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12.説明のさじ加減

あくまで、自分はこんな風に考えて執筆していたよ、というお話です。

 作中で使う用語や表現についてのお話。


 執筆中に、現実世界では昔の時代相当の文化様式を都度調べながら、本文に織り込んでいきます。基本的には、その世界に生きる人々にとっては常識、暗黙知になっているような事柄は、当たり前のようにしれっと描写し、詳しく説明しないようにしたいと考えていました。解説する場合には一度に設定のすべてを語るのではなく、必要になったときに必要なだけに留め、話の進行を止めるほどの尺を取らないように注意してました。


 1話①でいきなり「七歳礼」という謎の儀式が出てきます。名称が独特なのでさすがにどのような目的の儀式なのか説明する必要はありますが、具体的な手順については「パンに口づける」という仕草が必要らしいことしか書いていません。その動作にどんな意味付けがあるのかの説明もありません。

 この場面では、アナスタシアが儀式の最中に前世の記憶を思い出したため動きが固まってしまった、ということを表現しようとしています。なので、「手順が止まった」ということだけ伝えるための描写です。その後すぐ彼女は倒れて場面転換するので、儀式の説明はそれ以上する必要がありません。


 1話②では、シェヘラザードがアバターについて説明しています。自分が管理している箱庭の中に降り立っている理由として彼女の仕事内容の説明、住人と関わっても怪しまれない理由としてアバターの機能の説明、などが少し尺を取って語られます。ここでは「アバターは基本的に住人と同じ組成でできている」とあり、管理者能力が制限されることのみを説明しています。組成が同じということは、呼吸したり血液が循環したりといった生命維持活動も行われていると考えられますが、この段階ではそこまで書きません。4話の反省会パートでアーノルドに責められたことで発汗し、それを冷や汗だと理解するというくだりがあります。シェヘラザードの意思に関係なくアバターは環境に応じて身体反応を示し、身体反応は認識や思考に影響を与えるという設定なのですが、彼女がその仕様に気づくのは13話、彼女自身の言葉で説明されるのは14話になってからです。オーバーロードはもちろん最初から承知していて期待しているぐらいだった――つまりストーリーの重要な部分に関わる設定なので、明かされるのがそこまで遅くなるのは当然です。そのぐらい引っ張ることもある、という例。


 8話や9話では、昨今のゲームやそのイメージを下敷きにしたWeb小説でよく登場するようなステータス画面が登場します。特に9話では、ステータス画面の操作やステータス項目、魔法名などがバンバン出てきますが全ては説明されません。話の進行に関係する事柄だけが語られます。しかし、設定はしておかないと何が起きているのか想像して描写することができないので、手元のメモにまとめてはおきます。9話や10話のラスト回の後書きにそれらを紹介しています。



 どう表現したらいいかわからない事柄は、都度調べていました。調べないと書けないから調べますが、ざっくりググる程度で上っ面だけ何となく把握する、程度です。貨幣、船舶、宿屋の経営や設備、城砦など。スピンオフでは、近代の劇場は露天か屋内か? 夜間の照明は何か? なんてのも。

 この中で、船については理解するのが少し苦手でした。大きな帆船はロマンがあって好きですが、部位の名称が覚えられないのです。「トップスル」とか「フォアマスト」とか、図解があったとしても文章で出てきたらどこのことなのかわからなくなってしまう。読者も、帆船の知識がある方でなければ同様に理解できないでしょう。であれば専門用語は出さずに、印象だけ伝えて済ませたいと思いました。

 作品の文明レベルは、「中世よりは近代寄りで産業革命前」です。蒸気機関は実用化されていません。よって、7話に登場する最新鋭の外洋船はクリッパー船となりました。これを、「クリッパー」という名も出さず用語もなしでの説明を試みています。結果としてクリッパー船のことだ、と理解されなくても構いません。このエピソードでは、アーノルドらが船の「ロープの梯子」に取り付く場面がありますが、正しくは「シュラウズ」とかラットライン、段索などと呼ぶものです。しかし「段索」などと書いてもルビを付けても何のことかわかりませんよね。マストに登るための梯子としても使われているので、あえて正式な用語でなくても伝わるだろう言葉にしました。



 第一世界では、世界の創造主のことは「神」ではなく「天上の主」と呼ばれています。そして、どの国もどの民族もその概念を共有しています。他の概念や多神教を併存させると扱いが面倒なので、宗教は一種類にしました。そのうえで、下位概念として聖女や精霊を信仰するなど、教派の違いはあるという設定です。

 で、「神」という概念がない=「神」という言葉がありません。多神教がないので「女神」という言葉もありません。そうなると、神の概念を前提にした言葉もありません。「神殿」「神官」というものを出せないということですね。とは言えこだわりすぎると支障があるので、あからさまなものだけ避けるようにしました。

 「神」はNGだけど「聖」はOK、「教会」もOK。「教」がOKなので「司教」もOK。「神経」は神様とは違うのでOK、「神妙」はNG……やっぱりちょっとつらいですね。

 第2部で訪れた他の世界では、ちゃんと神の概念があったので楽ができました。10話では変化をつけて「寺院」を出したので、上位概念もどこか仏教ライクに「御手」です。


 もう一つ、出したかったけれど出せなかった単語が「ポンコツ」です。

 ……だってシェヘラザード、占い師としても女神としてもポンコツじゃあないですか。ぜひアーノルドにそう罵倒されてほしい。

 が、「ポンコツ」はそもそも調子の悪い自動車を表した言葉です。対象が自動車から複雑な機械へと拡大し、さらに人間に対しても使われるようになったと考えると、自動車が発明されていない作中世界では使えません。シェヘラザードは「複雑な機械」でもあるのですが、その正体はアーノルドたちには明かされていませんし、作中で彼女をポンコツと呼べるのはオーバーロードの皆さんくらいですかね? でも彼らにそんな発言をさせても意味ないですからね。少し残念でした。



 文体の話とも言えますが、現代的な表現や単語はわりと使用しています。この作品は本格ファンタジーではなく、ライトノベルの一種だろうと考えているためです。ライトノベルの定義は諸説ありますし、世界設定にそぐわない現代用語をぶっ込むのがライトノベルだと言ったら解釈が雑すぎて炎上待ったなしでしょう。だからそれだけがライトノベルの定義だと断言するつもりはありません。ただ、現代に生活する読者にとって卑近な言葉を使うことで、気構えずに物語を読み進めることができる、という効果は非常に頼もしいと思うのです。読んで浮かぶ情景がどこかマンガ的で楽しいですしね。そう言えば、本作でそういう言葉が登場するときはちょっとコミカルに気が抜けている場面、という傾向だったように思います。

 というわけで、「OK」「NG」に始まり、「ニート」「ライフワーク」「プレゼン」などを気軽に使っております。



 説明が冗長にならないように極力シンプルにしようとすることもありました。登場人物の会話の中での説明にそういう傾向があります。


「彼らが魔物から人々を守るのは商売だ。冒険者ギルドという組織が依頼の仲介をしている。ギルドに登録しないと冒険者の仕事はできない。信用に関わるから、ある程度能力がないと登録させてもらえない」(8話①)


「【称号】は、パラメータの成長や戦闘時の行動などによって特定の条件を満たすと、自動的に取得します。称号を得ると、専用のアビリティが付与されます。アビリティはスキルと違いレベルアップしませんが、常時効果を発動します。大抵は称号一つにつき二つのアビリティが付きます」(8話②)


 3〜4文程度で要点を事務的に説明しています。今北産業方式とでも呼ぶべきか。ギルドやステータスは、剣と魔法の異世界ものでは頻出する事柄なので、ここまで簡略化しても「まあ大体そんなものだよね」と伝わるだろうという計算もあります。


 経緯説明となると、やはりそこまでコンパクトにはなりにくいです。9話冒頭で、それまでに訪問した異世界のうち2つ程度を紹介していますが、9話の世界との違いも含め説明してるとストーリーがなかなか始まらないので、苦労して削った記憶があります。魔法にフォーカスして説明することで、このエピソードでは魔法の使いこなし方が話の軸になることを読み手に暗に意識させています。

ネタはあと5本くらいです。

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