、すぐには出せませんが」

「顧客名簿もあるのか!」


 しまった、と思ったがもう遅い。

 顧客名簿と聞いたオスカーの目が光る。


「屋根裏部屋か、私も手伝おう」


 アメリアが了承の返事を返す前に、オスカーはすくっと立ち上がる。

 この人は本当に思ったら即行動。

 見た目と違って猪のような人だ。


「アメリア嬢、屋根裏部屋へはどう行けばいい?」


 行く気満々のオスカーに嫌とは言えない。

 アメリアは仕方なくオスカーを二階の居住区へと案内する。


 そう言えばグレイを家に入れた事など一度もないなと、こんな時なのにそんな事を考えてしまう。


 いつか結婚しようと約束するまで、アメリアにとってグレイは苦手な男の子だった。


 乱暴だし、我儘だし、アメリアの事を揶揄うしで、良いところは全くない、出来れば顔を合わせたくない、そう思う男の子だった。


 けれどアメリアが祖母を亡くし、一番弱っていた時に助けてくれたのはグレイだった。


 毎日のように店に顔を出し、必要もないのにポーションを買ってくれたり、風邪薬や傷薬も買ってくれた。そんな優しさに触れグレイの 「いつか結婚しよう」 という言葉にも頷いたのだ。


 乱暴なのは不器用なだけで、我儘なのは少し子供っぽくって可愛いところ。

 アメリアの事を揶揄うのは気を引きたかったからだ。そう分かるとアメリアは嬉しさしかなかった。


(私忙しくってそんな大事な事も忘れていたんだな……)


 昨日は酷いと思ったけれど、やっぱりグレイにだって良いところはある。

 アメリアもそうだけど、完ぺきな人間なんかこの世にはいない。

 夫婦は喧嘩して仲良くなるんだって祖母も言っていた。


 オスカーの押しの強さに触れ、そんな気持ちを思い出したアメリアだった。




「ふむ、これで十年分か、思ったよりも少ないな」


 小さなデスクに積み上げられた帳簿を見て、オスカーがそんな信じられない事を呟く。

 アメリアだったらとても見る気になれない帳簿の数だが、オスカーはどことなく嬉しそうで、気持ち程度口元が緩んでいる。


「では、私は帳簿と、こちらの顧客名簿を見せて貰う」

「……はあ……」


 どうやら自分のことは気にせず仕事に戻ってくれと言っているようだ。

 オスカーは既に帳簿に夢中だ。

 アメリアは自己中心的な行動を続けるオスカーにため息をこぼし、薬草を摘むために裏口へと向かった。


(まさかあの人明日は来ないわよね……)


 二度あることは三度あるというし、あの帳簿の数だし、嫌な予感しかしない。

 いくらオスカーが王都の監察官だって、今日だけであの帳簿と顧客名簿全て確認するのは無理だろう。


 薬草を摘みながら「はあー」と大きなため息を吐く。

 なんだかオスカーが来てから上手くいかないことばかりだ。

 人に不幸の原因を押し付けてはいけないが、オスカーに振り回されている感覚がアメリアにはあった。




 薬草を摘み、今日のポーション作りを終えたアメリアは、お茶を淹れて少しだけ休憩を取ることにした。


 オスカーが来ると言う事で朝早くに起き、色々と前倒しで準備していたため、いつもは疲れない時間に疲れてしまったのだ。


(うん、ちょっと甘いお茶にしようかな)


 アメリアは自分用にお茶を入れようとして、ふと手を止める。


(やっぱり、オスカーさんにもお茶を淹れた方が良いよね?)


 最初は嫌な人だと感じたけれど、オスカーはアメリアを疑っているというよりは、疑いを晴らすためにポーション作りを見たり、帳簿を調べたりしている気がした。


 それにあの態度はオスカーの標準なのだ。

 目つきの悪さも、態度の悪さも、理由が解ればそれほど気にはならなくなってきた。


 何よりもオスカーは、アメリアの作るポーションを特級品だと褒めてくれた。

 それにラズベリーの工夫も褒めてくれた。


 お茶を淹れる、淹れないで、アメリアの心がせめぎ合う。

 悩むぐらいならばお茶を淹れた方が絶対に良い。

 どちらにしても後悔するなら、お茶を淹れよう、そう決めた。

 ついでにシェリー用にと作ったクッキーをお茶請けで出して上げよう。


(フフフ、オスカーさんなら賄賂は受けとらないとか言いそうだよねー)


 自分で淹れたお茶を見て、つい笑ってしまう。


(はてさてどんな反応が返って来るかしら)


 そんな楽しみな期待を込めながら、オスカーの分だけ盆にのせデスクの近くへとお茶を置く。


「オスカーさん、お茶を淹れました、良かったらどうぞ」


 そう声を掛けると帳簿から顔も上げずに「ああ」と空返事が返ってきた。


 アメリアの声など聞こえていないのか、お茶をチラリとも見ない。


(もう、折角お茶を淹れたのに、本当に失礼な人だよねー)


 分かっていたがやっぱりオスカーの態度は悪い。

 悪気はないのは分かっているし、仕事に夢中なのも分かっているが、もう少し何とかならないものだろうか。


 そう思いながらも、オスカーに頼まれたわけではなくアメリアが勝手にお茶を淹れたので、文句は飲み込み、カウンターにある一人席に座るとアメリアも一服の為お茶を口にする。


 ここ数日いつにもまして忙しかった。

 いや、祖母が亡くなってから、とても忙しい日々が続いていると言える。


 祖母がいたころは薬師としての勉強もあったけれど、一緒に料理を作ったり、買い物に出かけたりと生活を楽しむ時間もあった。


 身支度だって今はほんの十分もかからず済ますけれど、以前は自分で作った化粧品を試したりと、研究を兼ねた時間も取れた。


 一人の生活だったら、ここまでの忙しさでは無かったはずだ。

 グレイの家の手伝いをする様になってから負担が増えた。それが本音だった。


(でもいつか結婚したら、もっと楽になるよね)


 ミラだっていつまでも病気でいる訳ではないし、昨日の様子を見れば完治まで間もなくだと思えた。

 そしたらダンもアメリアにお金を催促することも無くなる。

 グレイだって店が順調にいけば、今みたいにイライラすることは無くなるだろう。


 何より、家族は助け合うものだ。


「あとちょっとの辛抱よね」


 そんな事を呟きながら、シェリー用に作ったクッキーを口に運ぶ。

 自画自賛になるがそれほど甘すぎず上品な味で中々に美味しい。


 アメリアが作るお菓子の殆どはシェリーが気に入ってその場で食べてしまうか、家に持って帰ってしまうので、こんな風にゆっくりと味わうのは久しぶりだった。


「甘い……」


 オスカーが座るデスクからそんな小さな呟きが聞こえた。

 どうやらお茶に気が付いたようで、フルーツティーのカップを抱えまじまじとお茶を見つめている。


(もしかしてフルーツティーは初めてだった? 甘すぎたかしら?)


 オスカーの驚く反応が新鮮で、ついつい眺めてしまう。


 オスカーは今度はクッキーを口にする。

 パリパリむしゃむしゃ。

 オスカーらしくないリスのような動きでクッキーを食べ終わると「甘い……」とまた呟いた。


「オスカーさん、ごめんなさい甘過ぎましたか? コーヒーっていう苦いお茶もあるので、そちらをお淹れしましょうか?」


 アメリアには丁度いい甘さだったが、もしかしたら都会っ子のオスカーには甘すぎたのかもしれない。


 それにフルーツティーには、アメリアが砂糖漬けにしたオレンジの薄切りが入れてある。

 甘いたべものに、甘い飲み物。

 どう考えても辛党の人には辛い選択だ。


 アメリアは流石に申し訳なくなって、オスカーの傍へと駆け寄った。

 別に嫌がらせをしようと思ったわけではなく、本当に善意でお茶を淹れたのだが意地の悪い形になってしまったようだ。


「オスカーさん、あの、お茶を淹れ直しますね。お茶請けも良かったら塩味のナッツを出しますから」


 そんな言葉を掛けたのだがオスカーには届いていない様で、またお茶を飲み「甘い」と呟き、そしてクッキーを食べまた「甘い」と呟くのを何度も繰り返している。


(どうしよう、オスカーさん、働き過ぎで壊れちゃったみたい。ううん、この様子だともしかしたら甘いものアレルギーだったのかもしれないよね)


 可笑しな行動を繰り返すオスカーを見て、アメリアはちょっとだけ怖くなった。

 声を何度掛けても聞こえない様だし、甘い甘いしか言わない姿は恐ろし過ぎた。


(ロンさんを呼んでこようかしら……)


 恐怖からアメリアが一歩後ずさると、お茶を飲み終えクッキーを食べきったオスカーが、机に肘をつき両手で顔を覆った。

 アメリアの親切を嫌がらせだと受け取ったオスカーは、遂に泣き出してしまったようだ。


「あ、あの、オスカーさん?」


 恐る恐るオスカーの肩にそっと触れてみる。

 男の人を泣かすなんて……と罪悪感で一杯だ。


 だがその瞬間オスカーが勢い良く立ち上がり、アメリアの肩をガシッと掴んだ。


「きゃあ!」

「甘いぞ、アメリア嬢!」


 怖さで悲鳴を上げたアメリアの前、オスカーはまだ甘いと叫んでいる。


「ご、ごめんなさい、私、オスカーさんが甘いの苦手だって知らなかったんです!」


 肩を掴み真面目な顔で甘いと呟くオスカーが怖すぎて、アメリアはついつい謝ってしまう。

 嫌な奴だと思った事は内緒にしていたのに、もしかしたら顔に出ていただろうか。

 それとも知らずに呟いていた?


 ブルーベリー色の瞳には狂気のような物が浮かんでいるように見えて、殺されてしまうかもしれないとアメリアは本気で身構えた。


「違う、違うんだ、アメリア嬢。何故お茶が甘いんだ? それにこの菓子だ。何故菓子がこれ程甘い? この菓子は王家の方々が口にするような代物なのか?」


 アメリアの肩を掴むオスカーの手に、グッと力が入り「ヒッ」と情けない声が出てしまう。


「アメリア嬢、どうなんだ」


 再度問いかけられ、アメリアは首を横に振る。


 ちょっと腰が引けながらアメリアは説明を始めた。

 半泣きになっている気がしたが、涙はどうにか堪えた。


 お茶は紅茶でアメリアの漬けたオレンジが入っている事。

 クッキーは友人が来たときに出すお茶請けで、特に特別なものではないこと。

 この村の人間ならば誰でも作れるはず。


 そんなアメリアの説明を聞いたオスカーは、やっと嫌がらせでないと理解してくれたのか、アメリアの肩を離してくれた。

 けれど今度は片手を自身の額に置き、何やら悩みだしてしまった。


「あ、あの、オスカーさん?」


 恐る恐るアメリアはまた声を掛ける。

 頭の血管が切れて倒れる病気があるので、それが怖かった。


「……アメリア嬢、もしや君の家には砂糖を仕入れる伝手があるのか?」


 半分になったブルーベリー色の瞳がアメリアに向かいゾクリとする。

 きっと睨んでいるわけではない。

 だけどさっきの狂気じみている行動を見ただけに、ブルーベリー色の瞳が怖かった。


「さ、砂糖は家で作ってます。どこの家だって砂糖は自宅で作るものでしょう?」

「は?」


 アメリアの中では常識なことを答えただけなのだが、オスカーのブルーベリー色の瞳は益々細くなる。

 もうブルーベリーとは言えない形だ。


「君は、砂糖を家で作っているのか?」

「は、はい……」


「それは砂糖作りの製法を知っている、ということだな」

「は、はい、そうです」


 何を当然のことを? と思ったが、オスカーは大きなため息を吐くと椅子に座りこんでしまった。

 見た目は冷静沈着なのに、中身は噴火中の火山のような人だ。

 それはつまり、変人ともいえる。


「あの、オスカーさん? 一体どうしたんですか?」


 意味が分からず問いかけるアメリアに、オスカーはチラリと視線を向けるとまたため息を吐く。

 その様子からちょっと呆れているのが分かり、カチンときた。

 

(甘いものが嫌いだからってそんなに怒らなくってもいいじゃない!)


 善意で淹れたお茶でこんな目に合うだなんて。

 ムッとするアメリアの前で、オスカーはこめかみを揉んでいる。

 まるで問題児が目の前にいて困っている牧師さんのようだ。


「……取りあえず、砂糖のことは置いておいて話を進めよう……」

「えっ? あ、はい?」


 何の話? そんな疑問が浮かんだがオスカーが帳簿を取出し、アメリアの前に置いたことで帳簿の話だと分かった。


 どうやらオスカーはもう全ての帳簿を確認したようで、問題が分かったようだ。


「ここのポーション代金返金とはどうして返金することになったのだろうか? 何か商品に問題があったのか?」

「ああ、それはポーションが効かなかったって言われて、半額だけ返金したんです」


「……効かなかった?」

「はい。おばあちゃん、いえ、祖母が亡くなって数週間ぐらい私ぼんやりしていたんです。だからなのか何人かの人にポーションの効きが悪いって言われて、返金しました」


「……その返品された商品は中身を確かめたのか?」

「いえ、そもそもヤル気が起きなくってポーションをいつもより少なく作っていたし、お客さんももう飲んでしまったと言っていたし、その日作った他のものは売り払ってしまっていて、確認の仕様が無かったんです」

「……そうなのか……」


 帳簿を見ながら何かを考えるオスカー。

 身内の死ぐらいでポーション作りもきちんとできなくなる薬師だなんて、呆れているのだろうかと不安になる。


「最近作ったポーションの数と売った数が合わない理由は?」

「ああ、それはグレイの、いえ、近所の幼馴染のお母さんにポーションを上げていて、この星印の分がそうなんです」


「……ふむ、かなりの数だな……」

「そうですね。なんでも王都のお医者様が診ても分からない程の難病だそうなので、それにミラおばさんはポーションが効かない体質なのかもしれません。たまにそういう人もいるので」

「……ふむ……」


 また帳簿をジッと見つめ、何か考え出したオスカー。

 心臓に負担がかかるのでその行動はやめてほしい。

 試験結果を目の前に置かれ、待てをされているような心境だ。


「このガラス工房への支払いがここ数ヶ月上乗せされているが、ポーション瓶の仕入れでも増やしたのか?」

「いえ、それは……」


 グレイの父、ダンの話をしても良いのだろうかと迷う。

 料金を上乗せして支払っている事は何かの罪に問われるのだろうか。


 けれどきっとオスカーには誤魔化しは効かないだろう。

 アメリアはしどろもどろになりながら、ダンの妻ミラが病気であり、王都の病院へ通うのにお金がかかるため瓶購入の支払いを多めにしている事を伝えた。


「ふむ、つまり過入金か? いや掛け払いに近いのか? そのガラス工房とは契約書や明細書のやり取りはしているのか?」

「いえ、こんな田舎ですし、そういった物は有りません。一応ダンさんからはいつかきちんと支払うとは言われていますが……」


 アメリアの言葉を聞いてオスカーの口元が歪む。

 馬鹿にしているのが丸わかりだ。


「ふっ、いつか、か、それは詐欺の常套句だな」

「さ、詐欺だなんて!」


 ダンが詐欺罪で捕まるかもしれない。

 そんな考えが浮かんだアメリアは恐怖にかられる。


「あ、あの、ダンさんとはいつか家族になるかもしれないんです!」

「いつか、家族に?」


 どういうことだとオスカーのブルーベリー色の視線が問いかける。

 アメリアは「いつか結婚する予定なんです」とダンの息子であるグレイとの関係をオスカーに話した。


「おばあちゃんが亡くなった時に、グレイが言ってくれたんです。いつか結婚しよう、それで家族になろうって、だからダンさんにお金を渡しているのも、ミラさんにポーションを渡しているのも、全て家族になるからで、いつか結婚するからなんです!」


 ダンが罪にならないようにと、まくし立てるように言い切ったアメリアに冷たい声がかかる。


「……ふむ、それで、そのいつかはいつなんだ?」


「えっ?」


 いつ?

 いつと言われても……

 アメリアの思考が止まる。


「先ほども言ったが 『いつか』 は都合のいい言葉だ。君はお人よしで騙されやすいように感じる。世間知らずの君は、その一家に都合よく使われ騙されているのではないか?」


「そんな事は……」


 あるかもしれない。

 アメリアの脳裏に肯定する言葉が浮かぶ。


 だけど違う。

 アメリアが本当に辛い時、手を差し伸べてくれたのは誰だったのか。


 あの時グレイだけがアメリアを家族にしたいと言ってくれて、おばあちゃんが居なくなった寂しさを紛らわせてくれた。


(やっぱりオスカーさんなんて大っ嫌いだ!)


 アメリアの瞳に涙がたまり始め、喉の奥が熱くなってきた。


「帰って下さい!」

「いや、まだ話しがーー」

「いいから帰って!」


 オスカーの背中を押し、店から追い出す。

 詐欺だとか、騙されているだとか、都合よく使われているだとか。

 ひどい言葉を浴びせるオスカーの顔を、アメリアはもう見ることが出来なかった。


「塩を撒いてやるんだから!」


 キッチンに向かい塩が入った瓶を取り出す。

 けれど目の前が歪み、瓶を空けることが出来ない。


「おばあちゃん……私、間違えてないよね?」


 今はもういない祖母にアメリアは問いかける。

 けれど当然答えは返ってこない。

 アメリアは一人ぼっちだ。


 一人キッチンに座りこみ涙を流すアメリアには、オスカーの残酷な言葉が辛すぎた。

 

 

週末は予定があるためお休みします。

次回は月曜日にお会いしましょう。


麦の家もよろしくお願いします。

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