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19.スピンオフ③『果てを渡る風』

■果てを渡る風

https://ncode.syosetu.com/n0445il/


 本編終盤を書いている頃、主役以外のサブキャラ、具体的にはサイードのその後がふと気にかかりました。

 彼は第二部を冒険するためのキャラクターでした。逆に言えば、元の世界では収まりきらないポテンシャルがあります。

 当初のプロットでは、ユーシェッド家には姉弟二人しかおらず、自動的にサイードが次期当主となる想定でした。しかしその身分で二年も行方不明になるなど許されるわけもなく、気楽な三男の立場に変更しました。すると、本編の出番が終わった彼は自由です。大人しく実家に落ち着いているわけがない。そこでまず現在の『果てを渡る風』の「王宮にて」の原形シーンを構想しました。

 サイード視点で何か考えようと思うと欲が出るもので、アーノルドとシェヘラザードの間に立って彼らをどう見ていたのかなども知りたくなってきます。三人の関係性のイメージは、シェヘラザードが「天空」、アーノルドは「大地」、サイードはその間で仲介する「風」です。この例えは結局本文に入れる機会はありませんでしたが。

 風なのでどこにもとどまらず、どこまでも吹き渡っていきます。そのイメージから、「放浪の旅に出る」がサイードのエピソードのゴールとなりました。


 一方、本編中盤でキャラクターに結構危なっかしい矛盾が生じました。シェヘラザードとサイードは、元の世界ではペルシア風の文化圏が想像されます。ところが第10話(陽炎)では二人ともかなり達者にフラメンコを演じています。フラメンコはスペインですよ。百歩譲ってロマ風と解釈しても、ペルシア風文化との接点をどう作ったら……? フラメンコは、当初は第10話で訪問した異世界特有のダンスという設定でしたが、それをサイードがいつの間に身に着けたのかが矛盾なのです。第13話(夜露)みたいにシェヘラザードによるチート無意識インストールという手もありますが、第10話のサイードはスタンドプレーなので彼女の支援はなく、彼は元から知っていたということになります。これを解決することが宿題の一つになりました。

 別に宿題にしなくても読者の皆様はおそらく気にしないでしょうが、作者としては問題に感じたのです。


 また、同じく第10話ではシェヘラザードとの関係性も意外と重たい雰囲気がありました。一体彼はシェヘラザードを本当に姉だと考えているのか、天上の主として距離を置いているのか、執筆時点では私も判然とせず、いずれ掘り下げてみるべきではないかと感じ、これも宿題として積まれました。


 そして最後に、アナスタシアの扱いです。本編ではラスボス並みに印象付けておきながら、最後は呆れて領地に帰るという非常にあっさりした退場でした。その後は彼女なりに充実した人生を送ったのかどうか、明らかにされません。彼女はいつか自分の国を建てるとアーノルドが予感していて、その通りにさせてやりたいとは思っています。

 それで、サイードが放浪の旅に出る際にアナスタシアを連れ出すというアイデアもあったのですが……何だかあぶれ者同士がくっつくみたいで陳腐に感じ、採用しませんでした。あまり二人の仲も良くないですし。

 そもそも、アナスタシアもサイードも恋愛しない設定のキャラです。もう少し具体的に言うとアナスタシアは恋愛感情も性的接触も嫌、サイードはリビドーはあるけれど恋愛はするのもされるのも嫌(たぶんその束縛感が嫌)というところです。

 そういうわけでかどうか、最終的に『果てを渡る風』ではアナスタシアはアーノルドを特別に扱いつつシェヘラザードを敵視しているけどそれはゴリゴリの国粋主義からくるもので、サイードはアナスタシアを恐怖刺激としか見ていません(シェヘラザードがそんな二人の属性を理解していないところがまた最悪)。

 まとめると、「あぶれ者同士がくっつくオチではない」と示そうとしたということです。


 その他にもこまごまとしたサイードの盛り過ぎ属性の辻褄を合わせたり、おまけとしてピートとロナルドもチラッと出演させたり、とにかく設定回収しまくっています。

 いずれも自分が納得するために書いているので、読者にとっては(本編を隅から隅まで読み込まない限り)ナンジャコラだと思います。

 ロナルドは、実は彼のためのスピンオフも構想していたのですが、ちゃんと書ける自信がなかったのと、下手するとキャラの解釈事故を起こしそうというリスクを感じてお蔵入りしています。それでまあ、片鱗だけここで拾った次第です。百合は書けるだろうけどBLは書けないよ。


 キャラの掘り下げや辻褄合わせをすると、今度は初出の設定が増えていきます。他のスピンオフでも多々追加はありましたが、今作でも「商工会議所」とか「フィニーク茶」(=コーヒー)とかが登場し、あるいはウィンストン・パークなど既存の設定の補強があったりと、自分でもいい加減にしてくれと思うほどです。終盤になってもまだ、王宮の間取りや建築様式の話なんかしてますからね。


 そもそも、本編は思いつきで書き始めた話です。本編を公開したらそれ以上の活動をするつもりはなかったのに、延々とスピンオフを書いて余録で設定が生えまくってもう観光案内ができそうなくらいというのは想定外でした。せっかく生み出した作品なので大切に思っているしこれだけ語ってもいますが、でもこんなに長く付き合おうとは思っていなかったので、なのに設定がこんなに増えてどうする、重いだろというのが本音です。

 このままでは、アーノルドの父ヴィンセント陛下の若き日の冒険譚とか、アーノルドの息子ベネディクト君が長じてからの次世代話とか、サーガ化してずっと書き続ける羽目になりかねないと危惧しました。他者が期待してるかどうか一切わかりませんが、ただ自分が暇なときに続きを考えてしまったらいけないと思うのです。


 なのでこの世界については楽しみ尽くした、ということにして次へ進もうかと。


 ああしかし、アナスタシアについてはまだくすぶってる感がありますね。正直、シェヘラザードの目が届かないところにいた方が彼女は安寧でいられると思います。シリーズはもう終了なので、別の形でカタをつけることにします。


 最後の最後のおまけ。出す機会がなかった設定で、アナスタシアが所属する騎士団は「青菫(せいきん)騎士団」と言います。ちなみにヨハンが入団し、オリバーも所属するのは「銀鷲騎士団」でしたね。青菫騎士団は女性のみの騎士団で、女性王族の近衛が仕事です。王太子妃殿下の私室を警護しているのも彼女たち。アナスタシアは領地経営があるので称号だけ持ち、近衛として勤務することはありません。どのみちあの妃殿下の傍についてるなんて全力で拒否しそうですが。

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