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私から全てを奪っていく義妹から逃れたい  作者: しののめ


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12-3

 ……誰だろう、この馴れ馴れしいのは。

 不審に思って、腰に回された腕から逃れようとしたけれど、思いの外、強い力が私の動きを制す。

 それどころか手の主は私を引き寄せながら、御令嬢に向けて、


「こんにちは」


と挨拶した。その声を聞いて……私は気付く。聞き慣れているはずなのに、聞き慣れていない。そんな声。

 振り仰ぐと、息を呑むほど綺麗な少年が、私を見下ろしていた。


(ルイーゼ!)


 そこには男装した正装姿が様になった義妹……否、義弟の姿があった。


 ……………。


 最早、自分でも何を言っているのか分からない。


 ただルイーゼ……ルイスは、そんなことがどうでも良くなるくらい、惚れ惚れするような貴公子ぶりだった。


 まあ美少女ですからね。男装したら当然のように美少年でした。


 でも、ルイスは男の子なんだから、男の子の格好をしていても全然おかしくないはずだし、実際に家では男の子の格好をしているんだけどーーこうして正装した姿を見ても、どうしても男装しているようにしか見えない。


 うん、私はまだまだ、ルイーゼの方が見慣れているんだよね。


(みんなには違和感なく男の子に見えるんだろうな)


 少年らしい、すらりとした細身の体躯。整った顔立ちは、まるで天使ようだ。多分、この会場にいる誰よりも綺麗だ。

 私に突っかかっていた御令嬢が、ぽーっとした顔で美しい貴公子のルイスに見惚れている。そんな御令嬢に対し、


「私のアイリーンに、何の御用でしょう?」


と、そう言ったルイスは、私のこめかみあたりに軽く唇を押し付けた。


(………!?)


 私の顔は一瞬にして、ぽっと熱くなる。


(キス、した……!?)


 ルイスが私を助けてにきてくれたのは分かる。すごくほっとしたりもした。……でも、こめかみにとはいっても、キスする必要、ある?

 御令嬢もルイスの奇行に目を丸くしている。そんな彼女に、ルイスは艶やかに微笑みかけながら口を開いた。


「お二人の会話が聞こえていたのですが……私も君の言うとおり、アイリーンはとても可哀想だと思います」


 すると、はっと我に返った御令嬢が、ルイスの言葉に「我が意を得たり」とばかり、満足げに頷く。


「そ、そうですわよね。妹たちの方が出来が良くて、姉として面目が立たないですわよね」


 その妹の一人が、目の前の美少年なんですよ、お嬢さん。というか、


(ルイーゼって分からないないものなのね)


と驚く。確かに声がいつもより低く、話し方も、丁寧な口調はそのままだけど、どこか男の子っぽいけれど。


 そして、その美少年は、結構「いい性格」をしているのだった。


「いえ、そういう意味ではなく」


 ルイスは、誰もが惚れ惚れとする笑みを浮かべた。


「君のような程度の低い輩に絡まれるなんて、アイリーンが可哀想でなりません。アイリーンの人生の何の役にも立たない。時間の無駄ですね」


 ……………。


 う、わぁ……。きつい。きついよ、言動が。


 目の前の女の子が、言われた内容への理解が追いつかず、ぽかんとしている。やがて、痛烈な皮肉を投げつけられたのだと理解した御令嬢は、屈辱のためか、みるみる間に顔を赤くした。

 そして、はっと思い付いたように反撃する。


「貴方、見ない顔ですわね。ここは部外者立ち入り禁止ですわよ」


 不審者として主催者に連絡しようかしら、そんな言葉で暗に脅す。私はたちまち不安に陥った。部外者として連絡されたら、ちょっとまずいかもしれない。


(ルイスは女の子として学園に通っているから……)


 そもそも、招待状なしに、どうやって会場に入り込んだのだろうか。そんな私の心配を察したのか、ルイスは安心させるよう私を優しく見遣ると、


「招待状はありますよ」


と懐から招待状を取り出し、ご令嬢に向けてひらひらさせた。しかし御令嬢は食い下がる。


「偽物ですわ。中身を確認させなさい」

「構いませんよ」


 ルイスは素直に招待状を差し出す。しかし、それを受け取ろうとした御令嬢に、


「でも」


と言葉をかけた。招待状を受けと売ろうとしていた御令嬢の手がぴくりと止まる。


「これを本物だと確認した君は、一体どのようにして、私に対するけじめをつけるのでしょう」

「……え?」


 ルイスの静かな問いかけに、御令嬢は言葉を詰まらせる。そんな彼女に、ルイスは容赦なく畳み掛けた。


「正当に招待された私を、部外者だと公に糾弾し、恥をかかせた。そのけじめを、どう付けるのか、とそう聞いているのですよ」


 そう、ルイスの言うとおり、この招待状が本物なら、この御令嬢は正式な招待者に言いがかりをつけ、挙げ句の果てに偽物扱いしたことになる。しかも、相手がもし格上の身分だったならば、不敬では済まされない失態だ。


「そうですね……」


 ルイスは顎に手を当てながら少し考え、ふと思いついた案を披露する。


「招待状を確認後、この場で膝をついて、私とアイリーンに許しを乞うてもらいましょうか」


 余裕たっぷりにそう言ったルイスは、綺麗なのに毒のある笑みを浮かべた。対する御令嬢は、凍りついたように動かない。


「どうしたんですか? 早く中身をあらためてください」

「……っ」


 ルイスの絶対の自信を感じる表情に、御令嬢は尻込みしたようだ。


「な、何ですの、アメリ様のおこぼれに預かる存在で……興が覚めましたわ」


 自分の方が分が悪いと考えたのだろう、結局御令嬢は招待状を確認せず、肩を怒らせて私たちの前から去っていったのだった。

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