5-1 異母妹の企み
私と母と、ルイーゼとフェルナン、そしてもふもふ。家族と呼んで差し支えない人たちと共に、それなりに穏やかな日々を営みながら、やがて私は十六歳になっていた。
王都の喧騒から逃れ、ゆったりと流れる時間に身を任せて暮らす日々に、すっかり慣れていた、そんなある日のこと。
私とルイーゼは、母から談話室に呼び出された。
談話室は、六人ほどがゆったりとソファにくつろぎながら話ができる部屋で、私たち家族が大事な話をする時は、基本、ここを利用する。
私とルイーゼが入室すると、母の他にフェルナンも待機していた。二人の表情は、どこか硬い。
(……何事かしら……)
二人の様子から察するに、あまり楽しい内容ではないことは確かだろう。
「二人とも、座って」
と促されるままにソファに腰掛けると、すぐさま母は、
「大変嫌なお知らせがあります」
と顔を顰め、これ以上はないというくらい嫌そうな、そして申し訳なさそうな顔で私に告げた。
「貴方をコーネリア王立学園に通わせろ、という知らせが来ているの」
思いもよらない言葉に、私は目を丸くした。
「え、でも私、今も地元の学校に通っているのだけど……」
ルイーゼに好きな子を取られちゃう以外は、人間関係にも問題なく、概ね良好な環境で勉強できているから、変わりたくないのが本音だ。
それは王立学園は貴族であれば誰でも憧れる場所だけれど、私は特に思い入れはない。今の学校の質は十分に高く、必要なことは、しっかりと学べている。
しかし母は首を横に振った。
「申し訳ないのだけど……王室からの依頼なの」
王室からの依頼……それは「依頼」という名の「命令」だ。
そして、王室と私たちの間には何の関わりもないから、この件に一枚噛んでいるのは間違いなくアメリとカーラ母娘だろう。
(アメリは王子の婚約者だものね)
精霊の愛し子という立場を利用して、王家の権力を存分に利用しているのだろう。
「そっか。……それはお断り、できないのね」
恐らく王室から直接、母に打診があったわけではなく、ランベール家を通して来た話だろう。
嫌だと言えば母を困らせるだけだ。いや、それどころか土地を召し上げられたりして、一家路頭に迷う、なんてことにもなりかねない。
いつも母は、自分のことを後回しにして、私とルイーゼを大事に育ててくれた。その恩に報いなければ。
私は膝の上で、ぎゅっと拳を握り締めた。
「私、行きます」
迷いなく答えると、母が申し訳なさそうな表情をしつつ、軽く目を伏せる。
「ありがとう。そして……ごめんなさい。私にもっと力があれば、こんな理不尽な要求に屈することもないのに……」
苦しげに声を絞り出す母に、リオーネ家での暮らしを思い出す。追い出すだけでは飽き足らず、いつまで私たちを苦しめるつもりだろうと、アメリたちに腹が立った。
けれど、ここで激昂しても何の意味もない。私は心を落ち着け、母を安心させるための言葉を紡ぐ。
「お母様、心配しないで。王立学園は最新の学びを提供している場所でしょう? 私、しっかり学んできますから」
「アイリーン……!」
母が感極まったように言葉に詰まる。
一方で、それまで大人しく私たちの会話に耳を傾けつつも、沈黙を守っていたルイーゼが、不意に口を開いた。
「お義母様。私も一緒に行きます」
と。