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いつか結婚しよう。

「いつか結婚しよう。それで俺がお前の家族になる!」


 一年前祖母が亡くなった時、幼馴染のグレイにアメリアはそんな言葉を掛けられた。


 アメリアはこの村の名と同じラズベリー色の珍しい髪色をしている。

 幼い頃グレイはその髪を笑っては引っ張り、田舎色だと馬鹿にしたり、時には親無し子と揶揄れたりと、散々酷い扱いをされた相手だっただけに驚いた。


 祖母は薬草店を営んでおり、お使いの途中でグレイに押されアメリアは転倒し、大事なポーションを壊された記憶まである。


 なので大人になってもグレイには余り良い感情が持てなかった。

 また揶揄ってる? と疑ったアメリアだったが、いつにないグレイの真剣さと言葉で一瞬で心が温まり、祖母を亡くした寂しさから思わず頷いていたのも仕方がない事だと思う。


 何故ならアメリアは早くに両親を亡くして、家族の愛情に飢えていた。

 幼い頃は王都で暮らしていたらしいが、残念ながらそのころの記憶はあまりない。

 両親の顔や声も思い出せないし、王都での暮らしもどんなだったか思い出せない。


 それには理由があって、出掛ける用事があった両親は幼いアメリアを知り合いに頼み、その日の帰りに事故に遭って亡くなったからだ。


 約束の時間になるとその知り合いは幼かったアメリアを一人残し帰ってしまった。

 小さな子を残して家を出るなど信じられない行為だが、皆自分の生活が大事だし、何か事情があったのかもしれない。なのでその人の事を責める気持ちは今はない。


 ただそのせいで、アメリアは知らせを聞いた祖母が王都の家にやってくるまでの三日間、独りぼっちで家の中で過ごすことになった。

 その上両親の死までも目の当たりにしたアメリアは、独りぼっちという孤独に弱い。


 ラズベリー村で薬師として働く祖母に引き取られ、大事に育てられて、十分に愛情は注いでもらったが、幼い自分が親の愛情を欲していたのは仕方がないことだったと思う。


 祖母には 「自分が死んだらあんたはこの村を出て自分の家族を作るんだよ。王都の家に戻るんだよ」 と常にそんな事を言われていたが、アメリアは祖母と過ごした想い出のある薬草店を手離す気にはなれなかった。


 それに正直王都の家に行くのが怖い。

 父や母の想い出のある場所を見て自分がどうなるか不安しかない。

 そんな気持ちから祖母の言葉には従えなかった。


 だから尚更、自分の家族というものにアメリアは強い思い入れが合ったのかもしれない。


 祖母を亡くし、愛情が不足したところで、グレイに「家族になろう」と甘い言葉を掛けられたのだ。

 アメリアの心の中や葛藤、それに幼い頃の記憶など、何も知らないはずのグレイの言葉に、アメリアは運命を感じた。


 あんなに苦手だと思っていたグレイが、その日からアメリアの王子様になった。


 粗野に見える言葉や行動も、照れ隠しのようで何だか可愛いと思えた。

 ちょっとした我儘さえも、自分だけに甘えていると思うと、嬉しくて幸せだと感じた。


 だから毎日お弁当を届けてほしいし、会いに来て欲しいと願われれば、忙しくても断る気にはなれなかった。


 祖母が亡くなって一人で薬師の仕事を回さなくなって忙しくなったけれど、そう言われてアメリアは嬉しかったし、グレイの不器用な愛情に幸福感を覚えた。


 私の運命の相手はグレイだったんだ。


 祖母には両親が住んでいた王都に行けと言われたが、この村にこそ自分の居場所があった。そう思った。



 ラズベリー村は王都から馬車で一日程度の距離にあるが、とても田舎だ。


 女は十代で嫁ぐのが当たり前だし、男は長男が家を継ぎ、次男以下は家を出るのも当たり前。


 そんな昔ながらの習慣が今でも続く自分の生まれたこの村を、祖母はアメリアには向かない場所だとそう言っていた。


 アメリアには教養があるし祖母の仕事を手伝っていたので手に職もある。

 それに王都には小さいけれど両親が残した家もあるし、両親と祖母が残してくれた遺産もある。


 成人していないからラズベリー村に引き取ったが、本当は王都の学校に行かせて上げたかったのだというのが祖母の口癖だった。


 自分が死んだら自由に生きなさい。


 祖母のその言葉はアメリアを突き放しているようでちょっと寂しかったが、それも祖母なりの愛情だったのだろうと、愛を知った今なら分かる。


 アメリアだってグレイを束縛しない。

 グレイには自由に過ごしてほしいと、そう思うからだ。







「グレイ、お昼届けに来たよー」


 村のガラス工房がグレイの仕事場だ。

 グレイの父親が工房長で、アメリアの作るポーションの瓶もここから仕入れている。


 グレイと結婚したら今以上にガラス工房とは親密な関係になるだろう。


 だって家族になるのだから。


「なんだよー、またレーズンパンかよ、俺レーズン苦手なのにさー」


 アメリアが届けたお昼ご飯を見て、グレイが子供のような癇癪をおこす。


 アメリアが作ったレーズンを練り込んだレーズンパンは、料理上手な祖母も認めるほどの仕上がりなのだが、グレイはお気にめさなかったらしい。


「グレイ、我儘言うな、アメリアちゃんが折角届けてくれたパンだろう。それにほら干し肉だって入っている。十分な食事じゃないか、アメリアちゃんに感謝しろ」


「ちぇーっ」


 父親であるダンに諫められ、グレイは口を尖らせる。

 グレイはアメリアより一つ年上でもう17歳なのだが、一人っ子のせいかちょっと我儘で子供っぽいところがある。

 だけどそんなところも可愛いなと思ってしまうのだ。恋とは不思議なものだと思う。


「グレイ、ごめんね、明日は別のパンにするから」


「当たり前だろう、お前はいつか俺と結婚するんだ。俺の好みの味を覚えて作るのが当然だろ」


「うん、そうだね、グレイ、本当にごめんね」


「ちぇー、まあいいや、腹減ってるし、こんなんでも我慢して食ってやるよ」


 そう言ってグレイはムッとしたままレーズンパンに齧りつく。


 思ったよりも美味しかったのか、嫌いだと言いながらも食べる速度は速い。


 アメリアはダンとグレイにお茶を入れてあげようと工房の厨房へと向かう。


 すると食事を摂る手を止めたダンが厨房にまでついて来た。


 そんな様子からアメリアは (今月もか……) とため息が出る。


 実はグレイの母であり、ダンの妻であるミラが体調を崩していて、この工房の経営は厳しいらしいのだ。


 案の定


「アメリアちゃん、今月の入金も色を付けてもらえないかな」


 とダンはアメリアに言ってきた。


 息子には経営不振を知られたくないのか、いつも二人きりの時にダンは声を掛けてくる。


 なのでアメリアは厨房にダンが付いて来た時点でこの事が予想出来ていた。


「……でもダンおじさん、瓶の購入に色を付けるのももう三ヶ月連続ですし……」


 アメリアも一端の店主としてそこは渋ってみせる。

 祖母が亡くなりただでさえポーションの数を揃えるのが大変になったのだ、収入だって以前よりも減っている。アメリアだってそこまで余裕がある生活をしているわけではない。


 家族が残した遺産はあるが、出来ればそれには手をつけず大事に取っておきたい。

 自分の力で稼いだものだけで生活をする。

 それは大人として当たり前のこと。

 それにそんな枷を付けなければ、お金などあっと言う間に無くなってしまうだろう。


 それにいつか結婚するとなればお金がかかる。

 それとアメリアは、両親や祖母のお金を粗末には扱いたくなかった。


「本当に済まない。だが、ミラの体調がまだ戻らなくってねー、王都へ診察に行くのも金がかかるし、薬代も馬鹿にならないんだ」


「それはそうですけど……」


 確かに毎月ミラは王都へと出向いている。

 病状が不安定で、高い薬を処方されていると聞く。

 

 そんなミラにアメリアはポーションを渡しているのだが、祖母の作ったポーションとは出来が違うのか、余り効きが良くないとミラには言われている。


「それにいずれアメリアちゃんはグレイの嫁になって俺達の家族になるんだしさ」


 家族なら助け合うものだろう?


 そう言われるとアメリアも弱い。

 身内でもお金に関しては厳しくしなければならない。

 そう分かっていても、未来の父親には強く出れないのだ。


「……分かりました。でも今月が最後にして下さいね」


「ああ、有難う! グレイは本当に良い子を彼女にしたよ」


 喜ぶダンを見て、アメリアも仕方がないかと苦笑いを浮かべる。


 いつかグレイとは結婚するし、この工房はアメリアのもう一つの職場のようなものだ。


 補填するのもいつかグレイと結婚するアメリアの役割の一つなのかも知れない。


 グレイとダンにお茶を入れ終わると、アメリアはガラス工房の居住区へと向かい、ミラの様子を確認する。


 アメリアは一般的な薬師ではあるが、村唯一の薬師であった祖母に鍛えられていたため、診察もある程度は出来るからだ。


 寝ているはずのミラの部屋へとアメリアは向かう。

 すると廊下には鼻を突くようなキツイ匂いが漂っていた。


「えっ? なにこの匂い、すっごく臭いんだけど」


 匂いを嗅いで(もしかして……)と急に心臓が激しく鳴り始める。


 匂いがミラの部屋から漂うということはそういう事なのかもしれない。

 知り合いの死が怖いアメリアは悪い方へ考えてしまう。

 恐る恐るミラの部屋をノックし、扉を開ける。


(もしかしてミラおばさんに何かあった……?)


 そんな恐ろしいことを想像しながら、アメリアは部屋の中を見渡した。


「あら、アメリアちゃん」


 ベッドの住人から元気に声を掛けられて、アメリアはホッとした。


 死体を隠すための香りじゃなくて良かったと、生きているミラを見て胸をなで下ろした。


「あの、ミラおばさん、その恰好は……? もしかしてどこかに出かけるんですか?」


 診察を終えたアメリアは、言うか言わないか悩んでいた言葉をミラに掛けた。


 ベッドから除くどう見ても寝間着とは考えられない派手なドレス。


 顔には濃いめの化粧が施され、診察の為に顔色を見たくても分からないぐらいだ。


 それにこの強い香水臭もいただけない。

 ずっとお風呂に入れなくって、汗のにおいを消すためのものかも知れないが、かえって具合が悪くなりそうな悪臭に感じた。

 

 そんな疑問をミラにぶつけると、ミラは目をウルウルとさせ、アメリアを見つめ返してきた。


「あの人がね……ダンが、私の綺麗な姿を見たいって言うのよ」


「へっ?」


「だから着飾って綺麗な姿を作ってみたの、あとであの人がここに来たら見せるつもりよ。ウフフ……きっと驚くわね」


 違う意味で驚きそうだ、という言葉は飲み込み「そ、そうですね……」とアメリアは無難に答える。


「この衣装も私の為にダンが準備してくれたのよ、素敵でしょう?」


 布団を剥ぎ、アメリアに派手なドレスを自慢げに見せるミラ。


 工房の経営状況が思わしくなく、ダンがアメリアに助けを求めるのもミラの為。

 愛する妻の喜ぶ顔みたさに金を使っているのだと思うと、ダンの妻への深い愛情を感じ、アメリアも入金の事は大目に見ようとそんな優しい気持ちになった。


(ダンさんに似ているグレイも同じ様に愛妻家になるのかしら)


 そんな妄想が浮かび、ちょっとだけ頬が熱くなる。

 いつか家族になったら、あのグレイが自分の為にドレスを準備するのかもしれない。

 そう思うとミラと同じぐらいアメリアも嬉しい気持ちになった。


「ミラおばさん、とっても似合ってますよ」


 本心からそう答えると、ミラはとっても嬉しそうに笑った。

 化粧が濃いのも相まって、その笑顔はとても病人には見えない。


「ミラおばさん、調子が良さそうで安心しました」


 アメリアの診察でも特に体調には問題無かったし、食欲もあるようだし、脈も落ち着いているし、多分だが顔色も悪くない。


 これなら仕事復帰も間もなくだろう。

 きっとダンも喜び、入金に色を付けてとせがまれることも無くなる。


 そんな気持ちを込めて微笑むアメリアの前、ミラが突然咳き込みだした。


「ゴッホ、ゴッホ、ゲホッ!」


「お、おばさん、ミラおばさん、大丈夫? お水を飲んで!」


 いつも突然始まる謎の発作に、アメリアは焦り出す。

 ベット脇に置いてある水差しから水を取り、ミラに差し出す。


 フーフーと苦し気な息を吐くミラは、どうにか咳を落ち着かせるとアメリアがさし出した水を飲む。


 やっぱりアメリアはまだ半人前なのか、もう大丈夫とそうと感じたミラの診察は間違っていたようだ。

 残念ながら祖母のようにはなれていない。

 まあ仕方ない、アメリアはまだまだ成長途中なのだから。


 それにしてもミラの病気はなんなんだろうか。

 王都の名医に診せてもはっきりしないのだと言っていた。

 こんな原因不明な発作を起こす重病人に、働けなど言えるわけがない。

 暫くはまだダンからのお願いは続きそうだ。


 ミラの背中をさすりながら、アメリアは未熟な薬師で申し訳ない気持ちで一杯になる。

 こんな事ならもっと祖母に色々と学んでおけば良かった。

 今更後悔しても遅いが、そんな気持ちが押し寄せていた。


「ねえ、アメリアちゃん、あなたのポーションなんだけど、もっと貰えないかしら?」


「えっ?」


 発作が落ち着いたミラがそんな願いをアメリアに言ってきた。


 今現在、週に一度ミラには無料でポーションを渡している。

 体にいいポーションだって飲み過ぎれば毒となる。

 それにアメリアのポーションはあまり効かないとミラは言っていた。

 なのにポーションを何故欲しがるのかと、そんな疑問がアメリアには浮かんだ。


「不安なの……」


「えっ?」


 ミラは俯き、か細い声で答える。


 聞いてみれば原因不明の病気に心が不安定になり、どうしてもポーションが欲しくなるらしい。


 アメリアのポーションを飲んだ時だけ、心が軽くなる。

 本当は毎日飲みたいぐらいだけど、週一を週二にして貰えるだけでもいい。


「いつか結婚式をあげるグレイとアメリアちゃんの姿を自分の目で見たいのよ」


「ミラおばさん……」


 そんな事を願われてはアメリアも嫌とは言えない。

 週に二度ポーションを持ってくる約束をしてミラの部屋を出る。


 いつか本当の家族になるのだから、ミラおばさんには長生きしてほしい。

 アメリアのポーションが少なからず役に立つのなら有難いぐらいだ。


 アメリアはお昼を運んだ籠を持つと、薬屋である店まで駆けて帰る。


 私も未来の家族の役に立っている。


 そんな気持ちで足取りは軽かった。





 店に着くとお昼を駆け込むように食べ、大急ぎで店をあける。


 祖母がいたころはきちんと一時間のお昼休みが取れていたが、今はアメリア一人で店を切り盛りしているため、お昼時は「休憩中」の看板を下げ、グレイの家に向かい、用事を済ませて店に戻る、という忙しい日々を過ごしている。


(これもいつか家族になるための準備期間だもの、頑張るしかないよね)


 ミラが病気で寝込んでいるため、グレイの家の食事はアメリアが準備してあげている。


 店が休みの日はグレイの家の掃除や溜まった洗濯物もアメリアが片付けているのだ、忙しくて当然。

 ダンやグレイがもっと家事をやってくれると良いけれど、ラズベリー村の男にそんな事を求めるのは無駄だとアメリアは知っている。

 でも忙しいとつい愚痴のような物を内心で抱えてしまう。


 祖母が居なくなって、店はアメリア一人で切り盛りしなくてはならなくなった。

 夜は夜で祖母が残した薬の資料を読み、立派な薬師になるため勉強もしてもいる。


 グレイの家の事をしなくてもいいのなら、アメリアにはもっと余裕があっただろう。


 でもグレイと、この村の為に役立つ様な夫婦になろうと約束したんだから。


 そんな目標もありアメリアは必至で頑張っているのだが、疲労はかなり溜まっているのが正直な状況だった。






「アメリアさん、こんにちは。いつものポーションを受け取りに来ました」


「ロンさん、こんにちは、ポーションの準備出来てますよ。今用意しますね」


 ロンはアメリアの店と契約している商人で、月に一度王都からポーションの買い取りにやって来る。


 村ではポーションを買う者も少ない上に、祖母の提案で少しだけ安く金額を設定しているので、儲けは少ないといえる。


 なのでこのロンの買い取りは、アメリアの大きな収入源となっている。


 それもロンは行商のついでにアメリアの店に寄ってくれるので、アメリアが王都へポーションを運ぶ必要もない。


 win-winではなく、完ぺきにおんぶにだっこ状態なのだが「アメリアさんの作るポーションは王都で人気なんですよ」と言って、熊のような丸顔に笑みを浮かべて答えてくれる。お世辞の上手な気のいい商人なのだ。


 だが今日はそんなロンに珍しくツレが居た。

 薄い金色の髪は白銀にも見える、王都のイケメンと言われてもおかしくない風貌の男だ。


 年齢はロンと同じぐらいだろうか? チラリと見えた瞳は、ブルーベリーの色に似ていて、ちょっとだけ美味しそうだと思ってしまった。


 アメリアが卸すポーションの準備をしている間、その男は店内をジロジロと見渡し、何か探っているかのような様子でちょっと感じが悪い。


 棚に並ぶポーションや薬が気になるのか、手にとっては「品質は良し」と何かを呟いている。


 まだ挨拶もしていないのにマナーがなっていない従業員だなとアメリアが内心ムッとしていると、「オスカーさん」とロンが店内を物色するその男を呼び寄せた。


「オスカーさん、紹介します。彼女がアメリアさん、この店の店主であり薬師さんですよ」


 愛想のいいロンがアメリアをオスカーに紹介する。どうやらロンの店の従業員ではないようだ。


 別に顔見知りになりたいとは思えないが、そこはロンの顔を立てアメリアは笑顔で「宜しくお願いします」と挨拶をする。


「オスカーだ。ふむ、君がこの店の店主なのか……」


 ブルーベリー色の瞳をグッと細くし、睨むようにオスカーはアメリアを見つめる。


 都会の男からすれば田舎娘なアメリアなど虫けらのような物なのだろうか、その目には冷たいものを感じた。


「君の作るポーションの一部が王都で問題に上がっている」


「はいぃ?」


 挨拶もそこそこに、突然そんな事を言われアメリアは困惑する。


 王都で問題?

 アメリアのポーションが?

 ロンにしか卸していないのに何故?


 そんな疑問が湧きロンを見れてみれば、ロンに苦笑いで「他の店でアメリアさんのポーションに酷似したポーションが置かれていたんです」と補足された。


 なんで?

 なんで私のポーションが?


 そんな疑問が浮かぶアメリアに、ブルーベリー色の視線が突き刺さる。


「君の祖母は王都で名が通った薬師だった。彼女の知り合いの薬師に何か声をかけられたり金銭を渡されたことはあるか?」

「えっ?」


 突然のことに思考が追いつかない。

 祖母が王都で名の通った薬師?

 そんなの初めて知った。


「ポーションを水で薄めたことは?」

「や、薬師としてそんな事は絶対にしません!」


 今度はちゃんと答えられた。

 だけどブルーベリーは潰れたまま。

 アメリアをじっとり見ている。


「王都に行って古いポーションを売りさばいたことは?」

「王都になんてここ数年一度も言っていません!」


「薬師でもない者にポーションを作らせたことは?」

「そんな事するわけ無いでしょう!」


 鼻息荒く答えるアメリアを、オスカーはジッと見つめている。


 まるでお前は嘘をついているなと疑っているかのようなその姿に、ブルーベリー色の瞳が美味しそうだとか、イケメンだと思った自分が嫌になる。


「明日、君のポーションづくりを見せて貰おう。それで判断する」


 そう言い残してオスカーは一人店を出て行った。

 容疑者アメリアと馴れ合うつもりはない。

 そう言っている背中だ。


 残されたロンは「何かの間違いで私はアメリアさんを信用しているからね」と励ましてくれたが、怒りは収まらなかった。


「なんなのアイツ!」


 ロンを見送ったアメリアからそんな言葉が零れる。

 アメリアは比較的穏やかな性格だと思うが、アイツだけは許せなかった。


「私のポーションを馬鹿にするだなんて!」


 確かにアメリアはまだ半人前かもしれない。

 だけど水で薄めるだなんて、そんな事をするはずがない。


 明日は絶対に完璧なポーションを作って、あの高い鼻をへし折ってやろう。


 アメリアはキッチンから塩を持ちだすと店先に撒いた。

 祖母から大事なことがある前には必ずやるようにと言われた、魔を払う儀式だ。


 塩は勿体ないがあの男に勝つためには仕方がない。

 アメリアは遠慮なく店先に塩をまく。


「あんな嫌な奴、見返してやるんだから!」


 意地悪していたころのグレイが可愛いと思えるぐらい、初対面のオスカーはいけ好かない男だった。

こんにちは、夢子です。

新作投稿いたします。六話完結予定です。

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