12-1 舞踏会への誘い
王立学園というものは学業に専念するための場所だ。とは言っても、王侯貴族のための学園でもあるため、社交や礼儀作法にも力を入れている。
その一環として、学内舞踏会なんかが定期的に開催されていたりする。
その舞踏会は一年に四回、開催されている。そのうちの三回は、マナーの授業の一環として行われるため、全員参加が基本だ。別にドレスを着るわけでもなく制服を着てダンスをし、立食パーティーでの振る舞いを学ぶ場だ。
でも、近く行われる舞踏会は特別で、規模も最も大きいものだ。
これは他の舞踏会と違って誰でも参加できるわけではない。外部のやんごとない来賓も呼ぶ、選ばれた者だけが参加できる格式高い舞踏会……らしい。
(つまり王族や貴族と招待客だけってことね)
学園は優秀な一般市民も積極的に受け入れているんだけど、どうしても、そういう区別は無くせないようだ。
まあ、でも私も基本、一般市民枠みたいなものだから、この舞踏会には参加する必要もなさそうだ。ありがたい。
(ほんと、舞踏会って気を遣うことしかないものね)
私も一応貴族の娘だから、舞踏会の経験がないわけではないし、礼儀作法も叩き込まれてはいるけれど、苦手なものは苦手だ。
……と、そんなお気楽なことを考えていた時が私にもありました。
「お姉様、少しよろしくて?」
麗らかな昼下がり。昼食に行こうと席を立った私の元に、アメリとその取り巻きたちが立ちはだかった。
心底うんざりしたけれど、だからといって無視することもできない。
「何か御用ですか?」
私は儀礼的に口を開いた。その表情が気に入らなかったのか、アメリは口に手を当てて、
「まあ、不細工なお顔。そんなことでは、殿方に相手されませんわよ」
と言って笑った。取り巻きも、
「本当に、そのとおりですわ」
と相槌を打つ。
余計なお世話だわー。……って心の中では思っているけれど、実際は穏やかな表情を作って相手の出方を待つ。
アメリも、そう時間がないらしく、反応に鈍い私の手に何かを押し付けた。
「私は貴女みたいに暇ではありませんし、要件は手短に済ませましょう。実は、これをお姉様にお渡ししようと思いまして」
それは白い封筒だった。
この学園の校章の透かしが入ったもので、学園の催しの際にしか使用されないものだ。表面にはお洒落な書体で「招待状」と書かれてあった。
招待状。……不吉な響きだ。
「これは……」
「学園で開催される舞踏会への招待状ですわ」
言ってアメリがくすりと嗤った。
「畑を耕すような貧しい暮らしをしていらしたお姉様に、華やかな舞踏会を経験していただきたいのです」
なんて、善意のような理由をくっつけてきて、取り巻きの子たちから「流石アメリ様、このような下賎な者にもお優しい」なんてお追従を受けているけど……何を企んでいるのやら。
だいたい、この子はどうして私に、こんなに絡んでくるのだろう。家から追い出した、で満足してくれませんかね?
それにしても。
(舞踏会か……)
舞踏会は、基本的に参加者はパートナーと一緒に参加するものなんだけど、アメリが、
「でも、貴女のパートナーになってくれる殿方なんているのかしら」
と意地悪く微笑んだから、魂胆は分かった。
……私のパートナーにならないよう、ご丁寧に各方面へ根回ししているのだろう。
「まあ、パートナーがいなくても舞踏会に参加できないわけじゃないから、大丈夫よ」
パートナーがいなくても、こうして大々的に精霊の愛し子のご招待を受けているのだ、出席しないわけにはいかない。
(気が重いなぁ……)
何でも手に入れているはずのこの子は、どうしてこうも私を目の敵にするのだろうか。自慢じゃないけど、私って何の脅威にもならないと思うの。
しかし、舞踏会に一人で参加か。好奇の目に晒されるから、さすがにちょっと居心地悪いし、悪目立ちしそうだ。
(恥をかきに行くようなものだよね)
もちろん、アメリはそれを狙って、私を招待したわけだけだろうけど。
憂鬱な気分の私とは正反対に、言うことを言ったアメリたちは、
「では、ごきげんよう」
と、満足そうな様子で去って行ったのだった。




