7-2
後ろからばさっと布をかけられ……そのまま、ぎゅっと抱きしめられた。耳元で少し低めの声が、私に囁きかける。
「私以外の人の前で、こんな無防備なことしたら、だめですからね」
ルイーゼは服のまま川に侵入したらしい。どうせ入るなら、服が濡れないよう、脱いじゃえば良かったのに、ってちょっと思った。
それに過保護すぎる。
「いや、無防備って。水浴びしてるだけだし」
それに対する答えはなく、ルイーゼはますます、ぎゅうっと私の体を抱きすくめる。……ルイーゼって女の子の割に力が強いから、結構、締まる。
「ちょっと、苦しいって」
と堪らず抗議の声を上げると、不意に右肩の辺りに、少し濡れた感覚がした。ルイーゼの唇が触れたようだ。
いくら女の子どうしだからといっても、ちょっと恥ずかしくない?
「ルイーゼ」
「うん?」
何でもないような様子のルイーゼに、私は硬い声で告げる。
「引っ付きすぎ。まあ、貴女は女の子だから許すけど、男の子だったら張り倒しています」
すると飄々とした声で答えが返ってきた。
「そう? 張り倒されるのは嫌ですね」
そう言いながら、さらにぴったりとくっついてくる。
まあ、ルイーゼは女の子だから張り倒しませんけどね。
ただ。
(せっかく涼みに来たのに、むしろ暑い……)
私は最早、ルイーゼがくっつくがままに任せ、諦めて空を見上げたのだった。
☆
さて、泉のほとりで水浴びを楽しんだ私たちだったけれど、私が着替えを持って行っていた一方で、ルイーゼは手ぶらだったものだったから、彼女は家に帰り着くまで、濡れそぼっていた。
家に戻るとすぐに、
「このままじゃ、風邪ひくわよ」
と言って、お風呂に入るように促すと、本人も少し寒かったのか、素直に私の言葉に従ってくれた。
ルイーゼを見送った後、私は籠に入れていた着替えとタオルを洗濯場所に持って行く。
「ん?」
籠からタオルを取り出すと、底に、きらりと光る何かが入っている。取り出してみると、それは狼のような動物を模した指輪だった。
それは、ルイーゼがこの家に来た時、まだ指に嵌めることができなかったためか、ペンダントのようにして首飾りにしていたものだ。多分、離れ離れになった家族との思い出の品なんだと思う。
ルイーゼはいつも、
「生まれた家になんて、何の思い入れもない」
って仏頂面をして言うんだけど、この指輪は肌身離さずつけているから、やっぱり大事なものなのだと思う。
泉で戯れていた際に、入っちゃったのかな?
早く返してあげないと探しているかもしれない、と思った私は、ルイーゼがいるお風呂場に向かったのだった。
(そういえば、ルイーゼとは一緒にお風呂にも入ったこと、ないんだよね)
あんなに引っ付いてくるのに、肌を見せることには抵抗があるらしい。恥ずかしがり屋さん?
でも、まあ、親しき者にも礼儀あり、だからね。嫌がっているのなら、無理に見る必要はない。
私はお風呂場に辿り着くと、扉に耳を当てて、脱衣所が無人であることを音で確認する。まだルイーゼは浴室にいるようだ。それなら、一言声をかけて、脱衣所に指輪を置いておけばいいかな?
そう思いながら、脱衣所に入るため、そろそろと引き戸を開ける。
と、その時。
「誰!?」
鋭い声が響いて、浴室の扉が勢いよく開いた。