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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

厂下广卞廿士十一卉半与本二上旦二本与歪一士廿卞广厂

作者: HORA

私の名前は三奉(さんぽう)春美、25歳。実家の私の部屋は私がダメにしてしまった。天井近くまで物が積み上がった部屋を掃除してもらうため業者に依頼し撤去・清掃に80万円程の費用がかかってしまった。ゴミ撤去のためのトラックが十数台分が停まり、ご近所にもゴミ屋敷であるという噂をたててしまう。更に部屋で液体をこぼして放置した上に、重みも加わって床が腐りぐにゃぐにゃ。部屋は立ち入り禁止となったのである。そうして私は実家を追い出される事となった。

「家で働かずにダラダラしているから駄目なんだ!仕送りは食料だけはするから独り暮らしをしろ!働け!友人を作れ!」

両親にそのように(さと)され都会へトボトボと上京してきたのだ。


独り暮らしの最初の関門となるのは部屋選びである。条件などを絞ってから不動産屋に向かう。

私は別に部屋が汚くても良い訳では無い。それを上回るものぐさなだけなのだ。片付けも定期的にちょっとは行なうのだが、積んでいくペースの方が早い。

実家を掃除に来てくれた業者さんから部屋選びに関して色々とアドバイスをもらった。物を購入する段階で部屋に置くことそのものが億劫になれば良いらしい。まずは立地が悪く、階段での3階以上、部屋は広くない方が良い。部屋が広いと物を持ち込める絶対量が増えるので禁忌(タブー)最小限生活者(ミニマリスト)にまでなれるかどうかは分からないが、新しい環境でそれを目指すだけで何か根拠の無い希望が持てた。


瑕疵(かし)物件。瑕疵(かし)とは欠点の事で、いわゆる訳アリ物件。過去に自殺・殺人などがあった事故物件や、近所で反社会勢力がパンパン銃撃をするような物件は私としては是非とも避けたい。虫は問題無いが、霊や怖い人にはビビリである。瑕疵(かし)物件の原因となる立地や騒音、地盤が多少傾いているぐらいならばこちらの生活スタイル次第でどうとでもなる。そもそも実家のすぐ間近にも線路&踏切があったので騒音や振動はあまり気にはならず許容できるのだ。


割と都会ながら月3万円ちょっとのアパートに入居できた。駅徒歩25分、築60年の3F建の3階でエレベーターは無し。まずまず古い建物ではあるが10年程前に一度リフォームが入っており外観や内装はそこまで年季を感じない。フローリングの6畳一間。かなり条件に合う好物件であると思う。騒音も特になく閑静な住宅街といった立地だ。駅まで遠いが近所で働けば良いので問題にはならない。事故物件でない事はしつこいぐらいに確認した。お隣さんの部屋と比べても1万円近くも安い理由は値下げ交渉した事もあるが、メインはフローリングの床の(ゆが)みだろう。内見(ないけん)の際にTVなどでよく見るビー玉10個程を転がす光景を見た。

シャーーーッ

そこまで勢いよくでは無いが10個程のビー玉が部屋のある一点に向けて移動をする。部屋の真ん中から50cm程離れたある地点にビー玉が集まった。

「通常であれば一方向に傾いているので壁際に集まるものなんですけどね~」

不動産や大家もこの部屋だけが変に(ゆが)んでいる事を不思議と感じているそうで、一応告知義務がある瑕疵(かし)物件になっているようだった。確かに地震などが起こった際に(ひず)みを元にして電気系統や水道菅、更には被害そのものが一番出そうな感じはする。ただこの(ゆが)みに関しても私には強い耐性がある。長年の間、物が積み上がった部屋で生活していたので水平って何?美味しいの?状態である。そう考えるとワイルドに育ったチート属性と前向きに考える事もできる?いや、イカンイカン。新しい部屋では散らからないように物を極力買わず整理整頓を心がけるのだ。


仕事は近所のスーパーのパート(レジ打ち)が決まり順調に独り暮らしがスタートした。買い物も基本そのスーパーで行い、コンビニも近くにあったのでその日に消費する物をその日に使い切り、出たゴミはすぐゴミ袋へ。スマホのカレンダーにはゴミ出し曜日の前日の夜にアラームが鳴るようにセットされており、その時にゴミを捨てる準備をする。そして朝、パートに出る前に靴の上に置いておいたゴミ袋を必ず持ってパートに向かいがてら捨てるようにする。

これも業者さんからの金言。ゴミ屋敷になる人は夜型の暮らしで、朝のゴミ捨ての時間に寝ていたり、朝に用事が無くて外に出られずゴミが出せなかったり、ゴミ袋がパンパンにならないとと捨てられないまま溜まっていってしまう。…のだそうだ。

地区の清掃センターのような場所に持ち込めばいつでも捨てられるのだが、それを知らなかったり、面倒に思ったり、恥ずかしく思ったりする人も多いとの事。なのでまず私も実家にいた頃の夜型の生活を朝型に変え、パートに向かうついでにゴミを出せる生活へと変えたのだ。


1カ月程経って生活に必要な物は増えてはきたが部屋はまだ綺麗と言える状態を保つことが出来て満足していた。唯一、生活必需品とは言えないが購入したものと言えばビー玉(・・・)であろう。あの内見(ないけん)の日の

シャーーーッ

と一斉にビー玉が転がる光景に何か心が動かされたのだ。ただビー玉をせっかく購入したのだが結局この1カ月程は一度も転がしていない…。

ラムネの瓶に入っている綺麗な球がA玉で、規格に合わなかったものをB玉と呼ぶと聞いたことがある。実家を(ゆが)ませた(いが)んだ私が(ひず)んだ部屋で(いびつ)な玉を転がし一点に集まるという事象がどこか心を打ったのだ。まぁビー玉はビードロ玉の略でB玉はガセだという説もあるが…。どちらが本当でどちらが嘘か。初めに嘘を流布させた人物の罪は重いよね。どちらも嘘かもしれないけど…。


同じレジ打ちをしている年が2つ下の寿(すず)ちゃんとパートの休憩室で話をする内に仲良くなった。パートの先輩である実家暮らしの寿(すず)ちゃんは独り暮らしの生活に憧れていると言っていたので、アパートに誘ってみる。本当に娯楽の(たぐい)は何も無いけどね。お姉さん風を吹かせられるほどの社会経験も寿(すず)ちゃんより全然無いけどね。仕事終わりに少しの食べ物と飲み物、お菓子をコンビニで買って住んでいるアパートまで寿(すず)ちゃんを案内する。

「お邪魔しまーす」

まぁ本当に生活必需品しかない。TVすら無いので寿(すず)ちゃんの憧れの独り暮らしの様子からはほど遠いだろうなと思っていたが、思いの(ほか)に感動しているようだった。

「私は実家に自身の部屋が無いからこういうの憧れます」

あぁ。部屋が無いのなら確かに憧れるかも。あ…私も実家にもう部屋が無かったんだ。うっ。しんどみ。


お菓子も食べ終わり、話題が尽きた頃にふとこの物件が瑕疵(かし)物件である事を話す。

「きゃ。うわ!辞めて下さいよー。え?瑕疵(かし)物件って言うからてっきり自殺とかお化けとかの事故物件かと思ったじゃないですかー。へー(ゆが)みがあるんですねー。」

あはは。話の切り出しをおどろおどろしい感じにして正解。怖がってくれたようだ。そしてここぞとばかりにビー玉を転がしてみようと考えた。家賃を安くしてくれる上にエンターテイメントにもなってくれる瑕疵(かし)物件グッジョブ!そして床に置いてある荷物を少し片づけてから10個程のビー玉を転がす。

シャーーーッ

またもや壁際に集まらず部屋の1点に集まる。

「わーっ。不謹慎ですけどなんか面白いですね。でもこれぐらいで家賃が結構安くなるなら掘り出し物の物件じゃないですか?羨ましいです。」

でしょー?私もそう思う。私は生活の中で床の(ゆが)みは特に感じていない。ようやくB玉の初陣も果たすことができた。そしてしばらくくっちゃべった後に寿(すず)ちゃんは帰っていった。

「今日はありがとうございました。また明日パートで~」

バタンッ


寿(すず)ちゃんが部屋にいた時には話題にしなかったが、ふと、気づいた事があった。1か月と少し前、内見に来た際にビー玉を転がした時と先ほど転がしたビー玉の集まる地点が異なっていた。これはビー玉の質のせいなのか、それともここしばらくの間に(ゆが)みが起こったのか。季節や時間帯で木の(ひず)み方が変わるまである。部屋に荷物をある程度入れたからかな?まぁ私の勘違いの線もあるので深く考えないでおこう。


翌日から寿(すず)ちゃんはパートに来なくなった。失踪してしまったのである。最後に会っていたのが私だそうで私は警察や寿(すず)ちゃんの友人だとか親だとかから詳しい事情を聴かれた。だが、私が寿(すず)ちゃんを玄関で見送ったのが最後であり、全く失踪には関わっていない。寿(すず)ちゃんのご両親は捜索のビラを数千枚単位で用意して週末にはいつも駅前で配っていた。都会って怖いなぁ。誘拐とか頻発するんだろうか?


それから1カ月程が経過。母が独り暮らしの様子を見るために明日、私の部屋まで来ると突然連絡が入った。私は順調に独り暮らしができていると親に示すべく、少し散らかった部屋を急いで片付ける。運の良い事に明日の朝はゴミが出せる曜日。何とかごまかせるだろう。


翌日の夕方、母が部屋に来る。

「うん。綺麗にやってるじゃない。最小限生活者(ミニマリスト)は名乗れないけど、床が見えるだけ感心感心!」

昨日の夜から今朝にかけて徹夜で片付けをしてゴミを10袋程だしてからパートの仕事。そして帰ってからすぐに母を迎える。現時点で体力は0.1しか残っていなかった。ある意味ここがゴール。あとは適当に対応して帰ってもらおうと思う。

「TVとかは買えば良いのにー。部屋で何してんの?スマホ?ふーん。ん?このビー玉は何?」

矢継(やつ)(ばや)に話す母。そしてビー玉の話になったがあまり良い思い出が無いので「別に。」とエリカ様ばりにはぐらかしていたのだが、

「別にってことは無いでしょ?こんだけ部屋をあまり散らかさずにいるのにこのビー玉だけ子供っぽくて浮いてるわよ。言わないと~。仕送りを絶って~。兵糧攻めしちゃうぞ~。」

分かった。分かった。子供っぽいのはどちらだ。とは言え、そこまで面白い話ではない。瑕疵(かし)物件で床が(ゆが)んでおりそれを確かめるためのビー玉だと伝えると

「うん。じゃあやってみせて。」

こんちくしょう!床に置いてあるいくつかの物を片付けるべく、片付け延長戦のために残り体力0.1を振り絞る。体力が(マイナス)に突入してしばらくしてから床は何も置いていない状態にまでなった。そしてビー玉を手に取り床に撒く。

シャーーーッ

「おーっ。転がる転がる。」

楽しそうで何より。そして部屋の真ん中辺りに10個のビー玉が集まる。

「うん。いいモノ見た。じゃ帰るね。バイバーイ」

おーーーーい!!引っ掻きまわすだけ引っ掻きまわしてさっさと帰っていった。台風のように来て帰っていったな。まぁ部屋の片付けをまとめて出来たので良かったとするか。母はそろそろ散らかる時期だと分かっていて私の所に寄ったのかもしれない…。そしてまた気づく。やはり前回とも、前々回ともビー玉の集まる地点がまた変わっていたのだ。何か得体のしれない不安が渦巻く。


その日の夜。父から私の電話に着信があった。

「母が帰ってきていないが春美は知らないか?」


母が失踪した。ただ今回に関しては、私が母を玄関で見送った後に母は隣の部屋に挨拶に行っていたようで、最後に母と会っていたのは隣の部屋の住人であった。しかし隣の部屋の住民からすれば当然ながら母と初対面。

「隣の部屋に住んでるウチの娘が迷惑をかけてるかもしれないですけどどうぞよろしくお願いします。」

と贈答用のそれなりにお高いクッキーを渡されながらそう告げられただけなんだそうだ。

失踪届が出された母の足取りは完全にこのアパートを最後に途絶えていた。


これは本格的に何かがおかしい。何を尋ねてみるか決まらないままであったが、とりあえず不動産の電話番号の入った名刺を引っ張り出し電話をしてみる。

「あぁ。長車聿(おさぐるまいち)君ね?じゃ、あなた。長車(おさぐるま)君に物件を案内された人なんだね。長車(おさぐるま)君さぁ。ある日から突然に無断欠勤が続いていてねぇ。社内でも嘘か(まこと)か借金を苦に夜逃げしたんじゃないかって噂になっとるのよ。

あ、電話の用件は何でしたかいね?もしかして三奉(さんぽう)さんにも何か迷惑をかけたのかねぇ?ウチも困っとるんで、もしそちらの方に連絡とかがあったらウチにも知らせて欲しいんだけど」


内見を一緒に回り、名刺をくれた長車(おさぐるま)さんも失踪していた。きっとあの内見の日からいなくなったのだろう。しかし考えれば考える程に私が出来る事は無いような気がする。私が犯人で3人の失踪に関わっているのならば別だが、本当に私は何も知らない。この部屋に訪れてビー玉を転がした光景を見ると失踪するなんてありのまま警察に伝えても鼻で笑われるだけであろう。


どうしよう…。


どうしようか…。



10年後



「先月、取り壊されたアパートの地下から遺体が20体以上見つかった件で続報です。これまでの調べで三奉(さんぽう)春美さん(25)、長車聿(おさぐるまいち)さん(35)、奏実寿(そうみすず)さん(23)、三奉(さんぽう)房子さん(51)(当時の年齢)の4体の遺体は亡くなった時期が近くDNAが残っており身元が判明しました。埋め立てられていた井戸の底で折り重なった状態で見つかり、その異常な状況から連続殺人事件とみられています。何かしらの事情を知っていると見られていた三奉(さんぽう)健一さん(63)が今日未明に警察署内で亡くなりました。三奉健一さんは一連の殺人事件とは別件の不正(ふせい)薬物使用の容疑で取り調べを受けている最中でした。警察署内のトイレの中で後頭部が陥没している状態で見つかり、死因は鈍器のようなもので殴られた脳挫傷(のうざしょう)とみられています。署内の監視カメラの映像ではトイレに入る健一さんの様子が録画されていましたが前後の時間、誰もトイレに入っている様子は無く、捜索は難航している模様です。警察では事件・事故・自殺等の可能性があるとし捜査しているとの事です。

また身元が判明した三奉(さんぽう)春美さん(25)は発見された4体の中で一番底で亡くなっていた事から、一番最初に殺害されたものと思われます。春美さんは10年前に事故現場となったアパート付近の不動屋を訪れて、そのアパートの内見(ないけん)を行ないましたが、契約はなされなかったとの記録が残っており当時の事情を知っている人がいないか警察では引き続き聞き込みを続けていくとの事です。」

タイトル名 遺櫃(いびつ)

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