第33話 悲鳴
森へ入ったピヨとルヴナン、そして卵のアデリー。
木陰の上をコロコロ転がるアデリーを後ろに、ルヴナンとピヨが前方をトコトコ歩く。突如、上の方からキー!と、いう鳴き声が森中に響いた。
「この音、聞いたことがある……」
アデリーが転がるのを止め、全神経を越え集中させた。
「カモメだわ! 私を巣から攫ったやつと同じ!」
そして気付くと、パニックになって転がりだした。
ルヴナンとピヨは置いていかれ、後ろから走ってついていく。
小動物たちが草むらへ逃げ、鳥たちが群れとなって飛んでいく、
追いかける内に、森に響いていた声は消え、木のざわめきも消えていた。
2匹と1個が立ち止まる。
「……静かになった。ね」
ルヴナンが言った、その時だった。
フクロウとは違う音のない羽音、それが飛び掛かってきたのだ。
スッと卵のアデリーを目の前で捕まえ、フワッと高く飛ぼうとする。
ピヨは間髪入れず、果敢に飛び掛かった。
「ピヨ!!」
ルヴナンの声が下へ下へと遠くなる。
羽にしがみつき、低空飛行を続けるカモメにピヨは言う。
「アデリーを降ろせ!」
しかし、カモメはピヨを無視して振り落とそうと揺らす。
木の下を飛ぶカモメの後ろを、必死に下でルヴナンがついていく。
「アデリー、生まれるんだ!」
ピヨはアデリーに訴え掛ける。震えながら足に捕まえられているアデリーは動けない。怖がりながら、祈るような声だけがする。
「無理よ! 私! 頑張っても……! 無理だったの!」
自分を信じられない怖さを、戦う勇気を持てないアデリー
「生まれるんだ! 生まれなきゃ……! アデリー!」
ピヨの必死の訴え掛け、辛い思いと汗が同時ににじみでる。
「死んじゃうよ……!!!!」
死。それは、ピヨにとって身近でありながら、果敢に飛び掛かった対象でもあった。それは母親と兄弟に捨てられ、ずっと巣の中にいるなかじわじわと迫る恐怖のようなものだった。時に蛇、時にフクロウの形をしながら襲い掛かってきた。
でも、今、その形が鳥となって友人に襲い掛かってきている。
ピヨは負けられなかった。
羽から瞬間的に手を放すと、一気に飛んで体の方へしがみついた。
不意を打ったタックル。体重がかかり、カモメはバランスを崩した。
気づけば低空飛行していたカモメが、川の中へ突撃する。
バシャン!
落ちる時。見えたのは、岸から飛び込もうとするルヴナンの姿。
美しく弧を描き、水鳥らしい翼を広げて、その青い身体を川に潜らせる瞬間。
水の境界がぼやけて沈む。
落ちる。落ちる。でも、離すものか。
この手だけは。
ピヨは死の恐怖と戦うアデリーを守るために、水に飲まれても、手を離さなかった。




