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吸血鬼の地味な日常  作者: 護道綾女


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第9話

「了解、そちらは任せたわ」

 イヤリング越しに届いたフレアからの報告にローズは満足の笑みを浮かべた。事は順調な進展を遂げているようだ。

 アンファル家の倉庫に侵入を試みた男たちは倉庫に警備隊の男女によってあっけなく取り押さえられた。病院送りが二人、残り二人はその場で投降した。フレアは隊士達の注意を引くだけに留めた。彼女の存在は警備隊隊士の二人には悟られてはいない。エブラッタ・アンファルの行動に関する証言だけでもと思っていたところに新たな証人まで飛び込んできた。連中は警備隊の前でひと騒ぎ起こし、速やかに投降した。これは儲けものとしか言いようがない。

 この騒ぎにより警備隊の二人も倉庫に出向いた理由を明かさざるを得なくなるだろう。結果、エブラッタに対する強盗殺人事件やトルキン死亡の真相に新たな展開が加わることになるかもしれない。こちらの調査で真相を暴き出すことは可能かもしれないが、今回は事を公に知らしめたい。そのためには公に警備隊を動かす必要がある。

 これ以上の事件への介入は避け、ここからは警備隊に任せておけばよい気もする。しかし、あの手帳を目にした今となってはもう遅い。最終的な帰結がどうなるか、その興味が手間を上回っている。

 フレアとの情報交換を済ませたローズは手帳を手に入れてからずっと気になっていたトルキンの娘であるピービ―の元へとやって来た。工房区で織工として働いている。彼女は今日の勤務は終えて買ってきたパンと温めなおしたスープで夕食を済ませ、小遣い稼ぎのために受けている仕立てを開始している。その使い道は本のようだ。トルキンへの強い反発があっても、この趣味を断つことはできないようだ。

 ピービ―がトルキンに対して抱いている感情はトルキンの元同僚であるボウラーなどの見立てで間違いはないようだ。仕事に打ち込み家に帰らぬ父への反発は母が倒れた際に爆発をした。トルキンも手帳にはあれだけ娘に対しての強い思いのたけを綴っているにも関わらず本人の前ではそれを口に出せずにいたようだ。それが二人の深い溝の原因なのだろう。黙して語らずが通用するわけもない。トルキンは捜査においては手練れであっても、人としては不器用なところがあったようだ。 トルキンを亡くしたピービ―の感情は反発と悲しみが相半ばし、揺れ動いている。遺品を受け取らず突っぱねたことについても後悔を抱いている。かと言って許すこともできないでいる。何が癒しになるか複雑な問題となるが、思い悩む中でそれが死につながる恐れはなさそうだ。

 ピービ―の元を後にしたローズはクラウド・ポートの屋敷へと向かった。クラウド・ポートは自前の船を持ち海運業を営んでいる。そして、近東、さらにその東から得られる穀物、香辛料に織物まで幅広く扱っている。その中に禁制品も含まれている。彼の屋敷はアンファル家から通り二つ隔てた位置にある。屋根の上に降り立ち、階下の様子を探る。

 家人や使用人はポートが法に触れる荷を扱っているとは思いもよらないようだ。この辺りはアンファルと同様に抜け目なく隠している。アンファル家についても知っていることとしては商工会内での付き合いだけを装っていたようだ。不意にやって来た湾岸中央署の警備隊士については何人かの使用人の記憶に留まっていた。名前はティモシー・トルキン、容姿の描写からも彼に間違いない。

「意識を読むこともできない身でよくここまで辿り着いたわね」

 彼は主人であるポートの行動について二、三訊ねた後、帰っていったという。ポートは一人で出歩くことはなく、常にレイクランド・ダーナーという執事を伴い行動している。周辺の読み取りはそれぐらいで切り上げ、ローズはポートとレイクランドの所在を確認した。

 折よくレイクランドとポートはともにポートの書斎にいた。二人は使いに出した四人からの連絡を待っている。使いというのはニコタン襲撃犯を指している。彼らは通信魔器は持ち合わせておらず、背後に監視役も付けていなかった。そのため使いの首尾は彼ら自身からの連絡しか術はない。ポート、レイクランド共に沈黙の中で苛立ちを募らせている。ポートは連絡の遅さに、レイクランドはそれに加えて四人に与えた仕事の失敗の懸念が湧き出している。ポートからの汚れ仕事を仕切っているのはこの男のようだ。

「これは使えそうね」

 彼らに警備隊士の来訪を知らせた者がアンファル家の倉庫にいたようだ。そいつも彼らを揺さぶるのに使えるだろう。不安は冷静な判断を狂わせる。ローズはレイクランドに小さな不安の種を植え付けポート屋敷を後にした。


 倉庫街での騒ぎによりシャーリー、ダニエルの二人は捜査部の部長クルードより注意を受けることとなった。それは知り得た情報を隠したままでの独断先行行為によるものだ。それにより重要な証人であるニコタンはいうに及ばず、シャーリー達二人までが危機的状況におよびかねない可能性があった。もし、そんなことになればどのように責任を取るつもりだったのか。これらの言葉をシャーリーは神妙な表情を装い、聞き流した。

「以後気をつけるように……」一通りの注意の言葉を終えると、クルードは声を潜め二人に顔を近づけてきた。「それでだが……」

 一通りの注意の言葉を伝え終えると、クルードは声を潜め二人に顔を近づけてきた。

「例の夜番の情報はどこで聞きつけた?お前たちのことだ。確証ありと見込んでの行動だろう。誰なんだ?」

 シャーリーは隣にいるダニエルに目をやった。彼は軽く小首を傾げた。

「……ラリーです。ラリー・ボウラー」

「ボウラー……あいつからの情報か」とクルード。「元気そうでなによりだな。他に何か聞いているか」

「はい、彼の元に信頼できる知り合いから、アンファル家の倉庫で隠し戸棚が見つかり、そこからクラウド・ポートが絡む禁制品取り引きを匂わせる帳簿が発見され彼の元に持ち込まれました」

「クラウド・ポート……か」クルードは顔をしかめた。「その帳簿は今どこにある」

「帳簿はこちらに持ち帰るわけにも行かず、ラリーからその知り合いに元の場所へ戻すように頼んで帰りました」

「その知り合いというのは……」クルードの声が更に抑えられる。

「彼によると……塔のメイドです」

「あぁ……」クルードは思わず顔を押さえた。予想通りの反応だ。「面倒な相手だな」

「はい……」

 彼女は頼りにはなる。問題はそれをどうやってこちらで使い物になる証拠にするかだ。そのためにはどういう策を取るか。そのための最初の一歩がニコタンへの聴取だったことをシャーリーはクルードに告げた。

「その聴取の帰りにのこのこ倉庫にやって来た四人組に出くわし、取り押さえた。それが真相か」

「そんなところですね」

「……悩ましいな。その帳簿は捜索などにより公式に見つけ出す必要がある。そうしない限り証拠としての機能は果たされない。そのためには捜索の理由付けが必要だ」

「はい」

「アンファル氏が度々一人で倉庫に出向いていた。それも重要な新事実かもしれないがそれだけでは足りない」

 クルードは視線を天井あたりへ外し、黙り込んだ。沈黙が訪れたクルードの執務室に街路からのざわめきが忍び込んできた。また、騒がしい酔っ払いが引っ立てられてきたようだ。ややあってクルードの僅かに口角が上がった。

「お前たち、俺も協力するから一芝居打ってくれないか」

「一芝居打つ?」

「お前たちが捕らえてきた男たちだが、さっきの話を聞いた後では、奴らが昨夜あの倉庫を狙ったのは偶然ではなさそうだ。奴らに直にあの倉庫を狙った理由を問いだ出してもらえないか。うまくカマをかければ乗ってくるかもしれない。それが無理ならそれらしい調書を作るまでだ」

「無茶を言いますね」

「お前たちに言われたくないね」クルードは鼻を鳴らせた。

「ともかくお前たちがうまくやってくれれば、俺はそれを理由に捜索の段取りをつけよう。それから、出向いた倉庫で隠し戸棚を見つけて帳簿を回収する。そうすれば、まずはアンファル、ポートの繋がりを掴むことはできるはずだ」

 シャーリーはクルードの言葉に若干引きはしたが、せっかくの証拠をむざむざ逃したくはない。彼女はクルードの提案に乗ることにした。

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