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第15話 潜入任務

青海夜海です。

よろしくお願いします。

 作戦決行の夕方。僕たちは規律よく二列渋滞となって手足一緒に行進していた。……というのは嘘で、緊張感と心構えはそんな感覚だ。むしろ一緒の手と足が出るまである。なんなら内臓も出そうだ。ドキドキ。これは恋かな?恋だといいな、恐怖だな。by夜霧よぎり


「というわけで絶賛緊張中な僕ですけど、皆様方はいかがお過ごしで?」

「……あなたよりは快適に安らかに過ごしているわ」

「ノープロブレム。俺等よりも緊張してる奴を見ると落ち着くって本当なんだな。少し笑えていいよ」


 なんかホローされた。イケメン優しい、ていうか僕惨め。しくしく。


時凪ときな、優しい」と泣き真似する僕に「はぁー気持ち悪いからやめてくれる?それともあんたの精神は幼児レベルに幼いのかしら?」と煽って来たイチルさん。

 今日もツンが強い生徒会長風格巨乳様。


「実はそうなんだ。だから、僕の緊張を安らかにさせるために抱きしめて――」

「セクハラ。殴るわよ?」

「ぐぇえっっ⁉」


 腹を蹴られた。次いでに爪先も踏まれた。手、出てますよ?あと痛い。僕はドMじゃないんですけど……あなたはドSですね。どう見ても……ごめんなさい調子に乗りましたすいません。と、心の中がセルフ謝罪をした。


「調子に乗りましたすいません」と声に出てた。

「あんたは……本当に変わらないわね……」


 それはどこか憂いの籠った吐息。同時に非難するような、自罰的な答えの見つからない迷子の言葉だった。イチルの悲しみ、立ち直れない後悔、どこにもない答え。


「あんたの中には既に答えはあるみたいね」


 自虐と嘲笑。自嘲と妬み。仮初の正反対が矛盾を孕むことなく適格に音となる。僕の息は今だに白い。赤いピアスに触れる。揺れるひし形はいつか落ちるのだろうか。


「……答えなんて出せてないよ。出せるわけ、ない」

「え……?」


 顔をあげるイチル。僕は足を止める。この先、角を曲がれば目的地が見える。


「だって、僕が彼女を殺したようなものだろ」

「――――――」

「僕が相手を侮って彼女を人質にした。それがあの場では最適だったとしても、そのせいで彼女は殺されたんだ」

「そ、そんなの!あんたが人質にしてなくても、彼女は裏切り者になってたわよっ!」

「そんなのはわからない。どんな結末を迎えたかなんて、わかるはずないんだよ」


 もしも彼女を人質にしなかったら。もしも、僕が撃たれなかったら。もしも――そんな過ぎ去った過去の複数の選択を振り返ったところで意味はない。

 それでも悔いているから考える。悔しいから違う路を後になっても模索して、自分を責める。能のない人殺しを。


白乃しろのになるまで時間を稼げばよかった。もっと別の手口から相手の目的を推し量ればよかった。僕が最初から一人、奴等を虐殺すればよかった。な……もしもなんて考えるだけ無駄なんだよ。事実は事実で、それが現実で真実。僕が彼女を殺した……揺るぎないよ」

「――――っっ!そんなの!あたしも同じよぉ!あたしがあの男の提案を引き受けていたら……そうなのよ‼全部わかってる‼意味なんてないって、わかってるッ‼……けれど、答えなんて見つからないわ……どうすれば、彼女と生きることになるの?あたしは、前を向いて歩いていける自信がないのよ……はっ、馬鹿みたいね」


 泣きそうに嗤うイチル。僕が彼女なら、心優しい一縷いちるならきっと抱きしめてあげる。言葉なんていらなくて強く抱擁すると思う。

 でも、僕は彼女じゃない。答えが出ていない僕がやればそれは同情にしかならない。自分に厳しい彼女が欲しいものじゃない。


「一縷は人質を受け入れた。僕は一縷に甘えた。一縷は最後、なんて言ってた?」


 僕の知らない彼女の最期。君しかしらない、君とよく似た人の言葉。イチルは唇を噛んで。


「『あたしの分まで生きなさい』……」

「それが今は答えでいいじゃないか。僕もそうだし、今は〝イチル〟の生きる時間を生きることしかできないんだよ」

「…………」

「僕らは弱くて小さい。何もできない子供だ。だからこそ進むしか許されない」

「それが、あたしたちへの罪だとしても?あんたは背負い続けて、進み続けるの?」

「…………そうだな。いや、今は嘘でもそうだって言うよ。だって――そっちのほうが彼女は呆れてくれそうだ」

「そうね……それでため息を吐いて、笑みを浮かべるのでしょうね。文句でも垂れながら」

「ああ、だから頼むイチル。変われだとか、前を向けとか言わない。ただ生きよ」


 結局はそれなんだ。青く小さく弱い僕らは今を生きることしかできることはないんだ。

 イチルは「そうね」と目元を拭って微笑んだ。赤い瞳が宝石のように輝いていた。


「…………あーと、お待たせ」


 そう言うと、待っていてくれた時凪は


「全然いい。俺もそう思えたし」と受け入れてくれた。

「ん。いいと思うの。私も後悔はあるの。それでもずっと進んできたの。痛いのも悲しいのもノルンだからなの」と、ノルンも柔らかに迎え入れてくれた。


 僕は恵まれていると思う。なんとなく、僕は彼女たちを死なせないために死なないのだと、そんな夢を抱いた。


「じゃあ行くぞ。この角を曲がったらなんだろ?速く行かないと紛れられないぜ」

「そうね、行きましょう。今は前だけを向くわ」


 時凪、ノルン。後ろにイチル、その隣に僕が並んで歩き始める。


 周囲にも同じように帰還してくる人がいた。僕らのような私服が三割。他は軍服だ。むしろ私服の人はこんな廃虚然な街に何をしに出掛けているのか首を傾げるところだが、今はどうでもいいわけで、胸にプレートをついたペンダントを下げて堂々と紛れ込む。

 ドッキンドッキンドキドキドキドキドドンパパッパ――みたいな心地だ。むしろ三三七拍子とかマズルカとかいけそうまである。僕は案外に緊張質なようだ。

 順番に検問をパスしていく中、遂に先頭の時凪の順番がやって来た。ごくり。


「身分証を見せろ」

「はい。これですね」


 時凪はいつも通りを装いペンダントのプレートを見せる。


「うむ。よろしい」


((((ふぅーー))))四人同時に心の中で息を吐いたその時。


「退出理由を述べよ」

「「「「えっ?」」」」次は声に出た。

「なんだ?速く言え。後がつっかえてる」


 時凪の視線が僕に向く。だがそんなもの考えてなどいないわけで、「トリマ適当にヨロ」とウインクしておく。時凪の笑顔は怖かった。ひぃぃ――っ。

 時凪は一度息を吐いてから毅然と言い放った。


「上官に荷物運びを命令されまして、今荷物運びを終えて開放されて戻ってきました」


(((流れるような嘘)))そしてイケメンだから許される!


 門兵の男も「ちっ」と舌打ちしたそうだが、偽りなきイケメンスマイルに口を尖らせ「そうか」と頷いた。一家に一人イケメンは欲しい。いや、一家に一人時凪が欲しいまである。


「じゃあ、後ろの三人もか?」

「はい。そうです」

「そうか」

「もういいですか?」


 と急かす時凪の背後で僕たちはペンダントを持ち上げて見せる。早く入れてくれぇぇえよぉぉぉぉお!という気持ちでいっぱいだ。


「うむいいだろ」


 道が開かれ僕たちは大層安堵しながら速足で中へと進み、「あっそうだ」と背後から声がかかった。


「「「「びく」」」」え、なに?なんなの?時凪に惚れたの?連絡先は教えないよ?

「?お前たちに命令した上官の名前はなんだ?」


 瞬間僕たちは固まる。名前?名前ってなんだ?動名詞のことか?それともお前の方言かな?名前ってなんだろ?僕は夜霧です。


「「「「…………………………………………」」」」


 男の眼が時凪を見て、ノルンを見て、イチルを見て、最後に一番近くにいた僕を見た。僕は言わずもだが非常に焦っていた。名前の定義を考えてしまうくらいには焦っていた。いや、考えてないけど……というくらいには混乱と緊張で頭がぐるぐるした挙句、出た言葉はこれだった。


「えっと、あの……あれです!禿頭男とうかくおとこ!」


 瞬間背中が冷気に刺される。


(((なにやってるんだぁあああああああああ⁉)))

(すいませぇぇえええええんんんんんんん‼)


 そして結論なる処刑宣告に戦々恐々して――


「あーあの出目金かぁ。お前たち災難だったな。もう行って良いぞ」


 と、解放された。僕は前を向き、とりあえず可憐にピースを決めた。


「「「ハァー――」」」


 第一の関門突破。




 第二の関門――夕霧捜索及び軍用区内侵入作戦――開始。


 というわけでやって来ましたパラレルワールド人の占拠地――ホープ都市内民間エリア――名は民間区……そのままですね。はい。


「なんというか、近未来と中世の合い間みたいな感じで不思議ね。どっちかに統一してほしいわね」


 イチルの評価はこの上なく正しかった。近未来と評したのは建物事態が白いビルや窓ガラスばりの高層建物やオシャレな外装の店と僕たちが知る東京の街並みとほとんど同じだからだ。それに加えて機械化が僕たちの知る東京の街よりも進んでいた。例えばゴミを拾うロボットとか、煙も音もない車などなど。いちいち口にしてたら終わりそうにないので想像にお任せします。

 つまりは近来より発展した技術を用いた都市は、民家街に限り中世ヨーロッパなどで見られるロマネスク様式に似ており、煉瓦類似の石を積まれて建てられている。煉瓦の色は様々でよく見るのはモザイク式。基本二階建ての住家が隘路のような細い隙間のみを空け、ドミノのように連ねていた。三角屋根に二階と一階の間から平田屋根が突き出ている。屋下には紐のようなものが隣の住家とも結びつき如意棒如きのハンガーをかける棒の役割を果たしている。二階上の屋根も同じように突き出ていて同じように紐が隣と結びついて、屋根上の固定器で固定されている。


「これって二年くらいでこうなったんだよね?凄すぎない。ビックリ仰天眼から眼球が出るよ」

「それを言うなら鱗でしょ。きっと能力者を使ったのよ。始めに見つかった能力者は〝川の水を浄化する〟だったわ。建築に有利な能力者がいても不思議じゃないわ」

「俺みたいなゲーム仕様の奴もいるかもしれないしな。マジで意味不明で笑えんな」

「……みんな仲がいいの。ノルンは好きなの。この街。……」


 まあ呑気なわけだが、僕は白乃に託されたメモに書かれる場所へと三人を連れて向かう。


「これ、こっちであってるよな?」

「どれよ」と覗き込んで来るイチルにも見せる。地図には門から目的地までの大まかな情報、店名や右折左折とあるだけだ。


「これ、そこの角を右じゃない。ほら、『ブルボン・トリプル』って書かれてる」

「三層になってるのか漫才なのかわからない店名だな」と時凪が苦笑した。


 角を曲がり直線に少し歩いて左手に靴屋を見て、その真向いの分かれ道の左の坂を上る。少し行くと大きな建物が見えて来て、その形に時凪とイチルは。


「あれって、学校か?」「ええ、学校のようね」と頷いた。


 あれが学校らしい。記憶のない僕には通っていた記憶はない。知識はあっても、何か感慨が湧くわけでもなかった。


「…………学校」

「どうしたノルン?」


 どこか難しそうな顔をするノルンに訊ねるが。


「ううん。なんでもないの。学校があることに驚いたの」と頭を横に振った。


 そもそも学校って立ち入り禁止なんじゃ、と思いながらも近づいていくと、一人の女性が校門より少し前にて待ち構えていた。まさかバレた‼と、警戒して立ち止まる僕らは黄昏を背にした一輪の花のような少女に眼を奪われた。僕だけじゃない、みんなもだ。

 こちらへ歩み寄って来るのは白い少女。オフシェルダーの白シャツと紺色のスカート。見える肩も肌も夕闇の影となっているはずなのに、その雪のような白さは伺え、靡く雪絹の髪はこの世の者とは思えない儚げな神秘を纏って少女を作り象っていた。空色の瞳とよく知る相貌に僕らは見上げ続け。立ち止まった彼女はうっすらと笑みを浮かべて。


「初めまして。私は白乃シロノ。皆さんが言うパラレルワールドの白乃です」

「「天使‼」」


 僕と時凪の声が揃った。イチルに睨まれた。


「え……?」白乃が困惑する。イチルに爪先を踏み潰された。


「「いぎッ、な、なんでもないです……はい」」脚が痛いぃ……。


 僕たち一芸は面白くなかったようで、「そっちの〝私〟から話しは聞いてるよ。こちらへどうぞ」と学校ではなく、隘路へと入っていく。

 天使に導かれるように付いて行った。

 ……痛いですぅ!怒らないでぇ⁉男の性なの!




 無言のイチルから監視、懲罰、嫉妬?ツンデレのツン?……を受けながら辿り着いたのは酒屋の裏口、その地下だった。小屋程度の広さに五人いれば圧迫感を感じるが女子の割合が高いのでいい香りがする。そして必然的に距離も近くなるわけで、どうぞと案内されるがままにベッドに腰を下ろし、僕の隣にノルンが真正面の簡易的な椅子にイチルと時凪、シロノは僕たちを見渡せる位置、つまり僕の斜め隣なるお誕生日席に落ち着いた。

 改めて見つめるが本当に綺麗な人だった。あの日、一目惚れした『彼女』と遜色なくて、その感情を思い出した瞬間、居ても立っても居られず僕は立ち上がって声をかけていた。


「シロノさん!」

「は、はい!」


 突然呼ばれて緊張気味な高い声を出す彼女もまた愛らしく。


「僕は君のことが――――」


 僕は再びの告白の言葉を紡ぐ前に、どうしてか意識が電源を落したように切れた。



 と、瞬間に光と共に姿を変えて、起き上がるように目覚めた私は息を吐く。


「危なかった……。〝私〟が穢されるところだったわ」


 私――白乃の誕生に〝私〟は眼をパチクリしているが無事に合流できたと私は安堵する。


「あなた……!今日は一瞬だったわね」

「身の危険を感じたので」

「身の危険って……男としては複雑だな……」


 この二人には彼が私に『告白』したことを伝えていない。私は毛頭答える気はなく、〝私〟にも彼の毒牙にかけるのは御免だ。それに彼が死んだ際、どの感情、どんな願いごとがどう叶えられるのかわからない以上、不安要素は早急に取り除くに限る。


「え?ど、どうなってるの?〝わたし〟が急に……え?」

「私の説明は後でするわ。それよりもありがとう。貴女が協力してくれて助かった」

「う、うん。〝わたし〟の頼みなら任せてよ。わたしは貴女たちと一緒にはいけないけど、力は貸すから」


 その力強い言葉に私も、そしてイチルたちも頼もしいと感謝に頷く。

 そして始める。ここからが本当の闘いだ。


「私が今日まで調べたことだけど、最近東の方で連続行方不明事件が続いてるらしくて、向こうはすごく警備が厳重になってるよ。いつもより哨戒中の兵士が多いと思うから気を付けて」と〝私〟が情報を提供してくれた。これがわたしにできる精一杯だと謝る。


「十分だよ、ありがとう」

「……うん」


 そして私たちも作戦決行へと情報の整理をしていく。


「まず、夕霧ゆりさんと思われる人が軍用区内で追われているのは確実。指名手配が回っているくらいだから窺わないでいいわ」

「そうね、ならどのようにして侵入するか……もしくは彼女を軍用区内から逃走させるかの二択ね。白乃さん、あんたはどちらを推奨するの?」

「……希望を言えば後者。賭けだけど、〝私〟――シロノが伝えてくれた情報が軍用区内のほうがより具体的に回っているはず。もしも夕霧さんがまだ捕まっていないのなら、私が残した違和感に気づいてくれる……そう願っているわ」


「違和感?」首を傾げる時凪に「門兵の一部を異能者の死体と一緒に置いておいたのよ」と告げると、彼は「なるほど!」と頷いた。


「夕霧さんは異能者。異能者がそう簡単に兵士に負けないことはわかるし、何より相打ちになること事態滅多にないってわけだ。この都市は異能者を捕虜にしてるからな。むやみやたらに殺すなんてことはしない。軍資金みたいなもんだろうし。つまり、誰かが意図的に門兵の死を偽装していると彼女に伝えたわけか。見かけ通りに頭がキレるな」


 私は頷いた。これは異能者であり、その異能者を捉えるパラレルワールド側の実態を知る夕霧という彼の妹にしか導き出せない答え。

 この世界の抗戦は一年前から始まり、既に決着は着いている。この世界の敗北だ。私たちのような無謀に対抗する人はいない。もしいるとすればそれは力のある異能を持つ人……けれど結果は門兵と相打ち。不自然極まる。


「うまく伝わっているなら、夕霧さんは西方面に移動してくれているはず。後は私たちが警備の薄い西の検問に穴を開けてあげれば彼女は脱出できるわ」


 そこでイチルが割り込む。


「けれど、そちらのシロノさんも言っていたじゃない。全面的に警備は強化されていると。いくら反対側に人員が割かれているとは言っても厳しく守られているのは必然よ。あんたやノルンの能力を使えば簡単でしょうけど、瞬間、あたしたちは御尋ね者ね。次は無事に脱出できるかわからないわよ。むしろより警戒される可能性もあるわ」


 イチルの言い分は全てに納得がいく危惧の実態だ。もちろん、色々な偶然が重なり強行突破で無事に脱出できる可能性もある。けれど、一つ間違えれば私たちの誰かは、もしくは全員が死んでしまう……そんな結末もある。それだけは何としても防がないといけない。


「そうね……なら今から私が現状の状態を視てくるわ」

「なっ⁉今からだ?」

「ここは敵地だよ!下手に動くのは危険だよ!」


 と時凪と〝私〟が止めにかかるが、正直に言えば把握できていないことが多すぎる。だから危険を冒してでも行くしかない。


「貴女はできる限りの情報をイチルに伝えてくれる」

「え……?う、うんいいけど……」


 心配気な彼女に「大丈夫よ」と頷きイチルを見る。聡い彼女は私のやりたいことを理解しているに違いなかった。私の視線に彼女は頷く。


「いいわよ。ここまで来て何もしないわけにはいかないわよ」

「…………お願い」

「ええ、あんたも気を付けて」


 そして私は一人情報を集めに出た。



 それから一時間もせずに戻って来た私は掴んだ情報を伝えていく。


「軍用区内に入るには住民票の提示と指紋認証が必要。警備は検問が二人と城壁の各地に門兵が配置されているわ。城壁には監視カメラも見られたわ。街中にも複数あった。みんな軍服を着ているのと、非番の人もいたけれど腰には銃が見えたわ。……私たちに一番近い入口だけど、近くにあるのは居酒屋とオールドブランドの骨董屋、薬局が少し遠くにあってあとはパン屋くらい……他は民家ね。建物と壁の間は約二十メートルくらい。何に使うのかわからないけれど、伐採された木材が置かれていたわ。住民はほとんどいなかったから紛れてるのは無理そう。確認できたのはそれくらいよ」


 これが怪しまれずに入手できる情報の限界だった。


「ありがとう。シロノ《かのじょ》から訊いた情報に三つあったわ。十時には民間区は寝静まるそうよ。外出している者がいれば職質されるらしいわ」

「はい。この前酔っ払いの人が連行されたって、友達が言ってました」

「こんな世界でも世知辛い……なんて言えないくらいには戦争の時代なのね。……二つ目は九時以降にはほとんどの兵士が軍用区内に帰還するそうよ。最初の城門含めすべて閉鎖されるらしいわ」

「そうなれば出られなくなるわね。いえ、城壁を昇りさえすれば問題ない……」

「それは後でいいわ。それで最後だけれど……」


 そう言ってイチルの視線が〝私〟に向く。〝私〟は言いにくそうに。


「軍の人たちは各判断で武器の使用が認められているの。……だから、わたしも行きたいけど……たぶん見つかったら殺されちゃうと思う」

「…………軍事政権。独裁国家ね。これが戦争理念の有無というのなら、人はどこまでも闘争に愚かね……あたしたち違わず」


 イチルの唾棄に私たちは何も言えない。

 この都市では軍力こそが全てで、逆らったり気に喰わないことをすれば容赦なく殺される。厳密には規則があると思うけれど、花の女子高生の〝白乃〟がどんな末路を辿るのか……想像しなくてもわかった。

 私の見て来た街の裏、歓楽街ともいえるホテルなどの施設が軍用区内付近に密集していた。露出した服装で出かける女性を多く見かけ、半数近くがやつれた顔をしていた。働かざる者には喰うべからず。そしてきっとそれらの人は私と同じ世界の住人なのだろう。


「……それが、当たり前なの。だから……どうしようもない世界なの」とノルンが俯いた。


 私は一度この思考を放り捨てベッドに広がる物を見た。

 懐中電灯にボールペン、新品の酒瓶とガムテープに布団のシーツ。使えそうなものは酒瓶に懐中電灯くらいかな。そう思っているその時、囁き声くらいの声量が走った。顔をあげるとイチルが唇に人差し指の第二関節を当てて思考していた。


「指紋認証は誤魔化せないわね。ならやっぱり夕霧さんに脱出してもらう他ないわ。……方法は、木材を……骨董品には何があるのかしら。ガムテープ、シーツ。懐中電灯は目立つ……いえ街灯のお陰で問題ないわね。警備を薄くするか、それとも壁を破壊するか……いえ、意識を塗り替える。それがもっとも効率がいい…………―――――――――――」


 イチルの思考が加速していくのがわかった。彼女は自分が持つ能力を【情報思考】と言っていたけれど、あれがどういう能力なのか私は知らなかった。話しかけられる雰囲気でもなく、私ともども口を閉ざし静かに待っていると、イチルの口は言葉を吐くのを止め、ゆっくりと私、時凪、ノルンと見渡し「よし」と決意を表明した。

 そして言うのだ。腕を組み豊かなバストを持ち上げ脚を組んで勝気な笑みで毅然と。


「あたしの作戦に従いなさい。あたしが成功へ導くわ」


 十九時――作戦スタート。


ありがとうございました。

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