表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生まれることも飛ぶこともできない殻の中の僕たち  作者: はるかず
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/40

第37話 五匹、丘の上で

 丘の上で、遠くにうつる広い草原を眺めながら、5匹はお弁当にしていた。

 みんながそれぞれ、これまでの旅路を話している。ルヴナンは遠くで雷が落ち、草原に火が上がるのを見たことを、レアールは降ってきた卵がポポだったことを、ポポは卵で転がって助けに行った驚きを、アデリーは川に流されていたところを助けてもらったことを、そしてピヨはアデリーを助けるために寒さやカモメと戦ったことを。

 特にピヨのカモメとの戦いは全員が健闘をたたえ合った。

「本当に死ぬかと思ったわ」

 一番に怖い目にあったアデリーが、安心してお弁当をくちばしで突っつく。

「ルヴナンは覚えてる? おぼれかけた時、ルヴナンが華麗に飛び込むのが見えたんだよ」

 ピヨはルヴナンの方を見て、自分が気絶する寸前のことを話した。

「あれはね、ピヨ。アデリーを助けるときに泳いだのを思い出して、やったのさ。あれがなかったら、助けるのが遅れていたかもしれないね」

 ルヴナンはその美声で、珍しく誇っていた。

「じゃあ、アデリーを助けたのが経験になってたんだね。君もやるね」

 からかうようにレアールがルヴナンからお弁当をサッとくちばしでとろうとした。ルヴナンがレアールの翼をはたいて制止する。ケチっと言ってレアールは笑った。

「これ、おいしいよ~~」

 ポポが空気を読まずに、お弁当の美味さに酔いしれていた。


 ピヨはこのお弁当の空間を楽しんでいた。過去となった冒険譚に花が咲き、ワクワクを共有し合うことに、自然と顔がにこにこする。

 今思うとこんなに平和になったのは久々だった。旅では戦うことが多かったからだ。一時の安息。そして、ピヨはこれからの冒険のことを考えた。

「みんなは、これからどうするの?」

 ピヨの言葉に、全員が一度食べるのを止めて、考え込んだ。

「僕は、ピヨについていこうと思う。お母さんのこともあるけれど、今は君の面倒を見ていたい」

 ルヴナンは素直に自身の方針を言った。そう言われてみたものの、ピヨとしてはこれから、どこに行けばいいか思いつかない。

「ポポは、どうするのさ?」

 レアールが自分のことを棚に上げて、ポポのことを聞いた。

「僕は~~。そうだなあ? お父さんのところ、あまり帰りたくないなあ」

 さっきの冒険譚でピヨは聞いたのだが、ポポのお父さんは怒りっぽく、ポポは好きではないようだ。

「お父さん、か。私は早く帰りたいわ。でも……」

 アデリーは故郷を想って寂しそうだった。そして、これからの旅を不安視しているようだ。ピヨは励ましたくなって、一つの言葉を思い出した。

「カワウソのおばさんが言ってた。僕たちみたいな子がいる、場所があるんだって」

 自由の谷。そう呼ばれる場所のことを、ピヨはみんなに話す。

 ルヴナンがうなずき、レアールはへえっと感心した。ポポは好奇心で目をキラキラさせている。

「自由の谷。そこに行けば、帰れるかもしれないのね」

 アデリーは食べ終わった後、お皿の葉っぱを地面に置いた。そして頭を下げて礼をすると、決意して言った。

「わたし、そこに行くわ。ピヨ、みんな、ありがとう。」

 その言葉にルヴナンがぎょっとした。危ない旅になるからだ。

「一人で行くつもりかい?」

「大丈夫」

 アデリーは短くそう言った。

 ピヨはアデリーが気丈にふるまってくれているのに気づいた。そして、どうして? と思った。どうして、一人で行ってしまうんだろう。ピヨは何かこみ上げる感情を覚えた。この気持ちが何なのかはわからなかった。でも、力になりたいことだけは分かる。

「僕、ついていくよ」

 ピヨが立ち上がると、ヒューっとレアールがはやし立てた。

「僕も! 僕も行く! ずーっとお父さんの巣で、僕は外を知らないんだ!」

 おなか一杯になった元気さで、ポポが片翼を上げてついていくことを表明した。

「それなら当然、僕がそばにいるよ」

 クールにルヴナンが頭の羽を風になびかせて言う。

「じゃあ、僕もいこうっと」

 あっさりレアールが言った。まるでオマケのように。



「みんな……ありがとう」

 アデリーが涙ぐみながら、お礼を言った。

「アデリー。後ろの空を見て」

 ピヨは顔をオレンジ色の日を受けて、目を見開き、翼で指さした。

「わぁ……!」

 アデリーが振り向いて感動する。

 それは、夕日だった。


 オレンジと赤のグラデーションが草原を染め上げ、大きな夕日が地平線へと沈もうとしていた。


 ピヨは思う。世界はこんなにきれいだっただろうか?

「こんな美しい夕日、初めてだ」

 ピヨが言うと、みんなが頷く。

 5匹は丘から、夕日が沈むのをずーっと眺めていた。

 この時だけは、厳しい世界がみんなを優しく迎えてくれている。そんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ