第39話 星に手が届くように
レアール、ポポ、アデリーの三匹が寝て、ピヨとルヴナンが残って星空の下で話していた。
「ピヨ、君もお母さんにつらい思いをしているね」
自分の心を見透かされた言葉に、ピヨは悲しくなった。ルヴナンはピヨと出会った時のことを知っている。たった一人、巣に残され寂しい思いをしながら震えていたことを。
「君も、お母さんとのつらい思い出がある。それは、きっと……君の勇気と、仲間たちとの冒険で癒していける」
ピヨもそんな気がしていた。みんなといる時間が楽しく、心が楽になることに。
「でもきっと、みんなの力だけでは辛い経験を乗り越えられない。ピヨ、もう一度だけでいい。お母さんを見つけるんだ」
その言葉にピヨはびっくりした。
自分は捨てられた存在で、母からいらないものだと思っていた。だから、そんな自分を母がどう思うかなんて想像がつかない。
「きっと、お母さんは僕を迎えいれないと思う」
ピヨは、震える声で言った。考えれば考えるほど、悲しくなる。もう考えたくないと思う。ピヨは自分の辛さから逃げたかった。
だから、ルヴナンに聞いた。
「ルヴナンは、お母さんのこと、どうするの?」
ピヨはルヴナンだって苦しいことを、伝えたかった。同じ気持ちだろうと、訴えかけたかった。
ルヴナンは、怒りでもない、強い眼光で、握った翼を胸に当てていった。
「僕は、この呪いを止める。僕自身がこの世界に美しいものを発見して行くたびに、僕は僕以外の美しさに気づける。そうして、僕より下の子供や、君のような小さな弟のような存在に、呪いを引き継がないようにする」
そして、優しい表情をピヨに向けた。慈しみの表情だった。
「その時、僕はお母さんから飛び立っていけるんだ」
それは遠い、遠い旅路になりそうだった。ピヨが思うよりもっと、遠い。
ピヨはその途方もない夢を聞いて、星空のようにきれいな願いに感じられた。
「そのために、僕たちも自由の谷を目指そう」
ルヴナンは凛々しく言う。ピヨはどうして、自由の谷に行けばいいのかわからなかった。
「どうして? どうして、ルヴナン。僕たちが?」
「そこには、僕たちのような子がたくさんいるはずだ。彼らの悩みや生き方から、きっとヒントになることがある。そして、君のお母さんがどこにいるかも、きっと……わかると思っている」
そして、ルヴナンがずっと悩んでいたことに気付いた。ピヨに気付かれず、ずっと考えていたこと。ピヨ以上にピヨのことを考えていたのだ。
「僕は助けられた。次は、君が」
ピヨはルヴナンの翼の上に翼を重ねた。
助かりたい。ピヨの小さな、小さな過去の置いて行かれた頃の自分を。
「うん……僕も、助かりたい……」
ピヨはめそめそと泣いた。
ルヴナンは片翼を更にピヨの翼の上に重ね、暖めてくれた。
ピヨの心も、重ねられた翼のように暖かくなった。
次話で、第一部「たまごの章」を完結にします。




