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私から全てを奪っていく義妹から逃れたい  作者: しののめ


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17-1 ルラ教団

 別に、何か特別に油断していたとか、無防備だったとか、そんなことはなかったと思う。

 というか、ここは王立学園。個人が雇った護衛ではなく、学園ーー運営母体の王家が配置した警備兵によって生徒たちは守られている。王族も通う学び舎ということもあり、警備は万全であるはずだ。


 だけど。


 それは、授業が終わって真っ直ぐに帰宅しようとした時に起こった。

 いつもどおりに教室から出て、廊下を歩いていたところ。


「……!」


 背後から羽交締めにされる。

 何かを考える暇もなく、口元を布で覆われる。その布は少し湿っていて、何か嗅いだことのない匂いがした。少し甘ったるいその匂いに、全身が私に告げて来る。これは危険なものだ、と。


 私は力の限り、両手を振り回して抵抗を試みたけれど、相手はますます拘束する力を強めて来る。しかも、甘ったるい匂いが私の思考をまとまりのないものに変えていく。

 頭が重く、体も重い。


(あ……)


 視界の端に、真っ黒な衣服の袖が見える。ちらりと覗く手首は若い男の物のように見え、


(学、生……?)


と思ったけれど、そこまでだった。

 私の意識は、引き摺り込まれるよう、闇の中に沈んでいったのだった。


⭐︎


「ん……」


 どのくらい経ったのだろう、私はゆっくりと意識を取り戻した。

 瞼を開けた視界に広がるのは、木の幹の茶色と雑草の緑。土の匂いがする。林のような場所だろうか。


 私の体は、大きな木の幹にもたれかかるようにして座らされていた。手足は……自由だ。拘束されてはいない。

 立ちあがろうとすると、頭がズンと重く感じた。


(何か薬を嗅がされたみたいね……)


 体がふらついて思うように動けない。


(でも、立たなきゃ)


 薬を嗅がされてまで連れて来られた場所だ。危険に決まっている。どうにかして動かないと。


 周囲を見渡すと、杖代わりになりそうな太い枝が落ちていた。私はそれを拾い、木の幹に手を当て、それを支えに慎重に立ち上がった。そのまま太い木の幹に背中をもたれかけさせた。


 まずは状況を整理しなければ。

 何故、今日、私はここに連れてこられたのか。


(今日は、何がある日……?)


 記憶の引き出しから取り出したのは、一つの回答だ。


 自分には全く関係がない催しだったので気に留めてなかったけれど、今日は王家主催の狩りの日だ。以前、アメリが私を招待したいとカイン王子にねだったけれど、関係者以外立ち入り禁止だと断られた行事である。


(じゃあ、ここはどこ?)


 私を攫ったのがアメリの手下であれば、恐らくここは狩りの会場だ。学園の裏の林を抜けた先にある王家の狩場。


(危険はどのくらい?)


 自問自答しながら考えをまとめる。

 危険は、間違いなくある。ここは狩りの会場で、まず標的となる獣が放たれている。また、それを仕留めるため、参加者は弓を持っているはずだ。


 下手をすると、獣と間違えられて射かけられる可能性も、なきにしもあらず、だ。気配を探りつつ、慎重に動かなければ。


(それに、私がいなければ、ルイスがすぐに気付くはず)


 また、ここは狩場で射かけられる危険性はあるけれど、同時に人が来る可能性があるということでもある。


 そこまで考えたところで、不意に何かの視線に気付いて、私は勢いよくそちらを見た。


 ーー闇が、私を見ていた。


 真っ黒いフードを被った人影と……


(魔獣……!?)


 人が魔獣を従え立っていた。


 ルイスの言葉が頭の中に蘇る。魔獣を操る秘術を持つ存在。それは……。


(ルラ教団……)


 私に薬を嗅がせた者も、魔獣をけしかける黒いフードの人物も、ルラ教団に属する信者で間違いないだろう。


(いや、同一人物かも……)


 恐らく学園内に潜んで情報収集を行なっている者だろう。私が襲われたあの廊下は、普通に学生が通る場所だ。そこで白昼堂々、誘拐するということは、人が途切れる一瞬を息をひそめ虎視眈々と狙っていたということだ。内部犯であることは間違いない。

 ーーいや、それよりも。


(アメリとルラ教団の間には、何か関係があるの……?)


 食堂でルイスが言いかけたのは、そういうことだったのだろう。

 けれど、アメリがルラ教団の信徒かと考えると、それはないように思われた。精霊の愛し子という目立つ立場にいる彼女がルラ教団に属するならば、さすがに王家の周辺の人に気取られるだろう。


(それに、どうして私を狙うの?)


 アメリにとって私は、取るに足らない存在のはずだ。


 何か、もう少しで点が線に繋がりそうな感覚だったけれど、状況は私に悠長に考える時間をくれなかった。


 黒フードの人影に付き従っている犬のような姿をした魔獣が、はっはっと荒い呼吸を繰り返す。

 やがて、黒フードは腕を持ち上げ、私を指差した。

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