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私から全てを奪っていく義妹から逃れたい  作者: しののめ


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19 白き獣

 その後、授業は通常どおり行われたけれど、生徒たちだけでなく教師も気もそぞろで、勉強に集中できる状況じゃなかった。


 なお、カーラが出て行ったのち、アメリも青い顔で「気分が悪い」と言って退室すると、そのまま教室には戻ってこなかった。


 そうして下校時刻になり、私はいつもの家路を急ぎながら、物思いに耽っていた。


(ルイスが王子様だって気付いてしまったけれど、どうしよう……)


 正式に言うと気付いたのではなく、知らされたのだけど。


(分かったって言うべきなのかな)


 だけどルイスはきっと、王子だからといってよそよそしくしたり、畏まったりされたくないはずだ。


(でも、何も知らないふりをするのもね……)


 それはそれで、隠し事をしているようで落ち着かない。


(ーーうん、帰ってルイスの顔を見てから考えよう。取り敢えず、今は早く帰らなきゃ)


 登下校については、フェルナンかステラが密かに私たちを見守ってくれているらしい。私は気配を探ってみるけれど、彼らの存在を感じ取ることはできなかった。


(さすが王家の護衛ってことだよね)


 これまで王子を影で守ってきた人たちだ。王家に仕える人たちの中でも、精鋭なのだろう。

 そんなことを考えながら、足早に帰路を辿る。


 と、その時。


 唐突にカァンカァンと半鐘が、けたたましく打ち鳴らされる音が鳴り響いた。それと同時に、


「魔獣だ!」

「魔獣が出たぞ!! 気をつけろ!」

「屋内に退避しろ!」


と警ら中の治安維持部隊が、一般市民に呼びかける怒号のような声が、あちらこちらで上がった。


「な、何だ!?」


 道ゆく人が驚きの声を上げ、また四方八方から小さな悲鳴が聞こえてくる。


 辺りを見回すと、道のあちこちに黒い影がゆらめき、それが何かを形作っていた。

 中型犬程度の大きさをした、自然界にはいない黒い獣たち。ーー今までにない数の魔獣だ。

 獣たちは、私の帰り道も塞いでいた。


「逃げろ!」

「くそっ!」


 屋内に退避しようと逃げ惑う人々。その人々を守るために、剣を振るい魔獣を追い払おうとする兵たち。


 いつもの静かな通り道は、騒乱の渦に巻き込まれていた。けれど。


(どうしてだろう)


 立て続けに魔獣に遭遇したせいで、感覚が麻痺してしまったのだろうか。多数の魔獣を目にしても、心は落ち着いていた。

 もちろん、どこかでステラやフェルナンが待機しているという安心感もあるけれどーー今は、彼らに頼るべき時ではないと、私は悟った。


 多分、ルイスはこうなることを予測して、私に話をしてくれたのだ。


 ルイスに言われたこと。それこそが。


(今、私がしなければならないことなのね)


 私は胸の前で手を組む。


(ルイス……)


 先日、ルイスから言い含められたとおり、私は心の中で彼の名を呼んだ。同時に、もふもふのことも思い浮かべると、右の肩が熱を帯び始めた。


 一匹の魔獣の視線が私の姿を捉える。何か怯えたようにぐるる、と唸ると、こちらに真っ直ぐ向かってきた。


 だけど、もう恐れることはない。


「あ、あれは!?」


 怯えた人々の中に混じる、困惑の声。彼らは「それ」を見た。


 何かがこちらに向かって駆けてくる。その「何か」が駆け抜ける軌道には、光の帯が流れて、そして消えていく。とても神々しい……神秘的な光景だった。


 その神秘的な存在は、通り道を塞ぐ魔獣を体当たりして追い払うと、私の元でぴたりと足を止めた。そして私を守るように側に寄り添う。

 白く美しい獣。淡い光に包まれているその存在は、もふもふだった。


 ーーなぜ、今まで私は、その可能性について考えが及ばなかったのだろう。


 何度も魔獣を追い払ってくれたもふもふ。

 魔獣は等しく、もふもふを見ると怯えた様子を見せていた。まるで天敵であるかのように。


 白い獣が毛を逆立てて大きく吠えると、空気がびりびりと震えた。


 すると力の弱い魔獣は、その白い獣の一鳴きで、黒い霧となって消滅した。数が多い分、一体一体の力は弱いのだろう。


 魔獣に対して圧倒的な力を持つ、強く美しい白い獣。


 もふもふを見た誰かがぽつりと呟いた。


「聖獣だ……」


 魔獣の天敵。コーネリア国の守護獣。ーー聖霊の祝福を受けた白き獣。


 もふもふは一度、私を安心させるように体をすり寄せたのち、すぐに消滅を免れた魔獣に向き直る。


 白い獣は果敢に魔獣に向かっていき、その首元に食らいつく。魔獣は「ギャァ!」という鳴き声を残し、黒い霧になって消えていった。


「聖獣様が、守ってくださっている!」


 しなやかで無駄のない動き。もふもふが駆けるたび、白い輝きが通り道を浄化していく。


「だが、隣にいる娘は誰なんだ?」

「アメリ様ではないぞ?」


 数が多いだけで個体は弱かった魔獣は、瞬く間に数を減らし、もふもふが最後の一匹をその鋭い爪で引き裂くと、辺りは魔獣がいたことが嘘みたいに静かになった。

 魔獣はこの世ならざるものだから、消滅しても骸は残らない。


 そうして魔獣が一掃されても、もふもふは牙を剥き出し荒ぶったままだった。とても気が立って殺気を放っているせいか、周囲の人たちが恐れをなして後ずさっている。


 魔獣を滅するため存在であるもふもふは、本来、獣としての獰猛な気性が備わっていて、魔獣と対峙すると、その傾向が顕著になるのかもしれない。


(落ち着かせないと)


 そう思った私は、


「もう、大丈夫」


ともふもふの背中を、そっと撫でる。そうしているうちに、少しずつもふもふの体から力が抜けて行くのが分かった。


 殺気を引っ込めたもふもふは、甘えるように頭を擦り付けてくる。

 私は膝をついて、もふもふの首に腕を巻きつけ、抱きしめる。


 そして私は、そのふさふさした耳に囁きかけた。


「約束どおり、来てくれたのね。ありがとうーールイス」

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