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13.有能な弟

 プロット上、シェヘラザードの協力者となるキャラクターが必要となり、「弟」を作りました。それが、第6話から登場するサイード・ユーシェッドです。


 令嬢もの作品で「ヒロインをサポートする身内」が登場する場合、たいてい兄か弟なんですが、どっちかと言えば断然弟の方が好きです。そうでない作品やジャンルでも、兄妹より姉弟の配置のほうが好きです。なので弟にしました。


 サイードは、アーノルドが第一部の世界から第二部へ移動する際の案内役となるキャラクターです。第一部の上品で文化的な世界観に対し、第二部は剣と魔法の冒険ファンタジー。世界観を引きずらせないよう、従者や友人たちといったアーノルドの周りの男性陣を一掃して、入れ替わりでサイードが現れます。第一部より第二部の方がハードなので、そこで十分通用するようなキャラクター性を持っています。

 すると当然第一部の世界ではオーバースペックとなり、アーノルドに劣等感や対抗心を抱かせるといういい作用が生まれました。


 ある意味第二部専用のキャラなので、第二部の中では相棒として活躍しても、第一部とのつなぎ(6話)、第三部とのつなぎ(12話)をしたら退場の予定でした。従者ウィスカーと似たようなポジションでアーノルドと楽しく掛け合いしてくれれば、というくらい。


 しかし、プロットを練るうちに役割が追加されました。一つは、ストーリーの中盤でテコ入れのために当て馬役を演じてみせること(10話⑦)、さらにもう一つは、終盤でアーノルドが真ヒロインを追いかける際のキーアイテムを渡すこと(15話③)。

 前者は、アーノルドに対抗心を持たれているからこそ良い刺激となり(かつ弟なので同じ土俵に上がりっこない)、後者は弟という設定だからこそ可能となった展開でした。

 その当時、キーアイテムの入手方法についてはちょっと行き詰まっていて「サイードを使おう」と閃いたときは感慨深かったです。

 サイードは、「アーノルドを異世界に引っ張り出す」「アーノルドに恋心を自覚させる」「真ヒロインのもとへたどり着かせる」と、物語を動かす重要な役割を三度も果たしたわけです。この三つ、どのイベントが欠けても本作は成立しません。「なんて役に立つんだ弟…」とつぶやいたものですよ。


 神話学や物語論で、登場人物の類型に「トリックスター」というものがあります。悪いこともすれば良いこともし、その行動がきっかけで物語が展開していくという役割を担います。北欧神話のロキなどが典型と言われています。

 これを踏まえれば、サイードは本作におけるトリックスターと呼べるでしょう。



 こうなってくると、ぜひ優遇したくなります。物語のゴールにたどり着かねばならないアーノルドや真ヒロインと違い、好きなだけ趣味を盛り込んだ気がします。おかげで、サイード一人に三人分くらいの設定が積まれてしまいました(この辺の辻褄を合わせるためにも『果てを渡る風』を書いたがそれでも説明しきれてない)。


 風貌は、シェヘラザードと同じ「濃紺の髪、金茶の肌」のフィニーク人。常識的な世界観のはずの第一部で青い髪なのは、「この世界の中心地であるガレンドールを最も解像度高く現実的な設定とし、辺境に行くほど設定がいい加減」という設定によります(その設定は作中で語られることがありませんでしたが…)。

 現実における西アジアの人々は、ウェービーな黒髪に浅黒い肌かと思います。この作品で黒髪と書くとアーノルドとかぶるので避けたことと、もしカラーイラストにしたら黒髪設定でも差し色で青とか入れるだろ、なら最初から青ってことにしとくか……という大変雑な理由にて「濃紺の髪」です。

 笑うと犬歯が見えるのは趣味。目を伏せると長いまつ毛が現れるのは性癖。まったく派手だな!


 フィニークという国については、海を隔てた西方大陸にある、といっても沿岸でないと交流しにくいだろう、ガレンドール近辺が王国ばかりなので変化を出すために連邦にするのはどうだろう、などと考え、フィニーク連邦国となりました。

 ファンタジーで沿岸部の連邦って建て付けだとどうしても「沿海州」と呼びたくなります。かつて国産ファンタジーの金字塔とも呼ばれた未完の大長編作品に登場した地域を思い出します。そこ出身の主要登場人物、いましたね。正直むちゃくちゃ好きなキャラでした(なお三十巻台で卒業したのでその後の人生は知り(たくあり)ません)。はい、サイードの性格はもう決まったようなものです。実際書いてみたらそんな感じにはならなかったので、表面的な方向性として、ってことで。


 人物像としては、少しお調子者のようないい加減な奴そうな緩さと、しかし底知れない実力や裏がありそうな雰囲気を併せ持っている感じにしたかったです。そういう風に描写できていると思っていましたが、意外と発言量が少なくて読み返すとちょっと物足りなさがあります。


 登場させるまでは、アーノルドの友人の一人、軟派キャラであるピートと被るのではと懸念していました。それもあって6話以前は噂にも出て来ません。ただし伏線はあります。また、もしこの話を漫画で描いてたら、1話か2話の学園シーンでしれっとモブの一人として出してるだろうな、と想像してました。

 キャラがしっかり把握できた14話⑥にて、友人たちと絡ませて格上感をようやく明らかにしました。


 あと、飄々としてシニカルな面もあるだろうなどとも想像してたんですが、残念なことにそんな場面はなかった…。逆に、10話④でシェヘラザードの対応に取り乱したのが違和感で、その溝は15話③まで尾を引きます。ここの内面を掘り下げるのが宿題となり、『果てを渡る風』になりました。


 なお、15話③ではアーノルドもサイードとは以前より距離が生まれています。客観的になったというか、少し過去の関係になったというか。その距離感を三人称代名詞の変化で示しています。


 スピンオフを書くことを決めてから、果たしてサイードに語り手は務まるのか?とやや心配しました。場面や状況について丁寧な描写なんかしてくれなさそうで。それで練習を兼ねて、『背のび従者』の幕間担当としてルスタムに飄々語りをさせてみました。

 書いてみて分かったのは、「サイードはもっとクールだろう」ということです。ルスタムほど饒舌に感情を起伏させたりせず、もう少し突き放した感じになるだろうと。そういうのが分かったのは収穫でした。

 そしてまた、背のび従者のあと『バロック』を書いたことで、私自身の表現力も少しは進歩していて、おかげで『果てを渡る風』ではサイードにちゃんと情景描写をさせることができました。

 それとシニカルにはあまり寄せすぎないように気を遣いました。シニカルって書きようによっては「いつも何かをけなしてんな」って印象になって読者にストレスを与える失格主人公になってしまうので。アーノルドへのツッコミはまあしょうがないです。親友なんだからありです。一方、姉上に対しては何だか湿度が高いな、という感じになりました。これもまあどうしようもない…かな?

参照エピソード(言及順)

■本編

6話① 不審な留学生

12話① <私は辻褄を合わせた>

10話⑦ 時雨のように

15話③ 天上への道

2話① ビビアン ~ウッソー!転生しちゃった!?

14話⑥ アナスタシア 〜一方その頃、全てを悟っていた

10話④ 異質な訪問者


■スピンオフ

『果てを渡る風』

『従者は元聖女のスローライフを見守りたい 〜なのに遠国の傲慢王子が彼女を連れ戻しに来たので偉い人たちに頼ります〜』


こういうの、親切なことなのかどうかわかりませんが付けてみました。

脚注、みたいな。

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