第22話 運命の分岐路
青海夜海です。
よろしくお願いします。
『所長。奴等がやって来ました』
軍兵からの報告に所長と呼ばれた齢三十前半に見える若々しい女は不敵な笑みを口元に浮かべた。
国家市部の地下は薄暗く、その淡い青の光がゴーストのように闇を喰らう中、女は蒼い光、大画面のモニターの前に陣取り腕を組む。モニター画面に映るのは無数の監視カメラが撮影するLIVE映像。すべての壁が破壊されたホープス都市に、その元凶である少年少女は警戒しながらやって来る。それがあんまりにも滑稽で女は声を上げて嗤った。
「あっハハハハハハハハ‼実に愚かで予想通りね」
唐突な大笑いに通信していた軍兵が「所長?」と訝しむ声を上げ、女は参ったと「何でもない」と告げ通せと申す。軍兵は指示に従い、兵どもに拳銃を向けられて両手をあげる彼らを都市内へ通していく。
毅然とするターゲットの灰色の髪の男を先頭に、死亡扱いされていた赤髪の女、どうやら餌と同一人物らしい黒髪の女の背中に隠れるように伝達係が殺した金髪の少女の偽物と、そして最大の目標人物の灰色髪の少女を見て、女の口元は口裂け女が如く不気味な笑みを浮かべ恍惚とモニターに手を伸ばした。
「ついに!ワタシたちの悲願が叶うわ!本当に長い道乗りで、かれこれ五年。計画を始動させて三年、イレギュラーで一年半。待ち望んだ正解はここに来たわ。この腐敗、汚染、悪銭、恐慌を正すための、至福がやって来る。‼ねぇ、あなたもそう思うでしょ」
そう、女が背後の少年に言葉を振る。少年は車椅子を押しながら影の向こうからやって来る。所々色の抜け落ちた髪に何日も眠れていないのか酷い隈をした瘦せこけた少年は、女を見てからモニターを眼を細めて見上げ、その口元は女と同じく破顔する。凶悪な笑顔と言っていい。
「嗚呼、やっとだ。この身を削って殺して病んで潰して轢いて抉って粉々にして死の墓にすら入れないほどにぐちゃぐちゃにしたんだ。でも、今は後悔なんてないな。嗚呼、本当によかったよ」
そう安堵する少年の顔は、まさしく愛だ。愛に溢れていた。
だから、女は震える。ただ誰かへの愛のために何度も死んだ人物の狂態に女は自分よりもなお狂っていると共感を持った。改めて思うのだ。
「狂うほどにワタシたちは純粋で、それほどにまで得たいものがある。なら、やはりワタシとあなたは運命的に共振していると言えるでしょう――共感者」
女の命名にはさも興味がないと少年は返答しない。それでも女は構いはしない。
自分たちは盲信に支配された狂者なのだから。
「俺はそもそもお前の夢に興味はない。俺はあいつが戻って来てくれるだけでいい。あいつともう一度生きられるだけでいいんだ。だから好きにしろ。俺の『願い』はすべて使い果たした。本当の命を差し出すことはできない」
「…………わかってるわよ。ワタシもそこまで恩知らずじゃないわ。それに、あなたがこれからもワタシの傍にいてくれないと、ワタシが困るもの」
そうして二人は画面の向こうを見る。互いに求める存在に、恍惚と夢と理想の実現に頬を緩め愛を囁く。
「遂に俺の悲願が叶う。長い年月、ずっとお前だけを愛してた。お前がいないと、俺の世界は真っ暗だ。嗚呼、愛しているぞ」
少年はモニターに映る少女に届かない手を車椅子の状態から懸命に伸ばしながら、獣のような熱を冷ますように背を一度預け、背を向ける。
女はわかっていた。その笑みが狂喜に微笑んでいることを。
鉄くさい異臭が充満する電子が闇を喰らう地下世界にて、そこは数多の誰かの死が描かれた墓地であり、祈祷場だ。
女は願った。少年は渇望した。愉悦と憂いの果てに最愛と最高を祈る。
血錆の監獄の中、眠りつく白い女を見つめ少年はその肌に触れようとしてやめた。
「お前は愛されているみたいだな。羨ましい限りだ」
「…………」
「女、そろそろ始めるぞ。準備をしろ」
「はいはい」
それぞれの準備に動きだし、ふともう一度モニターを振り返った女は一人、意外な人物に関心は別のものへ移り変わった。それはまるで見下すような冷めきったもの。
画面に映る最後の人物――女の褪せた金髪とは違い王子のような神々しい金の髪の青年。どこか鏡に映る自分の面影が見える忌々しい存在。
「やはり、ワタシに逆らうのね……息子」
そこに、親の愛が秘められていただろうか。秘めた愛があるのだろうか。
きっと誰にもわからない。あるいはそれを単純に愛と言える代物ではないのかもしれない。
ただ、その眼は愛を一つとして語っていない、そう監視カメラを見上げた時凪は冷酷を送り付けた。
「嫌なものね」
そうして、彼らは軍用区内へと連れられ白い大きな建物、軍事研究機関と書かれた建物へと入っていく。
罠と知りながら、因果に逆らうことはせずに真実の直面へと物語は終局へ移る。
誰も知ることのない、終末へ。
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