9.魔法
本編のメイン舞台となる世界――とりあえず「第一世界」と呼んでおきます――では、魔法をほとんど出しませんでした。第二部でがっつり剣と魔法の世界ばかり旅する予定だったので、その差別化のためです。
第3話で聖女が登場する都合上、第一世界にも魔法は存在します。でも世界の中心地であるガレンドールでは魔力が少ないので使えない、という設定です。精霊とか魔法とかいう言葉も概念もあるけれど、おとぎ話の扱いです。
シェヘラザードも、契約書をコインの形に封じたりアーノルドの目の前で姿をかき消すなどと不思議なことをしてみせますが、あれは魔法ではないです。箱庭管理者の権限で結像データを操作してる――VRっぽい扱いをしてるようです。
ほとんど登場しないことから、第一世界での魔法の原理や体系はあまりしっかり決めていませんでした。それで、スピンオフ『背のび従者は〜』(旧題:絹とオレンジ)の際に、本編に記載した内容と矛盾しないようその枠内でできそうなことを書いていきましたが、なかなか危なっかしかったです。
聖女って実は何人もおったんかい、とか。しかも、聖女候補・聖女・真の聖女って区別があるんかい。さらに、教会の人間じゃなくても国民の三割は簡単な魔法が使えるだと?
あ、いや、トスギルでは魔法が国民に馴染んでいるという扱いにしたくて。でないと教会が幅を利かせたり聖女が待望されたり王家に当然のように嫁いだりしてても国民が反発しないって風になりにくいでしょ?
それでまあ、いっそ開き直って「そういうあやふやなもの」ということにしました。
現実世界でも、霊能力とかまじない・お祓いとか、効果がはっきりしないし科学でも説明できるし、でも信奉する人からすればそれは確かに「在る」し、それでしか説明がつかないことだったりするでしょう。
また、第二部との差別化のために元素属性での差別化はしませんでした。叶えたいことを祈れば成果があるかも、というだけで、本当にお祈りとかおまじないが基本ですね。
ということで精霊魔法は、背のび従者15話でアーノルドがまとめたような定義になります。彼を始めとしたガレンドール人は「何だそりゃ、当てにならねーな」って内心思ってそうです。
ガレンドールでは魔法を当てにしなくてもやっていけるので、別のスピンオフ『バロック』では魔法は一切登場しません。
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翻って、第二部では魔法はバンバン出ます。第一世界との違いは魔法があることと言っても過言ではないくらいです。
序盤はいわゆるゲームっぽい世界観ですが、少しずつ古臭い雰囲気のものへと遡っていく構成にしました。古臭い方が生々しさがありますからね。
八話は、アーノルドのためのチュートリアルです。なろう界でおそらく最大公約数的な、説明不要な感じの世界観としました。職業や経験値、スキルなどの概念があり、ステータス画面で確認できる。しょっぱなで確認したステータスでは、MPはあるけれど魔法を習得していない状態です。数値は適当です。どのくらいが妥当なのか決めるにはこの世界での最大値を定義する必要がありますが、今どきはインフレがすごいらしく、HPの最大値もLVの最大値も判断つきません。「【HP】210/【MP】40」なんて、よその作品に比べたらささやかすぎるかもしれませんね。
魔法は属性分けするのを忘れましたが、攻撃役と回復役で職業が別になってるようです。
九話は、なるべく最新のゲームの洗練された雰囲気を目指しました。といっても、自分自身は最先端の作品の何かをプレイしているわけでもないので、とある有名シリーズ作品の近作を参考にしつつ、ステータス画面を眼前に浮かべて操りながら活動する形にしました。
自分の狭い観測範囲での話で恐縮ですが、2010年代までの作品では、魔法陣から魔法を射出するといった演出がわりとあったと思います。しかし古くは魔法陣は結界でもあり、その中に入って身を守るために使うという解釈でした。SNSでもそんな話題を見かけた気がします。それで、前述に参考にした作品も詠唱すると術者の足元に陣が浮き出す演出となっており、そのスタイルを採用しました。
陣が完成すると発光しながら魔法が発動するの、カッコいいですね。
十話は逆にややレトロな、いわゆるファミコン・SFC時代のゲームや当時のファンタジー漫画のイメージです。舞台となった砦街の各施設名からネタ元のゲームは察せられるかもしれません。3Dのダンジョンを進んでいく、呪文の響きが独特で効果が想像つかないアレです。ステータスの確認方法だけオリジナルです。
戦闘では、レトロらしくダイスでダメージを決めようかとも思ったのですが、絵面がナンセンス過ぎて一瞬で没りました。
魔法は魔法職が使用しますが、呪文書など魔法が発動するアイテムもあってそこそこ楽しいです。
十一話はもうゲーム媒体がコンピューターですらなくゲームブックかも、いやゲームでなく普通に小説かもという世界観です。竜や姫君が登場して、むしろ牧歌的な雰囲気さえ感じます。
ここでの魔法も体系立てられてなく、まさにおとぎ話で出てくるような幻や変身などが登場します。
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魔法体系は、作家の数だけオリジナリティが出せそうな分野だと思います。
四大元素とは全く別の体系を考えてもいい。例えば精神作用系・物理作用系で魔法を分類するとか、呪文もカタカナの単語を並べるのでなく唱え方や綴り方によって効果の強弱が違うとか、そういうのもあってもいいんじゃない?と思い、九話でちょっと例を出してみてました。
最近カクヨムにて自主企画でそういった独自理論の魔法を扱う作品を募集してみましたが、なかなかバラエティに富んでいました。
ジャンルとしてはハイファンタジー寄りの作品が多く、いかにもライトノベルという感じの作品は少ない傾向があるようです。世界観を作り込む過程で魔法の設定もしっかり作り込んだという印象です。また、ストーリーを語るためにピンポイントで必要な仕掛けとして取り入れているという作品も散見されました。
物語を形作るために魔法というファンタジーは必要でも、四大元素での分類にこだわる必要はないかもしれませんね。
すごく久しぶりの更新です。
4月にメモを用意しておいたのに、スピンオフに手を取られてしまって今頃ようやく書けました。