6-1 コーネリア王立学園
王立学園に編入するためには、決して準備を怠ることはできない。そういうわけで、ばたばたと時間は過ぎ去り、あっという間に、初登校の日がやってきた。
(さすが、王立学園……!)
敷地に足を踏み入れるなり、その広大さに私は感嘆する。今まで通っていた学校とは圧倒的に規模が違う。
荘厳かつ厳重な正門。校舎に辿り着くまでに広がる、美しく整えられた庭。四季折々の花を咲かせ、学生たちの目を楽しませることだろう。
コーネリア王立学園。コーネリア王家が運営資金を拠出する、この国で最も格が高い学び舎だ。
校舎の正面には王家の紋章が描かれている。真っ白い狼のような獣を象ったもので、国を護る聖獣と呼ばれている。
(なんだか少しもふもふに似てる)
そんなことを考えていると、親近感が湧いて、少しだけ気持ちが落ち着いてくる。
私は大きく深呼吸をして、校舎内に足を踏み入れた。
王立学園は、貴族だけではなく、優秀な一般市民にも門戸を開いているけれど、流石に学年の途中から編入するのは、例外中の例外だ。
学園は学年別のクラス制で、私は当然の如く、アメリと同じクラスのようだ。ルイーゼは、妹と言いながら、実は同じ年だったので、同学年だけれど、別のクラスだった。
なお、私よりルイーゼの方が背が高いので、多分ほとんどの人が、ルイーゼの方がお姉さんだと思うことだろう。
(いつの間にか「お姉様」って呼んでくれなくなったしなあ)
人目がある時、茶化す時なんかは、たまに呼んでくれるけれど、基本アイリーンと呼び捨てだ。可愛くなくなったなぁって、しみじみ思う。
(でも、側にいないと、少し不安……)
可愛くなくなったって、家族だ。面倒臭そうにしつつも、私が困っている時は、さりげなく助けてくれるルイーゼが、いつも側にいない環境になることは、地味に堪える。
(流石に同じクラスにはなれなかったし)
それでも、すべきことは決まっている。私は学園長室へと向かい、目立たないように別々に登校したルイーゼと合流して学園長に挨拶した後、それぞれ担任の教師と共に、指定されたクラスに向かった。
ちなみに学園長からは、
「貴女は実に幸運です。精霊の愛し子であるアメリ様のお優しい計らいで、この最高の学府であるコーネリア王立学園に通うことができるのですから」
とか、とにかくアメリを讃える言葉をひたすら聞かされて、げんなりしました。ルイーゼに至っては欠伸を噛み殺していたし。
さて、教室に入り、教師に紹介され、
「アイリーン・ランベールです。よろしくお願いいたします」
と編入の挨拶をすると、皆が気まずそうに私から目を逸らした。そんな中で勝ち誇ったような顔の少女を見つけた。アメリだ。長いこと会っていなかったけれど、一目で分かった。ルイーゼほどではないけれど、綺麗な顔立ちをしている。
そしてアメリの前後左右の席には、彼女とよく似た雰囲気の少女たちが座っていた。ひそひそと何かをアメリに耳打ちしている。考えるまでもなく、アメリの取り巻きだろう。
なんというか……すごく敵陣でーー予想どおりすぎる。
教材とか全てフェルナンが完璧に揃えてくれていたから良かったものの、もし何か足りなくて「教科書を見せてください」とかお願いしても、誰も見せてくれそうにない。
(まあ、いいけど……)
ここへは友達を作りに来たわけではない。母のため、そして勉強するためにきたのだ。割り切るしかない。
居心地の悪さを感じつつ、その日の授業が始まる。
そして改めて感じた。今まで通っていた学校の授業も十分にレベルが高かったということを。
(着いていけない、ということはなさそうね)
取り敢えず、その点ではほっとした。
授業は滞りなく終わり、私は終始、誰の目にも止まらない、空気のような存在だった。まあ、変に絡まれるよりはマシだろう。
やがて昼休みになり、昼食を取るため学食に向かう私の元に、アメリが近づいてきた。