10.舞踏会では絶対やらないタイプのダンス
令嬢ものの作品ではおそらく必ず登場するのが、社交界に舞踏会にダンスシーン。本作の着想前、令嬢ものをコミカライズで読み漁ってばかりいたのですが、舞踏会のシーンに少々食傷していました。舞踏会のダンスはたいていワルツなのですが、あまりにどれもが判で押したようにワルツばかりで。舞台が異世界で文化風俗が頑張ってもビクトリア朝以前の印象なのに舞踏会だけ現代っぽい、何なら競技ダンスっぽい。
いや、悪くはないですよ。学園が現代日本の高校生活を模してるのと同じように、読者に馴染みのある演出は意義があります。ただ自分が読み飽きただけです。
一度だけ、ワルツじゃなくてガボットを出した作品も見かけたんですが、逆に古臭いのでは?と戸惑ったりもしました。
一方、冒険者が主役になるような世界観では、酒場の踊り子のダンスはあまり見かけませんでした。踊り子がジョブの冒険者もいないな…そっちのジャンルあまり読んでいないので、実はけっこうありましたらすみません。
要は、ダンスについては多様性がないなあと思ったわけです。もっと色々なダンスが登場してもいいんじゃないかと。いやそんなところこだわる必要はないし、こだわらなくても話は進むし気にする読者もいないでしょうが。
本作では舞踏会のシーンもなくはないですが、それ以外でダンスが演じられるシーンも度々登場します。
■ワルツ(4話、6話、『バロック』)
4話はダンスが初登場するシーンなので、スタンダードにワルツです。ただ、登場人物たちがいる場所の足場が悪いので、ちゃんとしたステップは踏めません。
6話では、アーノルドが隣国アルクアの王女とのワルツを披露しています。
スピンオフ『バロック』では第二章〜第四章まで頻繁に登場しています。
■アイリッシュダンス(5話)
アーノルドの名目上の領地ソロンの舞曲として登場します。
社交ダンスとは明らかに違うタイプのダンスというコンセプトに従い、観るのがちょっと好きなアイリッシュダンスにしました。動きが激しいので、夜会のドレスで踊るのは無理でしょう。
独特の早い動きを伝えるのはとても難しかったです。ダンスの種類を明示してないと、文面からはきっと分からなかったのでは…と未だ自信がありません。
■ベリーダンス(8話)
8話のダブルヒロインの一人、ジルは本業が踊り子。酒場で披露したのはベリーダンスです。酒場らしくていいですね。語り手のアーノルドが目を逸らしてしまったせいで、どんな風に踊ってみせたのかあまり詳しく伝えることができなかったのが少し残念です。
■フラメンコ(10話)
本作で非常に重要なシーンで登場するダンスとして、フラメンコを選びました。流れ者の一座の持ち芸という点でもフラメンコはお誂えです。
足さばきというか踏み鳴らすという要素はアイリッシュダンスとも通じるところがあり、対比になっています。
かつて90年代後半に「リバーダンス」というアイリッシュダンスのショーが世界的なブームになりました。このショーの中では、タップダンスやロシアンダンスなどステップに特徴のあるダンスと競演する場面があり、フラメンコとも競演しています。
その辺のイメージが頭にあったんでしょうね。本作の主役たちもいつか共演してほしい(するだろう)など考えながら書いてました。
しかし、踊りの場面の描写はかなり難産で、この書き方でいいのかどうか全くもってわかりません。ダンスとしての動きや素晴らしさではなく、それを見ている語り手の心象風景に全振りしてしまって、いやもちろんここは語り手の心の動きが重要なんだけど、こんなに突然のポエムでいいのかと。
…ま、急にポエムが入るのが自分の作風だろうなと思いますが。
■ミュージカル風ダンス(13話)
こちらも重要なシーンのためのダンスです。主人公にとっての夢のような時間を演出するのに、ワルツでは不足なんです。
それまでに見かけた作品の中で、ワルツよりも新しい時代のダンスは登場しなかったというのも理由の一つです。12話では前フリとしてちらっと「最近劇場ではバレエが人気」といった話が出てきますが、それがさらに発展して(あるいは社交ダンスとミックスされて)華やかになったものという想定です。
イメージ元としてはミュージカル映画『バンド・ワゴン』の名シーンなどから。とてもロマンチックですよ。
■おまけ
スピンオフ『バロック』では、ヒロインがワルツの猛練習をさせられて「それじゃマズルカだよ!」と叱られるシーンがあります。アイリッシュダンスと違い、名称が現実の民族名や地名ではなさそうなので出しました。ワルツと同様に三拍子のダンスですが、成立年代がより古いらしく、かつ動きが荒っぽいらしいです。
以上、本編に登場したダンスでした。
ダンスが多様なのはいいですが、ベリーダンスやフラメンコについては、現実の民族的なイメージと本編での設定とのズレはちょっと苦しいところがあります。そのあたりはまた別稿で。