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第27話 虚数を数えるように

青海夜海です。

後悔の連続だけど何かを選ばないといけない瞬間だあって、その度に後悔するからいつだって心をすり減らして立ち向かわないといけない。

「僕らは負けない!」


 間違いか正解かなんてわからない。それでも、今はみんなで生き延びる。それが僕の、僕らの抗うすべてだ。


 イチルのスカーレットの純潔な瞳が僕の視線の先で僕を見る。壊れていない真紅の瞳に応えるように、女の指の動きよりもほんの数秒早く僕は声を上げた。


夕霧ゆりっ!」

「っ! ――〝あなたの罪を赦しましょう〟――っ」


「なら、死になさい」


 蒼い粒子の微光が追憶を追いかけるように奇跡を手繰り寄せイチルを纏う。アドバンテージの終了と共に殺意の戦火が引かれ、刹那な時を辿りそこへと辿り着く。


 イチルの指が虚空を動く。無意識な動作は時の遅延した再夢の中、細く僅かな糸を手繰り寄せ、火花を散らした銃の筒の奥を赤く迸らせ、蒼い微光が染みわたり塗り替えると同時に銃声が劈いた。


「――――っっっっ‼」


「――――っはあ⁉」


 女は眼は剥いた。確かに額に向けて銃弾は放たれた。それは確実に人質のイチルの額を貫く一撃だった。理に刻む死の岸辺であったはずだった。

 なのに、その銃弾は突如現れた兜にっよって弾かれた。

 かん高くも痛々しい重音が響き渡り、硝煙が血飛沫の代わりとなる。


「くっぅ……言っておいてあれだけど、酷い作戦ねっ!」


 上半身がノックバックしたイチルだが、その背は壁に密着しており兜を被った後頭部を勢いよくぶつけ身体は崩れるように壁に沿ってしゃがんでいく。

 銃の照準から逃れたイチルは見上げたそのスカーレットの瞳で宣誓した。

 銃声と共に。


「チャックメイトよ」


 イチルの手に持つ()()が女の銃を撃ち弾き女の武装を丸裸になる。イチルは座っている状態から銃を構え不敵に微笑む。


「っち! 忌々しいィイ!」


 女は瞬時にイチルの腕を蹴り、銃が傾いた瞬間に逃げ出す。


「いっ! なっちょっ⁉」

「動くなァ!」


 時凪ときなの一声が時来ときこの逃亡を阻み、ノルンが背後に回り込んで逃げ道を塞いだ。


「なんでいきなり銃が⁉ それに兜ってどういうことよォ!」


 ヒステリック気味に怒りを滲ませ叫ぶ時子に僕は説明してやる。


「簡単なことだ。この都市に入るなら武器なんかは回収されるってわかってたし、逆に丸腰なことを意識させた。隠し持てるのは白乃のナイフとかの小型なものだからな。だから事前に僕の【死に願い】で身につけている目立つ武装を消去して、夕霧の【生帰還】で願いを打ち消した。夕霧はよく気づいてくれたよ」

「そして、この中であたしが一番弱いのよ。そう、あんたがあたしを人質に決めたようにね。そして大量のロボットが投入された瞬間にあたしが時来あなたの相手をすることは予想ついた、というよりはそう仕向けたわ。一か八かの作戦だったけれど、いいでしょ。誰かを信じて託すのわ」


 ノルンには異能の鎌がある。時凪にはスキルがある。白乃には暗殺技術がある。瞳海には治癒魔法が。僕には死に願いが。夕霧は殺されない対象だ。

 そう戦力を分析すれば自ずと誰が狙われる――人質にされるのか見えていた。その気づかない振りをしながら指揮官のイチルが今の状況に持っていく。一人孤立気味になり、武器の無所持を意識させる。

 予想通りだとイチルはドヤ顔である。うん、かわいいぜ。


「おふくろ。俺等の勝ちだ」


 時凪の勝利宣言に時来は肩を落とした。


「まったく、うまく嵌められたものね。戦力を誤り……いえ、イチル《あなた》を甘く見ていたつけかしらね」

「どうでもいい。……ひとつ答えろ。おふくろは何がしたくてヨギリ《あいつ》に協力した?」


 口を引き結んだかと思えば笑みが零れたかのように「ハッ」と、息を吐いてまるで別人の雰囲気を醸し出し、さぞ悦に浸った顔で大仰に言い放った。


「支配――征服――ワタシの望みは簡単よ。この世界を支配すること、あるいはワタシの理想の世界の姿を見続けることッ‼」


 まるでそれが欲望の摂理だと説くかのように愉悦狂笑は眼をギラギラに滾らせ、言葉を走らせる。信教者が神の得心を悟り語るように、健全に。


「この世界は本当にどうしようもないわ。身勝手な理由で人は後先も考えずに争い、食に飢える人、金に困る人、それを嗤う貴賤な輩と、自然の摂理にすら怒り散らす様すら滑稽にして愚かなほど、この世界は――人間はどうしようもない愚物よ。なのに、身分? 庇護下? 友達?ハッ! まったくそんな価値にすらならないものに執着して妄執して躍起なる。

 ねぇ? それのどこが健全だと思える? 愚物しかいない世界のどこに平和があると思える? ないわ! 平和も健全さも正義もこの世界には存在しないのよ。綺麗ごとは正しく虚言で戯言よ。ワタシはそんな世界を疎ましく思うし、同時に愛おしくも思っているの。

 だって――ワタシの夢、理想を教えてくれたもの‼ ワタシはずっと何もなかった。勉強、実験、恋愛、不倫、食事、趣味、セックス、暴力。何をしてもワタシの心は満たされなかった。けれど、ワタシは知ったわ。

 ――すべてを支配した時、世界がどう変わるのかそれがたまらなく気になったのよォ‼ その結末が、ワタシの統べる世界の行方をワタシは知りたくなったわ。蟻の世界のようになるのか、熱帯魚のようになるのか。そして、満欠みちかげ夜霧よぎり、彼に出会ったワタシは初めて『愛』を知ったのよ! それは尊く悍ましく儚く残酷なものだと。故に人は欲しがるのだと。ワタシは彼の『愛』の行く先も視たくなったわ! ワタシの知らない、ワタシが求めるその世界のその先を――ワタシは見てみたいの‼」


 だからこの世界を支配したいと、虚式時来は悪魔の証明に夢語った。


 正直僕には半分も理解できない理想だ。支配した世界を視たい……なんて一度も思ったことはない。いや、女の子がみんな僕を好きになってくれる世界、みたいなのは夢みたかもだけど、催眠学園染みたく忌避感に僕の顔は自然に歪んでいることだろう。純愛こそ正義さ!

 時凪が怒りの形相で「そんなことのために、〝夜霧〟たちを何度も殺したのかァア‼」と吠え噛むが、当の本人はまるで鳥の囀りとでも言うように一瞥もせず狂おしく愛おしいと。歪んだ蕩けた笑みの、そう女の享楽者の顔で。


「だから――死んでくれる?」


 全員の気が抜けたその時だった。

 前触れなく時来はポケットに仕舞っていた何かの装置に触れた瞬間、天上が大きく開きガタンという音を喰うように二体の巨大機械兵が下りて来た。機械兵は着地する暇も許さず、その怪腕を僕に向けて振り被り――


「させない!」

「ん!」


 白乃(しろの)とノルンの声は閃撃と共に宙を渡り、機械腕と銀が耳を割るような音を響かせた。力は互角か、白乃とノルンの武器の腹を滑るように通り抜けていき、ロボットの足みたいな機械脚が地面を滑り僕と時凪の前に割り込んできた。


「うわぁっぶないですけど!」

「くそっ!おふくろっ!」


 全力退避。虎並みの反射神経で転がり躱し、なるべくかっこよくシュパっと顔を上げると、そこには二体の機械兵が時子を守るように阻んでいた。


「きゃっーー⁉」

「イチル!」

「イチルさん!」


 反動に耐えきれなく転がるイチルの下に瞳海が駆け出す。すぐに治癒魔法でイチルの怪我を癒していく。兜が頭を守ったようで、最優秀賞の兜くんはどこかに飛んでいった。

 正直、僕も癒されたいんだけど、たぶん僕じゃないんだろうし、〝僕〟に殺されるまである。うん、あるね。僕だったら殺すからネ!

 と、世迷言は置いておいて兜くんのお悔やみ申し上げ、僕と時凪、機械兵の間に白乃とノルンが入り込む。シロノを支える夕霧は少し離れた位置、瞳海とイチルと逆側で身構えヨギリは元の場所から動いていない。死のうともせずにただ見ているだけで僕らを妨害する気がないように見えるが……。


「一応、頭の隅に置いておくとして……最終ボスだなこれ」


 見上げるそこには全長五メートル近くあるのか、とにかく大きい機械兵はロボットアニメに出てくるものによく似ていた。いや、むしろそれを真似たまである。

 人ひとり握りつぶすなど容易い剛腕にもう片手にはマシンガン。薬莢がベルトに連なるオタマジャクシみたいに垂れ伸びており、あれをなんというのか知らないがかっこいいやつである。僕も一回くらいは撃ってみたいけど撃たれたくはないんですけどね。


「悪いけれどまだ死ぬのはご勘弁なのよ。というわけで残念だけれどあなたたちが死んでちょうだい」

「そんなトイレ代わりに行ってみたいなノリで言われてもなー。普通に嫌なんで」

「そう、なら仕方ないわね。死んでちょうだい!」

「仕方ないの意味は!」


 どうやら仕方なくないらしい。機械兵は踵に装備したタイヤをギュィーンとエンジン全開に回転させ、スケート選手みたいに迫って来た。

 彼我の距離は約十メートル。うん、一瞬だね。

 というわけで。


「逃げろぉおおおおお!」

「【アクセルブレイク】!こっちだ!」


 ノルンと白乃を追い越して迫って来た機械兵。鈍足な僕は職業勇者である時凪に腹から抱えられ逃げる。


「もっとスマートな持ち方はないの?たとばお姫様だ」

「よくこの状況でその気持ち発言できるな!初めてがお前とか嫌だからな!」

「じゃあ、初めては誰がいいの?」

「そりゃ、しろ――ってなに言わせようと……っぶねぇええーー‼」


 当たり前に銃撃が背後から迫り、僕らの皮膚を掠めていく。普通なら頭とか当たってそうだけど、アレだね。職業勇者だから当たらないんだね。


「勇者、マジ便利」

「嬉しくないな!」


 と、馬鹿な会話を挟みながらコンピューターが軽い段差状に連なる背後のただっ広い出入口付近を駆け回り、「よっ」と中心部の水槽だった墓地へ向かって降りていく。

 機械兵もキュルルとタイヤの摩擦を燃やし、追跡してきた。

 その時だった。


「無視はよくないと思うの」


 背後の機械兵へノルンがその小さな体躯をバッタのように跳ねさせてイケメンなロボット顔面に漆黒の鎌を目一杯に振り下ろす。

 容赦のない一撃に機械兵一号は軌道を誤り右壁に激突。

 ざまァアア!


「やぁーー!」


 いつ聞いても可愛らしい声は幾人もの命を奪った死神の鎌を振り下ろし追撃する。マシンガンの乱射を回避しては弾き飛ばし顔面前に跳躍したノルンは横凪に鎌を振るった。首部分に繰り出された斬撃がなんらかの導線を破損させ赤い液体を漏らしながら狂うように拳を振るった。


「ノロマなの。お兄さんのほうがまだ早いの」

「辛辣ぅぅ。あと、僕そこまで早くないよ?」

「女に手を出すのは速いと思うわよ」


 そう、右真横から聞こえた白乃の罵詈に突っ込んでやろうと語彙力を高めて振り向けば、真横から迫ってきた機械兵二号のライトなしのセイバーと白乃のナイフが白熱を上げていた。


「うわぁっ⁉好きなっちゃたんだから仕方ないじゃんかー!」

「よくこの状況で叫べるな。けど、良い言葉だ」

「ただの浮気常習犯よ」


 やめてッ! 君の言葉だからものすごく痛いんで! 一度は惚れた人からの軽蔑なゴミを見るような眼差しは、時に寄ればゾクゾクするかもしれないけど僕はドMじゃないのでやめてッ! 普通に心が痛いから!


「キモイ」

「気持ちわるわ」

「声に出てましたか!」


 なんたる失態か。そう、悔やむ僕を置いて、白乃と機械兵二号が剣と剣の激しい剣戟を始めた。

 暗殺技術を叩き込まれた白乃の俊敏にして艶やかな身のこなしが機械兵二号を翻弄し、関節部を破壊していく。


「どれだけ巨体で力が強く性能がよくても、戦闘技術がその程度なら問題はないわ」

「ん!私も問題ないの!」


 激しい白熱の死闘は、息を呑む華麗に機械兵一号二号を圧倒していく。

 銃弾を捌き躱し、力を身の来なしで往なし、弱い部分を的確に攻撃していく。


「ここは任せるぞ」

「そうだな」


 時凪は僕を相変わらず抱えたまま元来た道を引き返す。


「よ、おふくろ。高みの見物とはいい御身分だな」

「……そうね。それもいいものね。ワタシの唯一の失敗は人の愚かさを侮っていたことね」


 時子は一切その場から動かずに時凪にそう感情の起伏のない眼差しを送る。

 僕は要らない荷物みたいに雑に降ろされ尻もちをつく。

 時凪は一歩二歩と時子に近づき。

 感情を言葉にする暇など要らず、情動は突き動かした。


「俺はお前に――おふくろに育てられた記憶がない。それでも、父さんが良い人だっていうから俺はずっと母さんだって思ってた。けど、悪い。お前は俺の親じゃない――。神を気取るお前は気持ち悪いよ」

「――――そう。だからなに?」


 刹那、懐から俊敏な動きで時凪に付けつけた銃は同時に引き金をトリガーし、瞬足の時凪の蹴撃によって銃ごと相殺された。そして僕は内に入り込み構えた二代目白の短足銃を腹部外側に押し付け発砲。

 痛哭と共に戦火が吹き上げ、背から倒れた時来の額に愛用銃を押し付けた。


「残念だけど、お前の野望はここで終わりだ」


 決着は着いた。どれだけの秘策を用意していようと、僕らの戦力に敵うことはない。

 覚悟と決意を決め、信じ合う僕らが負けるなんてありえない。征服することで平和を築き、その世界を見たい欲望を宣った享楽者に僕らが負けるはずがない。

 僕のことが事実だとして、それが女の犯罪を上回ることなんてない!

 僕らは罪の上で同罪だ。


「こっちも終わったわ」

「ん!終わったの」


 もうどう足掻いても勝てないと悟ったのか諦めたように首を横に振る時来。


「無様なものね」

「お前のほうがよっぽどエゴイストだよ」


 僕に代わり、時凪が銃を付けつける。それが決別の儀式なのだろう。

 その口から降参宣言を訊きだし縛り上げれば終わりだ。

 夕霧が縄を持っててくてくと歩んで来る。夕霧から視線を逸らした瞬間、視線の端に見えたそれは幻だったのだろうか。今となればもうわからない。ただ、呪いだけは僕の胸の内にこびりつき、亡霊の嘆きのように一秒前の過去を嬲り嘲、失望の眼差しが耳元で囁く。


「あなたのせいよ――すべて」

「は……?――――ぇ」


 カリっ……何かを噛み砕く音。呻き声は沫を吹き血を吐き。充血した眼が愛おしさと憤怒と殺意に溢れた、まさに愛憎の念が僕と時凪を射抜き。


「すべっ、てを……みちずれ、に……する、みらぁ、いぃも……いいもの、ねっ」


 そして、その襤褸体はカクリと光を失い力を抜き虚無に支配された。

 虚式時来は死んだ。

 自殺が行われた。

 瞬間、その身体は赤い粒子に変換されていき、起爆剤のように世界が悲鳴を上げた。



ありがとうございました。

感想、いいね、レビュー等などよろしくお願いします。

悪いもいいねもどうぞよろしくお願いします。

励みと研鑽になります。

また、明日、そろそろ最終話あたりです。


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