第5話 お母さん
コロコロと二つの卵が転がる。
一つはピヨ、もう一つはルヴナンと名乗る卵。
二人は草むらの中を、美しくなれる湖に向かって旅を続けていた。
ある日、二つの卵は夜を休み、朝焼けをむかえていた。遠くから、朝を告げる鳥の声がした。
ピヨはその鳥の声に卵を起き上がらせた。
その声に聞き覚えがあったからである。
ぴょんと飛び上がり、草むらを転がって大急ぎで声の場所に駆けつけた。
赤いトサカを持つそのニワトリは、黄色い雛に囲まれながら餌をついばんでいた。
「おかあさん!」
喜びのあまり、勢いよく卵のまま草むらから飛びだすピヨ。
「おやおや卵のままで、どこの子だい?」
しかし、その声を近くで聞くとピヨは固まってしまう。
良く聞けば知らぬ雌のニワトリの声だったからだ。
その雌の鶏は察したようにピヨを自分の子に入れてあげようかと誘う。
悪い人ではないこのメスの鶏の親切に戸惑うピヨ。
「今は決めれない、友達の旅の途中だから、そのあとじゃダメかな」
「あたしたちもずっとここにいるわけじゃないからねえ」
どちらを選ぶかピヨは迷っていた
兄のようなルヴナンはピヨを必要とはしていないだろう。
それくらい、ピヨにはルヴナンが大胆な卵に見えていた。
それに、もうピヨのことなど置いて出発しているかもしれない。
出発してしまったルヴナンか見知らぬ雌鳥か。
ピヨはルヴナンといた無言の心地よい旅の瞬間を思い出す。
ピヨは転がった。心弱いピヨだったが、ここで決断を鈍らせるとルヴナンとは二度と会えないかもしれない。
振り切った親切な雌鳥にはもう逢えないだろう。
それでも、何も言わずに去っていくレヴナンの転がる音を想像するだけで、心が張り裂けそうだった。
昼の陽光が差し込む中、一つの卵がそこにあった。
ルヴナンの存在が消えてないことに喜ぶピヨ。
側によると、卵から悲しげな歌が囀っていた。
コツンと卵を当てて存在を知らせるピヨ。
「もしかして、さびしかった?」
「さびしかったさ」
何処か悲しげな美声でルヴナンは返答した。
想像以上にルヴナンが自分を待っていてくれる存在だということに、ピヨは驚きと安堵を覚えたのだった。