6-2
「お久しぶりですわね、お姉様」
嫣然と微笑むアメリの脇を、四人の取り巻きが、がっちりと固めていた。アメリの前後左右の席を陣取っていた女の子たちで、みんな似たような雰囲気だ。流石に、他のクラスメート達みたいに放っておいてはくれないらしい。
……それにしても、道の真ん中で取り囲むの、やめてほしいな。通行の邪魔になってるし。
(はぁ……)
心の中で溜息をつく。だいたい私から話すことなんて、何もない。というか、私から話しかけたら「無礼者」とか言われかねないし。
唇を引き結んだままでいると、私が屈辱で言葉も出ない状態とでも思ったのか、アメリは、
「惨めですわね」
と言って、満足げに唇の端を上げた。
「『元』正妻との間に生まれた貴女が、私のおこぼれで学校に通えるなんて。本当に、落ちぶれて可哀想ですこと。そう思うでしょう?」
アメリの言葉に、取り巻きたちが「本当ですわね」とか言いながら、一斉に振り子のように首を縦に振る。
私、王立学園に通いたいなんて言ったかなあ? 前の学校も、教育の質は高くて、すごく有意義に過ごせていたんだけどな。
まあ、私の事情なんて、アメリには知ったことではないのだろう。
「皆様にはあらかじめ、伝えておきましたわ。田舎暮らしが長い貧乏性の姉ですから、貧乏臭さが移るかもしれませんが、よろしくお願いしますってね」
「あら、アメリ様、お優しい」
「流石ですわ」
うん。悪意しかない。婉曲に「こいつと付き合うな」って言っているようなものだ。まあ、分かっていたことだけど。
「本当、畑仕事なんかしていて、貧乏くさいったら」
そう言う貴女はお野菜、食べないんですかね。農家さんに謝れ。そう言いたいけれど、言ったら取り巻きと共に百倍くらいになって返ってきて面倒なので、私は口を噤んだまま、やり過ごす。こういった輩に反応を示すと、ますます助長するからね。
案の定、反応の鈍い私を見て「恐れをなしている」とでも思ってくれたのかどうかは分からないけれど、
「まあ、せいぜい勉学にでも励むことね。私はカイン様と過ごすのに忙しいの」
と話題を変えてきた。唐突に出てきた個人名に、私は記憶を総動員して脳内を検索する。そして思い出した。
カイン様……この国の王子の一人だ。アメリの子供の頃からの婚約者でもある。
「アメリ様はカイン王子と、それはそれは仲睦まじい婚約者同士ですのよ」
取り巻きの一人が勝ち誇ったように告げる。……うん、婚約者同士が仲が良いことは、いいことです。でも、何故私に報告する必要が……?
「まあ、没落した貴女には王子と婚約なんて、縁遠いことよね」
私が羨ましがるだろうと思っての言葉だろうけれど、私は王子様と婚約したいとかいう願望はないですから。
そんな私の内心に気付くこともないアメリが、艶やかに笑った。
「せいぜい私の引き立て役になってちょうだいね」
「引き立て役どころか、その辺の雑草にしかなりませんわ」
「いえ、雑草なんて植物に失礼です。石ころですわ、石ころ」
アメリの言葉に、取り巻きたちが追従して囃し立てる。ある意味、ものすごい一体感に、ちょっとだけ感心するけれど、彼女たちの甲高い声に晒され頭が痛くなる。そろそろ解放してくれないかな、とうんざりしていると。
「アイリーン」
名を呼ぶ声がして、するり、と背後から手が伸びてきた。