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第19話 攻防戦

青海夜海です。

戦います。


 ――そして、銃声が轟いた。赤い花が咲き、誰かが倒れていく。

 黒い髪の彼女が胸に赤い花を咲き誇らせながら、俯けに倒れた。


「…………ぇ」


 掠れた声は僕だったのか、それとも時凪ときなかイチルか。見下げる大地には彼女がいた。真っ赤な花びらの溜まりに浸る絵画のような光景が眼を奪った。

 時凪がわなわなと振り返り。


「おまえェええええッッッ」


 時凪は吠える。夕霧ゆりの悲鳴に僕はやっと振り返った。

 二発目の銃弾。空気を裂いて走る弾丸はイチルへと吸い込まれ、反射的に押し倒して回避した。イチルの悲鳴と空気を裂いてどこかへ飛んでいく弾丸の軌跡。

 後方で「あ、ぁぁっ……」と引きずるノルンの声と彼女を守るように前に出る夕霧が見え、僕も立ち上がろうとして、「動くな」と号令がかかり膝をついた状態で留まる。

 視線を上げた。

 ノルンが「どうしてなの……?」と呟き、答えるように男は言う。


「理由?んなのオマエらがよくわかってんだろぉ。始末だ始末。どうしようもねーオマエらを殺しに来た」


 そう、ノルンの父親なる男はにへらな笑みを浮かべたのだ。

 周囲には十人以上の軍兵が銃を構えながら充分な距離を開けたところに待機していて、瞬時に対処するのは難しい距離。いや、今はそれ以上に白乃しろのの治療が先決。僕の視線を受け取ったイチルが白乃の下へと動き、瞬間トリガーが引かれたが、時凪が手に持つバールで弾く。


「チッ……オマエといい俺の餓鬼といい、厄介なもんだぁな」

「どうしてここがわかった?」


 時凪の怒りの籠った問いに男はにへらに返す。


「へっ。んなの決まってんだろ発信機だ。折角教育してやったってんのに、俺の餓鬼は気づかなかったみてぇーで俺は非常に残念だぜぇ――なあぁ、ノルン」

「ひぃっィ~~~~っっっ⁉」


 ノルンはすぐさま身体を見渡し、手で探り袖に小さな電子器具を見つけ破壊する。睨みつけられたノルンに口角をひん曲げて嘲笑わらった。


「愛だぁ?ばっかじゃねーかァ‼アハハハハハハハハハ‼愛がほしいだ?愛してほしい?何言ってやがる?俺はちゃんと愛してただろ?――俺の奴隷としてぇぇ」

「~~~~~~~~っぁぁぁ、っっァぁァアアアアアアアアアアっっっ⁉」


 決定的な一言に激情を爆発させたノルンが漆黒の鎌を手に男へ向かって駆け出した。


「ノルンーーっ⁉」


 夕霧の引き留める声に揺すぶられることもなく、少女の身体は彼我の距離を大きく詰め、鎌を振り下ろすが。


「撃てェェェェェ!」


 どこからから轟いた号令に一斉射撃。

「しゃがめェぇえええええ」と吠える時凪の声に反射的に身を屈める。容赦のない扇方の陣形からの一斉射撃の銃弾が頭上を通り過ぎる。僅かに見える視線の先にはノルンと時凪が懸命に銃弾を捌いている姿。いても経ってもいられず僕は抜け出すように立ち上がり僕の名前を呼ぶイチルに二人を頼むと任せ銃弾の中に飛び込む。ハチの巣となった僕の意識は瞬時に狩り獲られ、前方に見える数名の射撃者を見ながら願う。


 ――あんな銃がなければ――


 ……覚醒はすぐにやって来て、僕はばっと起き上がる。


 見ていた一瞬の夢は彼方に、「兄さん!」と僕を叫び声で呼ぶ夕霧がいて、「おぉお、愛しの妹ぉよぉ~~」と口走れば「バカっ!」と胸を叩かれた。痛くないけど痛い一撃に、「ごめん」と謝る。

 目じりに涙を溜めた心配気な顔に、やっぱり僕の妹なのだとありがとうと感謝した。


「それより状況は?」

「わたしとはしては釈然としないけど……兄さんのお陰で兵士さんたちが持っていた銃は消えたよ。けど……止まらない」


 戦場を見れば混戦が鮮花を咲かせていた。


 銃はない。なら剣を使え。得物はナイフ。軍兵はナイフを片手に持って僕らへ突貫していた。それらをすべて時凪とノルンが捌き兵を混沌させているが、数の利は二人に確かな傷を負わし、息も荒ら荒しくバールと鎌が行きかう。僕も参戦したいが幾分武器がないし技量もない。もう一度【死に願い】をする他、僕が対抗する術はないわけだ。けど、夕霧の手前むやみやたらに死ぬのには抵抗がある。妹公認のシスコンなんで。妹は兄にとって至高の宝物さ!

 バカな考えの果てにはっと思い出す。


「イチル⁉白乃は⁉」


 僕の叫びに少し手前で白乃を治療するイチルの下へ走る。彼女は僕に振り返り、苦しい顔を見せた。


「息は、まだあるわ。けれど、あたしにできるのは精々止血のみよ。早急に治療しないと、危ないわ」


 今にも散り去ってしまいそうな荒々しくも弱弱しい息。脱がされた胸の辺りには上着を使ってぎゅっと強く巻かれていて、その上からでも出血の多さ悍ましさが僕を焦燥に駆り立たせる。

 一目惚れした彼女の命の窮地。ただ見ているだけ?何もせず二人に任せているだけ?


「冗談じゃない!何もしないなんてふざけてる。何か……僕にできる何かがあるはずだ……」


 辺りを見渡し【死に願い】の利用を考え、僕にできる何かはないかと、思考を高速させ、そしてふと思いついた。

 僕らがいる場所は吹き抜けの廃虚。ビルの地下の想像に近いコンクリートで整備された、そこは恐らくバスケットコートよりも広く特に横に長い。天井までの高さは三メートルあるかどうか。巨大なコンクリートの柱が中央に一つ、それ以外は持ち出されたのか何もない広間。戦場は柱を中心に置いて西一面。西面において時凪が前方と左側。ノルンが右側全般を死守と闘争。僕たちがいるのは瓦礫で封じられた南壁際から時凪寄りの位置。背後に逃げ場はなく、また南東の角に外への光があるが、無事には辿り着けない。敵の位置は柱より東側と前方、時凪の敵対者の男たち。


「夕霧、君の能力はどんな感じだ?」

「どんな感じって……能力の説明だよね?」


 頷く僕に夕霧は説明する。


「兄さんはたぶん、もうわかってると思うけど、わたしの異能は【生帰路】。兄さんの『願い』を打ち消す力。『願い』は『死の力』なんだけど、わたしのこれは死んだこともなかったことにするの。だから、『願いは叶わなかった』ことになる。でも、過去は変革されるわけじゃない。兄さんは〝死んだ〟んじゃなくて、〝瀕死〟になったっていう事実に書き換えられる。そして、生き返る事象は異能として別の力に置き換わる。つまり、わたしが兄さんに力を使った時、兄さんは傍から見れば『治癒能力』と『魔法』を使う〝異能者〟に見えるわけって感じ」


 なるほど、傍から見れば僕は生き返ったように見えているだけで、その実、驀進的な治癒能力で復活し魔法を使っているように見えるわけだ。そりゃそうだ。誰も僕の死を確認する暇もなく、僕は眼を覚ます。ましてや死んだことがわかるのはたぶん僕自身だけだ。

 銃を撃たれたら死ぬ。ナイフで刺されたら死ぬ。そういう癒着した現実と想像が僕を生き返ったように見せただけ――そう何も知らない人は解釈しているらしい。だから『死んだ事実』が『瀕死の事実』となり、願われた奇跡は『魔法』に変換され、それが解かれたとなるのだと、夕霧は言った。


「だから、わたしが『願い』を打ち消しても過去を変えることはできないし、継続していない『願い事』は消すことはできない。今も続いている願い……兄さんと白乃さんの間で起こった『願い』は継続してたから消すことができた……」


 そしてもう一つの懸念を告げる。


「でも、実際に兄さんは死んでる。わたしの異能で『瀕死の事実』に置き換えられても、『死の力』は残る。『死んだ事実』は世界の理のルーツで直結する原理だから、打ち消すためにはそれ相応の力――生命力、もしくは誰かの命か魂を代償にしないといけないわけ」


 夕霧の苦しそうな顔に声を留める。

 夕霧の説明は非常にわかりやすく、そして僕の異能がどれだけ不安因子で迂闊に使える代物ではないのか、いつもよりも白い夕霧の顔を見てやっと理解できた。

 夕霧は言った。死んだ事実は変えられない不変の事象だと。その死の事実を相殺するには同等の代物、命を差し出さなければならないと。命を差し出すと人は死ぬ。魂を殺すと人格が死ぬ。

 僕の顔は面白かったらしく、「そんな顔、ばかみたいだから」と、夕霧は笑う。


「さっきは、わたしの『生命力』と白乃さんのを使ってなんとか相殺できた。生命力は言っちゃえばエネルギーで、エネルギーいっぱいで命になるの。だから、わたしと白乃さんで半分ずつ。だから、白乃さんは背後の気配に気づけなかった。今もすぐに死にそうなのは生命力が低下して、生きる力が足りてないからなんだ」

「それは……どうすれば元に戻せるのかしら?」


 イチルの只ならぬ問いに少し億尾した夕霧は「睡眠や食事で、元に戻る」と現在直ぐにはできそうにない事実を告げ、僕たちは絶望の淵へ叩き落す。

 聞いた条件から【生帰還】をしてもらうのは不可能。命も魂も一緒だ。それに、その行為を行うのは夕霧で、妹に誰かを殺させるなんて僕にはできないし、させたくない。エゴだとわかっていても、僕の考えはかわらない。

 故に他の作戦を。時凪の【勇者】はレベルが低くてスキル【アクセルブレーカー】しかない。ノルンに限っては魂がどうやらなんやらと、魂に関係しているみたいだけどよくわから……。

 ふと、思った。そう言えばと思い出す。もしかしらと僕の思考は一つの作戦へ直進する。


「なぁ、夕霧。もし、夕霧の力を使ってさっきの死んだ事実を消すとして、その場合、銃はどうなるんだ?」


 怪訝な眼差しを向けてくる夕霧の眼差しが痛い!やめて⁉そ、そんな眼で見ないで!お兄ちゃん死にたくなっちゃうから⁉……と情けなく妹の反抗期?に喚いていると(頭の中で)、嫌々と言った風に答えてくれた。


「…………多分だけど、元の位置、座標だと思うけど、そこに戻ると思う。まだ一つの現実は続いているから、過去にはなってないはず」

「つまり、あの場所、手にあったから空中に現れるわけか」

「うん。そうなるかも」


 曖昧だけど、今は夕霧を信じるしかない。

 僕は立ち上がり、戦場を見た渡す。夕霧は僕の裾を引っ張って「死ぬつもり?」と怒ったような声音と行かせたくないという愛情が垣間見えて、僕は「大丈夫」と手を離す。


「僕が合図したら【生帰還】をしてくれ。地獄逝きの魂なら心は痛まないだろ」


 僕は何か言いたげな夕霧を置いて走り出し、同時に声を張る。


「ノルン!魂を持ってるか!」


 唐突な声にまん丸に目を見開いてこくりと曖昧に頷く。僕はよしと頷き、次に時凪へ。


「時凪!敵さん全員向こうの左側に箱詰め作業してくれないか?給料は弾むから」

「また無茶なお願いを……でもやるしか他に方法がないんだろ?ならやるさ。それで白乃さんが救えるなら、俺はこの命を賭けてやり遂げるまで!」


 やっぱりイケメンってかっこいいや。僕惚れるんですけど⁉どうしたらいいんですか⁉頼もしすぎるぅ!ルンバより掃除絶対うまい。


「頼んだ」と任せると時凪は苦戦する敵さんをバッタバタとバッタのように吹き飛ばす。

 敵の「おのれ」だとか「死ね」だとか「ふざけるな」だとか割愛して、僕に迫った一人の女性が「せいやー」と足蹴りを放ってきて、咄嗟にしゃがむ。ひらりと舞ったスカートに僕の視線は釘付けとなり。


「パンツ見えましたよ?」

「ひぇっ⁉」

「黒色……ビューティフル」


 とサムズアップすると。


「こ、こここの変態ぃぃいいいいい!」

「ぐぅぇらっちょ⁉」


 思いっきり頬にビンタを喰らい、女性は「もうお嫁にいけないぃぃぃぃぃ!」と泣きながら走っていった。

 黒……最高だね!ビンタもグッド!

 背後から強烈な寒気を背を突き刺し、僕はいそいそと父親と相手取るノルンの所へ。


「極悪人、もしくはかつて人だった魂、あるいは動物の魂、はたまたバッタの魂でも何でもいいから、罪悪感を抱かない魂を夕霧に渡してくれ!」


 そう言うと、「複雑すぎる要求は最後の一言で充分なの!」と返ってきた。


 そして、ノルンの鎌が蒼く輝いたと同時に振るわれ、すると青白い光の珠がまさしく幽霊のようにノルンの上に浮かび上り、そして僕の視線を受け取った夕霧は胸に手を当てて。


「――〝あなたの罪を赦しましょう〟――」


 刹那、青の輝きが包み込み、魂は昇天するように大空の光に粒子と成り消え、元の位置に十数本の銃が産み戻った。


「時凪!退けて!」


 僕の声に被さるように時凪がその場を離脱し、驚く奴や銃に手を伸ばす者たち目掛けて宙に出現した銃を一番早くに手に、瞬足で握りトリガーする。

 イチルが夕霧の眼を手で覆いしゃがみ、放たれた銃弾が容赦なく花弁を散らす。


「ガンスリンガー!」

「ストライカー!」


 僕の声に時凪が合わせ、おりゃおりゃと銃弾をぶっ放す。とは言え、僕は所詮休みの日には部屋に籠ってゴロゴロしている自宅警備員志願者。よく夕霧に「兄さん!昼間からごろごろしてないで、外に出ないとダメだよ!」と叱られていた。うん、なんか記憶ちょっと戻ってるね!覚えないけど!

 と、言うわけで僕にできるのは精々牽制的な威嚇だ。むろん当たればいいけど、そう簡単にいかないのが世の中。


 異語同音に「逃げろっ⁉」「イカれてやがる!」「マジ卍」「マジそれな!マジ卍な!」「本当にそうね。マジ卍ね。同意しかなくてマジ卍よ」「ハハハハマジ卍卍……卍ってなんだ?」「知らないですぅぅ⁉そんなことより速く逃げましょうぅぅぅ⁉」


 マジ卍戦争が密に勃発させながら軍兵は中央の巨大柱の背後へ隠れる。何人か直撃した兵士は時凪が銃のグリップで叩き気絶させる。


「今だ!夕霧とイチルは白乃をお願い!逃げるが勝ちだ!」

「……情けないことこの上ないけれど、最前にして効率的ね。白乃は任せて」


 イチルに感謝をして時凪が銃で軍兵を牽制する合い間に、塞がれていた西の出入口へと。


「行かせると思ってやがんのか?」

「ぐはぁっ……ッァ」


 唐突な年齢推定三十後半の声に「何奴!」と向けば、ノルンの父親だった男の膝が時凪の腹に練り込んでいた。そのまま腹を抑えて膝を付きそうになる時凪へ男は。


「粋がんなぁ、異能者。オマエらはそもそも生きる資格が今更ねぇーんだよ。出来損ない」


 男の振り上げた踵が時凪の顔面に突き刺さり、そのまま重々しい弧を描いて時凪はコンクリートの床を転がり沈黙した。


「時凪⁉」


 すぐさま駆け寄ろうとして、銃声が耳を穿ったと思えば左肩辺りに衝撃が突き抜け、瞬間激熱が鬼の激昂のように痛覚を呼び寄せた。


「がぁっァぁァ……ァァァっ」


 右手で何度味わっても慣れることのない激痛と墳血を抑え、次に右膝、左耳、右肩とナイフで刺されるよりも瞬間的にして爆発的な狂感覚の悲鳴が意識諸共僕を炙り殺しに来た。


「ィァァァぁぁアアアア、ぃアアアアっっ、っっぁ、ァぁあァァァアアアアアアーーっ‼」

「いい悲鳴だな。俺の見立てじゃ、オマエが一番厄介に思えたんだが……もやしか?」


 もやしとは失礼な!せめてごぼうにしてくれ、なんて馬鹿も言えなくて口元だけ笑みを浮かべてやる。

 すべて致命傷にならない場所への着弾。今まで僕の死はほとんどが即死だ。誰もが殺そうとして、僕も死のうとして。故に永続的な痛み、死ねない死にたいほどの痛みに僕は慣れていない。今すぐ死にたい。死んでこの痛みから逃れたい。どうせ生き返るなら、感じる暇もないくらい直ぐに死にたい。死にたい、逃げたい、痛い、死にたい‼


「死ねせるわけーねだろぉ。バーカ」

「――っ⁉」

「種は割れてんだよぉ。ま、半信半疑だったが、この眼でオマエの死と直後の銃の消失を見れば、今更疑う余地はねーよ。噂くらいは知ってんだろぉ?」

「まさか……誘ってたのか……⁉」


 男は卑しく笑みを歪ませ、大層大仰の腕を広げ。


「この世はなぁ、最悪なことに持ってる奴と持ってねー奴がいやがんだ。で、持ってねー奴は持ってる奴の奴隷になるか殺されるか使い潰されるか、まー言えば道具としての価値しかねーんだよ。そうでしか生きらんねー。わかるだろ?わかんねーか。お前ら全員持ってもんなー!ハハハハハハハハハ‼

 命なんざ核にすぎねー。本当に大切なのはどう生きるかだろ?一生従って生きるか?性奴隷として嬲られるか?道具として人権を奪われながら生きやがるか?――糞だろォ。なんで同じ人間が持ってるだけの人間に従わねーといけねー?それこそマジ卍ってんだ。なぁー、わかるだろ俺の娘。だってオマエもそうだもんな。愛されてねーお前は道具だもんなーハッ!」

「~~~~っっ!ち、違うの‼わっ!……っ、私はッ!きっとお父さんもお母さんも私を愛して――」

「ならどうして、オマエは捨てられたんだ?」

「―――――――」


 義父の無慈悲にして残酷な一言は容赦なく、現実という真実を突きつける。細く今にも千切れてしまいそうな生の希望が、目に見えて千切れていく。縋りついたかつての娘は、けれど義父の冷徹によって捨てられた。

 激しい義父との戦いで傷だらけになった小さなノルン。

 砂汚れだらけに血が雨に流された泥のように、唇の切れた合い間から赤いそれを袖で拭う。漆黒の鎌を支えになんとか立ち上がり、息を吐いて鎌を振るう。その佇間は既に生気は薄かった。ボロボロになった人形を主人がもういらないと捨てたように、そんな捨てられて途方に悲しみと虚無に暮れる人形のように、ノルンという少女は痛みに佇んでいた。


「知ってるか?邪魔なもんってのはゴミ箱に捨てんだぜぇ」


 刹那、ノルンが何かを呟いた瞬間、銃弾が少女の胸を撃ち抜いた。

 血花を咲かす儚き少女の綻び。ノルンは漆黒の紅を纏わせて、その泉へと倒れた。


「の、……る、のぉるぅぅぅんんっーーーーっっ⁉」


 夕霧の泣き叫びに妹は飛び出そうとして、銃弾が鼻先を通過し、尻もちをつく。


「ぁ……ぁ、っの、るぅ……、ん」

「…………っ夕霧!」


 近寄ろうとする僕にイチルが「あたしが行くわ!」と僕よりも素早く駆け出し、僕は右側、ノルンの背後の柱より二列で射撃してくる糞野郎どもを睨みつけ、もうこんな身体は使い物にならないけど、それでもと憤怒に駆られ疾駆する。


「行かせると思ってやがんのか?糞餓鬼ぃ」


 義父の笑みは照準。背後は振り向かない。それでも男が僕を狙っていることはわかる。だから――


「頼むッ!」


 そんな僕の独りよがりに――仕方ないなー、そんな声が聴こえた気がした。


 義父が唐突に迫った拳を間一髪身体を引いて回避し、義父の眼に映る奴は大きく息を吐く。


「なっ⁉貴様まだ動けっ⁉」

「…………俺は怒ってる。人を、ましてや彼女を道具としてしか見てないおまえは最低だ。俺を助けてくれた奴を守るためなら、死んだって彼のように生き返って何度でも殴ってやるよ‼」


 そんな時凪の声を背中に僕は銃弾を浴びる。

「撃てぇぇ」と号令通りに僕へ向けられた照準は、一切の外れなく僕を貫く。僕の後を奔るイチルが僕を盾にノルンを救出し銃を雨を背負い込む。何度も何度も失って知るこの痛みに蝕まれながら、時凪の痛苦と男の激怒を身に沁みながら、僕は軽々と命を手放す。


 そして――すべてを背負うために【死に願う】。


 ――柱よ、北に崩れろ――


 誰かをすぐ近くに感じる。優しくて止まるなと背を押してくれる誰かをすぐ傍に感じながら、こちらへ走って来る誰かを感じながら、僕は抱いた気持ちに偽りないと誓いながら、そうして僕は白い夢の中から瞼を開く。

 水面に顔を覗かせるように、もしくは誰かの手に引っ張り上げられるように――僕は――夜霧は真実へと夢の中を抜け出した。


ありがとうございました。

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