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リオーネ家を叩き出された私たちだったけれど、まあ、母は有力貴族に嫁ぐくらいなのだから、本人も良家の出だ。婚家を追い出されたからといって即座に路頭に迷う、ということには流石にならなかった。
けれど、一方的に離縁されたとなれば、母には非がないとはいえ外聞が悪い。ほとぼりが冷めるまで、と実家であるランベール家より、王都から少し離れた地に小さな館と土地を与えられた母は、そこで娘である私と暮らすことになった。
世間知らずの良家の娘。婚家を追い出され打ちひしがれる……と思いきや、母は逞しかった。
元々、愛ある結婚ではなく、単なる政略結婚だ。
「あんなろくでもない男と別れられて、清々したわ」
リオーネ家を出る際、母はそう言って、私の頭を優しい手で撫でてくれた。
それもまた真理だったのだろう。先にも述べたとおり「元」父の屋敷にいた頃の私たちは、愛人とその娘に遠慮して、屋敷の隅で小さくなって過ごしていたのだから。
元父からは疎まれ、第二夫人とその娘からは蔑まれ、使用人たちからも蔑ろにされ、私たちの自由になることなんて、何一つとしてなかった。
だから、これできっと良かったのだと思う。
「これで、貴女を私の手で育てることができる。今まで辛い思いをさせてしまって、本当にごめんね。私は貴女を守れるよう、必ず強くなるから」
抱きしめてくれる腕に、私は心から安堵した。母と一緒なら、どんなに辛いことでも乗り越えられると、そう信じられた。
さて、母には何か隠れた才能があったのだろう、農業に目覚め、いつの間にか大農園を築いていた。
「今日は緑菜がたくさん採れたから、フェルナンに緑菜料理をしてもらおうと思うの」
野菜がこんもり乗った籠を嬉しそうに見せてくる母の側には、いつの間にか一人の男性が影のように立っていた。
「腕を振るいます」
このフェルナンという男性は、うちの執事みたいな人だ。年は三十代くらい、執事っぽい服を着ているけれど、それでは隠しきれない鍛えた体を持っている。彼は、ある日ふらっとやってきて、いつに間にか居着いていた。
ちょっと母と、いい雰囲気な気もする。
……閑話休題。
さて、他に私たちと暮らしているのは、一人と一匹。そのうち一匹は、真っ白い毛並みをもふもふさせた狼のような獣だ。しなやかな筋肉と相まって、とても気高い雰囲気を醸し出している。
この純白の獣は、決して飼っているわけではない。そういうわけで、いつも家にいるわけではないのだけれど、気紛れにふらっと現れて、私たちと過ごし、いつの間にかいなくなっている。そんな同居人……同居狼だ。
半分野生の生き物だから、特に名前をつけてはいないけれど、もふもふ、と呼んでみると、近寄ってきて舐めてくれるので、必要な時は、そう呼んでいる。
そのもふもふは、特にルイーゼと喧嘩した時には、いつの間にか側にいて私を慰めてくれる存在だ。
でも、部屋で一緒に眠っていると、朝にはいなくなっているのだった。
また、私がいじめられたりした時に、不意にやってきて、先ほどのように仕返ししたりしてくれる。どうやって察知しているのかは、未だに謎だ。
そして、もう一人の同居人。それが先ほどの血の繋がらない妹、息を呑むほどの美貌を持つルイーゼだ。
彼女が我が家にやってきたのは、まだ私たちがリオーネ家から追い出されて間もない頃のことだった。