第35話 助かった雛
ピヨが目を覚ましたのは、河原の岸だった。
全身はずぶぬれで、先ほどまで水を吸っておぼれていたことが分かる。そしてピヨを、心配そうにのぞき込む一匹の雛の女の子がいた。
その水にぬれた姿の雛を見てピヨは分かった。
自分を水から引き揚げてくれた子だ。
「アデリー!」
ピヨは叫んで、その子に抱き着いた。柔らかい産毛がピヨの嘴をくすぐった。
「私が、分かるの? ピヨ」
ピヨはすすり泣きながら、アデリーの首元をぎゅっと抱きしめた。
「わかるよ。わかる。アデリーが助けてくれたんだね」
アデリーはそっとピヨの小さな翼の上に短い羽をかぶせた。
二人はしばらく抱きしめあっていた。
「いいガッツだったね。ルヴナン。その細さからは考えられないよ」
二匹の仲を見守りながら、ニヤッと皮肉っぽくレアールがルヴナンの翼に突っついた。
ルヴナンも返して、バシッとレアールを叩く。
「君も、良いのしかかりだったよ」
ルヴナンはレアールくらいにしか見せないような、厄介そうな顔で返事をする。
川原は丸石で覆われていて、川のせせらぎが聞こえてくる。
ピヨの心の籠った泣き声が、窪みになったこの谷に響いていた。
「ピヨ。苦しいわ」
恥ずかしそうにアデリーがピヨに言うと、あっとなって離れ、ピヨは赤くした目をこすった。
「よし、これでみんな揃ったかな」
ルヴナンが周りを見渡して、安全を確認しつつ、全員の頭数を確認した。
「あああーー!!」
突然、レアールが大きな声を出す。
全員がその大声に驚き、レアールの方を振り向く。
「ポポが! ポポがいない!!」
動揺し、羽を逆立てながらレアールは今にも走り出そうとしていた。
それを、ルヴナンが静止する。
「まて、いったい誰なんだい? それは」
ピヨが察したように、レアールの顔を見た。
「友達なの?」
レアールは涙目になりながら、頷いた。慌てながら、早口で説明する。
「ここに来るときに、丘から谷へと転がって来たんだ。その時、ピヨの戦う声が聞こえて、僕たちは転がって間に合うように岩に突撃したんだ」
そのことを聞いて、全員が真っ青になった。
「はやく、いこう」
ルヴナンが言い、アデリーがうなずく。
ピヨは慌てるレアールを落ち着かせるため、ぎゅっと彼の翼を握りながら、一番の先頭を切って走り出した。




