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第25話 「」

青海夜海です。

よろしくお願いします。

 

 各々の戦場が激熱し荒れ狂う。だだっ広い地下研究場は混戦の混戦を招き、闘技場(コロシアム)のような惨状と化していた。

 そんな状況に目の前の〝俺〟は僕を怒りの形相で睨みつけた。


「どうして俺の邪魔をする!同じ俺ならわかるはずだァ!たとえお前が作り者だとしてもっ、俺の一部を持つお前なら俺がどれだけ夕霧のことを求めて、探していたかっ!なぜわからないんだァ!どうしてこんな――叛乱の真似をしたァア‼」


 吠える怒声の意味を僕はなんとなくだけどわかる。そうだ、僕と君は夜霧よぎりなのだから僕はわかる。わかってしまう。

 夕霧ゆりを思い出して、夕霧と再開して、言葉を交わして心配されて助けられて頼って、そうやって僕はその感情の名前を知った。

 ああ、ずっとわかっていた。君の気持ちは痛いほど僕が欲しているものだって、わかってる。その愛が健全にして、従来に相応しい正しいことだとも。

 でも、僕にはもう夕霧だけじゃない。ここにいる全員で、そして失ってしまった彼女も。僕の胸は捨てることを選ばない。


「…………。僕には今だ僕がしたことが思い出せない。君の想いはわかる。わかれてしまうし、自分ならって訊かれたら否定は、できないと思う。それでも」

「【君を癒して神様】」


 瞳海(ひとみ)の治癒魔法が傷ついたみんなを癒して、時凪(ときな)が「助かる!」と、ノルンが「ありがとうなの」と、白乃(しろの)が「本当に感謝するわ」と、鬨声を上げて機械兵と激戦を繰り広げる。

 それぞれの想いや思惑があったとしても、それでも偽りないから。

 彼女が「ほら」と背を押すから。だから――この想いを否定できない。


「僕は〝夜霧〟じゃなくて、みんなを選ぶ。夕霧が拒むなら僕は君の前にはばかるだけだ」


 それが自分に抗う理由だ。

 ヨギリは感情の起伏のない表情で僕を凍てつかせ、無言のまま銃を突き出して。


「お前を作ったことこそが、俺の失態だ」


 発砲。銃弾は容赦なく僕の眉の中心を貫き、誰かの声も遠く僕は命を落す。


 ――ヨギリの銃を消去しろ――


【死に願い】。死して願い生き返る僕の力。

 願いの成就と共に死んだ事実は消え僕は生き返る。銃が消されて舌打ちをするヨギリの杖が僕の腹を突き刺しえずきそうになる。それを我慢しながら杖を払い飛ばし立ち上がってヨギリの左頬に右拳を叩き込む。


「ぐぅほぉっ……!」


 唾を吐きながら転がっていく無様に叩き込む。


「古来より男と男の勝負は肉弾戦って決まってるんだよ!」

「しぃ、るぁかぁぁあ――っぅ――ガリっ」


 なにかを噛み砕いた音にはっとヨギリの胸倉を掴んで起こす。


「――自殺?」


 瞬間だった。何かが落ちて来てそれが僕の頭にぶつかる。視線はまるで時空の止まった空間を見ているように、僕を包み込んできたのは大量の爆弾で――


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっっっっっっ‼


 連鎖する爆発が自分諸共僕らを粉砕した。一瞬の死を味わい、定めきれない願い。

 次に眼を覚ました時には先ほどいた監獄の前が遠く、正反対の壁にて僕は驚愕する。

 無数の銃器を身体の一部とした機械兵がのろのろと立ち上がるヨギリの前に守護者として顕在し、冷笑と共に命令が下された。


「いたぶれ」


 機械兵は両腕から触手のような銃器を持つ腕がトリガーする。避ける暇もない針地獄の到来に、僕は絶叫を上げた。


「ァァっぁぁぁぁ、ァアアアアアアアアアアアアアアアアッゥゥがァガガガァア⁉」


 イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイぃぃぃぃぃぃィイ‼


 なのに死ねない地獄。腕が貫かれ針山のように。脚に穴が墳血が止まらない。痛いが止まらない。なのに、死なない。死ねない。死ぬまで殺されない。

 止まった弾丸の進軍に僕が今どうなっているのかわからない。視界が雨に濡れたレンズみたいで何も見えない。手と足がわからない。生きているのかすらわからない。息はしているのか、心臓は動いているのか……声も聞こえなくて何もわからないイタイだけの世界で、なのに誰かが僕の前にいることはわかった。


「――――――」


 何も聴こえない言葉を聞きながら、回らない頭で思考を巡らせて、一つだけ導き出せた。そして思い出す。だから声に出した。


「…………死ねば、いい」


 次には僕は死んでいた。僕の身体が爆弾のように爆発したのだ。それは筋肉が弾け臓器が血塊のように振り撒かれたのではなく、白い光に包み文字通り破壊として爆発した。

 とある言葉で起動するグリッチのような願い事だった。

 そして、僕の知らないところで翡翠の光が慈悲を与える。翡翠の光は爆発に吹き飛ばされて死に逝く彼の身体を癒し、死という救いから遠ざけた。

 そうして僕は生き返ると同時に走りだす。大きく吹き飛ばされ傷を癒し、ふらふらと立ち上がろうとするヨギリの胸元を掴み上げ壁に今にも砕けそうな細体を押し付けた。


「僕の勝ちだ。〝ヨギリ〟――!」

「くっっ――っゥハァ、……こ、んなのォ!」

「ふっ」


 拳を振り抜いて顔面を強打。鼻血を垂らしてうめくヨギリにもう一度告げる。


「僕の勝ちだ。今すぐ命令を解け」


 しかし、彼は暴言も何も吐かず、抗うことも喚くこともせず、ただどこか諦めたと僕を見下す。僕はカッとなって拳を再び振り被ろうとして、「やめてっ‼」という瞳海の声にはっとする。僕の腰に抱き着く彼女はまるで悲しさを宿した眼で。


「痛みつけても、何にもならないよ。それに――あなたが痛いじゃない」


 今になって無いとわかった心臓が痛く、逆流しそうな何かをぐっと押し留めてヨギリから手を離す。ヨギリは壁に背を預けながらぐったりと座り込んだ。


「すべてを話せ。もう僕らの勝ちだ。君が何をしたのか、そして僕たちは何なのか、すべて話せ」


 もう既に決着は着いている。ノルンも時凪も白乃も機械兵の殲滅に終止符を打つ手前だ。僕らの勝ちに揺るぎはない。そう真に告げてやったその時だった。

 銃声が轟きか細い悲鳴が僕の耳を劈いた。どこか想起するものと重なる声に、まるであの悲劇が――


「充分よ満欠夜霧。よくやってくれたわ」

「がぁっはぁ……っぅぅ~~ぃィっっはっ……ぁぁっぅ……」


 何をした――?薄ら寒い笑みを浮かべ、イチルを壁に追いやっている人物は誰だ?

 まるで、すべてが予定調和とでも言いたげな蠱惑な眼差しで見捨てる女は誰だ?


「おふくろッ‼オマエェェェェェエエエエエエエ‼」


 時凪の咆哮にその笑みは嗜虐を極める。だがそれ以上に僕の眼にはイチルが〝彼女〟と重なり合い、その胸を抑える姿が、流れる赤が、歪む相貌が、僕の全身を焼き殺し。


「イチルッッ‼一縷ゥウウウウううウウウウウウウウッッッ‼」


 何も考えずに駆け出そうとして、銃声に重なったイチルの悲鳴が世界の彩を濃く落とす。

 まるで、モノクロの世界で赤だけが嗜虐に嗤うように、彼女の腕から鮮血を咲かした。


「大丈夫よ。致命傷は外しているわ。運が良かったら死なないでしょうね」


 それが脅しだと瞬時に理解して、その賢しさを今は嫌う。

 また、あの瞬間に酷似するこの時に、僕の足は動けない。


「――っ‼なんだァ?お前は何がしたいんだァ!イチルから離れろォ!」

「それは無理ね。彼の理想は終わった。けど、ワタシの求める世界は彼とは違うのよ」

「どういう意味だァ?」


 時凪の凍り付いた重鎮の声音に、時来は含み嗤い語り始める。


「まずワタシたちの始まりは彼の妹の夕霧さんの死と星の到来だったわ」

「チっ……そんなの、今はどうでも――」

「夕霧さんの死はありがちな事故死。飲酒運転の車に後ろから轢かれて即死だったわ」


 気遣いの一つもない、憂い一つもない、感傷もない声音は淡々と嘘を与えず真実と刻む。ヨギリが顔を背け、夕霧が息を呑む。

 死が再放送されたみたいに、墳血の瞬間が脳裏に過った。


「夕霧さんの死から一年近くが経とうとしていたわ。そんな時、ワタシたち研究機関は地球へ流星する未知のエネルギーを観測した。そして運がいいことに星の落下点にとある人物がいたの。その人は星のエネルギーを浴び、未知なる力に目覚めた。人間の力を大きく凌駕する、まさに奇跡と呼ぶに相応しい強大な力」


 時来(ときこ)さんの視線に釣られいつの間にか戦闘を終えていた全員が僕と、僕の背後で壁に凭れかかる人物に注がれた。居心地の悪い僕と変わって、彼は皮肉だと笑みを吐く。


「ああ、そうだ。俺はあの日いつものようにお気に入りの星が見える丘にいた。嘆くには誰もいなくて丁度いいからな。……そして、身を任せるままに振って来る星の光を浴びた。――妹を、夕霧ともう一度生きたいって……ずっと願ったよ」


 声音に灯る寒色がもはや絶望の言葉を紡ぎ、抵抗の余波すらない虚空の眼差しに僕は何も言えないでいる。彼と同じ選択をしないと決めた僕には、言葉はあっても意味に成りえない。そんなヨギリと僕を時来は楽しそうに小さく笑う。


「星のエネルギーを浴びた彼はあなたたちと同じ〝異能〟を――【死に願い】を得たわ。だからワタシたちは契約を結んだ。『星の力』で夕霧さんを取り戻す方法を模索し手伝うこと。ワタシはエネルギーの研究、資源や物資の生産など。それが契約内容ね」

「……なるほどね。だからあなたたち、この世界のあなたたちはやたらと武器を持っていたのね。彼の言葉で言うのなら、殺して作ったの……下図の所業ね」


 軽蔑の眼差しをキィッ、と威勢よく睨み上げるイチルに時来は余裕綽々の笑みで頷く。


「お見事ね。あなたはもう気づいているようだけど、ちゃんと言ってあげるわ。ワタシの世界の始まりを、ね」


 身構え、敵愾心を鋭く、嫌悪の丈が膨れ上がる。そんな僕らに囲まれてなお、時来は表情は変わらず、その手に持つ銃は躊躇いなく引き金を引くのだと、僕らは固く歯を噛む。

 僕の視線の先で、胸を押さえて熱病に侵されたかのように息をするイチルは気づいて、ああ、やっぱり強く逞しく頷くのだ。

 その細く柔く散りそうな存在は――大丈夫、と。

 そして、真実が正しく悍ましく僕らへ話された。


「ええ、あらゆるものを彼を殺して作ったわ。けれど、彼の〝異能〟は物質を生み出すことしかできなかった。ワタシの欲望もまた叶えてはくれなかった。けれど、星のエネルギーを調査する内にエネルギーを制御できる術を手に入れたわ。あなたたちを隷属するあの首輪ペンダントよ。そして思いついたのよ。ワタシの願いも彼の願いも叶えることのできる究極の方法をっ!」


 時来は悦に浸った笑みで僕を指差した。


「あなたよ――満欠夜霧。その複製体さん」


ありがとうございました。

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