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第3話 死神

青海夜海です。

ノルンという女の子が出てきます。



「……二度目だ。ここどこ?」


 というわけで、目を覚ました僕はまたしても知らない覚えもない場所で眼を覚ました。

 あれかな、眠ってる間に勝手に動く奴かな?え、やだ、怖い!

 冗談半分でお祓いに行きたい気持ちのまま身体に力を入れて立ち上がる。僕の見た目は昨日と何も変わらない。胸には相変わらず血糊で絵画が描かれてるし、何なら腹の虫も元気いっぱいだし、気持ちよく眠りから覚めた爽快感すらあった。つまり元気溌剌パン人間というわけだ。


「とは言え、二重人格とか夜な夜な誰かが僕の身体を乗っ取って動かしてるとかマジで怖いんで勘弁願いたいんだけど……どうなんですかね昨日の僕?」


 僕が僕に訊いたところで返事など僕がするだけなので答えは『No』の一点張りで、そもそも気絶してからの記憶がないので寝てましたとしか言いようがなくて、つまるところ。


「だから、ここどこ?」


 ふりだしに戻っていた。

 街の具合は昨日となんら変わらない。死体と瓦礫と腐敗とゴミがカオスの廃街だ。

 ただ一つ違うことがあるとするならば、僕が立ち上がってどさっと僕の上から落ちたものだ。結構な重量感がなくなり、不自然さすら感じる。長い間眠っている僕に覆いかぶさっていたのか。とにもかくにも、重量とか時間とかはどうでもよくてその落ちたものを凝視してしまった。

 女の子だ。それも金髪の年齢は十四、五歳くらいの背の低い女の子だ。

 目元まで隠す前髪の合間から愛らしい閉じられた幸せそうな寝顔が露わになり、思わず眺めてしまう。そのまま膝を折り腰を落して今だ眠る少女のサラサラな金髪の頭を撫でる。撫でる……撫でてしまった。


「はっ!こ、これはセクハラなのか⁉いや違う。断じて違う!これこそが、そうだ。親心という奴か!」


 僕は驚愕に打ちのめされた。これが可愛らしい子供の魅了なのだと。わかってしまう。全世界の母とか父とかじじいとかばばあが、子供とか孫を鬱陶しいくらいに愛でるのが。


「こ、これが愛!これが、親心!これが子供!」


 ふと、考える。自分に子供がいたらどうなのかと。それはさぞかし可愛らしい子に違いない。お母さん譲りの真っ黒な美しい髪を靡かせて「おとうさーん!」と走って来る姿が。


「はっ!これは正夢⁉なら、僕の将来のお嫁さんは……!」


 僕は普通に錯乱していた。いや、一昨日の彼女に逢いたいし恋人になりたい気持ちは変わらないんだけど、フラれた分際で将来を想像してしまうくらいには錯乱していた。改めて思えば気持ち悪いし死にたくなるし、いっそ死ねばいいと思う。


「正気を保て!子供の無垢な笑顔に負けるな!僕はあの人が好きなんだ!」

「ん?誰が好きなの?」

「へ……?」


 穏やかな可愛らしい小さな声音。前髪で目元まで隠した少女はゆっくりと身体を起こす。そして僕の瞳と少女の瞳が重なる。金木犀の瞳の奥で微かに僕が見える。僕の記憶にない僕の僕らしい姿が。でもそれ以上に僕は少女に見入った。

 あどけなさを残しながらも揺るぎなさそうな少女だと思った。儚げに美しいそれこそ金木犀のような少女だと思った。人を魅入らせる少女だった。


「ん」

「うん」

「頭……なの」

「……頭か」

「ん。なんなの?」

「……なんでもないよ」

「子ども扱い好きじゃないの。やめてほしいの」

「そうか……セクハラで訴えたりしない?」

「ん。しないの。私、あなたのこと守るの。だから、訴えないの。仕方ないの」


 どういう意味か分からなかったが僕は自然な動作で少女の頭を撫でる罪な手を意志で引っ張り上げ引き戻した。一つ言いたい、僕はロリコンではない。どうかそれだけは間違えないでほしい。小ぶりも好きだけど、巨乳の方が好きだったりする。嘘です。はい。


「で、君は誰なんだ?」


 少女は「ん?」と首を傾げぼーと僕を見てから。


「ノルンなの」


 と、答えた。だから僕も「僕は夜霧(よぎり)。多分だけど」と伝えると「多分なの?」と反対側に首を傾げられて「記憶がないんだ」と理由を説明すると首を真ん中に戻し「そうなの。それは大変なの。だからなの。わかったの」とノルンは立ち上がったので僕も立ち上がる。


 僕の肩上あたりにノルンのおでこ。僕は自分の身長がわからないので、僕が小さいのかノルンが大きいのかわからない。見上げるノルンは「昨日のこと、覚えてないの?」と訊ねた。


「何も。地下駐車場から出てから覚えてない。どうやら眠っている間に僕の身体が勝手に動いたらしい。怖いこともあるもんだ。君は何か知ってるの?」

「……それは秘密なの。でも、あなたは私を助けてくれたの。あなたじゃないけど、あなたが助けてくれたの。だから私はあなたを守るの。そう約束したの」


 要領得ないノルンの言葉。僕はもちろんノルンという少女を助けた記憶もないし、僕じゃない僕って怖すぎるし、言わないけど約束も覚えてない。もしかしたら目を覚ますと記憶を失くしているのが僕のルーティンだったりするんだろうか。それはとても不便だ。


「昨日の夜のことは教えてくれないと?」

「ん。夜のあなたがまだダメだって言ったの。いつも通り生き延びることだけ考えてって言ってたの。私はあなたを手伝うの。あなたには生きていてほしいの。だから、私も付いて行くの」


 僕の知らないところでなんか僕の使命みたいなのが決定されているみたいだ。いや、生き残ろうとするのは普通なんだけど、なんか怖いなーと思ってしまう今日この頃の僕です。


「よくわからないけどわかった。とにかく食料……せめて飲み水は確保したいかな。手伝ってくれるか?」


 そう訊ねるとノルンは年に似合うあどけない笑顔で頷いた。


「ん!行くの!」


 こうして、僕は記憶を失くし未知路上で目覚めた二日目、見知らぬ少女ノルンとサバイバルをすることになった。



 ということで一日半ほどで相も変わらない終わりを迎えた街はもはや見慣れたものとなり、新鮮さの欠片もなかった。が、隣に昨日はいなかったノルンがてくてくと僕の隣りを歩くのは新鮮だった。妹ができた感じだ。感無量とはこのことか。


「にしてもなんでこんな世界は終わりみたいになってるんだ?宇宙人でも攻めて来たのか?」


 冗談全快で笑いでも誘おうと声にすれば。


「そうなの。宇宙人が攻めて来たの」


 と、マジな回答が返って来て兄さんビックリ。


「冗談?」

「冗談じゃないの。私たちと同じ宇宙人がやって来たの。それで街を破壊したの。みんな殺されたの。生き残った人は連れていかれたの。授業で習った戦争みたいだったの」

「マジっすか……?僕は記憶がないからわかんないけど、僕たちと同じ宇宙人ってのは同じ人間って意味?」

「そうなの。そっくりなの。同じなの。だからみんな戸惑ったの。だけど、宇宙人は私たちを殺したの。〝私〟は私を殺そうとしたの。だから逃げたの。みんな逃げたの。逃げて逃げて抵抗したの。でも、私は少し前に一人逸れたの。道に迷ったの。それで昨日襲われたの。だけど、あなたが助けてくれたの。強かったの。すごかったの。だから、私はあなたを守るの。願われたの。私は了解したの」

「物騒な世の中になったものだ。にしても同じ宇宙人ねー。なかなかどうして人生は面白いらしい。更には殺し合いと来たか……僕も僕を狙ってるのか?」


 こんなセリフを言えるのは記憶がないからだ。人が虐殺される人生を面白いなどと思えるのはきっと僕がおかしいからだ。でも別に僕の頭がくるくるパーでもいい。それよりも考えないといけないことは一つ。


「昨日みたいにまた理不尽に殺しに来るのか……。死ぬは痛いから嫌だな」


 この世界の住人だからという理由で殺されては理不尽すぎる。それが戦争の摂理と言えばそれまでだけど、命を狙われる身としては神を殴りたい気分なもので、つまるところ。


「食料とかを確保するためには戦わないといけないわけか」

「ん。あの人が言ってたの。ほとんど宇宙人側に占領されたらしいの。ここら辺はもうダメだそうなの。もっと田舎に逃げないと殺されるの。でもその前に飢えて死ぬの」

「で、ノルンたちはどうやって対抗してたんだ?相手はなんか変形する武器みたいなの持ってるだろ」


 そう言って僕は昨日のおじさんから戴いたトンカチを取り出して見せる。ノルンは眼をまん丸にして驚いていた。


「お兄さん、どこで手に入れたの?」

「え?あーなんか殺されて生き返ったら死んでて、貰った」

「ん。よくわからないの。でも、すごいの。その武器で宇宙人は対抗しているの」

「どうやって使うんだ?昨日のおじさんはこのトンカチを銃にしてたんだけどな」


 そう言うとノルンは「念じるの。思い描けばいいらしいの」と助言をくれたので僕は念じてみることにした。まずは昨日見た白い拳銃を。確か持ち手はこんな感じで、銃口は短かったような……あと弾のところが回る奴じゃない奴。

 曖昧な想像を流し込むと電子遺伝が組み変わる粒子の流れがトンカチを二次元にし、次には僕の持ち手に沿った歪な銃となって顕在した。銃身が短い……。短足だ。


「ん。成功なの。すごいの」

「あ、ああ。ありがとう。これって撃てるのか?」


 僕は適当に照準をつけ引き金を引く。銃の構成など知らないが、クリップの引き金を押し込めば短足の銃口から弾丸は放たれた。僕は「うわぁぁっ⁉」と情けない声を出してしまった。不覚、カッコ悪い、死にたい。銃弾はそこら辺の壁にぶつかり乾いた音がした。


「これはいいな!ガンマンになった気分だ!いや、スパイかな」


 決めポーズを取る僕をじーと凝視するノルンに気づき、恥じる。無償に恥ずかしいし死にたい、てか、子供か。


「ん。お兄さん、面白いの。私、嫌いじゃないの」

「トゥンク。恋に落ちる音がした――って犯罪はやめろ夜霧夜霧!」


 自分を戒め平静を取り戻そうと深呼吸をしていると、はっとノルンが勢いよく僕の前に手を伸ばした。まるで僕を守るように。


「誰かいるの」


 その言葉に僕も身構える。今しがた強力な武器となった白い短足銃を手に、ゾンビか?それともピーターパンか?いやブギーマンか?袋男か?と、思考を巡らすがフラグを立てたわけなので正体は決まっていた。うん、知ってます。わかってます。ふざけました。ごめんなさい。


 僕とノルンが凝視する二階建ての横と奥に広い大型の箱のようなビル一つ。他のビルよりも見てわかるほどに補強再建された痕跡があり、外見の襤褸さはあるけれどこの崩れ去った世界において黒の中に白が一つ紛れているみたいに、もしくは羊の群れの中に羊の着ぐるみを被ったオオカミが紛れ込んでいるように、そのビルは不自然極まりなかった。

 一階は硝子の砕け散った自働ドアの奥に柱が二本見える。二階も含め四方に窓があり差し詰め上流の会社のような見た目だ。あれだ。丸の内とかで見るビルを縮小させ最適化した感じだ。ベストプラクティスだ。ユーザビリティだ。知らんけど。


「気を付けるの。こっち見てるの。宇宙人だと思うの」

「つまり、殺しに来ると?」

「ん」

「いつから日本は暗黒期に入ったことか……内戦、クーデターだな。授業のストライキなら大いに歓迎するんだけどな……」


 まぁー授業を受けていた記憶はないんだけど……。でもきっと全学生の代弁のはずだ。学校なんてやってられるかぁ!……という心情を抱きながら身構える。刹那、空気が爆ぜる乾燥的な音が聴覚を脅かし、シュン――と、擬音語にすればそんな感じで目にも止まらぬ速さの異物が横切った。


「――っ⁉」

「危ないの!」


 ノルンが硬直する僕の手を引いてビルの斜め向かいの隘路に身を隠す。たった数歩走っただけなのに肺が空気を求めてはぁはぁーと横隔膜が収縮と弛緩を繰り返す。理科ちゃんと学びました。マイフレンド、ベストフレンド、ユーモア―な女の子理科ちゃん!


「……っっ!まだ撃って来るの」


 ノルンが隘路から顔を覗かせると一斉に射撃される。斜角線上より威嚇ではなく殺意をだらだら漏れ漏れで狙い撃って来る。

 ノルン曰く宇宙人ことパラレルワールドの住民――虚界人(きょかいじん)。つまり別世界の日本人ということだ。


「日本人は同郷の人にやさしいんじゃなかったのか?」

「よく、わからないの。空に穴が開いて映画みたいにやって来たの。それで、東京の端っこが吹き飛んだの。すごかったの。戦争の爆弾みたいだったの」

「原子爆弾?」

「ん。そこをアジトにしているらしいの。でも、東京だけじゃないらしいの。他のところも宇宙人にやられたの。侵略者なの」

「……諸事情でも、あるのかな。侵犯は天空に限るね」


 ノルンの話しを信じる信じないはこの際どうでもいい。僕としては記憶がないので大切な人とか愛国心だとかアーメンだとか、神に祈り別世界の同郷の人に怒りを抱く精神は持ち合わせていない。もちろん、殺されたのは痛かったし、それなりに怒りを思えたけど、僕はどうやら死なないみたいだから別にいっかって思ってしまう。いやよくない。死にたくないね!そこでふと思いつく。


「なら、あいつらの占拠してるビルを乗っ取れば食べ物とか手に入るってことだ」

「ん。そのためにはやっつけないといけないの」

「なるほどなるほど……僕が才能を開花させる時が来たか。なに、僕が戦場に立てば僕の身体は感覚でアーサー王みたいに一瞬で強くなるに違いない。というわけで、行ってくる!」

「待つの⁉」


 ノルンの引き留める声にこの背中を見ておけ、という気概で戦場に舞い戻る。

 気分はナポレオン。白馬に乗って赤いマントを携え荒野を駆ける最強の軍人。戦略家でも政治家でも一世でも指揮官でもないけど、気分的にはそんな感じだ。あれだ、英雄だ。

 つまるところ今の僕には不安はなかった。恐怖とか厭きとか畏怖とかもなかった。億尾しなかったし、なにより何とかなる気分でいた。要約すれば再びの非日常に心臓が高狂っていたのだ。

 僕は柱の影からこちらへ照準を合わせながら僕の出方を見る虚界人。

 堂々と出て来たものだから怯えているに違いない。

 僕は彼らに向けて右腕を突き出す。手には短足銃口の白い拳銃。イメージは僕の銃弾が吸い込まれるように二人の額を撃ち抜く、そんな感じ。


「君はもう、死んでいる」


 バンーーっ!


 刹那、僕は真っ青な空を仰ぎながら、背中からベッドにダイブするような心地……なんかはなくて、ただ空が青いと思いながら意識は途絶えた。




 なんてことはない。相手の撃った銃弾が僕の眉間に直撃して、僕は死んだ。それだけだった。まー即死だったので痛みとか感じる暇もないわけで、視界に強烈な碧が犇めき僕は瞬時に覚醒する。


「死んだの⁉ダメなの!あなたがいないとダメなの!死んじゃダメなの!私、悲しいのっ」

「っぅ……大丈夫。僕はやっぱり死なないみたいだ。神様かな……?はは」

「――!……生き返ったの?」

「そう、みたい」


 こちらを見下ろすノルンの寂寥な顔は安堵に変わり、前髪で隠れている目元が僅かに微笑みを浮かべたのが見えた。ああ、こんな顔させるんじゃ馬鹿みたいに死ねないな。

 僕はノルンに支えられながら身体を起こす。場所は逃げ込んだ隘路。血の道が出来てるからノルンが僕を運んでくれたみたいだ。


「そう言えば、あいつらは?」

「死んだの」

「そうか……なんで?」


 突然死?煙草の吸い過ぎか?それとも飲酒?肺は大事に。


「お兄さんが撃ったの。お兄さんの拳銃が発砲したの。どうしてかわからないけど、二発撃たれたの。それが宇宙人に当たったの」

「ぉ、おぉー……記憶にないな」

「…………まあいいの。後は私がやるの。お兄さんはそこで大人しくしててなの」

「え?ま、ちょっ⁉」


 今度は僕の制止(になってない声)を無視してノルンは背の低い身体を前方に倒し隘路から走りだした。


「敵兵だぁ!撃てェェェ!子供だろうが殺せぇぇぇぇぇえええ!」

「オラオラオラァ!貴様らのせいでぇぇぇぇぇぇぇ‼」

「死ね死ね死ねぇ!ってオレらチンピラ集団かよぉ⁉」

「僕の嫁僕の嫁僕の嫁僕の嫁ぇえええッ!アイッラァぁブゥユー」


 一人変態がいるが――そんなチンピラ兄弟どもの銃撃の中――ノルンは加速していき顔を見せた男四人がライフル銃を構えノルンに照準を合わせ乱射。しかし、ノルンは有り得ない機動力及び洞察力で弾丸の射線を見抜き神懸かり的な瞬間で銃弾を回避してみせる。

 それでも、近づくにつれ射程は短く照準域も狭まる。


「ノルンっ!」


 僕の叫びなど弾丸の横雨に掻き消され、僕の命を二度も奪った圧倒的な殺害武器がノルンを鮮血に貫かんとして、漆黒に奔った閃線を僕は見た。

 鎌だった。死の鎌だ。黒い琉輝すら連ねる断罪の鎌だ。漆黒の鎌がノルンの両手に現れた。

 黄金の長い髪を揺らし、その髪で隠れた金木犀の瞳が残光を描く。黒の襤褸ロングワンピ―スの上に羽織った黒の外套が姿を惑わせるように黒を突きつける。


「やぁっ」


 年齢に適する可愛らしい声音は何よりも残酷で無邪気な刺客だった。

 鎌の一閃が弾丸を斬り捌き、まるで舞踏会にてドレスの裾を揺蕩わせながら踊るかのように、少女は漆黒の鎌を振るった。


「やっやめろォォォォ!」

「ひぃぃぃぃ⁉し、死にたくなぁアアアアアアアア!」

「こ、この異端者めぇッ!余所者めェ‼ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 彼我の距離は鎌の射程範囲内。銃弾の嵐など無意味に、悲鳴を上げる男どもの下へ少女は躍り出る。トン……そんな軽い、なのに音を静寂に還す靴底の一音が生死を定めた。


「ん。バイバイなの」


 振るわれた鎌が男どもを切り裂く。決して墳血はならず、首ももげず腕も足も斬り落とされない。けれど、男どもの意識は命は正しく絶たれていた。

 横に振るわれた一閃。それですべては終わりだった。灯火が朝焼けに負け、冬の寒さに消えていくかのように、鎌に連なる残光は淡く薄く青空の下溶けていく。

 僕は呆然としながらもその脚は自然にノルンの方へと歩み出し、七メートルほどの合間を開けて立ち止まる。


「君は――〝死神〟なのか?」


 少女は振り返る。


「ん。私の鎌は誰かの魂を狩り獲れるの」


 僕は彼女を見つめた。


「君は、何者?」


 彼女は鎌の刃を地面に、僕を見据えてこう言った。


「ん。私は〝異能者〟なの。あなたと同じなの」


ありがとうございました。

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