11.武術
本作では、架空の格闘術である「バトンアーツ」と、武術ではありませんがパルクールが登場します。バトンアーツは主役アーノルドが得意とするスキルで、パルクールは相棒のサイードが使いこなします。
第一部は、外出時に当然のように帯剣するような殺伐とした世界観ではありません。とは言え悪漢は存在するので自衛手段はあった方がいいですし、特にアーノルドは「襲われているヒロインを守る」といったテンプレイベントをぜひこなしてほしいので、あからさまに殺傷力の高い武器ではないが闘える力を持っていてほしい――ということで、前述のようなスキルを持たせることになりました。
■バトンアーツ
バトンアーツのネタ元は「バーティツ」です。
「バーティツ」は19世紀末に興ったステッキを使った格闘術で、柔術などの要素も含みます。「バリツ」という名称でシャーロック・ホームズ作品にも登場します。どうもすぐ廃れたようですが、今でも研究している人々はいるようで検索するとその手の動画を見られます。アクション映画で使いたくなるような華麗な「映える」動作が特徴的です。
本作では、ステッキだけを使用していて柔術等の要素がないので、バーティツそのままではなく「バトンアーツ」という架空の格闘術ということにしました。格闘術と言うよりは護身術の要素の方が強いかもしれません。
初登場は第一部第三話シリーン編。その時はちょっとしか出さなかったので、武術を解説するために第五話エリカ編で練習風景を書きました。でももう少しアーノルドの勇姿を見せたい――第二部でスキルエンハンスだのレベリングだのしてない素のスペックを見せるという意味でも――と思い、スピンオフ『背のび従者』でガチの見せ場を作り……。でも、アクションシーンの表現は難しかったです! 一体どんな動作なのか、説明しようとすればするほどかえって分からなくなるような気がします。テンポも悪くなりますし。アクションシーンの描写が下手、というのは私が度々露呈させてしまう欠点だなあと思います。
あとは『バロック』第四章でちょっとだけステッキを使うシーンがあります。大人になってもスキルは健在です。『バロック』は、ほぼシリーズを知らない人向けに書いたので、こういうシーンは逆にシリーズを知ってる人向けの符牒のようなものです。
■パルクール
アーノルドの相棒となるサイードも、やはり殺傷力の高い武器は持たせない方向で考えました。どうせならマイナーなものを、というのと、沿海州出身というプロフィール、第二部での冒険者としての役割分担から逆算し、シーフ向きの特性がいい→敏捷性が活きるもの→パルクール、ということになりました。
パルクールは武術ではなく、スポーツの一種です。障害物や段差をものともせずにうまく飛び越えて移動していくだけで、攻撃するといった要素はありません(攻撃するための技術ではないので)。ただ、逃走する相手に素早く追いついたり想定外の角度から現れたりできるので、優位に位置取りしたり先手を取ったりしやすいかもしれません。戦闘の勝率を上げるためのスキルと言えますね。そしてこちらも「映える」アクションです。
第一部第六話では、キャラ紹介として効果的にパルクールのシーンを入れることができたかなと思っています。第七話では船上の鬼ごっこ。スキルが身についた理由は「マストをねぐらに育った」からのようです。このセリフは、とある漫画に登場した船乗りシンドバッドのセリフを借りていますが、パルクールなんて概念のない時代の作品にも関わらず確かにパルクールっぽい動きをしてました。かっこいい。
サイードのパルクール使いという個性は第二部にもきちんと持ち越され、特に第八話・第九話でも機動性の下地になっています。
なお、スピンオフ『果てを渡る風』を書いた後になってから考えると、彼は曲刀やカットラスが最も手馴染みのある武器だと思われます。なのに第八話でいきなり素手で雑魚モンスターと闘わせてしまいました。この回ではアーノルドが剣士系なので対比のために素手かせいぜいダガー、と割り振ってしまったせいですが、よく耐えてくれたものです。
そう言えばパルクール使いが主人公の転生ものがコミカライズされていましたね。単純に剣だけでない、色々な武器やアート使いが活躍する作品にもっと出会ってみたいなあと思います。バーティツを扱う異世界ファンタジーがあったら読んでみたいですね。おすすめがありましたら教えてください。
めちゃめちゃ久々に続きを書きました。