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私から全てを奪っていく義妹から逃れたい  作者: しののめ


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16−2

 学園の敷地は広く、後者の裏手側には、ちょっとした林が広がっている。野外活動などを行うための場所である。でも草ぼうぼうなので、学園の行事以外の時に紳士淑女が立ち寄る場所でもなく、普段は人気もなく、静かな場所だ。

 ちなみに林は王家の直轄地で、林を抜けた先には狩場が広がっている。

 なお、校舎の外側には、防犯のために外壁が張り巡らされているので、林に勝手に侵入することはできない。

 私たちは、その林への入り口がある周辺まで移動してきた。本来、入り口には警備兵が立っているけれど、先ほどの魔獣騒動で食堂に駆り出されたのか、人はいない。ここなら人気もなく、秘密の話もできるだろう。

 私はルイーゼに向き直り、改めて尋ねた。


「何か気になることがあるの?」


 するとルイーゼは私の両手を握り、意を決したように告げた。


「アイリーン。アメリには、くれぐれも気をつけて」


 いつも気をつけているけどな、と思わないでもなかったけれど、ルイーゼの表情があまりにも切羽詰まっていたから、私はルイーゼを安心させるため、素直に頷いた。

 するとルイーゼがほっとしたように頬を緩めた。しかしすぐに表情を引き締めて、続けた。


「アイリーンは、ルラ教団って知っていますか?」


 唐突に固有名詞が出てきたが、それは誰もが知っている組織の名だった。さっきもちらっと考えたんだけど、王国内で危険分子として取り扱われている集団だ。


「名前くらいは知っているけど……」


 邪神を崇める宗教団体だ。かなり悪どいことをしているという噂があるが、実態については、霧に包まれたように掴むことができない。


「ルラ教団はね、王国を守る聖獣を目の敵にしていて、魔獣を意のままに操る秘術を持っていると言われています」

「え……?」


 つまりそれは。


(魔獣を追い払うこともできるということ?)


 何故、ルイーゼがそんなことを知っているのか、そして何故、今、その話を切り出すのか。私がルイーゼに問いかけようと口を開こうとした、その時。


「ちょっと待って」


 ルイーゼが緊迫した声を出し、唇に人差し指を押し当てる。静かに、という仕草だ。ルイスの警告に従って、私は口を閉ざした。

 静けさの中、耳を澄ますと、パキ……と小枝を踏み締める音が聞こえる。何かが忍び寄ってくる気配を感じた。

 過敏になっている私たちは、はっと素早く音がした方を振り返る。

 そして、見た。


 魔獣だ。


(また……?)


 しかも、さっきの魔獣ではない。新しく出現した魔獣だった。先ほどの魔獣より一回り大きく、獅子のような形態をしている。鋭い犬歯を剥き出しにした獣の、闇に沈んだ目が私を見据えていた。


(私を……狙ってる?)


 怖い。

 でも、私を狙っているならまだしも、このままだと側にいるルイーゼまで巻き込んでしまう。姉として、それだけは避けないと。

 私は怖気付く心を叱咤し、震えそうな足を動かしてルイーゼから離れようとした、その時。


「アイリーン、大丈夫」


 ルイーゼの声が私を押し留めた。でも彼の目は私を見ておらず、真っ直ぐに魔獣を捉えている。その視線に気付いた魔獣もまた、私からルイーゼに視線を移した。

 ルイーゼと魔獣は睨み合う形になる。空気が張り詰める。

 そんな中、不意に、ルイーゼが私に語りかけた。


「私の手をしっかり握っていてください」


 ルイーゼの手が私の手を掴む。その手は、燃えるように熱かった。その熱さが伝播したかのように、何故か私の右肩が熱くなる。すごく、体が熱い。

 自分の身の内から、繋いだ手を通して何かがルイーゼに流れて行くような、今までにない異質な感覚に気を取られていたところ。


 魔獣の背後から、また別の唸り声がした。


(え? 他にもいるの!?)


と一瞬身構えた。けれど。


(ううん、違う)


 その唸り声からは、嫌な感じがしない。それどころか、どこか聞き覚えのある響きで……その理由は、すぐに分かった。


 その声の主は、茂みから勢いよく飛び出して来る。とてもよく見慣れた、美しい毛並みの純白の獣だ。


「もふもふ!」


 私が名を呼ぶと、もふもふは返事をするように一度吠える。けれど次の瞬間には驚くべき跳躍力で私たちと魔獣の間に割って入り、低く牽制の唸り声を上げた。

 殺気立っているのだろう、ぴりぴりと豊かな毛が逆立っている。


 もふもふは、恐れを知らないのか、一直線に魔獣に向かっていく。

 一方で、もふもふを見た魔獣は、獣の本能で彼我の力の差を察したのだろうか、怯んだように後ずさると、尻尾を下げて、もふもふとは逆方向へ走り出した。

 もふもふは逃すまじ、というように追いかけるけれど、魔獣はやがて、闇に溶けるように姿を消した。

 敵を見失ったもふもふは、しばらく鼻を鳴らして魔獣の臭いを探っていたようだけど、諦めたのか、私たちの元に戻ってきた。


「もふもふ」


 名を呼ぶと、もふもふは私の側にやって来た。そして頭を差し出す。撫でて欲しいのポーズだ。要求に応じて撫でると、もふもふは気持ち良さそうに目を細めた。


「助けてくれて、ありがとう。でも、どうやって、こんなところまで来れたの?」


 謎は尽きない。もふもふは一体どうやって、ここまでやって来たのだろう。学園が変わる前に会いたかったけれど会えず、母に、私がいない間のもふもふの世話を頼んでいたところだ。


 母が管理する土地は緑豊かで広いので、もふもふも過ごしやすいだろうけれど、ここは王都だ。それこそ魔獣と間違えられて追い立てられたりしないだろうか。

 このまま家に連れ帰った方がいいのでは? と考えていると、


「もふもふは大丈夫ですよ」


とルイーゼが言った。何の根拠もない言葉に、


「いや、そんな大丈夫じゃないでしょう……って」


って突っ込もうとして、ちょっと私がルイーゼに視線を移した隙に、もふもふは姿を消していた。まるで、その場から忽然と消滅したかのように。


(足音もしなかった)


 私は首を傾げる。でも、これだけ気配を消すことができるからこそ、王都で捕えられたりすることなく、安全にここまで移動できたのだろう。


(でも、何だろう)


 ふと校舎の屋上に掲げられた王家の紋章を見やる。風にはためく旗に描かれたその紋章は、王国の守護をする聖獣がモチーフの意匠で……何だかもふもふに似ているような気がした。

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