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私から全てを奪っていく義妹から逃れたい  作者: しののめ


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20-1 ルイス・コーネリア

 学園内で誘拐されたアイリーンが無事に保護された翌日、フェルナンが自分の元にやってきて、こう告げた。


「敵もなりふり構っていられなくなったように思います」


 魔獣の襲撃が立て続けに起こり、王都にはきな臭さが漂い始めている。そのため、ルイスにはフェルナンが紡ぐだろう次の言葉が容易に想像できた。


「そろそろ、アイリーン様のお力を公に示す頃合いかと存じます」


 予想に違わぬ言葉に、ルイスは口を閉ざし無言を通す。それを拒絶と取ったフェルナンが、


「どうか、ご理解ください」


と深く頭を垂れた。アイリーンには決して見せない、畏まった姿。これこそが、王家に仕えるフェルナンの本来の姿だ。

 フェルナンの立場としては、そう提案せざるを得ないのだろうが。


「それは、アイリーンを囮にするということでもあるだろう?」


 彼の言っていることは、こうだ。アイリーンを魔獣と対峙させ、聖獣と共にある姿を衆人に目撃させろということだ。


「アイリーン様には護衛をつけます。ーー表立っては相手に警戒されますから、隠密にとはなりますが」

「それで、魔獣に遭遇しても逃げるなと言うのか?」


 そう糾弾すると、フェルナンが辛そうに目を伏せた。


(ああ、そうか)


 フェルナンとて、アイリーンを危険な目には遭わせたくないはずだ。彼もまた、情愛を抱くだけの月日を、共に重ねてきた。

 それでも、力を得て生まれてきてしまった者として、なすべきことがあるというのだろう。


「魔獣に立ち向かうことは、私の義務だったな」


 ルイスは呟き、自分の過去に思いを馳せる。


 ルイスが己の義務を果たすために必要な存在。その少女との出会いを。


⭐︎


 その少女をはじめて見た瞬間、雷に打たれたような感覚が全身を駆け巡った。


「ねえ、どうしたの? 泣いてるの? それとも怪我をしているの?」


 この、心配そうな顔をして自分の側に寄り添う娘が、精霊の愛し子、即ち自分の番のような存在だということを本能が伝えてきた。

 その感覚は「愛しさ」とは違うものだ。そんな甘ったるいものではない。自分が生きていくために必要不可欠なものが、そこにある。そんな現実的なものだった。


⭐︎


 ルイスは、精霊の祝福を持つ父と精霊の愛し子である母の間に生まれた。生まれた瞬間から左の手の甲に祝福の印が刻まれていた。


 精霊に祝福された子。そんな幸せそうな肩書きとは裏腹に、ルイスは決して幸せではなかった。


 精霊の愛し子であったがために、恋人と引き離され、王家に嫁ぐことになった当時の母は、愛しくもない夫との間に生まれたルイスを愛しはしなかった。

 精霊の祝福を受けた父もまた政略結婚の妻を疎み、愛人との情事に耽ってルイスを顧みることはなかった。


 両親の愛を注がれることなく生まれてきた第一王子。それがルイス・コーネリアだった。


 精霊の祝福を持つ王子は、長じるまで存在を隠されるのが常である。というのも、精霊の祝福の存在を否定する過激な「ルラ教団」という団体が存在し、怪しい魔術で祝福の者の暗殺を試みようとしているという話があったからだ。

 また、特別な力を持つ者として、政治的に過度に利用される恐れがあることも、存在を隠される一因だろう。


 ルイスは王家の持つ秘された別邸で、厳重な警備の元、育てられた。フェルナンという王国随一の護衛が、常にルイスの周囲に目を走らせていた。


 また、ルイスが生まれて程なくして、精霊の愛し子の印を持つ子が生まれたという知らせが、王家の元に届いた。


 精霊の祝福を受けた王子と精霊の愛し子の印を持つ娘は、婚姻を結ぶ習わしだ。当然、周囲もそうなるものだと思い込んでいた。


 しかし。


「婚約は、させません」


 ルイスの母である王妃が頑として、婚約はさせないと言い張った。


「祝福の者と愛し子とはいえ、結婚する必要はないはずです」


 自らの苦い経験をもとにした考えらしい。

 確かに愛し子の役目が、祝福の者に対する「力の制御」というものならば、何も結婚する必要などない。巫女などの地位を与え、近くに置いておけば良いだけだ。


 しかし周囲はそうは思わなかった。


 精霊の愛し子の印を持つ娘を放っておくわけにはいかない、しかし王妃の意思には逆らいづらい。そこで、取り敢えず王の愛人の子で王子の一人として認められているカインの婚約者としたらしい。カインはルイスの少し後に生まれた男子で、第二王子の地位にある。


 こうしておけば、必要とあれば、すぐに第一王子の婚約者に変更できるとの判断だろう。


 ……と、そんな政治的な事情も、まだ赤子だったルイスに知る由はなく、もう少し成長した頃にフェルナンから説明されて初めて知ったのだった。


 そんな、まだ何も知らない幼い頃のルイスに、一つの大きな転機が訪れた。


 ーー暗殺者襲撃。


 その日、幼いルイスは、何の変哲もない一日を終え、何事もなく寝台に入った。いつものように眠り……そして、ふと覚醒した。


 頬に風を感じる。


(風……?)


 防犯上、窓を開けて眠ることなど、決してない。ならば、この風は一体どこから入ってくるのか。


 予感がした。嫌な予感が。


 ルイスは目を開き、寝台から素早く身を起こし……そして、見た。


 月明かりに冷たく光るナイフ。その鋭い刃を。

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