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第12話 白い海。闇の風。夕焼けの声

青海夜海です。

三部です。よろしくです。


 兆しがあった。眠っている感覚とは違い、意識がない感覚とも違う。

まるで今、『私』が誕生したような感覚だった。そんな感覚の中、静かに『私』が目覚めていくここ最近の覚醒中、兆しがあった。始めは声だった。


 ――久しぶり、かな。


 目を開ければ白い光の海の中、彼は私に手を振っていた。どこか気まずそうに。灰色の髪に藍色の瞳。それなりに整った顔立ちは、けれど憂いによって弱弱しく映る。十代後半の少年にしては少し細い。そして瞳に触れる前髪と相まって怜悧に見えるその瞳。苦笑する彼の姿を私は初めて見た気がした。


 ――君には伝えないといけないことがある。聴いてくれるか?


 私は「ええ」と頷く。彼は「ありがとう」と言ってすぐに「ごめん」と俯いた。


 ――〝一縷〟を、守れなかった。……彼女は、死んだ。


「――――」


 何を言えばよかったのだろうか。私にとって彼女は捕虜に過ぎなかった。それに、人を殺す私にとって彼女の死に彼がどうしてそんな顔をするのか、よくわからなかった。


 ――そして、もう一つごめん。やっと思い出したよ。


「なにを?」と、冷静な私に彼はどんな感情を抱いているのだろうか。顔色一つ変わらない無情な私を。彼から見ればやっぱり私は人としておかしいのだろうか。別に今更かと改めて少し悲しくなる。


 ――僕の異能……これは〝死の力を願いに変換して帳消しにする力〟だ。銃を撃たれて死ぬ。けれど、その死ぬ事実を一つの願いに変換する。その瞬間、僕は死んだ事実が消える。たぶん、こんな感じ。


「つまり、死という現象をそれ相応の現象に移し変えているわけね」


 それなら説明はつく。彼の死なない理由と起こる不思議な現象が。


 ――僕は、君と出逢った日、君に一目惚れした。


「…………」


 ――そして、僕は君に殺された。理由はわからないけど、僕は確実に死んだ。


 その際はごめんなさい……とは言わない。

あの時、私はパラレルワールドの人間と交戦していた。彼もその一人だと思った。だから殺した。けれど、こんなのは言い訳でちゃんと確認しなかった私はきっと悪い。けれど、悪いなんて思わない。……嘘だ。私はこんな私が醜くて嫌いだ。


彼は「その時に……」と少し言い淀みながら、言う。


 ――僕は〝君と一緒に生きたい〟――そう願った。そう考えた。僕の力は不完全で歪なんだ。だから、こんな歪な形で僕と君は一緒になった。


「朝は貴方で夜は私……存在事象だけは同じ人間というわけね」


 ――僕は僕で君は君。身体も一緒じゃないし、精神だけが転移したわけでもないから、理屈とかはよくわからないけど、僕のせいだ。……ごめん


 怒ればいい。だけど私は怒らなかった。

もともとを辿れば私の不祥事だから。私の失態を彼だけに押し付けるのは違う気がした。


「私の方こそ、殺してごめんなさい」


結局あやまる私はおざなりだ。


 ――別にいい。少し困るけど、別に死ななかったからいい。それに、君のことが好きなのは変わらない。君を怒る理由は、今の僕にはない。


「――――」


 何を言えばいいのかわからなくて黙ってしまった。

私は臆病、コミュニケーションが下手くそだ。ずっと閉鎖的な環境で生きて来たから仕方ないかもしれないけど、きっと私と同じ環境でも学校の人気者はいる。私は弱い。私は間違っている。


 ――返事はいらない。それは君ともう一度対面した時でいい。どんな答えでも君は気を病まなくていい。これは僕のエゴだから。


「…………貴方は、変わっている」


 ――僕はそういう人間らしい。きっと独りが似合う人なんだと思う。


 それを言うなら私もだ……なんて自虐は言わない。弱い私はすぐに同情を引きたくなる。


「ああそうだ」と、彼は本題を語り始めた。


 ――能力を沢山使って、それで思い出したことがある。


「思い出したこと?」


 ――ああ、僕には妹がいる。僕の対となる能力を持つ妹だ。


「対?つまり、死ぬ子?」


 ――詳しくはまだ思い出せない。だけど、僕の妹は()()()()()()()()()()()を持ってる。


「――っ!」


 それはつまり、私は似合わずに期待を抱いた。彼はああと頷く。


 ――妹なら僕がかけた君への願いを消せるはずだ。


「その、妹さんはどこに?」


 ――それがわからない。この世界にいるのはなんとなくだけどわかる。だから、君に託す。


「私に……?私じゃ顔もわからなわよ?」


 ――これから君の時間だ。僕は眠りについてしまう。だからお願いだ。妹を見つけ出してくれ。


 私は少し考えた。いや、考える理由はないけど、少しだけ考えて、でも思い浮かぶのは彼が少し焦っていることだけ。確かにこのままだと互いに現実では会うことはできない事実に、そんなに私が好きなの?と、柄にもなく恥ずかしくなる。私は二つ返事で承諾した。


「任させて。貴方の妹を見つければいいのね?」


 ――ああ、ありがとう。妹は僕と同じ髪色で眼の色も一緒。年はノルンくらいだと思うけど、年の割には大人びている。


「自慢なのね」


 ――そうかもな……まだ、ちゃんとは思い出せないけど。


 そう下手くそに笑う彼。彼の心は優しい。そして強くてどこか脆い。

 やがて、時間が訪れる。夜の時間だ。私が眼を覚まし暗躍する闇の時。


 ――時間みたいだ。後は頼む。あ、そうだ。妹の名前は夕霧ゆり。夕霧を頼む


 白い海は私をたちを隔て、私は光り覚ます地上へと浮上していく。

 私はゆっくりと目を開いた。




 民家、というには少し小狭間なワンルームマンションのような沛然に攫われた家の一室。部屋のあちこちは老朽化と攻撃の被害で見るも無残だが、運よく寝室のスペースだけは今だ使える状態が保たれていた。

散策の最中に、この家の人と思われる老夫婦の愛しく幸せそうな写真が転がっていた。ビンテージものの古時計。木こりで作られたロッキングチェア。枕元には読書灯と小さな机。娘のものなのか、タンスの奥から人形セットやカチューシャ、ぬいぐるみがあった。ここには彼女たちの幸せがあり、生きた証が残っていた。


 私は一時間ほどで彼から白乃(わたし)となって目を覚ましたらしい。

視界には死んだと彼に教えてもらったイチルがいて、知らない金髪の少年もいて私は驚いた。もちろん、向こう二人も私に驚いていた。私たち互いに何があったのか説明をしながらこの民家へと移動してきた。


 夜も深くなる黄昏時。いや、今日日(きょうび)なら逢魔(おうま)が時と言った方がしっくりくる。そんな時間帯にむやみに動くのは危険だ。

イチルの案内でついた民家の一室、休まることのできる寝室にて、亡くなった一縷(いちる)の軍基地より拝借してきたカロリーが仲良しこよしメイトする固形物やゼリー類など簡易な食事をしながら私は彼の力を語った。

その力の強大さに最初は驚きにカロリーがメイトされるものを落していたイチルと金髪イケメン――時凪(ときな)だが、理解あるのか次第に落ちつきを取り戻し最期まで私の話しを訊いてくれていた。ノルンはずっとゼリー飲料をちゅうちゅうと小さく吸っていた。可愛い。


「というわけで、私は彼の妹の夕霧(ゆり)を見つけないといけないの」

「その妹さんの〝願いを打ち消す〟能力でお前とあいつ――夜霧(よぎり)って言ったよな。そいつの不自然な状態を元に戻すということだな?」


時凪の理解は速く「ええ」と頷く私に「それなら」と言った。


「俺も手伝う。夜霧には俺の命を救われたようなもんだ。あいつの為なら俺もまた命を賭ける。それに俺はこれでも〝異能者〟だ。今は弱いけど、条件さえ揃えば戦える」


 胸を張る彼を頼っていいのか眉を潜めてしまう。私はいつだって人を疑う。さらさらの金髪に毅然とした少し釣り目の碧眼。黄金比に整った精鍛な顔付きに細くても鍛えられているのがわかる体つき。まさに王子様か勇者様のような人だ。更には命を助けてもらったから今度はこっちが命を賭けるだなんて、そんな良い人は本当にいるのだろうか。前世は勇者だったのかな?それとも、王子様?なら、夜霧は王女様?少し笑った。


「俺の異能は……少し言うのは恥ずかしんだけど、その【勇者】なんだ」

「「勇者?」」「ん?」


 私とイチルの声が揃った。予想敵中。なんだか声が揃うのって女子高生っぽい。

髪を弄りほんのり恥ずかしそうにする時凪は説明する。


「俺の異能の【勇者】っていうのは、多分お前たちが想像している完全無敵で魔王と戦うとかの勇者だろ?」

「ええ」「そうね」と頷く私とイチル。女子高生っぽい。


「あながち間違いじゃないんだけど、なんと言うか……その、ゲーム仕様なんだ」

「「ゲーム仕様?」」


また、ハモった。嬉しい。これで私も女子高校生ね。私とイチルは顔を合わせて互いに首を傾げた。

彼はえっと、と考えながら説明する。


「ゲームって敵と戦ったりして経験値を溜めてレベルが上がっていくだろ。それで強くなる。魔法とか覚えたりスキルとかもある。で、俺の異能はまさにそのまんまなんだ。戦ったり色んな経験をしたりしてレベルを上げて強くなる。その果てに勇者になれる……そういう能力らしくて、やっぱ笑えんな。誰だよこんなバカな能力作ったのっ」

「……夜霧くんの能力も大概だと思ったけれど、あなたも立派に彼の仲間入りね」

「そこまで変人じゃないだろ……」

「夜霧くんは変人なんだ……」


私はそうかもと納得する。あの人は変人だ。出逢った直ぐに告白した挙句に殺してきた相手を今だに好きというのだから、変人変態馬鹿に違いはない。


「時凪お兄さんは今のレベルは何なの?」


ノルンの質問に彼は言いずらそうに。


「……レベル5」と呟き、イチルが「……弱いわね」と蔑んだ。

言い返す言葉もないようで「うるせー……」とやさぐれ時凪。イケメンならそれでも味があった。それも時凪の人となりなのかな。


「まだ自分の身体を強化するくらいしかできないけど」


卑下することはなくありのままの事実を告げた。私は少し驚く。そんな私に彼は笑みを浮かべた。


「俺が共に行動したいと言ったんだ。隠すなんてせこいことはしねーよ。もう命の危機を知ったし、誰かが死ぬ現実も……たくさん見て来た。理想、綺麗ごとかもしんないけど、誰にも死んでほしくない。そのためなら他所のリスクは取るし命だって覚悟して賭ける。ま、それだけだ」

「…………その果てに、貴方が命を落すことになっても……?」


 彼は間髪入れずに毅然と言った。


「ああそれでもだ。そのための力で、助けられた命だ。大切にするさ。けど、誰かのためなら俺はこの小さな命で救いたいと思う。ま、悲観的な考えは俺好みじゃないからみんな生き残る……誰も欠けない、そんなんが理想で、そう俺は言い続ける」


 彼の真髄とも呼ぶべき理想論、英雄願望はベクトルの違う生存本能のようだ。そうして生きることが『生きること』そのもののようだと。私には理解できない。人を殺し過ぎた私には、【暗殺者】として生きて来た私には理解できない、けれど、眩しくて素敵だった。


「貴方は強いのね」

「そんなことない。俺はもう失敗してるんだ。友達が死んだ……俺のせいで、お前たちにも、その……結局は口だけで何もできてねーよ。だから弱いし、そんな俺が嫌いだ」

「…………」

「だからこそ、あいつの一途な姿を見て俺もああなりたいって思ったんだ。あ、別に殺人鬼になりたいわけじゃない。あいつは一縷のために何度死んでも戦っていた。俺には眩しくて、憧れた。誰かのために純然に走りだせるのは、すごいと思うぜ。だからってわけじゃないけど、俺もそう為りたいから理想を語るんだよ。あいつの味方になりたいのはそれが理由だ……ああ、それが俺の在りたい俺自身なんだ」


 なんというか、私は意外に思った。イケメンが真面目なこと言ってる⁉イケメンって性格までイケメンなの⁉……とかいうわけじゃない。ただ、意外に思ったのは夜霧への情だ。


「あんた……そんなキャラだったかしら?」


イチルのちゃちゃに時凪は鼻で笑い吹き飛ばす。


「酷いな。俺は徹底してこれが俺だ。学校の時と変わんねーだろ」

「そうね、全身がイケメンで女子生徒は毎日うるさかったわ。お陰であたしへのやっかみが多かったけれど……ね」

「それは……なんというか悪い。俺は否定続けたんだけどな」

「女の嫉妬は怖いものよ。あたしが優等生じゃなかったどうなっていたことかしら?」

 過去を慈しむように楽しそうに話す二人に私は付いて行けずオロオロしてしまう。ノルンは眠っていた。おやすみなさい。

 はっと私の視線に気づいたイチルがごほんと咳払いして話しを区切る。


「時凪とは遺憾ながら幼馴染なのよ。高校まで一緒で、少し前まで一緒に行動していたわ」

「遺憾って……俺は違うんだけど……。えっと、白乃(しろの)、さん、気とか遣わなくていいから」

「白乃でいい。……お言葉に甘えて、少し前ってどうやって生きていたの?」

「こっちの軍が守護する小さな基地があったのだけれど、そこが襲撃されたの。あたしと時凪はなんとか逃げたのだけれど、途中で攻撃されて離れ離れになったわ」

「それで、俺は捕まって、イチルが助けに来てくれたんだけど……」

「ええ、しくじって見つかったわ。それで逃げている時にあんたたちに出逢ったというわけよ。あたしたちが敵対していたのはここから三十分くらい走ったところの基地ね」


 そんな経緯で同一人物と出逢う確率ってどれくらいなんだろう。たぶん天文学的だと思う。私もたくさんの虚界人と相手したけど、まだ自分とは出逢っていない。ふと、話しが反れたと思い戻す。


「時凪……本当に協力してくれるの?」

「ああ。男に二言はないな」


 次にイチルがはぁーと息を吐いて。


「彼には借りがあるわ。だからあたしも手伝うわ。それに、彼女の願いでもあるし」

「イチル……そう、ありがとう。今日は休んで明日から動きましょう。私は目覚めたばかりだから見張りは任せて」

「ええ、お願いするわ」

「悪いな、頼む」


 そう残して二人は限界が来たのか直ぐに眠りに入った。食事の途中だったけど、仕方ない。話しを訊く限りきっと想像の何倍も過酷だったに違いない。彼女たちは私とは違い普通の高校生。異能は持っていても、人を殺す経験なんてないはず。戦ったこともない。

そんな彼女たちが殺し合いに巻き込まれて、一縷が亡くなって……強がっていたと思う。


「……っ、だぁ、め……ぇ」


 イチルの声が静寂の部屋で灯っている蝋燭すら消すように水を落した。

 私は立ち上がって民家を出る。


「行くの?」


 そんな子供の問いに振り返る。そこにはノルンがいた。前髪で眼は少ししか見えない。だけど、どこか憂いを込めている。私は大丈夫よ、と頭を撫でる。


「ここをお願いね。私は夕霧さんの情報を探してくるわ」

「ん。私、誰かが死ぬは、少し嫌なの。私に優しくしてくれた人が死ぬのは、ここら辺が痛いの」と胸に触れる。心が痛いと幼い少女は沈黙する。

「…………大丈夫よ。私が元に戻れたらみんなを守ることができるわ」

「ん」

「だから、貴女も守って」

「ん!わかったの。私、二人を守るの!」


 ここはノルンに任せて私は夜の世界へ旅立つ。これが私にできる彼が託した仕事だ。


 ――夕霧を探す。


 フードで顔を隠し、賑わう都市の中心へと駆けだした。



ありがとうございました。

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