第17話 歯車
青海夜海です。
銃声が三度、空に撃ちあげられた。
その音を聴きつけた白乃《私》は無事に侵入できた軍用区内にて音の方向へと走る。倉庫やコンクリート製、岩の家が団地のように立ち並ぶ軍用区内。私は道を阻む敵を瞬時に気絶させながら先に進む。右へ曲がり、倉庫の屋根を上り空に上がる銃弾を確認し跳躍。走ること数分、そこにいたのは今まさに銃を向けられ背中を壁に逃げ道を無くしている少女だった。灰色の髪に藍色の瞳のノルンより大人びた少女。
「見つけた」
私はナイフを瞬時に投擲し、男二人の銃を持つ手を穿つ。
「がぁっ⁉」
「て、敵襲だぁ⁉」
私は横から直角に男どもへ促進し、一人目を足蹴りで首から吹き飛ばし、反対の手に持ち替えられた銃が発射されるのを身体を屈ませて回避。そのまま背後へ回りこちらへ向く顔面目掛けて回し蹴りを放った。
「ぐべぇっらっちょっ!」
回し蹴りは顔面に踵を練り込ませ、そのまま内に巻き込むように地面に叩きつけた。背中から強打した男は沫を吹いて失神。私はすぐに男から銃を奪い、慌ててやって来た兵士二人に近寄るなと発砲。訓練を受けている彼らは律儀に建物の影に身を隠す。
「だれ……?」
唖然と何が起こったのかわからないと風に見上げる少女の手を掴み走る。
「……っ⁉ちょ、ちょっと⁉」
「私は白乃。貴女のお兄さんに頼まれて貴女――夕霧さんを助けに来たわ」
「兄さんが⁉」
「ええ」
頷きながら全弾発砲。牽制を終え彼女を引っ張り逃走する。
「あ、あの!兄さんはどこに?」
「話しは後。今はとにかく走って」
背後からは「女を黒ずくめが連れてったぞ!」「今すぐ捕えなさい!逃がすのは許されないわ!」と、数から十人以上が追いかけてくる。ほとんどの軍兵が東の警備強化と時凪の追跡、消火活動に向かったはずでもこれだけの数はすぐに投入された。それほどまでに夕霧さんが欲しいということ?不明瞭な点は多い。
イチルの作戦内容を訊いて、そこまでする必要はあるのか、疑問だった。でも今ならわかる。夕霧さん……そして夜霧くんもまた狙われているのだと。噂はこの二人だと。
背後からの発砲が隣のコンクリートに弾かれる。
(増援?あまりにも速い!)
まさかと思い銃を見る。この銃は虚界人が使う変形できる電子武器。
「発信機の機能があるということね……っ!」
私はすぐに銃を捨て息の荒い夕霧さんを抱え上げる。
「きゃっ⁉」
「ちょっとごめんなさい」
彼女を右腕だけでお腹から抱き上げるように抱え、左手にナイフを装備。悲鳴を上げながら私に抱き着いてくれる彼女に「強く捕まって!」と言って跳躍した。
二回目の爆発。ノルンが予備ようのスプレー缶を投入した。
「――――っ!」
城壁上へ大きく跳躍するが、十メートル以上ある壁を飛び越えるのは不可能。届かない頂上……ではなく、壁の欠けた部分へナイフを振り穿つ。壁を砕き切る勢いのまま振り下ろし、遠心力と勢いを阻まれた反動で私たちの身体は大きく宙上へ投げ飛ばされ、背筋に力を入れてそのまま垂直に頂上へ昇り出た。要用はハンドスプリング。着地と同時に眼を回しぶるぶると震える夕霧を降ろし、開いた右手で転がっている銃を拾って空へ三度発砲。奪還成功の合図を送る。
「ここから出るわ。もう少し頑張って!」
「うぅ~~ん。わかりましたっ」
「ノルン!」
「ん。任せてなの。こっちなの」
ノルンが先頭を走り私は夕霧さんの手を引いて走る。あちこちから上る犯罪者、叛旗した者を捕えろとの咆哮。銃弾が悲鳴を巻き込みながら私たちに降り注ぐ。ノルンの人間離れした能力が前方からの弾丸をすべて弾き、軽やかなフットワークで相手を混沌させる。
私は再び拾った銃で殺すではなくあくまで足止めとして的の大きな腹部を撃ち抜く。夕霧さんに降り掛かる銃弾を彼女から手を離した右手、腰から抜いたナイフで往なす。
「走って!」
「は、はいっ!」
止まることは許されない。私たちは夜霧くんじゃない。弾丸が、ナイフが、爆弾が……そんな何か一つでも致命傷を受ければ容易く死んでしまう。生き返れない私たちは死を恐れながらも死を乗り越えないといけない。全弾無茶苦茶に発砲し牽制。ノルンの鎌が息を荒くそれでも前を走る夕霧を守る。
「そこを左なの。すぐ右に見える髪を切るところの左側の細い道を行くの。抜けたら斜めの細い道を抜ければ門なの!」
「わ、わかった!」と、ノルンの指示に従い夕霧は先行する。
民間人が逃げまとうなか、墳血が途切れることなく、ましてやそれに悔いや罪悪感すら抱かず、彼ら軍兵は一心不乱に私たちを殺しにかかって来る。肩に袈裟、銃弾かすれ太ももの皮膚を抉っていく。何度も感じたことのある痛みに、それでも痛くて慣れないなと、したこともない舌打ちを胸の中でする。
息を止める吐くを繰り返しながらナイフでなんとか銃弾を防ぎ、サインポールを倒す。しかし、飛び越えられて時間稼ぎにならない。声を荒げながら罪状を読み上げる女目掛けて電熱性の高い懐中電灯を差し込んだ。
「きゃぁ!」と驚いて脚を止めた女に直ぐ壁上、銃弾で外れかけになったパイプのくっついている部分へナイフを投擲し破壊。倒壊してきた管が隘路の道を見事に蓋をする。
「うまくいったわ。けれど、残りは予備のナイフ一本……このまま順調にいければ」
刹那、熱が背中を覆い逃げられないと語り掛けるように迫った。感覚が遅れて機能を再開させ、轟音が劈いたと思えば振り返った視界の先は爆炎の盛りのまま襲来してきた。
「~~~~っっ‼爆弾!」
「こっちなの!」
「きゃぁっ――⁉」
肩を正面に爆炎を受け止めながら私の身体は流されていく。強烈な火傷に歯を食いしばって耐えながら隘路の出口まで吹き飛ばされた。そのまま地面に叩きつけられながら無様に転げまわり背中から壁へ思い生きり強打した。
「はッァ……ァぁァぁ……っっ~~~~っ⁉」
岩石のような重圧が圧し掛かったような反動が内臓を委縮させ、呼吸の機能が一瞬止まる。唾液を吐きながら空気を吸い込み気道を確保しようと本能が肺を忙しなく上下させ、血糊の混じった唾液を見つめながら引くことのない痛み、痺れ、熱に翻弄されないと食いしばる。明滅しそうな意識と視界は二人の声で現実を留められた。
「大丈夫ですか⁉」と、夕霧が慌てて私に近寄り、ノルンもまた驚愕に眼を見開いて私の下へ。
夕霧さんが「す、すぐに治療しないと――」と焦る中、その音は判明に脳裏に映像を浮かばせた。
壁に打ち付けられ背を預ける私、そんな私へ腰を下ろした夕霧さんと振り返ったノルン。私たちを取り囲んでいたのは軍兵たちだった。
「――――」
空へ打ち上げられた銃声のみが嫌に静寂を好む。二十人もの拳銃を構えた軍人に取り囲まれながら、私はただその男を睨みつけた。しかし、男は私と夕霧さんを一瞥しただけで興味を失い、もう一人の少女へ笑みを浮かべた。男は言う。
「久しぶりだな、娘。元気にしてたか?へっ」
軍服にスカーフを首に巻いた三十代後半ほどの男の笑みに娘と言われた彼女は――。
「…………今、元気をなくしたの。責任取って死んでほしいの」
そう、見たことのない秘められた激情で男を睥睨した。しかし、男は変わらないなと下卑た笑みを浮かべ彼女の名を口にする。
「あれだけ『愛』してやっただろうに、なぁ?――ノルン」
刹那、金髪の背中は確かな怒りに震え、見えない金木犀の瞳は見たこともないほどに吊り上がっていたことだろう。知るすべはない。けれど、踏み出したその脚と背姿が容易く想像させた。そして、齢十五の少女は激情を迸る。
「うるさい……ッッァヤァあああああああああああああああああああああああ‼死ねッ‼」
一瞬にして男との距離を詰めたノルン。漆黒の鎌が実の親だろうとその命を獲りにかかろうと振り下ろされ――男の笑みが深まった。
瞬きの次、男の身体はまるで不具合一つなく処理するコンピューターのような滑らかな動きで回避していた。キィィ、と睨みつけるノルンが「やぁぁぁ‼」と迸りながら鎌を振り抜く。
「へっ、なんにも変わっちゃーいねーっての。俺はオマエに何を教えた?どんな『教育』を与えた?殺人鬼にした覚えはねーぜ?」
「うるさいの‼黙れなのッ‼おまえなんて私は知らないのッッ‼」
まるで男の愛情を拒絶するように、もしくは癇癪を起す子供のように、ノルンの鎌は脅威を狩り獲らんと何度も空気を裂いて振るわれる。しかし、掠めるどころか防御させることすらできないでいた。すべて回避される。まるで失望の姿を嘲笑うかのように。
「あーもーいい。俺の愛情を受け取らん奴なんざ知らねー。俺はこれでもオマエを大切に育ててきたつもりだが、親ってもんはむずいな。へっ、んじゃ――くたばれ餓鬼」
「~~~~っ私はッ‼おまえの子供じゃないぃ‼おまえがぁ――――ぁ……ぁっ」
ノルンの憤怒の一撃は、しかし内へ滑り込んだ男のカウンターなる溝内への拳一つで簡単に鎮静させた。腹を抱え腰を折るノルンはそれでも激情のままに前を向いて。
「――誰もオマエのような怖い餓鬼を愛さねーよ。死んでまで飯事しやがんなぁ」
鮮やかな振り上げた右足がノルンの顎下から打ち付けた。弧を描いて後方へゆったりと落ちていく小さな身体へ手を伸ばしても届くことはなく、抱きしめることもできず、ノルンの身体が地面に転がった。
「……――、ノルぅぅっン――――ッッ‼」
今すぐにでもノルンへ近寄ろうとする私の足元に銃弾が被弾した。
「…………貴方」
「悪いがそこでジッとしといてもらうぜ。ま、結局は死ぬんだがな」
そうげらげら嗤う男はノルンへと歩み寄り、おもむろにノルンの髪を掴んでは引っ張り上げる。それはいたぶる所作でまるで教育だとでも言いたげな眼差しが私へ向けられた。
「ぅっぅ……」と喉を鳴らすノルンに男は言葉を振り下ろす。言葉は刃物だ。
「最後の授業だ娘。問題――オマエは愛される存在だと思うか?」
「――――――」
すべてが真っ暗だったと、少女は涙すら零せなかった。
「ふはっ‼正解は――オマエは永遠に愛されねーよ、呪いの人形」
そして、男は拳銃をノルンの額へと近づけ、引き金に指がかかったその時、私はあらん限りに叫んだ。
「夕霧‼〝願いを打ち消して〟ッ‼」
私の叫びに一瞬唖然とした彼女は、しかし直ぐに悔やみの涙を拭って力強く頷いた。
「――わかりました。兄さんの願いを解きます」
夕霧は右手を胸に当て左手を伸ばし眼を瞑る。深い青色の光子が浮かび上がってきた。
彼女は一言、祈るように償うように言霊を現世に波紋させる。
「――〝あなたの罪を赦しましょう〟――」
刹那、世界は眩い青いに包まれた。まるで幻想の海原の中にいるかのような不思議な世界にて、私と夕霧さん以外誰もいないそこで、彼女の祈りは私の現を露わにする。
彼女の左手から伸びる青光子の蔦が私を取り囲み、まるで鳥籠のように私を抱擁する。そして訪れた薄明の刹那、意識はあるのにその身体は眠りにつく。私という存在と『彼』という存在の隔絶へ、身体は眠り神秘は神秘によって覆された。
青い蔦に包まれた私の身体は蒼く微光に愛し、もう一つ伸びていく青い蔦が『彼』を形成していく。
次元の狭間、誰も知り得ない領域で眠る存在を現世に呼び戻す。
そうして、青い光は音を立てずに砕け落ちる硝子のように剥がれて行き、私たちは誕生する。
神秘の世界は薄暮よりも眠りよりも呼吸よりも刹那な時空にて流れ、眼を開ける確かな感覚と共に青い世界は色を取り戻し私は『白乃』という唯一の少女として覚醒した。
隣を仰げば同じように眼を覚ました灰色の髪と藍色の瞳の彼が私を見つめる。
突如現れた存在に誰もが言葉を失う現象の中、私は背後で膝に手を置いて荒く息をする夕霧さんに「ありがとう」と呟いて彼と対面する。
「えっと……これって空白じゃないよな?ってことは……ってどういう状況⁉」
混乱する彼の名前を呼ぶ。――夜霧くん、と。
私を見た彼へ――私は再び罪を犯した。
「壁を破壊して」
「かべぇ……ぅっがぁ……っなァ……?」
彼が懐を見下ろす。そこにはナイフを突き刺す私の手が見えたことだろう。私は自分を忌避、嫌悪しながら、それでも彼に『願い』を託す。真摯な眼差しでみんなを助けるために。
「さようなら。そしてお願い、壁を破壊して――」
そして再び殺された少年は――嗚呼そうかと、口元を釣り上げた。
そして始まるは〝すべての壁の崩壊〟。
都市入国の第一門に限らず、第二門から彼の異能が壁と判断したあらゆる『壁』が崩れていく。轟震はまるで地震のよう。地盤が海へ沈んでいくかのように、矮小な人間など心見ず、奇跡と言う名の〝異能〟は少年の『死』と代替えに『願い』を叶える。
少年は殺されながらただ一つ願う。少女が願った奇策を。
流れ出す血の赤はまるで花零れのようだった。
「なっ⁉なんだぁああ⁉何をしやっ……っと⁉」
「今すぐ逃げるわよ‼」
「は、はい!」
ノルンから手を離した彼を蹴り飛ばし、ノルンを抱え夕霧が夜霧を持ち上げようとするが非力な彼女では不可能。その時、倒壊した壁の向こうから煙を払ってやって来た。
「こいつは俺に任せろ!おまえたちはイチルに続け!」
現れた時凪が死んでいる彼を背負い込む。夕霧を先頭に白乃と続き時凪が駆け出す。
「お、オイ⁉待ちやがれェェェ!」
「撃てぇえぇぇぇ!生死は構わん!決して逃がすなぁああ‼」
そんな上官たちの怒鳴りに軍兵どもが銃を構えようとするが、煙の向こうへ逃走する彼らを見つけることは敵わなかった。救急の掛け声と叫喚、絶望の飛散が劈く。そんな都市と成り代わったそこをふと、黒髪の少女は振り返った。
「…………」
「こっちよ!」
イチルの先導に少女は頭を振るい、今は助かるために逃げようと前を向く。
幾つもの運命の交差と共に、物語は終局へと誘われていく。
愛を知らない少女は涙を流し、〝白い彼女〟に後髪を引かれる少女は心を殺し、赤髪の彼女は今だに迷い続け、少年を抜け出した彼はとある予感に舌打ちをした。
そして、運命は選択を迫る。とある兄妹の在り方を問うのだ。
ふと、わたしはよく知る人を見かけた。
ずっと探していた人。わたしが思い焦がれるただ一人の男の子。
街は騒ぎに埋め尽くされ、あちらこちらで。
「反逆者だぁ!」
「火事よ!火事!」
「軍は何してやがんだ!さっさとなんとかしろ!」
「奴隷どもが叛旗したそうよ。おっかないわね」
と、あちこちで益体のない事実かどうかも判断できない雑踏が沸き上がっている。だけど、わたしにはそのぜんぶがどうでもよかった。
だって、その髪の色が、その姿が、その背中が――――
「夜霧くん……?」
突然崩壊した第一門の奥へ、砂煙に隠れ誰かに運ばれながら消えていくその人にわたしは「待って!」と手を伸ばし駆けだすが、「待ちなさい!」とわたしの腕は背後から掴まれた。はっと振り向けば、中学から友達の愛璃が真剣な眼差しでわたしを見つめていて、わたしは戸惑ってしまう。
「あんた、自分が何しようとしてるのかわかってるの?あれは反逆者よ!軍に攻撃した連中よ!そんな奴等にあんたが関われば――わかるわよね?」
そう、子供に説くように怒りと心配、願いの込められた愛璃の説得に、だけどわたしは頷けない。だって――
「夜霧くんがっ……彼がいたの!」
愛璃の朱色の瞳が大きく開く。
「夜霧って、あんたが好きな?」
「うん!あの日、逸れてからずっと探してたけど、見つからなくて……でも!今確かにいたの!間違いない!」
あれは間違いなく夜霧くんだった。ずっと見て来たからわかる。ずっと想いを馳せてきたから間違いはない。わたしは絶対を持って彼だと言えた。けれど、愛璃は訝しむようにわたしを睨みつけ。
「間違いないの?あんたの見間違いだってあるわけだし、それにあんたの知ってる〝夜霧〟じゃない可能性もあるのよ」
「…………見間違いなんかじゃない。間違えないよ。……それに、もしわたしの知る〝夜霧くん〟じゃなくても、それでもわたしは彼に逢いたい‼夜霧くんのことが好きだから!」
わたし自身、もうどうしようもない感情だとわかってる。
留められなくて直ぐに溢れ出しそうで、ずっと彼のことを考えてしまって、色々なことをしたいと妄想して想像して勝手に羞恥して「明日話せるかな」って、楽しみと不安で寝るのが遅くなって……彼と逸れてもう一年近くが経つ。もう、わたしの理性は止められない。
「ずっと逢いたかった!ずっと逢いたくて、でも逢えなくて……。生きてるってわかるだけでもいいの。声が聴けるだけでも、名前を知るだけでも、彼がいるだけで一目見るだけでいいからっ!……だから願い、愛璃。わたしを行かせて――。彼の所に行かせて」
愛璃の朱色の瞳を見つめ返す。逸らさない。迷わない。最初最後の決別の選択で、わたしはお願いと頭を下げる。
沈黙が静寂がわたしと愛璃の関係性を振り返らせ、そして彼女は大きなため息を吐いた。
そして、わたしのおでこにデコピンをした。
「あいたぁ……なに?」
額を抑えて口を尖らせるわたしに愛璃は仕方ないわね、とわたしを抱きしめた。わたしは抱きしめられた。
「必ず生きて帰って来なさい」
「うん!約束するよ」
「危険なことはしないこと」
「あはは、愛璃お母さんみたい」
「そこはお姉さんがいいんだけど……まあいいわ。それと、彼と変なことはしないように。あたしはまだ認めてないから!」
「し、しないよぉー⁉なっなに言ってるのよ!もー‼……でも、うん。きっと紹介できるように頑張る!だから、生きて帰らないとだね」
笑う私に「そうよ!連れて帰って来なさい。私が見定めてあげるわ」と勝気な愛璃。
抱擁は解かれ、互いに揺るぎない眼差しを交わし合い。
「またね」
「ええ、また」
手を振り返してわたしはパラレルワールド人の拠点の都市から脱獄する。
煙の向こうで、もう愛璃の姿は見えない。正直に言えば寂しいし、ごめんなさいという気持ちでいっぱいだ。それでも、滲み出る涙を拭ってわたしは前を向く。
「うん、行こう。夜霧くんに逢いに」
わたしのそれは一目惚れだった。今もずっと一目惚れをしている。
だから、絶対に死なせない!
好きな人へ逢いに行く旅路を始めた。
ありがとうございました。




