2.着想〜頭の中で考えてるうちは名作
このエッセイは、『千の箱庭〜婚活連敗王子はどうしてもフラグを立てられない〜』に関する裏話等を記したものになります。
ネタバレ前提の内容になりますので、本編を未読の方はご承知おきいただけますようよろしくお願いいたします。
『千の箱庭〜婚活連敗王子はどうしてもフラグを立てられない〜』のアイデアは、2022年の9月初めに浮かびました。
この夏に漫画アプリを色々入れて、異世界ものや令嬢ものの漫画作品を読み倒してました。そんなに濫読でなくキーワードが気になったものだけですが。
で、その中で、検索してるとタイトルに「溺愛される」とついてるのが多く、どうやら溺愛はトレンドの一角を成すらしいと察しました。バッドエンド回避か自己評価低すぎなどの理由でヒロインがいくらヒーローを邪険にしても、彼はくじけず溺愛してくれるんですね。
そういう話を眺めていて思ったのは、一つは「そんな対応されても溺愛し続けさせられるヒーロー君はどんな気持ちなんだろう?」ということ。もう一つは、「”特段の理由がなくても溺愛してくれる王子様”という設定を純化した話ならとっくの昔にある」ということでした。
後者は、『ノース・フィールド』という短編漫画で、その作者がめるへんめーかー氏でした。そこから、「そもそも王子様お姫様が出てくる話をたくさん描いてた名手がいたよな」「婚約者探しのネタもいっぱいあった」などと色々思い出し、そして「今どきの王子様はハイスペスパダリが当たり前だけど、それならあの話の王子様なんか現代ではどう見られるんだろう?」と出てきたのが、『ONCE UPON A TIME』という連載作品でした。
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<あらすじ>
小国の王子ヒラリーはそろそろお嫁さんが欲しいお年頃。手頃な姫君を斡旋してもらうため魔女レーデルランを訪れる。でもなぜか毎度厄介な事情があって姫君を手に入れられず、何十件も紹介するはめに。ちょっと頼りないけど心優しい王子ヒラリーと、ごーつくばりだけど秘密がある魔女レーデルランの物語。
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ヒラリー王子がチャレンジしてることは平たく言えばお見合いだけど、今どきの言い方なら婚活です。そして全然まとまらない。連敗。さしずめ彼は「婚活連敗王子」。王子なのに婚活! そして連敗! 王子なのに! って考えたらそれがえらいパワーワードに感じまして、じゃあ現代の令嬢ものにおいて「婚活連敗王子」というお題があったら、一体どんなキャラでどんな話になるんだろう?と考えた結果が、この作品になります。
自分がクリエイター的なものを目指していたのは昔のことで、今は消費者でいる方が楽でした。自分が考えていたアイデアも時が経てば誰かが形にしているものなので。ただ今回は、やっぱりこのパワーワードがもったいなかったのと、浮かんでくるキャラやエピソードのネタに手応えを感じ、芋づる式に湧いてくるのでついメモを取ってしまったのです。
そして考える。さてこれをどうしよう? 今更漫画にする気力はないぞ。では小説ならどうだろう? いや、文章は書ける気はするが小説の作法だって知らない。仲間うちで小説書いてたのはン十年前だ…。
ところで、『パタリロ!』のあるエピソードにはこんな名言があります。
「頭の中で考えているうちはどれもみな名作なんです」
何かを考えても、面白いと思ってるのは自分だけ。形にしてみればつまらないものかもしれない。辛辣ですね。
いや、名作かどうかは形にしてみなければわからないから、とにかく頭の外に出さなければいけないのですよ。考えてるだけで終わりにしてはいけない、形にするのがどれだけ大変であろうとも…という編集者目線の励ましの言葉なんでしょう。
ちなみに、『私のジャンルに神がいます』でも似たような台詞が出てきます。
「私の頭の中にある最高の妄想を作品としてこの世に生み出すことが出来るのは私だけなの
無限の感動がここにあるのに私が書かなければ誰に伝わることもなく消えてしまう…!」
こちらはより明確にクリエイターを後押ししてくれる言葉ですね。同人業界の話なので編集なんかついていないから、自分で自分を鼓舞する言葉が必要だということでしょう。
昭和の厳しさ、令和の温かさ。
どのみち、消費者待機では何年待つかわからない。人を当てにするよりはやっぱり自分で書いたほうが早い。オマージュ元作品も再発見されるかも?
などなどと考え、上記二つの名言を胸に、「では小説で」と取り組むことを決めたのでした。