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私から全てを奪っていく義妹から逃れたい  作者: しののめ


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9 カイン王子

 カイン王子と遭遇して、十日余りが過ぎた。あの日以降、カイン王子の姿を教室で見ることもなく、アメリと取り巻きからは理不尽に突っかかられるものの、それ以外のクラスの子達は遠巻きに眺めているだけで、別に積極的に意地悪をしてくるわけでもない、平穏といえば平穏な日々が続いていた。


 さて、王都一の学園の敷地内には、充実した蔵書が魅力の大きな図書館が建てられている。煉瓦造りの重厚な作りで、雰囲気も良い。何より、アメリは読書嫌いなので、滅多にここに寄り付くことがない。つまり心穏やかに過ごせる場所であり、私のお気に入りの場所だ。


 ちょっと校舎から距離があるのが難点だけど、歩くだけの価値はある。というわけで、授業を終え、目当ての本を借りるために図書館へ急いでいると。


(う……)


 途中で私は足を止めた。見つけてはいけないものを見つけてしまったのである。


(カイン王子だ……)


 制服を着ているため一般の学生と変わらない格好をしているのに、遠目にも一目で見る分かる特別な存在感があった。流石は王族。

 でも、王子ともあろう方が、何故、一人でこんなところに?


(学園内は警備が行き届いているとはいえ、不用心でしょう……)


 何にしても、アメリの関係者と接触するのは面倒だ。そう考えて身を隠そうと試みたけれど。


 後ずさった時に何かの枝を踏んでしまって、パキッと思いの外大きな音がした。


「……!」


 息を呑む。なんて間が悪いのだろう。


 物音と人の気配に気付き咄嗟に振り返ったカイン王子の瞳が、私の姿を捉えた。私の存在を認識した彼は、つかつかと長い足で近寄ってきて、


「お前はアメリの……」


と話しかけてきた。


 ……うーん、ここは気付かないふりをして欲しかったなぁ。でも、王子様に声をかけられたのに答えないわけにもいかない。名前を覚えていなさそうな雰囲気だったので、


「異母姉の……」


と名乗ろうとしたがけれど制止され、


「アイリーン、だったな?」


と名を呼ばれた。どうやら覚えていたらしい。


「はい」


と答え、丁寧に頭を下げ礼を取ると、カイン王子は探るような瞳でじっと私を見つめてきた。すぐに立ち去ってくれそうにない。


「あの、私に何か………?」


 何か知らない間に無礼な真似でもして、不快な思いをさせてしまったのだろうか。不安に駆られる私を見つめていたカイン王子は、やがて不審げな面持ちで私に問いかけてきた。


「何故、この学園に? お前にとって、ここは決して居心地の良い場所ではないだろう?」


 こんな質問をするということは、カイン王子は、私がほとんど強制的に編入させられた件に関わってはいないようだ。


(アメリの独断ってことかしら)


 そしてカイン王子は、私とアメリとの関係が良好でないことは察してくれているらしい。ならば嘘をつく必要もないので、正直に事実を答える。


「アメリが、私を推薦したそうです」


 するとカイン王子が顔をしかめ、右手で額を押さえつつ、唸るように言った。


「そのような気はしていた。……何故、皆、アメリの我儘を聞いてしまうのだろうか。精霊の愛し子とはいえ、権力を私利私欲のために使うべきではないと、いつも言い聞かせているし、周りもそうするべきなのだが」


 とても真っ当な意見を述べたカイン王子は、さらに驚いたことに……私に対して頭を下げたのだった。


「すまなかった」


 びっくりしすぎたのは、アメリの婚約者だから、きっと同じように理不尽な人かもしれない、という先入観がありすぎたせいかもしれない。今まで話を聞いている限りは、良識ある方だと感じてもいたはずなんだけどな。


「いえ、王子のせいではありませんから」


 その言葉に嘘はない。私に一々絡んでくるのはアメリであり、その行動はアメリの意志で行われいて、カイン王子には何の関係もない。


「それに、私は一人ではないですし」


 そう、本当に奇跡的に、私は義理の妹と一緒に編入することができて、孤独を感じずに済んでいる。アメリは面倒だけれど、ルイーゼが見ているから、私はお姉さんらしく頑張らないとって思えて、踏ん張れる。

 そんな私の事情を、けれどカイン王子は知る由もなくて、私が虚勢を張っているとでも感じたのだろう、


「それなら良いのだが……元の学園に戻れるよう、手配することもできるが」


と気遣わしげに提案してくれた。その気持ちは嬉しいし、王子として素晴らしい人物だと、掛け値なく思う。思うけれど。


「いえ、カイン王子と個人的にお話ししたと思われると、逆効果だと思いますから」


 なんというか、アメリのことだ。カイン王子が私のために奔走したと知ったら「身の程知らずにも、私の婚約者に言い寄った」とか言ってきかねない。


「そうか。……そうかもしれないな」


 納得してくれた。良かったぁ。


「ならば、なるべく快適に過ごせるよう、気にしておこう」


 ……いやいやいや、気にしなくていいですから。放っておいてくださいな。


 そう思ったけれど、まさか本当に言えるはずはない。


「王子のお心遣いに感謝いたします。ですが、どうか私とこうして個人的に会話したことは、ご内密に」


 特にアメリに。そう強く念じていると、必死の思いが届いたのか、カイン王子はちょっと気圧された様子で、


「分かった。秘密は守ろう」


と頷いてくださった。

 これでカイン王子も、私と距離を置いてくれるに違いない。

 カイン王子は、決して非常識な性格ではないようだから、彼自身には何の問題ない。けれど彼と関わるということは即ち、アメリと関わると同義だ。だから王子と私はお互い、見知らぬ者同士に戻るのが最良だと思います。


 そんなふうに、今後、関わらない気満々だった私は、立ち去る私の背中をカイン王子がじっと見送っていたことなど、知る由もなかったのだった。

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