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From Abyss  作者: バルト
第一章 「新たなる神」
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第零話

◇◆◆◆



 白銀の鎧を着た軍団が、所々で炎が湧き出す荒野を進む。どこまでも進む。倒すべき敵を目指して。先頭にいる者の鎧には黄金の装飾が付いていた。


『オォォォォ……』

「出たな……」


 白銀と黄金の鎧を身に纏い、輝く剣を持つ勇者(・・)は、その瞳で敵を見据える。彼は剣を振るう。無造作に。それだけで見るだけで恐怖を感じる、紅黒の粘液のような怪物は両断され、力無く頽れる。後ろに控える騎士達は歓声を上げる。だが、それはその地の憤怒を呼び覚ました。


「あれはなんだ!?」


 騎士のうちの一人が、()()を指し示す。空間が割れ、何かの気が漏れているような物が、そこにはあった。


「来るぞ!構えろ!!」


 勇者は叫ぶ。倒すべき敵が現れたと。()()は応える。まだ己が通るには少し狭い空間を、剣で切り裂いて。


「な……何者だ………!?」


 彼は、紅黒だった。装甲の付いた紅黒の外套、美しくも恐怖を感じさせる紅黒の(つるぎ)。そして、その身に纏う紅黒の炎。顔は、外套に隠されている。


「あれが、敵だ」


 勇者は呟く。怯える自身を励ますために。


「…………」


 彼は応える。剣を構えて。


「行くぞ!全員、着いてこい!!」

「「「オォォォ!!」」」


 勇気ある者達の突撃を前に、彼はこう呟いた。


「……領域顕現・神威解放:……」


 空間が軋む。


(しょう)(めつ)(ほう)(かい)


 そして、全てが炎に包まれた。



◆◇◆◆



 少女は進む。蒼き雷の輝く曇天の下を、修道女と共に。


「聖女様」


 彼女達の前に、魔物が立ち塞がる。雷を纏う獅子だ。


「………」


 聖女は祈った。己の信ずる神に。


『グルル……!? グォオォォ!? ……………オォ』


 天より落ちた光に、獅子飲まれた。存在ごと。


「っ!? あ、あれは………」


 己の領域で、己の喜びとなりうるモノを消された者は、興味を持った。


「……ゲート?」


 次の玩具は、どれほど自分を喜ばせてくれるのか、と。


「~♪」


 門から現れたのは、聖女達と年が近いであろう少女だった。しかし、決定的に違ったのは。


「あっ……」


 彼女は、()ではなかった。黒く艶やかな長髪、蒼く輝く瞳、蒼黒の衣服、その身の発する蒼き雷。


「領域顕現・神威解放:……」

「みんな、逃げ……」


 聖女は祈る。部下だけでも逃がすために。しかし、願いは届かない。


雷讚悦界(らいさんえつかい)


 殺さぬように、そして逃がさぬように。強力にして柔らかい雷が、彼女達を飲み込んだ。



◆◆◇◆



 魔法使いは歩いていた。塵の舞う平原を。そこは草木は生えず、誰も住まない無限の荒野。しかし、その存在は別だった。


「こんな不気味なところに本当にいるんだろうか……。ギルマスの冗談だと嬉しいんだが」


 魔法使いは呟く。そして上から声が降ってきた。


「お前も脱皮しないか?」

「は?」

「領域顕現・神威解放:……」

「なっ……」

(じょ)(きゃく)(らく)(かい)


 その祝詞と同時に、その声の主以外は全て塵となり、消えた。魔法使いが消える寸前に見たのは……緑の服を纏い、美しい槍を持つ男の姿だった。



◆◆◆◇



 剣士は逃げていた。名誉、誇り、仲間、その全てをかなぐり捨てて。


「クソッ、クソッ!なんだよ、なんなんだよ!」


 その口からは罵倒を垂れ流し、その目からは涙を流していた。


「こんな……こんなところで、死亡(デスペナ)なんてしたくねぇ!」


 彼の仲間はすでに全滅した。彼は、その光景を見てしまった。


()()()とはいえ、あんなグロい死に方なんて絶対に御免だ!」


 身体の中から飛び出した、無数の深紅の棘に突き破られた無惨な姿を。そして、その死を齎す存在は、すぐそばまで接近していた。


「逃がしませんよ?」

「へぁっ……? グペッ!?」


 自分の真後ろから、氷のように冷たく、硬い声がしたと同時に、剣士は前のめりに倒れた。そして、その原因をみて、


「あ……足が………」


 彼の右足は、(くるぶし)から下が無かった。そして左足にいたっては、膝から下が無くなっていた。


「あ……あぁ…………」


 彼の前には、漆黒の袴を身に纏い、己の周りに水と冷気を侍らせ、右手に目を背けたくなるほどの怨嗟を感じる刀を持ち、左手にはこれまた恐ろしい気配を持つ本を持って、何の感情も感じない……いや、良く見れば、深い哀しみを湛えた青年がいた。


「まさかこんなに恥もなく逃げるようなクズが混ざっているとは思いませんでした。いやはや、危うく逃がす所でしたよ」


青年はそう言った。そして、剣士にその刀の切っ先を向ける。


「や……止めろ、止めてくれ………」


涙を流しながらの哀願に、青年はニッコリと華がほころぶような笑みを浮かべ、


「嫌です。許しません」


そして、開いていた本を勢い良く閉じると同時に、パァン、と剣士の身体は熟れた果実のように内側から弾けた。赤い飛沫と共に。





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