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吸血鬼の地味な日常  作者: 護道綾女


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第9話

 無罪を証明するという意気込みから現れたのは仲間への疑いである。衝撃は大きいが先に進まないわけにはいかない。 


「誰がどこにいたかが、本当に大事になってくるんだね」ポンタスは書斎の扉に手を掛け呟いた。


「あなたが一番早く外に出てきたようだけど、何か見なかった?」とフレア。


「あの時は何も考えずに窓に寄ったけど何も見てないんだ。庭に丘に色々と見たけど何も見つけられなかった。少ししてこんなことしてる場合じゃないと思って廊下に出たんだ」


「そこでは?」


「誰もいなかった」


「奥様の部屋にはどうして行かなかったの?」


「もう寝てると思ってたからさ。母さん寝るの早いんだよ。それに寝るとなかなか起きない。昨夜見たよね、寝間着姿で現れたの。父さんの書斎を見るまで何が起きたのかもわかってなかった」


 確かにポンタスの言う通りだ。昨夜現れたパトリシアは半分寝ぼけた様子だった。


「そちらはどうでしたか?」フレアはフミに目をやる。


「わたしは音で床に座り込んでしまって、少ししてから外に出ました。廊下に出たらマーブルがいました」


「窓から離れないと危ないかと思いまして、すぐに外に出ました」とマーブル。


「マキは部屋で窓から外を眺めていましたね」


「えぇ」


「クリスはどうしてたんだったっけ」


「いましたよ」


「それじゃ、大丈夫だわ。わたしはそれから男連中の様子を見に行って、ヘクターはレヴィオの部屋にいたね。また賭けカードだよ。叱りつけて母屋に行かせたよ」


「それが書斎に入る直前のことですね」


「うん」ポンタスが頷いた。


「とりあえず怪しい人はいなさそうですね」フレアが呟く。


「あとは外にいる……」


「こんなところで何をしているんですか」


 パトリシアの寝室を出てきたショーンがこちらに目を止め声を掛けてきた。ポンタスがパトリシアが運ばれた後の展開を話して聞かせた。


「なるほどそういう事でしたか。わたしもオスカー様を疑いたくはないですが……」ショーンは言葉を切りこの場に同行している使用人達に目をやった。「フミ、マーブル、あなた達にはお屋敷がこのような状態であっても課せられた仕事があるはずですよ」


「はい」


 使用人二人は軽く頭を下げその場から去っていった。


「ショーンは何か見なかった」ポンタスが尋ねる。


「一階のわたしの部屋は庭に面していないので音しか聞こえませんでした。様子を探るために食堂へ入り窓から庭を眺め、それから旦那様の部屋へ上がりました。その間誰とも会っても見かけていません。では、また後ほど」


 ショーンも軽い礼を残し去っていった。




 母屋を出てきたフレアとポンタスの二人はヨーハンの小屋へやって来た。ヨーハンも例の音は聞いていた。しかし、発砲音とは思わず部屋で酒を飲みくつろいでいた。事件を知ったのはヨアヒムの死亡が判明し、レヴィオがやって来て話を聞いてからだ。それから銃を用意し警備隊の捜索に加わった。


「そうです。俺が確認しました」とヨーハン。 「残念ですが、オスカーさんの銃に間違いありません」


「誰かが銃を持ち出して使ったってことは考えられない?」とポンタス。


「ありえないですね」ヨーハンは即答した。「無理なんですよ」彼は悲しげに笑顔を浮かべた。


「ポンタスさんの思いはわかりますが、無理でしょうね」


「どうしてだよ!」


「こちらへ来てください」


 ヨーハンは椅子から立ち上がり歩き出した。二人もそれに続く。まず隣の部屋にある厨房へそこの隅に設置してある木箱の前に行く。上着の物入れから鍵束を取り出し木箱を開ける。そこから鍵を一つ取り出すと元の部屋に戻った。反対側の扉には部屋の鍵とは別に南京錠が取りつけてある。ヨーハンは木箱から取り出した鍵と鍵束の鍵二つで扉を開けた。


「どうぞ、こちらへ」


 促されて入ったのは銃の倉庫だ。何丁もの銃と整備用の工具と弾丸などが置かれている。


「まず、ここへ入るためにはさっきのような手間が必要です。お屋敷の方も同様です。そして、入ることができたとして」ヨーハンは並んでいる銃と弾丸を手で示した。「今度は適正な銃と弾丸を選び出す必要があります。鳥撃ち用、散弾銃、大物用それらの区別はつきますか?それに合う弾丸も」


 ヨーハンの指の先にある棚にはいくつもの革袋が並び、その端には赤と青の勘尺玉まで並んでいる。


「勘尺玉まで撃てるんですか?」フレアは自分の勘違いかと思いヨーハンに尋ねた。


「撃つわけじゃないよ。普通に投げて音を出して追い払う。お互い無用な殺生をしないために」


「僕たちは詳しくないから銃の区別もつかないけど、猟をやってる人なら簡単にわかるんじゃないの、簡単に持ち出せる」


「確かに……それならそこまでは出来たことにしましょう。お屋敷から銃は持ち出すことができた」


 フレアはヨーハンがいとも簡単にポンタスの言葉に折れたことが気にかかった。


「次は外に行きましょう。銃が見つかった丘の上です」  


 小屋の施錠を済ませたヨーハンは先頭に立ち丘へと向かった。最初に会った時とは違い明らかに意気消沈しているのがわかる。丘に登って屋敷を眺めるまなざしもどこか悲しそうだ。


「ここから窓を見てください。中にいる時は大きく感じる縦長の窓ですが、ここから見ると拳ほどの大きさです。更にその中にいる人に致命傷を与えることができるとすればかなりの手練れとなるでしょう」


 ヨーハンはため息をつく。


「この村でそれをやってのけるような腕を持っているのはオスカーさんだけなんですよ。あの化け物猪フォグジラの脳天を弾け飛ばしたのもオスカーさんです。あの方がいなければあいつとの戦いは極めて困難なものになっていたでしょう。俺たちだけだともっと距離を詰める必要があります。ここでも一緒です。ですが、宙に浮けるわけもない」


「村の外ならいるかもしれない」ポンタスは弱々しく呟いた。


「探せばいるでしょう。しかし、そいつにオスカーさんの銃を渡しても無理でしょう。銃にはそれぞれ癖があります。それを知る必要があります。事前にそれを知る暇はなかったでしょう。何しろあの銃はあの日の昼まで整備に出されていましたから」



 丘の上でヨーハンと別れポンタスは屋敷に戻って来た。落ち込んでいるポンタスのことが心配になり、フレアはしばらくの間彼に付き添っていることにした。部屋に戻ると力なく椅子に座り机に向かって項垂れていた。フレアは寝台に腰掛け、ポンタスの様子を見守っていた。掛ける言葉は見つからないが泣き出すようならそっと抱きしめてやるつもりでいた。


 重苦しい沈黙がしばらく続いた後、ポンタスが勢いよく立ち上がった。両手の拳を胸の高さで握りしめる。顔には笑みが浮かんでいる。いったい何が始まるのか。


「うん!わかったよ」


 力強い言葉だが、多くの場合はわかっていない。だが、フレアは口を挟まず言葉の続きを待った。


「父さんは銃で撃たれたんじゃない。何かで刺されて、その後で犯人が撃たれたように偽装したんだ。窓ガラスに穴を空けて扉に傷を付けて弾を転がしておいた」


「その場合、犯人は鍵の掛った部屋からどんなふうに出て行ったの?音は外からしたわ。それをどう説明するの?」


「あぁ……」ポンタスは頭を抱えた。


 頓珍漢な筋書きには呆れたが、ポンタスはただ落ち込んでいたのではなく、諦めずずっと推理を続けていたようだ。思っていたよりしっかりとしているらしい。


「いくら仕事に集中していても、誰か黙って入ってくればヨアヒムさんもわかるでしょう。それなら当然招き入れたはず、何かあれば争いになる」


「そうだよね。うまくいかないな」

 オスカーを罪から救うために必死になっているが、いずれ引導を渡す必要があるだろう。起こった事実を認めざるを得なくなる。どのような形であろうと

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