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2-4

 一人ぼっちの辛さや寂しさは身に染みて知っている。


(それに……)


 この森は母の所有する敷地なので、ある程度、管理された場所だ。凶暴な動物が出たりはしないけれど、この敷地から離れると、たちまち危険な場所に出てしまう。


(最近、魔獣が出るという話を聞くもの)


 これ以上、土地勘のない幼子がうろうろしているのは危険だ。このまま放ってはおけない、とそう思った。


「じゃあ……一緒に来る?」


 私はその子に手を差し出す。どうだろう、警戒心が強い子のようだから、拒絶されるだろうか。

 少女は私の手を見て、困惑したように視線を彷徨わせる。

 しばらくの間。

 やがて彼女は私の顔を見ると、おずおずと手を差し出してきた。


「……うん」


 思いの外、ぎゅっと強く握り返してきたので、この子は本当は、不安で心細くて仕方がなかったのだと悟る。気を張って、強がって見せていただけなのだと。

 私は少女に、立ち上がるよう促し、手を繋いだまま帰路につく。少女は大人しく私について来てくれる。

 少し後ろを歩く少女に、私は振り返り、言った。


「私、妹がいたらいいなって思ってたの。……私の妹になってくれる……?」


 すると少女は、少し驚いたような表情で、私の言葉を繰り返す。


「いも、うと……?」

「そう、妹」


 少女は、やはり不思議そうな顔をしていたけれど、やがて何か納得したのだろうか、花が綻ぶように微笑んだ。


「うん」


 その笑顔がとっても素敵で、私は思わず見惚れてしまったのだった。

 と同時に、ふと気付く。私は、この子の名前をまだ知らない。


「私はアイリーン。貴女のお名前は?」


 名を尋ねる時は、まずは自分から。私が名を名乗ると、その子は、


「ルイ……ルイーゼ」


と少し口籠つつも答えてくれた。……まだ緊張しているのかな? そう思った私は、もっと気を楽にしてもらおうと、口を開く。


「ルイーゼ。貴女は今日から私の妹だから、私のことはお姉様と呼んでね」


 すると少女……ルイーゼは、恥ずかしそうにしながらも、


「アイリーン……お姉様」


と素直に呼んでくれた。そのいじらしい様子に、同性なのに胸がきゅんとときめく。


(か、可愛い……!)


 でも、家路を急ぐ途中、ふと我にも返ったりした。


 この土地に住み始めたばかりの私と母の生活は、決して裕福ではない。一人養い子が増えることを、母はどう思うのだろう。負担にはならないのだろうか、と。

 屋敷の門をくぐる。警備の人がルイーゼを見て、ちょっと不審げな顔をしたけど「お友達」で通した。


 さて、家に帰った私を玄関で迎えた母は、見知らぬ少女を見て、当然ながら不思議そうに首を傾げた。


「ん? その子は?」


 尋ねられ、私は母の瞳をまっすぐ見ながら、


「私の妹」


と言い切った。なかなか苦しい。

 母もまた、私の目をじっと見つめる。でも私は、やましいことなど何一つとしてないから、その視線を受け止める。

 やがて、母がにっこりと相好を崩した。緊張感が緩む。


「そう、妹なの。じゃあ、私の娘ってことね」


 そう言って、母はルイーゼの前にしゃがみ込む。緊張しているのか警戒しているのか、私の手を強く握ったまま硬直している彼女を、私ごとそっと抱き締めた。


 柔らかな抱擁に、ルイーゼの緊張が解されていくのを感じる。やがてルイーゼは、私たちを抱きしめ返してくれた。


 その日から、ルイーゼは私たちと家族になった。


 ……まさかその頃は、ルイーゼが私の好きな人をどんどん取っちゃうような子になるなんて、思いもよらなかったのだけど。

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