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第10話 生き残る術

青海夜海です。

本日もよろしくお願いします。


 血しぶきが現実に引き戻す。撃ち抜かれた右肩が絶叫する。

 崩れそうな脚を堪えながら右肩を左手で抑え痛みを噛み砕くように目に力を入れる。そして、僕らはそいつらを眼にする。硝煙を滓かににおわせる怪異的な眼差しで殺しに来る、その男たちの群れを。


「やあやあ少年少女ハローワールド。エブリワンナイスデイ。さてはて僕の部下をよくも殺してくれたねクレージーボーイ・アンド・ビューティフルガールズ」


 そう、軽薄な笑みを携え煽るような声音で迎えてくれたのは英語が全部カタカナに変換させてしまう男だった。

 見た目通りいやったらしい性格をそのまま体現させたような下卑た眼差しに蛇のような口、中肉中背の毛量が少なく未来には禿げるだろうと思われる濁った金髪。一流を三流といって馬鹿にする三流以下の貴族みたいな奴だ。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……いや、腕痛いんですけどぉ?

 僕は痛みと合わさって変顔になるレベルで、一縷いちるたちも同様に眉を顰め怪訝と怒りに睨みつける。ノルンが今にも飛び出しそうだ。

 通称、禿頭男とくとうおとこは大仰に身振り手振り声を張る。


「もうキミたちのクレイジーのせいで僕たちには被害、ダメージがでたわけだ。それもこれもそこのナイスバストガールのせいなんだけど、僕としては落とし前をつけてもらいたいわけ。オウケイ?」

「「どうして誰も彼もがあたし(私)の胸しか見ないのかしら?死にたいわけ」」


 一縷たちは怒っておられる。僕はノルンに視線を送り、脱出の経路をお願いしようとして、銃弾が頬を掠った。


「「――っ⁉」」

「――夜霧よぎりくんっ⁉」


 禿頭男のボディーをガードする屈強なそれこそ軍人さながらな男の持つ拳銃から火薬の煙が上がっている。気温が氷点下まで一気に墜落したような、もしくは冷や水を浴びたような心地に陥る。

 その男の眼差しに容赦はなかった。恐らく僕の肩を撃ち抜いたのも彼だ。ノルンと同じで人を殺すことに躊躇のない眼だ。息を思い出したかのように唾を呑み込む。


「ふふふ……わかっただろう。僕は寛容だ。トレランスな僕だ。だから本当は嫌だけど、条件次第じゃ僕はキミたちの蛮行を許そう。ノープロブレムさ」

「……その条件な何かしら?」


 そう、僕に振り返る一縷の代わりにイチルが聞き返す。


「なに僕もデーモンじゃない。ましてやサタンでもないさ。簡単なことさ。キミたちが僕の捕虜、スレーヴになればいい。僕は見ての通りジェントルマン!イケメンマンさ!ついでに言えば第三官僚から第二官僚へグレードアップさ!そうなればキミたちはずっと幸福だけをゲット。こんな苦しい殺し合い、クレイジーな逃走劇に身を置かなくていい。キミたちにばかりメリットのあるトークだと思うんだけど」


 その眼差しの奥に下卑たものがあるのは見え見えだ。さしずめ、一縷たちに不埒なことするのだろう。どれだけの人がいるのかは知らないけど、ノルン一人で突破するなんてできないことはわかる。この変人でさえ第三官僚らしい。つまり、禿頭男よりも禿頭な奴等がいるってことだ。育毛剤をあげたら無条件で逃がしてくれないかな。くれないね。


「……そんなのお断りよ。あんたたちに食い物にされるくらいなら死んだ方がマシよ。あと鏡はちゃんと見た方がいいわよ。あんたの鏡は喋るみたいね」


 イチルは毅然と突っ撥ね。そんなのは御免だと、腕を組んで高飛車に唾棄しては嘲笑も加える。禿頭男の額に青筋が浮き立つ。

「このメスがぁ」と「余所者の分際でェ‼」と「おっぱい大きいからって調子の乗りやがってッ」と、周囲も同様に憤るがイチルは恐れた様子はない。

 もっとも、禿頭男と同じ出身の一縷は僕に駆け寄ろうとしたが、それをイチルが阻み自分の一背中に隠す。……団子三姉妹かな。ノルンも抱きつけ。僕は頷いて一縷に大丈夫と伝え前方を見つめる。

 僕の痛みを紛らわすための諧謔かいぎゃくはどうでもいい。今は打開策を考える。


「ねぇ、キミはさぁ。なんの権限、パワーがあってそんなこと言うの?ねぇ、キミが一方的に悪いのわからないの?イディアトゥ?キミたちがすべての元凶、リングリーダー」

「元凶?……生憎、英語をカタカナで習ったことはないわ。わかるようにnativeに言ってくれないかしら。それ以前に女の子の戯言すら聞き流せないあなたのどこにtoleranceがあるというのかしら。申し訳ないわ。あたしidiotsなの」

「~~~~っっっ女ァァァ!僕を愚弄するかァ!女の、男に媚びることしかできない、矮小な分際でェ!僕に逆らうのかァ!僕にっ、僕に歯向かうのかぁああ‼」

「黙りなさい。あたしがあんたのような知性に劣る淫獣に膝をつくことも肌を寄せることも憂いを持つこともないわ。基地で待ってなさい。直ぐに倒しに行ってあげるわ」


 強きに出るイチルにぐぅぅぅと唸っていた禿頭男だが、次第にはにやけ面を晒してはクククと笑いだした。そして小さく舌打ちをした。


「なにが笑えるのかしら?」

「なに。キミは本当に歪に美しい少女さ。ああ、僕のプリンセスにさぞ似合うだろう」

「それこそ死んだほうがマシよ」

「そうだね。ああ、だからさ。僕はとっておきのプレゼントを用意してきたんだ。キミをハッピーガールにするためにね」


 そう言って、手で合図をする禿頭男の指示に従い、野球部員補欠が束縛している一人の少年を連れて来て。それを見てイチルが声を上げる。


時凪ときな⁉」


 時凪と呼ばれた少年――金髪碧眼のイケメンは苦笑した。


「やぁ、イチル。最後に逢えるとはな」

「なっ――っっ禿頭男っ!」

「誰が禿頭男だァ!」


 禿頭男が叫んだがどうでもいいので無視し、イチルは刃物のような眼光で射抜く。

 僕は少しずつ場所を移動していく。ノルンもイチルを守るように距離を詰めていく。軍人男の銃口が咎めてくるが、構ってはいられない。

 僕の前方にノルンがいて、少し斜め前にイチルと一縷。イチルと軍人男との距離は約十五メートル……もないかもしれない。目測だから実際の距離感はわかり知れない。禿頭男は女のように細い指でイケメン時凪の顎を持ち上げ、反対の拳で殴りつけた。


「時凪っ⁉あんたぁぁぁぁあ‼」

「おっと、フリーズ・イットォ!動くな。キミの言動一つでこのクソいけ好かない小僧はどうなるか、シンク・アバウト・イットゥ!僕はキミがフールとは思っていないさ」

「何言っているのかよくわからないけれど、わかってしまうわ。小物は皆同じなようねッ」


 つまり、下手な動きをすればイケメンを殺すと言っているのだ。それは虚言や法螺ではないことは軍人男を見ればわかる。つまり、相手は人質を盾にしたわけだ。

 これ以上状況が悪化すれば成す術なく男の僕は殺される。殺されれば恐らく無意識に力が作動する。そうなれば一縷から聞いた話し、軍事利用に僕は使われる可能性はある。それは奇しくも脳裏に過る刹那な残酷を酷似した。だから、僕たちが生き残るには今しかない。

 僕は動いた。軍人男から見えない位置――前方のノルンを壁にわからないように左手が持つそれを放つ。


 バァァ――ッン!


 発砲音はやけに大きく響き、工場内は静寂を落す。そして僕はクズな行動を取る。


「――この女がどうなってもいいか?」

「――――――……」


 軍人男は咄嗟に禿頭男の護衛に周り、銃を構え照準を合わせるのが遅れた。他の野球部員補欠はただただ唖然としている。僕の放った弾丸は明後日の方向に被弾した。瞠目する禿頭男に見せつける。


「この女はお前たちの仲間だよな?」


 僕は下衆に、畜生に一縷の腕を後ろで押さえつけ、彼女を盾に彼女の頭に銃口を押し付ける。一番初めのおじさんから奪ったパラレルワールドの変芸する武器。短足の白い銃が一縷の命を脅かすのだ。息を呑む音は緊張か嘆息か。それとも――


「…………なるほど、その子は僕らの世界のその子か。ザ・セーム・キャラクター」

「ああそうさ。彼女はお前の世界の人間だ。僕たちが捕まえた、な」


 こうなった時、僕は決めていた。――虚界人の一縷を人質にすると。


 銃を構えてくるが、自分の身体がなるべく出ないように一縷の身体で隠す。軍人男の放った弾丸はノルンの鎌が捌いた。


「ちっ」

「悪いな。僕たちもやられっぱなしは嫌いなんでね」

「……そう、よね。そうだったわね。ええ、それでいいわよ」


 そう小さく呟く彼女の声に胸が痛むがこうでもしないとイチルまで殺されかねない。けれど、僕はみんなで生き残ることを諦めたわけじゃない。この手段はあくまで簡易的なストッパーでしかない。

 身体が焼け尽くしそうだ。腕も血が止まらない。少し笑える。


「仲間が殺されて乗り込んできたくらいだ。見捨てるなんて男の風上にも置けない愚図な真似はしないよな?それこそidiotsだ」


 冷めた眼で見る禿頭男はイケメンを離す。イケメンはゲオゲホと咳き込む。まずは成功と見る。


「クズね、あなた」


 隣の一縷からの微笑みが痛いが我慢する。やっぱり愛情が欲しいね。

 僕は息を吸い込み、いざ尋常に――


「取引だ」

「クォート?」

「クォー……?あ、ああそうだ。僕の仲間も君たちに殺された。異論はあるか?」

「つまり同士討ち、ファイト・イーチ・アザー。クレイジーボーイ、それで僕たちが引き下がると思っているのかい?そもそも僕は殺されたから怒っただけ。それも僕の手下だからなおさらだったのさ。でも、その子は僕のチームじゃない。僕が守るべき人じゃない」

「男としては三下だな。なら、言い方を返る。君は隣の女と同一人物のこの子を要らないのか?」


 我ながら最悪だ。穴があったら入って手榴弾とか突っ込んでほしいレベルだ。あー視線が痛い。視線で胃に穴が開く。てか、死にたい逃げたいやめたい、でも引き返せない。


「見ろ!このボンキュッボン!更に美人で頭もよくて技量も素晴らしい!何人の男が惚れ、罵られたい、踏まれたいランキング一位の生徒会長&風紀委員属性の赤髪巨乳だァ!まさか男としてほしく――」

「「~~~っ誰にも、しっ、したことないわよぉおおおおおおおおっ‼」」

「ぶべぇっ⁉」


 後頭で頭突きれた。右横ら横腹蹴られた。……痛い。


 一縷さんはものすごく不服そうなので「ごめん」と謝っておく。彼女は呆れたように息を吐いた。


「と、いうわけだ。なんで提案だけど、順当にいって交換。そこの男の敵……げふんげふん……癪だけどイケメンを助けたいわけじゃないけど、その男を引き渡してくれないか」

「あなた……本当に性格が捻くれているわね」


 ほっとけ。僕は実際、あのイケメンより一縷の方を守りたい。理由は女の子だから等。


「確かに、ボーイよりもガールの方が僕も好みさ。ナイフプロポーザル。キミの下卑た提案は魅力的だ」


 案の定釣れるカモな禿頭男。僕は手応えを感じながら二者択一を迫る。


 これはそう言っているのだ。提案を呑めば誰も死なずに穏便に済ます。しかし、提案を呑まなければ皆殺しだと。相手の眼にはそちらの武器を奪ったとわかるだろう。既に一人殺していることは僕の手に持つ白い変芸する銃で理解できるはずだ。そして、この局面で発砲して交渉の場を作った気概、自分で言うのもなんだけど只者ではないと、履行してしまう存在だと認識させることができたと思う。それに弾を弾いてみせたノルンと不可解な現象のお墨付き。

 こちらを睨むように長考する禿頭男。彼が馬鹿でなければあのイケメンは救える。問題は一縷の救助と逃げ場の確保だ。不幸なことに出入口は奴等の背後の大扉一つ。裏口に繋がる扉は機械類が転倒して塞いでいる。最終的には強行手段を取らざる得ないかもしれない。僕は覚悟を決めながら奴の選択を待った。

 長い沈黙は、禿頭男の笑みと共に空気が劈き、乱舞する赤い花びらをどうしてか見てしまった。


「………………え?」


 二つの発砲。銃声。走る弾丸。それは導かれるように空気を裂いてそこへ到った。

 僕に痛覚はなかった。けれど、痛哭の息が耳朶を叩いた。

 僕の脇腹辺りを何かが掠めた。力が抜けた。ノルンの鎌が何かを弾く横。僕の前。呆然と、その人へ視線を降ろした。


「…………っ……」

「………………ぃ、ちる……?」

「…………やっぱり、ぅっ、ふぅー……こう、なるのねぇ……っ」


 涙が一つ、零れ落ちた。


 彼女の胸から大量の出血が涙を隠す。

 げほげほっ、そう彼女は血を吐いた。脱力していく生命に僕は理解できなかった。


 一縷は軍人男に射殺された。


ありがとうございました。

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