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第6話 怪しい格好の怪しくない男

「愛華ちゃ〜んっ!」

外出兼運転記録簿をつけていると、声と同時にいきなりドアがバンっと開けられる。


「わっ、男!?」

びっくりしているとドアを開けた男も驚いたらしく、ドアノブに手をかけたまま立ち尽くしている。


 ガラシャツ、丸いサングラス、丸坊主――ああ、お坊さんか。チャラい雰囲気の格好だが、線香の匂いと坊主頭ですぐわかる。


 ひょろりとした少し痩せ気味な人だ。胡散臭い格好がよく似合っている。


「なんで男がいるの? ここは愛華ちゃんが着替えてて、『いやんえっち♡』とか言うとこだろ!」

ドアの前に立ったまま、理不尽なことを言ってくるお坊さん。いいのか、坊主?


「事務所でなぜ着替えなどする必要があるんだ。うちに制服はない」

呆れた顔の樒さん。


「扉を開けるまでは結果はわからないだろう! 開けてみるまでは、お着替え中なの!」

ドアの枠の左右に手をかけて、半身をひねるように後を振り向き、樒さんにしょうもないことを力説している。振り向いた方向的に、樒さんは執務机についたままなのだろう。


 着替えている可能性に期待して開けたのか、口ではそういいつつも、あるわけがないと思って開けたのか。


「よかったな、佐伯君が着替えていなくて」

投げやりに答え、ため息を一つついてから言葉を繋ぐ。


「助手の佐伯君だ。佐伯君、その男はよく依頼を持ち込んでくる坊主の田中だ」

樒さんの声に、坊主の田中さんに挨拶するため立ち上がる。


「よろしくお願いしま――」

「えっ! お前、助手なんか雇ったの!?」

俺の挨拶に驚きの声が被る。


「えっ! 大丈夫なの!?」

ひねっていた半身を戻し、俺に聞いてくる。


 ちょっと待って、不安になるんだが。


 これ絶対、俺が助手じゃ頼りないっていうより、俺の身の安全を心配されてるよな?


「依頼者に余計な揚げ足や言質を取られんよう、挨拶以外はとぼけるよう言ってある」

「いや、詐欺で訴えられる心配してるのはお前だけだからね!?」


 いやもう、それは本当に。そしてあわあわして忙しそうな田中さんは、もしかして結構いい人なのか?


「……」

相手にしていられないとでも思ったのか、樒さんの声は返ってこない。


「お茶とコーヒーどちらがいいですか?」

何をどう答えていいのか、この田中さん相手にも挨拶以外は黙ったほうがいいのか迷った挙句、無難なことを聞く。


「え、あ。お茶で」

「はい」

とりあえず笑顔で答えて給湯室へ。


 お茶は割と高い温度で淹れられる煎茶。ちなみに作業場の台所にあるのは玉露、客に出すよりいいお茶だ。まあ、低めの温度でゆっくり淹れるお茶なので、客に手早く用意するには向いていないからかもしれないが。


 樒さんは茶道楽だ。作業場の台所には鉄瓶があるし、湯呑みも高そう。来客用のこの茶碗も、


 お茶を運んで事務室へ。


 樒さんは執務机から動く気はないらしく、ソファにかけているのは田中さんだけだ。


「どうぞ。佐伯といいます、あらためてよろしくお願いします」

「おお。よろしく、田中心昭(しんしょう)だ」

さきほどより落ち着いた様子の田中さん。


 俺もフルネームを名乗るべきだったか? 


「ありがとう」

樒さんの机にもお茶を置くと、短く礼を言って口をつけた。お茶を飲むのも絵になる、モデルか何かをした方が儲かるんじゃないだろうか。


 さて、俺は資料室に下がるべきなのか、ここで話を聞いとくべきなのか。まだ一日目、ざっと中を案内された後は、箱作りのための作業場を整えることを優先したため、来客対応の話を聞いていない。


「これと清水の双子には畏まらんでいい、しゃべっても構わん。ただ、胡散臭い人間の話に感化されないよう気をつけろ」


 樒さんの注意を笑顔で聞く俺。どうしたらいいんだこれ? 


「だからなんでそう……。いや、いいや。どうせそのうち分かる」

言いかけて途中で諦める田中さん。


 もう分かってるんだ、分かってるんだけどね? ただ実際にこの目で見て、実感した樒さんはともかく、田中さんと双子が本物かどうかがわからない。


 田中さんは依頼の中立のようなので祓える必要はないし、双子も樒さんが壊した箱をめぐる会話で、たぶん祓える人――本物なのだろうことは予測がつく。でも、今まで生きてきた常識が信じることを邪魔する。


 ありもしない話しをでっちあげて、不安を煽り、金を騙しとるのではないか? とか。


 自分に起きた怪異は信じられるのに、似たようなことが他人に起きても信じられないというのはおかしな話だが。


「佐伯くんの次のシフトは明後日だな、依頼から依頼完了までの流れを一通り見てもらおう。――田中、明後日ならば時間が取れる」


「ちょ! 今の時間が取れるつーか、佐伯クンの研修の都合だよね!? 依頼主、かなり参ってるらしくって急いでるんだけど!」

お茶を口に運ぶ手を止めて、田中さんが叫ぶ。


「何故いつもそう切羽詰まった仕事を持ってくるんだ?」

「切羽詰まってなかったら、話だけ聞いて説法聞かせるっつの! というか、もうエセ祓い屋に引っかかった後で、のっぴきならない状態まで進んでから回ってきた話なの! お前に持ち込むのは大体どうしようもなくなってからなの!」


 一応まともな坊主らしいこと先にするんだな?


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