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5-2

 何の躊躇もなく発せられたルイーゼの言葉に、母は嬉しそうに頷いた。


「あら、それは安心ね。……というか、そう言ってくれると思って貴方も呼んだのよ」


 そんな二人の会話に、私は思わず突っ込む。


「いやいや、王立学園には誰でも編入できるわけではないと思うのだけど」


 確かにルイーゼがいてくれれば、見知らぬ場所でも安心だろう。……ルイーゼからは、好きな子を片っ端から取られちゃうけれど、正直なところ、アメリの息がかかった場所で、私に近づいてくる子はいないと思うから、それでルイーゼと険悪になることもないだろう。


 でも、さっき二人に言ったとおり、私はアメリという欲しくもない伝手があるから編入できるのであって、ルイーゼは呼ばれていない。というか、私の味方となり得る知り合いを、一緒に編入させてくれるなんて生ぬるいこと、アメリは絶対にしない。

 けれど。


「大丈夫ですよ」


 やけに自信たっぷりに答えるルイーゼ。しかし次の瞬間には難しい顔で眉を寄せる。


「でも、ここから通うには、遠いかな」


 既に通う気満々だ。加えて現実的なはずのフェルナンも、ルイーゼが学園に通うことが決定事項のように答える。


「お二人のために仮住まいを準備いたします。ちょっと当てがありますので」


 警備も万全な場所ですよ、と胸を張る。けれど私の中に大いなる疑問が浮かんだ。


「え、ルイーゼと二人きりで一緒に住むの?」

「ん? 何か問題でも?」


 私の疑問……というか抗議に、ルイーゼが小首を傾げる。いや、何か問題でもって言われても……。分かってて言っているでしょう?

 というか、母と執事。問題だと分かっているはずだから、何とか言って?

 そんな私の援護を求める気持ちを察してくれたのだろう、フェルナンが苦笑する。


「ご心配には及びません。住まいは十分に広いですし、お二人の部屋はしっかりと分けさせていただきます。世話役も手配いたしますので」


 良かった、と息を吐く私と、えーっていう不満げなルイーゼ。


 えー、じゃない。当然のことです。


 ……それにしても王都に当てがあるなんてフェルナンって何者? ただの行き倒れじゃないのかもしれない、って初めて、そう思った。


 さて、母とフェルナンは、今後の準備のため、話し合うことがあると言って、離席した。


 残された私に向けて、ルイーゼが気だるげな溜め息を漏らす。


「何か言いたそうね?」


 私が水を向けると、ルイーゼはもう一度、大きく息をついた。


「いえ、アイリーンは、王立学園に行っても、変な男を好きになるかな、と思うと憂鬱で」


 何、その認識。不本意なんだけど。


「失礼な。私が好きになる子は普通の子です」

「……絶対違うと思います」


 即座に断言された。納得いかないって顔をしていると、ルイーゼは三度目のため息をついた。そして、重い口を開く。


「アイリーンはね」


 一旦区切り、少し考え込む様子を見せた後、


「本質的には男の子が好きじゃないでしょう?」


と言った。思いもがけない言葉に、私は、


「え?」


と聞き返してしまった。いや、私、男の子のことが嫌いだなんて、そんなこと、ないよ? 男の子のこと、何度も好きになっているの、ルイーゼだって知ってるよね?

 そんな私の内心を読み取ったかのように、ルイーゼは首を横に振った。


「アイリーンは実の父親に手ひどく扱われ、それが心の傷になっている」


 遠慮なしに指を突きつけられ、私は思わず仰け反った。けれど、反論は試みる。


「違う。今更、父のことなんて、どうも思ってない」

「いいえ、違います」


 即、否定された。なに、その確信に満ち溢れた声。


「貴女は愚かな男を好きになったつもりになり、やっぱり男という存在は父と同じでダメなんだと思って、心の傷に蓋をしているんですよ」


 父だけが、そんなのじゃない。男はみんな、そんなものだって思うことで、幼い頃の傷から目を逸らしているんですよ、とルイーゼは続け、


「自虐的ですね」


と首を竦めた。


「そんなこと、ないもん……」


 気まずくて、私はルイーゼから目を逸らす。けれどルイーゼの手が伸びてきて、私の頬にそっと触れるから、結局、ルイーゼと視線が絡み合う。


「そんなこと、あります。だから私は、ずっとこうしているんですよ」


 ルイーゼが少しだけ恨めしそうな目で私を見た。……いや、言いたいことは分かるけれど、多分それは、私のせいだけではないと思います。

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