第29話 助かったたまご
つんつんと、ピヨが抱きしめていたたまごの中からノックする音が聞こえた。
生まれるのかと思って、ピヨはハッとなってたまごから退いた。
しばらく突っつく音がするが、たまごは生まれない。
つつくのを諦めたように、たまごから声がした。
「……誰かいるの? 私は、アデリー。ここはどこ?」
「ぼ、僕はピヨ……! ここはカワウソの巣だよ!」
ピヨは元気な声で、アデリーに話しかけた。
「私、助かったのね。不思議、生きててよかったって思えるなんて」
ホッとしたような声で、ピヨに返事をするアデリー。
「君は、川を流れていたんだ。僕たちに見つけられて……」
説明は長く、たまごのアデリーはそれを聞いていた。紐を使ってここまで運んできたこと、カワウソが親切に巣に運んだこと、炎の力でアデリーが生き返った事。
「そう、じゃあ途中で川におちたのね。私、鳥にさらわれたから……」
ピヨはアデリーが親元から攫われたことを一言で察した。ひしっとたまごを抱きしめ、なでなでとピヨはゆすってあげる。
そんな様子のピヨの気持ちを汲み取ったのか、アデリーは温かい声で返事をした。
「でも、貴方に助けられたから、大丈夫。私、生きるわ……」
「よかったじゃないか。雨も止んで、晴れ間も見えるよ」
カワウソがピヨたちの傍に寄り、草木をどけて外を見せてくれた。
ピヨは先ほどまで雨だった音が消えているのに気づいた。
雨が過ぎ去り、大地が乾く匂いがする。晴れ間から、午後の太陽が見えた。
「奇麗だ!」
ピヨが感嘆の声を上げる。
「ああ、晴れ間から、光がさして階段みたいだ……!」
ルヴナンがピヨの声に頷く。
その言葉に胸打たれたのか、ピヨたちの背後でアデリーの逞しい声が聞こえた。
「私、今なら生まれそうな気がする。もう一度やってみるわ。見てて……」
ピヨたちは振り向くと、アデリーが卵を揺らしていた。
こつん、こつん、とたまごを内側から叩く音がする。
「えい、えい」
ピヨたちは手を叩いて、応援をすることにした。
ルヴナンも、ピヨもがんばれ、がんばれ、と手拍子をそろえ、頭の中で念じ、卵を見守る。
「あれ、あれれ……」
アデリーの拍子抜けた声が響き、たまごは転がりながら、生まれる格闘が続いた。だんだん拍手するピヨとルヴナンとカワウソの手が疲れてくる。
「あれれー?」
あちゃーと失敗をごまかすように、アデリーが転がるのをやめた。
「ごめん、できなかったみたい?」
期待を裏切られ、ズッコケるピヨたちだった。