表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/29

第14話 作戦会議

青海夜海です。

夜霧の妹、夕霧を探すための作戦会議です。

「それじゃあ、夕霧ゆりさんは都市中心――ホープスにいるのね?」


 イチルに僕は「白乃しろのが探ってくれた情報によれば敵に追われているらしい」と首肯する。

 昨日の夜、白乃が集めた情報を空白の一時間で聴いた僕はそのままに伝える。


「都市は二重の城壁に円型になっているらしくて、一つ目と二つ目の間が民間人が住んでる住居区間で、その更に奥、二つ目の壁の向こうが軍用区間だそうだ。で、その軍用区間で目撃情報があるらしい。民間人の方にも指名手配書で、灰色の髪の女の子って上がってるとか」

「つまり、妹さんを助けるには二つの壁門を越えないといけないわけか……なかなかに難易度が高いな。でも、そんな情報を入手したくらいだから策はあるんだろ?」


 さすがは時凪ときなだ。イケメンハイスペックウルトラモテ男だ。男の僕もきゅんとなる理解力。そしてその通りだからすごいまである。順応力、まさしく『受け』の男だ。


「白乃が事前に門兵の戦力を間引いてくれたらしくて、西、えっと元墨田?あたりの警備は手薄らしい」

「なるほどな。さすがに東京湾に近接する五区を巻き込んだ大都市の全壁の警備は無理みたいだな。恐らく渋谷区面、今はないけど品川方面に軍勢は厚いんだろう」

「それに東京湾の港湾を塞ぐように土地ができたものね。あれにはさすがに驚いたわ。まさに海上都市、いえ海堡かいほうね。きっと異能を使ったのでしょうね」


 驚くことに港湾の海をまるまる大地に変えて、東京湾に密接する江戸川や品川なんかの特別区の一部と合わせて都市にしたらしい。そこにパラレルワールドの東京に攻めて来た人たちは住居してるとか。これにはさすがの僕もビックリ仰天。キャスター気分で取り上げたいトピックだ。キャスターは綺麗な美人アナウンサーがいいと言う声が聴こえてくるので、すいません調子に乗りましたやりませんごめんなさい。私は車輪です。魔術師です。


「なら、必然的に妹さんは警備の薄いほうにいるだろうな。中まではわからないのか?」

「確か、一般人は私服で軍人は軍服。軍用区内に一般市民は入れなくて、その軍用区内でも上層区と下層区って分かれてるらしい。軍人寮とか物資のある倉庫が北から西の地区にあって、反対側は大きな建物がある。で、そこが入れないところ」

「随分と詳しいのね?それ、あたしたちの情報も向こうに入ってないわよね?」

「白乃曰く、『痛めつけて情報を吐かせた後に拘束して閉じ込めておいたから大丈夫よ』らしい」

「……すごく気持ち悪いから声真似はやめなさい」


 僕の渾身の白乃の真似は不人気だった。しくしく悲しき事かな。

 そんな時でも時凪は「まあまあ、俺は良いと思うぜ」と励ましてくれる。優しい好き。まるでずっと傍にいて見守ってくれているお兄さん……お兄様みたいで惚れてしまいそうになる。僕の熱い眼差しに彼は「にこ☆」夜闇に星が流れた。

 嗚呼、時凪お兄様ぁ!……という冗談はさておき、僕は咳払いをしてから計画的な話し合いを進める。


「で、侵入時間だけど、外に偵察とか物資の回収で出てる人たちが帰還するのが十六時から十七時にラッシュらしい。で、そこに紛れて僕たちも中に入ろうかと思う」

「その際に身分の確認とかはないのか?相手もそれは警戒してるはずだろ?」

「それは大丈夫なの」


 と言ってとあるペンダントをノルンが人数分みんなの前に差し出す。


「これは、ペンダントね。ネームプレートのような金属判が付いているけれど……」


 イチルはそれを手にとって眺める。


「ICチップ?番号が中に細かく入っているわね」と眼を細める。


 時凪も倣い一通り眺めてから「これが身分証か?」と訊ねた。


「なんか、吐いた奴によればこのペンダントは僕たちの『異能』を封じる力があるらしい」


 そう言うと「きゃっ⁉」とイチルが放り投げる。案外に可愛らしい……お願い睨まないで。女の子らしくてとても良いと思います。……小学生の感想文か。


「げほんごほん。身につけたら作動するんだけど、事前にノルンが機能を壊してくれたみたいで、僕も試したけど問題なく死んで生き返ったよ」

「ん!私、やったの」


 と、自慢げに胸を張るノルン。イチルが微笑の後ため息を吐く。


「ノルン、ありがとう。ま、あんたの能力事態に間違いがあるのだけれど……はぁーつまり、捕虜されたあたしたちのような人間はみんなこれを付けているわけね」

「なら俺たちはこれをつけて捕虜に扮すれば入国できるわけだ」

「そういうこと。その後は捕虜が住んでる北の方に行って適当に寝床を見つけ一日待機するか中まで行くかは白乃に任せる。時間的に僕は眠って白乃が現れるからな。彼女がなんとかしてくれると、僕は信じている!」

「他人事なの。よくないと思うの」

「ぐぅっ」


 最年少のノルンに言われてすごく胸が痛む。そんな、冷めた目で見ないでっ⁉


 とは言われても実際僕にできることはない。今回に限り決行は遅い時間、つまり白乃の時間帯だ。僕は彼女が眼を覚ますまで生き残って置くことしかできないわけで、そもそも都市内で死んで生き返ったと、能力を知られたら即刻捕まえられる。僕が捕まれば白乃も捕まっている状態で現れてしまうわけで、それこそ作戦に支障がでる。

 今回の夕霧奪還は偵察して内部の情報、周辺の立地などを目にしている白乃がいないと成り立たない。何より、彼女の方が強い。僕の中途半端な災害より的確な彼女の殺しの方が強いのだ。


 時凪、イチルともに〝異能〟の特訓に励む日々。

 時凪のレベルが7に上がった次の日、決行日がやって来た。


 作戦会議にてやはりいつもよりは話題が閑散となる。

 時凪もイチルも普段よりも固く作戦ばかりに注視していて眉間が寄っている。という僕も馬鹿みたいな思考が今日に限って口は滑らないみたいで、ヘタレ弱虫、ペダルを漕げと叱咤する羽目だ。随分に情けない有様だと思う。

 ノルンに限ってはいつものように僕らを見守っているだけだ。彼女は僕たちじゃなくて白乃に懐いている節があるから別にいいんだけど、本当に力を貸してくれるのだろうかと、今更ながらに不安になった。


 僕たちの関係は『彼女』の死の上で築かれた。

 パラレルワールドの〝一縷〟。向こう側に見放されて殺された優しい生徒会長。僕は無意識に左耳にピアスを触る。赤いひし形の装飾品をあしらったピアス。触れる度に揺れる。

 時凪は僕に助けられたから、その恩を返すと言った。

 イチルは死んだ〝一縷〟のために共に歩くと告げた。

 ノルンは僕じゃない白乃が助けてくれたから、僕たちを助けると胸を張った。

 僕は〝一縷〟の祈りに誓い、抗って生き抜くためにみんなを信じた。

 僕たちは彼女の死の上に出来上がった歪な戦友だ。


 互いに何も知らない、何も詳しくは訊かない、そんな踏み込めない関係性だ。

 だとしてももう後には引き返せない。僕の妹がいるなら、僕は夕霧を助けないといけないし、白乃も開放しないとダメだ。そう、彼女と付き合うことはできないわけだ。そんな下心で弱い気持ちは押し潰す。僕は立ち上がって言う。


「よし!この世界に僕たちの勇士を証明しよう!そうしたら僕はモテモテの人生を歩めるわけだから、全部うまくやって美味しいごはんでも食べて王様ゲームするぞ‼」


「おーーーー‼」と片腕を上げて声を出す僕に、三人はぽかーんと見てたが。

「馬鹿じゃないの」

「おまえはいつ見ても飽きないな」

「ん。王様ゲーム、よくわからないけど楽しそうなの」


 とみんなも立ち上がる。

 僕は見渡して再度。


「よし!やり遂げよう‼えいえい――」

「「「「おーーーーっ‼」」」」


 拳と声が重なった。


「それで、どうして王様ゲームなのかしら?」

「そりゃ、合理的に君の胸を揉めるからさ!」

「そう、やっぱりあんた殺すわ。きっとあの子も殺したほうがいいと思っているわ」

「あへ?」

「死になさい!この変態っ!」

「ちょっ⁉冗談だぁ……ぁぁあああああああああああああああああ‼」


 一縷イチルの胸に一目惚れした僕は、また彼女に殺された。

 腹に一発。無念。





 はぁはぁー、息を荒しながら路地に入り込み壁に身を当てて息を潜める少女がいた。


「どこだァ!どこにいきやがったァ!」

「こっちにはいません!」

「くそォ⁉俺はこっちを探す!おまえはもう一度来た道を引き返せェ!」

「わかりました!」


 バタバタと走り去っていく足音。少女は充分に離れた彼らを確認してから「はあー」と大きく息を吐き切り、壁に凭れこんで頭上を仰ぐ。膝を折り、座り込めば走れなくなると理解している少女は座り込みたい衝動を抑え込み息を整える。

 哨戒班の追ってから逃げるのは今日で一週間。少女の身は疲労困憊だった。


 少女は人目を惹く魅力を宿していた。艶やかな灰色の髪は肩にかかるあたり、藍色の眼は愛嬌のある相貌と相まって神秘性の一端を宿し、齢十五にしては大人びた雰囲気を持っていた。扮装したパラレルワールド人の制服姿。白シャツに紺色のスカート。シャツの裾はフリルがあしらわれ、スカートは光沢的ではなく絹のような布の質感が貞潔さを魅せていた。襟元には青色のリボンがあしらわれ、スカートに織り込まれたシャツ姿から見て華奢な少女だとわかる。ガラス細工のような繊細な美しさは、触れれば折れてしまいそうだ。

 そんな少女の白頬には汗の珠が浮かび流れていく。顔色も悪く繊細さは今では病的に見えてしまうだろう。スカートから覗く細い脚には黒のタイツ。しかし、タイツも所々破けては血の痕が見て取れた。汗で張り付く前髪を鬱陶しそうに払い、ふぅーと平静に。


「これからどうしよ……」


 少女がいたのは軍用区内の南西区あたり。哨戒する灯台の明かりが少女を探すように基地内を照らす。少女は今の現状を思い返す。


「食べ物も水も尽きた。きっと向こうはわたしを捉えようと躍起になるはず。でも、まだ数は少ないから、わたしじゃない方に注意してるのかな?まさか――兄さんだったり」


 少女は焦りを抱くがむやみに動けない現状、これも餌かもしれないと頭に過る。あの人の妹の少女を釣る餌。そして少女自身があの人の餌だ。少女はその事実を理解していた。


「わたしはあの人の重りには、なりたくない。あの人は、頑張ってる。きっと、記憶がなくても、それでも……この決断が正しくないわけがないもん。だから今は耐えないとダメ!そうじゃないと、あのひとの涙を拭えない!誰も、報われないっ」


「よし!」と気合を入れ直す少女は確かにとある少年の妹だった。

 純潔に誰かのために生きることができる貞潔な少女だった。

 少女は「行こう!」と壁から身体を離し移動を再開する。慎重に敵の位置を把握し、臆病なほどゆっくりと移動した。


 曲がり角から顔を覗かせ、背後にも気を配りながら姿勢を常に低く保ちながら駆け足。足音をなるべく鳴らさないように。息を潜めながら汗が落ちていく。


 ここ軍用区内より民間区へ出ることは困難だ。出入口は第一門と同じで四方に一つずつある。けれど、第一門とは違い警備の厳重度が高い。

 まず身分証の確認と指紋認証による住民権の確認。システム上に軍用区内に住まう軍兵はすべて登録されており、指紋登録の完璧防壁だ。それは入退どちらでも行われる。それに加えてここではほとんどの軍兵がパラレルワールドの軍服を着用している。もちろん私服の人間もいるにはいるが、彼らは非番が故に過ぎない。腰には常に拳銃が携帯されているので、拳銃の持たない少女は私服たちに紛れることも苦しい。

 そして極めつけは能力者の支配権だ。能力者は誰彼構わず首から金属プレートの付いたペンダントを下げている。プレートに仕込まれたデバイスが異能を強制的に発動できない電磁波を放出しており、軍兵に駆り出された能力者も例外はなく能力を使用できない。故に少女が誰かに助けを請うこともできない。特別許可が下りた場合のみ、指揮官など各部隊の上官のみが持つ解除器でデバイスの機能を停止するしかない。

 けれど、正直に言えば少女は弱い。少女も一応能力者だが、少女の能力はとある条件にしか使用できない固有のもので、炎を出すや剣を製造するみたいな異能特融の力ではなかった。だから解除器を奪うこと、強行突破は不可能だ。

 この一週間、町のように広い軍基地内で少女が得た情報だ。それはまさに絶望的なほどに逃げ道を塞ぐ相手の手腕だった。


「どうすれば……?あの人の重荷になるわけにはいかない。でも、どうやって逃げ出せば……」


 誰かを人質に執る。ダメだ、少女の非力じゃ鍛え上げられてる彼らに勝てない。もしうまくいっても人質を見放されたら終わりだ。

 武器庫から爆弾や銃を盗む。倉庫にも警備員はいる。それに少女は銃の扱い方も爆弾の起爆方法も知らない。


「お手上げなんだけど……どうしよ……?このままじゃ――」


 悲観的に諦観が焦燥を駆らせてきたその時、角脇から話し声が聞こえて咄嗟に立ち止まる。


「マジかよ⁉単に馬鹿やっただけじゃねーのか?」

「そうかもしんないけど、数が異常だって!それに僕らってほら、あんまり単独行動は許されてないじゃん」

「かもだけどよぉ。信じられねーぜ。だってただの門兵如きが異能者と相打ちなんざぁ」

「――――っ⁉」


 思わず声を上げそうになった少女は口を塞いで覗いていた顔を引っ込めた。信じられない言葉は続く。男たちは噂話を楽しむ、あるいは訝しむように。


「だってあいつらが死んでたところって、光の塊りがあるんだよ!光の塊りって異能者が死んだらなるんだろ?噂によればもう二十人、連絡取れてない奴は三百以上って話しだし」

「三百はあれだろ?各地を徘徊してる奴等だろ?」

「それでも異常だ!死体すら残ってない行方不明だよ?ここ最近は連絡つかない部隊が加速的に増えてるって上官たちは騒いでるし、東の門兵ばかり異能者と相打ちになって死んでる。絶対、何かあるはずだ!」


 眼鏡をかけた男が興奮気味に体躯の良い男に詰め寄る。体躯男は「あ、ああそうだなぁ」と引き気味で、眼鏡の身体を押し戻す。


「まー俺らには関係ねーよぉ。東の城門は固すぎんだろ。ぜってぃーに破られねーってよぉ。それに今更誰が攻めてくんだってんだァ!俺等の圧勝は変わんねーだろぉ」

「まーそれもそっか。上が何考えてるか、僕らには関係ないもんね」

「ああ。余所もんの死なんざどうでもいいんだよぉ。今までを見ればイカれてるだけだ」


 そこからは女の話しに変わり離れて行く。耐え忍んで聞いていた少女は西の城門の方角を見つめた。

 門兵の不自然な死、連続の行方不明の続出。これらは偶然?まさか……だったら……。その思考はただ一つの真実とただ一人の少年を思い浮かべた。


「兄さん?」


 なんとなくだった。少女には兄が関わっている気がした。そして、何をやりたいのか、なんとなくわかる気がした。


「もしもそうなら……わたしがやるべきこと――」


 よし、と決意を固くやるべきことを決めた少女の背後、「見つけたぜぉおお」と兵士が少女を指差して吠えた。

 少女は「見つかった⁉」と急いで走りだす。

「待てぇぇぇぇやららら!俺と付き合ってくださいィィィ!」と追って来る兵士。少女は逃げまとう。


「もう少し、もう少し頑張れわたし!兄さん!待ってて!」


 少女は自分を奮い立たせ、再び逃走劇を始めた。

ありがとうございました。

感想、いいね、レビュー等などよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ