3.初期プロット〜羅針盤にしてマイルストーン
このエッセイは、『千の箱庭〜婚活連敗王子はどうしてもフラグを立てられない〜』に関する裏話等を記したものになります。
ネタバレ前提の内容になりますので、本編を未読の方はご承知おきいただけますようよろしくお願いいたします。
本作はオマージュなので、オマージュ元に準拠して要素を決めていきました。
オマージュ元の『ONCE UPON A TIME』は、全6回の連載作品です。作者のめるへんめーかー氏はファンタジー作品(作者によると「魔法じかけ」)が多いのですが、掲載誌がSFマガジンなので一見ファンタジー的な世界観ながら水晶玉型のコンピューターが出てくるなどかろうじてSFっぽい?ガジェットを出しています。
登場人物は、おっとりして頼りない王子様と彼に見合い相手を斡旋する魔女。王子様はいろんな姫君に出会うけど、最終的に選んだ相手は…、というストーリー。
オマージュなんだけど、実は『千の箱庭』を書き上げるまで元作品を参照せず、記憶だけで要素決めをしました。読んでしまうとその設定に縛られそうな気がしたので。
そのおぼろげな記憶に基づいて決めた要素が、以下の内容です。
・尺は短く、6話ぐらい
・色々なクセつよ貴族令嬢を出す
・王子は婚約者探しを占い師に依頼する
・王子が誰とくっつくかは決まってる
・占い師は何者かの支配下にあり、解放を願っている
この要素を活かしながらプロットを考えていきます。
ひとまずストーリーの配分は、1話が導入・人物紹介で2〜4話ぐらいまでが「女性に出会うが失敗する」という定番の流れ、5話はやっとうまくいきそうだけど?何かひっかかりがあって、最終話は「いや実は君がいい」となってハッピーエンド。
基本スタイルは、以下のような感じでした。
<当時のメモ抜粋>
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■基本フォーマット
①王子から相手の条件を聞き出す
②王子様との出会いを求めてエントリーしている乙女を見繕い、
③箱庭を用意して王子を送り込む
④一応設定は合っているのになぜかうまくいかない
・王子がお人好しな対応をしてしまう
・王子の苦手分野に挑戦させられる
・乙女がもっと理想的な相手を見つけてしまう
⑤相手にお断りされることもあれば、王子から辞退することもある
何も始まらないうちに終了することもある
シェヘラザードは成約のために高額なオプションサービスを色々提供する
失敗されると信用に関わるため、成約するまで依頼を受け続けることにする。
基本フォーマットは3〜4回繰り返す
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当初は、女性側もエントリーしている想定だったんですね。そしてシェヘラザードは守銭奴。何かの事情があってお金を貯める必要があることになっていました。
基本フォーマットで出てくる令嬢たちは、それまでに読んだ作品群からテンプレ感のある要素だと思うものを抽出しました。
<当時のメモ抜粋>
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・ハイスペ王子に溺愛されたい自己肯定感低すぎヒロイン
元々王子の婚約者だったが最近ぎくしゃくしている
王子はヒロインを構い倒して心を開かせなければいけない
しかし度重なる試し行為にさすがに心が折れそうになる
結局婚約解消してしまう。
・逆ハーしつつ王子でトゥルーエンドしたいヒロイン(腹黒)
最近転入してきた距離感の近い女生徒
しかし彼女は他にも数名と親しくしているので王子自身は彼女に特別な関心がない
王子は彼女に相手を一人に定めるようにサポートする
逆ハーができなくて困る彼女
仕方がないので王子ルートに入ろうとしてみる
すでに婚約解消しているはずの元婚約者に冤罪を負わせようとするが王子は信じない
ヒロインは王子を狙うのに疲れて隠し攻略キャラとくっつくことにする
・隣国の王太子に見初められて上昇婚ざまぁしたいヒロイン
学園にはフラグがないので隣国へ留学する
「隣国の王太子」の立場で婚約破棄された悪役令嬢を手に入れなさい、がシェヘラザードのアドバイス
逆ハー狙いヒロインと同じ構図だとわかり、腹黒ヒロインを暴き、悪役令嬢と現地王子を仲直りさせる
何やってんのとシェヘラザードが問い詰めると、人の婚約者を横取りするわけにいかないと王子は言う
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本編では全くこんな展開になっていないし、キャラに寄っては性格付けや動機も違っています。
全6回ならこのぐらいバリエーションがあればだいたい十分です。
そしてストーリーの後半は趣向がちょっと変わってきます。
女性向けの世界観だけでなく、男性向け世界観だとどうなるんだ?という発想から。
<当時のメモ抜粋>
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・学園に通って乙女を漁るのは情けないと王子が言い出す
いっそ物語のように竜を打倒して姫君を手に入れるような展開がほしいと言う
あいにくながら王子の世界には竜はいないので、他の異世界へ出向くことにする
・冒険者登録してパーティーを組み、竜討伐クエストに挑戦することになるが、ここまでの過程でことごとくフラグを立てそこねる王子
最初に出会ってギルドへ案内した宿屋の娘や、ギルドの受付嬢や、魔術師、女戦士、敵幹部、王女など
好感度を上げるよう指示されるが、お人好しな対応ばかりで相手から早々に対象外とみなされる
・露出はアレだが有能なパーティーメンバーに敬意を感じる
・知性・研究肌ヒロインがチート知識で文明を不自然に発展させようとするので諭す
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異世界に行く理由が本編とちょっと違ってますね。
変化球の味付けが加わって、面白い展開になりそうです。
どういう環境に叩き込もうと、王子自身の個性が災いしてどうしてもうまくいかないんですね。あー不憫不憫。
さて、エンディングに向けて真ヒロインとどうくっつけるかは課題です。
真ヒロインはオマージュ元に準拠すると「囚われの姫君」の属性です。一体何に囚われているのか、どうして解放されたいのか、その設定を詰めないことにはプロットが作れません。
ここで、主に男性向けの異世界転生/転移ものの方を読んでて気になったことがありました。
主人公が異世界に行く時に、最初に女神や天使のような存在がガイドしてくれるパターンがあります。女神が善性だった場合、主人公の面倒を見てくれたりして関係性は悪くないんですが、それ以上どうこうなるということもない感じで、たまにはそういうのがあってもいいんじゃないかと思ったんです。
私が見つけていないだけで、その発想の作品はきっと既に存在するとは思いますが。
そこで、ヒロインをそういう「異世界の管理者」という位置づけにしてみました。
となると、じゃあその管理者を支配しているのは一体何者か?というところから、人間を支配する存在のさらに上位存 在ということで、オーバーロードという設定になりました。
この三層構造をさらに世界観として作り込んでいきましたが…こういった設定は、最初に作るものだけど明かされるのは最後になるものですね。世界観については稿を改めましょう。
ひとまず、「囚われの姫君」を支配しているのはオーバーロードとなりましたが、単に悪役にするとなんだか後味が悪いというかどうも据わりが悪かったので、ヒロインに対してサポーティブな態度を取らせることにしました。「我々も君が自由になれることを願っている」というスタンスです。最終的には、ちょっと中途半端な印象になりましたが。
そういった設定を軸に、エンディングに向かってどんな展開になるのか、悩みながらプロットを練ってました。いったんまとめても、登場人物たちは本当にこのプロットの通りに動くのか?無理のない行動か?と、やや自信が持てなかったです。
最終話では、王子が真ヒロインを手に入れる過程は昔話並みにオーソドックスにしようとしてました(発想の手抜きです)。それは、ヒロインのもとにたどり着くまでに3つの試練を乗り越える、というものです。
ヒロインは、オアシスへ押しかけてきた王子から逃げ、管理者の執務塔へ引きこもります。そして門番を3つ用意し、これらを下さないといけない。最後の門番すなわちラスボスは王子の元婚約者です。
しかし、本編を書き進めていく間にこのプロットは見直しになりました。世界観自体が、このような演出ができない設定になってるからです。
なのでその部分は削除し、ヒロインを説得するパートのみになりました。
それにしても、プロットを最後まで固めてから執筆に取り掛かったことは、とても大きな安心感がありました。プロットは、展開の方向をぶれないようにする羅針盤であり、進捗がわかるマイルストーンでもありました。この先何が起きるかわかっているので、あらかじめ伏線を埋め込むこともできました。
私は、始めたことを完了させるのがすごく苦手なので、最後まできちんと段取りを付けて完了できる見込みを立ててから、書き始めないと心配だったのです。結果として、やっておいて良かったです。
作家を本業にしたい方にはおすすめできる手法ではないです。よく言われるように、短編を沢山書く方が断然修行になるはずです。誰にも相談せずに長編に挑むのはナンセンスなんです。
でもまあ短編でも長編でも、プロットが大切である点は同じかもしれません。
当時のメモをほぼそのまま出しているのは、本編ではそのままは採用されなかったのと、今後再利用する予定もないことによります。
なお、プロットが変遷していった過程を今後も投稿するかもしれません。