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私から全てを奪っていく義妹から逃れたい  作者: しののめ


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15-3

 握手しようとしていた私の手が、所在なく宙に浮く。

 その一方で、ユーグ様に相対するルイスのこめかみが、心なしかピクピクしているような気がした。


「カイン王子はアメリの婚約者でしょう。うかつにアイリーンが近付いたら、口さがない連中に何を言われるかーーカイン王子の側でずっとアメリを見てきた貴方に、分からないわけはないですよね?」


 アメリとそのお供たちに、校舎裏に呼び出されて、やいやい責め立てられる光景が眼裏に浮かんで、想像の中なのにげんなりした。


「アイリーンのファンだと言うのなら、彼女の立場を考えていただきたいですね」


 ルイスは表面上は愛想良く微笑み、しかしきっぱりと言い放った。


「アイリーンのことは、そっとしておいてくれませんか。ただでさえ、カイン王子の尊大な婚約者様から目の敵にされているんですから」


 言外に、迷惑だから近付いてくれるな、と牽制している。いや、まあ私も同感なんだけど、相手は宰相の息子だ。


(あんまり突っかかると、ルイスの立場が悪くなるかも)


 もうちょっと穏便に、と思って私は肘でつついてみるけど、ルイスは挑発的な視線をユーグ様に向けたまま逸らしもしない。

 するとユーグ様は、探るような瞳でルイスをじっと見つめ、


「君はアイリーンの騎士なんだな」


と意味ありげな口調で、そう言った。さらに、


「いつもアイリーンの側にいるよね」


と付け加えられ……どきり、とした。


 女の子の格好をしたルイーゼは、確かに私の側にいることが多い。けれど、男の子の格好をしたルイスが家以外の場所で私の側にいたのは、学園の舞踏会、あの一度きりだ。

 だけどユーグ様は「いつも」と断定した。


 つまりそれは……。


(ルイーゼがルイスだということを悟られてる?)


ってことじゃないだろうか。

 同じことをルイスも考えたのだろう、彼の体が強張ったのが分かる。


 けれどユーグ様は、軽く肩をすくめた。


「心配する必要はないよ。多分、僕が誰に何を訴えても無駄だし。どうやら君は、とても強い力で守られているようだから」


 その言葉の中に、ちくりとした毒を感じた。

 ……何となくだけど、ユーグ様はルイスに対して、あまり良い感情を抱いていないように感じた。今のルイスの態度はすこぶる悪いから、第一印象は最悪かもしれないけど、何だかそれとはちょっと違う感じで。


(もっと根が深いように感じる)


 そんな私の考えを察したのか、ユーグ様は軽く頭を振ると、気を取り直したように爽やかな笑顔を浮かべる。


「これ以上、君たちの邪魔をするのも悪いから、そろそろ失礼しようかな。ーーじゃあ、また」


 そう言って軽く手を上げると、くるりと踵を返して去っていった。

 ルイスはそんなユーグ様の後ろ姿を、険しい瞳で見送っている。ーー何だか、いつになくピリピリしていた。


「ルイス?」


 覗き込みながら声をかけると、はっと我に返ったようにルイスが目を瞬かせる。


「あ、ああ、すみません。少し考え事をしていました。……あ、これ」


 思い出したようにルイスは、先ほど椅子に置いた袋から飲み物を取り出して、私に渡してくれた。温かかっただろう珈琲は、すっかり冷めてしまっていたけど、妙な緊張感で喉が渇いていたので、十分美味しく感じた。


「じゃあ、帰ろうか」


 私が足元の荷物を手に取ろうとすると、すぐにルイスが手を伸ばして半分以上、持ってくれた。けれど、ルイスはまだ何か気になることがあるのか、立ち止まったままだ。


「ルイス?」


 呼びかけると、彼は一度、口を開け何か喋ろうとしてーーまた閉ざしてしまう。


「どうしたの?」


 伝えたいことがあるのなら、吐き出した方がすっきりするだろうと思って、言葉の続きを促す。するとルイスは、どこか思い詰めたような表情で口を開いた。


「アイリーン」

「ん?」

「私が何者でも、アイリーンは側にいてくれますよね?」


 ルイスの瞳が迷子の子供のように揺らぐ。その中には不安の色が浮かんでいた。

 ルイスが時々、こんなふうに不安を口にするのは、私たちに血の繋がりがないせいなのかな?

 血の繋がりは大事な部分もあるけれど、全てではない。現に私は、半分血の繋がったアメリより、ルイスの方が数万倍、大事だ。


「当たり前じゃない。…‥というか何者でも、とか言われてもルイスはルイスでしょう」


 私は即座に答えた。

 ……まあ、ルイスはルイーゼでもあるけれど。本質は変わらないし、かけがえのない大切な存在だ。

 私の答えを聞いたルイスは、ほっと安堵の息をついたように見えた。けれど。


「アイリーン、手を繋いでもいいですか?」


 それでもまだ不安なのだろうか。いつもの自信満々な様子はなりをひそめ、まるで子犬のような瞳で見つめられると、嫌だ、なんて言えるわけない。


「いいよ」


 私の方からルイスの手に触れた。何故だろう、ルイスの手が少しだけ震えていたから、私は彼の手を包み込むように握りしめた。


 すると、少しずつルイスの体から余分な力が抜けて行くのを感じた。握り返してくるルイスの手は、ほんのり温かかった。

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