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7-2

 後ろからばさっと布をかけられ……そのまま、ぎゅっと抱きしめられた。耳元で少し低めの声が、私に囁きかける。


「私以外の人の前で、こんな無防備なことしたら、だめですからね」


 ルイーゼは服のまま川に侵入したらしい。どうせ入るなら、服が濡れないよう、脱いじゃえば良かったのに、ってちょっと思った。

 それに過保護すぎる。


「いや、無防備って。水浴びしてるだけだし」


 それに対する答えはなく、ルイーゼはますます、ぎゅうっと私の体を抱きすくめる。……ルイーゼって女の子の割に力が強いから、結構、締まる。


「ちょっと、苦しいって」


と堪らず抗議の声を上げると、不意に右肩の辺りに、少し濡れた感覚がした。ルイーゼの唇が触れたようだ。


 いくら女の子どうしだからといっても、ちょっと恥ずかしくない?


「ルイーゼ」

「うん?」


 何でもないような様子のルイーゼに、私は硬い声で告げる。


「引っ付きすぎ。まあ、貴女は女の子だから許すけど、男の子だったら張り倒しています」


 すると飄々とした声で答えが返ってきた。


「そう? 張り倒されるのは嫌ですね」


 そう言いながら、さらにぴったりとくっついてくる。

 まあ、ルイーゼは女の子だから張り倒しませんけどね。

 ただ。


(せっかく涼みに来たのに、むしろ暑い……)


 私は最早、ルイーゼがくっつくがままに任せ、諦めて空を見上げたのだった。





 さて、泉のほとりで水浴びを楽しんだ私たちだったけれど、私が着替えを持って行っていた一方で、ルイーゼは手ぶらだったものだったから、彼女は家に帰り着くまで、濡れそぼっていた。

 家に戻るとすぐに、


「このままじゃ、風邪ひくわよ」


と言って、お風呂に入るように促すと、本人も少し寒かったのか、素直に私の言葉に従ってくれた。

 ルイーゼを見送った後、私は籠に入れていた着替えとタオルを洗濯場所に持って行く。


「ん?」


 籠からタオルを取り出すと、底に、きらりと光る何かが入っている。取り出してみると、それは狼のような動物を模した指輪だった。

 それは、ルイーゼがこの家に来た時、まだ指に嵌めることができなかったためか、ペンダントのようにして首飾りにしていたものだ。多分、離れ離れになった家族との思い出の品なんだと思う。


 ルイーゼはいつも、


「生まれた家になんて、何の思い入れもない」


って仏頂面をして言うんだけど、この指輪は肌身離さずつけているから、やっぱり大事なものなのだと思う。

 泉で戯れていた際に、入っちゃったのかな?


 早く返してあげないと探しているかもしれない、と思った私は、ルイーゼがいるお風呂場に向かったのだった。


(そういえば、ルイーゼとは一緒にお風呂にも入ったこと、ないんだよね)


 あんなに引っ付いてくるのに、肌を見せることには抵抗があるらしい。恥ずかしがり屋さん?

 でも、まあ、親しき者にも礼儀あり、だからね。嫌がっているのなら、無理に見る必要はない。


 私はお風呂場に辿り着くと、扉に耳を当てて、脱衣所が無人であることを音で確認する。まだルイーゼは浴室にいるようだ。それなら、一言声をかけて、脱衣所に指輪を置いておけばいいかな?

 そう思いながら、脱衣所に入るため、そろそろと引き戸を開ける。


 と、その時。


「誰!?」


 鋭い声が響いて、浴室の扉が勢いよく開いた。

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