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私から全てを奪っていく義妹から逃れたい  作者: しののめ


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14-3

 翌日、朝一番に全校生徒が講堂に集められた。

 王立学園の講堂は当然のように広く立派で、設備も充実している。重厚な緋色の緞帳や、舞台を照らす照明。さながら小さな劇場といった規模だ。


 控え室なんかもしっかりあって、私はそこで舞のための衣装に着替えさせられた。


(練習の時の衣装より繊細な感じ)


 真っ白な衣装は、裾の部分が薄く幾重にも重なり、踊る時にひらめく様は幻想的に見えるだろう。腕には小さな鈴がついた腕輪。頭にも純白のヴェール。


 ……なんか、変な道化師みたいな衣装でも着せられるかも、と少し懸念していたけれど、ちゃんとした衣装だった。


(私がぼろぼろの衣装を着てたら、いかにも意地悪されたって感じだものね)


 さすがに人の目を気にしたらしい。


 なお、踊りの順番はアメリが先だった。先んじて完璧な舞を見せつけることで、私にプレッシャーをかける魂胆だろう。


 次の演技を控えている私は、舞台の袖からアメリの舞を見ることになる。


「お姉様のために、精霊の愛し子の私がお手本を見せて差し上げるわ」


 私と同じ衣装を身にまとったアメリはそう言ったのち、自信に溢れた様子で舞台の中央へ移動した。


 音楽が流れ始める。……昨夜、何度もルイスに聞かされた耳慣れた旋律。それに合わせて、アメリが動き始めた。


 果たして、ルイーゼの言うことは本当だった。


(本当に、教えてもらった舞だ……)


 アメリが踊り始めた舞。それは確かに子供の頃から慣れ親しんできた舞だった。

 指先の動き、そして美しい姿勢の保ち方。昨夜、おさらいでかなり厳しく指南されたところは、きっちり修正はできているはずだ。

 でも、それは私の緊張を和らげる手助けには、あまりならなかった。


 ーーアメリの舞。


 さすが、幼い頃から行ってきただけあって美しい。誰かに見られることを前提とした堂々とした舞だ。

 この後に踊るのかと思うと、憂鬱になる。私は胃のあたりを右手で押さえた。


 やがて、アメリが舞を終えた。沸き立つような拍手が観客から送られる。アメリは、それに満面の笑顔で応えていた。


 そしてアメリが終わった、ということは、次は私の番ということだ。


 満足げな表情で舞台袖に引いたアメリが、すれ違いざま、くすりと嗤って一言、声をかけてきた。


「頑張って私の引き立て役になってくださいね。お姉様」


 本当に、どうしてこう、嫌がらせをしてくるのかな。精霊の愛し子の地位は確立しているのだから、私に構う必要はないはずなのに。


(だけど……)


 今はアメリに対する怨嗟の思いは捨てなければ。だってこれは、精霊に捧げる舞。清浄な心が求められるのだから。


 大きく深呼吸をし、意を決して、私は舞台へと足を踏み出した。

 舞台の上から見る景色は、袖から眺めているものとは、また違うものだった。

 満員の客席。会場のざわめき。みんなの好奇の視線が突き刺さるようだ。


 こんなに大勢の人の前で何かをした経験がない私の心が、一気に怖気付く。


 ーーでも。


 すぐに私の視線はひと所に釘付けになった。


 私の目を引いたのは、他でもない。


(ルイーゼ。なんで貴女、そんな一番前の席を陣取っているの……)


 一番前のど真ん中……よりちょっと右側寄りの席に、ルイーゼは泰然と腰掛けていた。

 ルイーゼは私の視線に気付くと、胸の辺りで「頑張れ」というように軽く両手を振る。私が失敗するなんて、夢にも思っていない信頼の表情。その姿を見ると、なんだかすごく、心が落ち着いた。


(うん。大丈夫)


 精霊のため、そしてルイーゼのために、私は踊ろう。


 照明の明かりが私に降り注ぎ、観客のさざめきが静まる。私は彼らに一礼をしたのち大きく息を吸いーー両手を組み、祈りを捧げるよう、天を仰いだ。それが、最初の動き。


 音楽が奏でられーー腕を動かすと、鈴の音が軽やかに鳴った。


 体が、踊りを覚えている。染み込んでいる、と言っても過言ではない。緊張していても、体が勝手に動いてくれる。

 私の体は、この上なく自然に、音楽に合わせて動き出した。


 指先まで意識して、精霊に祈りを捧げる。


 足を捌くたびに裾がひらひらと舞って、優しい風に包まれているよう。

 音楽に調和するかのように強弱をつけて鳴る鈴は、まるで川のせせらぎのよう。


 きっとこの踊りは、この世界への感謝の気持ちを表すために作られたものだろう。


 私の中から少しずつ人としての意識が剥がれていき、魂が自然と一体化していく。


 ーーこの舞を踊ると、いつも何故か、右肩の後ろ側がほんのり熱くなる。でもその熱さは決して嫌なものではなく、むしろ心地よい。誰かに守られ、包まれている、そんな安心感。


 時に優しく、時に力強く。


 俗世のことは全て頭の隅に追いやられ、ただただ自分の動きが、精霊に捧げられるものだということだけが、全てだった。

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