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シマリスに魔法を与えた悪魔  作者: おんぷがねと
28/28

28. 秋色の空に

 バチバチと音を立てて火が森を侵食するように広がる。


「はっ!」


 それを見たリンリーは立ち上がって上着を脱ぎ、その火を消しにいった。パタパタと上着を火に被せる。ローサはリンリーのその行動を止めにいった。


「リンリー!」


 必死で火を消しているリンリーはローサの手を振り切って、その行動を続ける。そのあと、近くにきて指示を出している隊長のところに走っていき、その腕をつかみ泣きつくように言った。


「どうして? どうしてこんなことするの! やめさせてよ、お願いだからやめて! 動物たちは悪くないわ、どうしてわかってくれないの!」


 リンリーはその場に泣き崩れた。


 隊長は渋い顔でどうしていいのかわからずにただリンリーをながめていた。


 燃え盛る炎のなか、リンリーの泣く声がそれにも増して大きく聞こえていた。


 それを見かねてロビは言った。


「やめなよお姉ちゃん。どうせ大人に言ってもわからないよ。なにがよくてなにが悪いのかわからないんだよ……どうせみんな殺すんでしょ」


 ロビはそっぽを向いてつまらなそうにした。


 ラボルはそれを見て隊長につかみかからんとするように言った。


「あなたはそれでも防衛隊員ですか? なにもしていない動物を殺そうとして、これじゃただの、殺戮じゃないですか」


 隊長は周りを見まわすと肩の力を落として言った。


「やめろ、中止だ。消火器を持ってきて火を消しておけ」


「え?」と隊員が声をもらした。


「子どもの泣き顔を見るために私は防衛隊員になったのではない。だから撤収だ」


 その言葉に隊員たちは撤収をし始めた。


 隊員のひとりが聞いた。


「あの、本当によろしいんですか?」

「ああ、私が上に言っておく、責任は私が取る」


 それから、ラボル一家は隊長に森へきた理由を話して残ることになった。


 隊員たちが去る間際に、くれぐれも気をつけてくださいと言い帰って行った。


 それを木の陰から見ていたボリィは言った。


「ギャズ、さっきの一部始終は撮れてるな」

「はい」

「よし」



 ピヨリティスは翼を広げた。とたんに黄金に泉が輝く。


「このままでは、魂をガルマからククジェルへ送ることはできません、ですから、一時的にガルマの体を物体化させます」


 光の雫が一点に集まってガルマの姿に変わっていく。次第にオオカミであるもとの姿になりガルマはあらわれた。


 ガルマは首を動かして辺りを見まわした。そこには助け出された動物たちがガルマを見つめていた。それから下を向いて目の前に横たわるククジェルの姿を見た。


 ククジェル……と悔しそうに歯を噛みしめる。


「お前がガルマ」


 オウガは言った。


「ああ、まあなんてことはない、こんな姿だ」


 遠くで見ていたグビルは目を一瞬丸くしてガルマの姿をながめていた。


 (ピヨロロォー)とピヨリティスは鳴いた。


 その鳴き声はガルマの魂がククジェルに送り込まれる合図だった。ガルマの体からククジェルの体に光りの雫がゆっくりと流れていく。


 すると、途中でククジェルが目を覚ました。


 なにが起きているのかわからずに辺りをきょろきょろし出した。それからガルマが近くにいることに気がついて起き上がった。


「ガルマ? ガルマ、どうしたの? あれ、みんなも集まって」


 不思議そうに辺りの光景に疑問を感じながらも何気なく自分の体を見てみた。


「あれ、ぼくのからだが光ってる」


 そんなククジェルにガルマは言った。


「ククジェル、さよならだ」

「え?」

「もう、お前とは別れなきゃならない」

「どうして?」

「お前はよくやってくれた。俺の願いを聞き入れて、仲間たちを人間の手から助けてくれた」

「それは、ガルマやそれを手伝ってくれたみんながいたからだよ」

「ああ、そうだな」

「なぜそんな悲しそうなの」


「いや、なんでもない、ただ俺はもう満足したんだ。思い残すことはない、だからこのまま……空の彼方に……いく」


 ガルマの体は段々と薄くなりその魂がククジェルにすべて吸い込まれようとしている。


「え? なに? そら」

「だ、だから、あ……あ、りが……と、う」


 ガルマは消えてその魂はククジェルのなかに完全に入った。


「ガルマ、どうしたの? なんで見えないの?」


 あわてふためくククジェルをオウガは止めた。


「ククジェル、ガルマはもういない」

「……そんな、嘘だよね。ねえ、ガルマ聞こえてるんでしょ、なんか言ってよ。ガルマー!」



 それから月日が経ち、秋も深まるころ。


 ドキュメンタリー映画ということ強調してラビール家に出演の許可と防衛隊の許可を取りボリィたちの映画は完成した。


 早速コンクールに応募してその結果を待っていた。


 結果、ボリィたちの作った映画は受賞されなかったが、その代わり特別賞を取ることができた。その内容は1日だけ街頭モニターで上映できるというものだった。



 そして、その日がきた。



 映画関係者の計らいで音や音楽がつけ加えられての上映となった。


 森の風景、そこで生きる動物たち、シマリスの捕らわれた動物たちを救おうとする姿、人の無情さで巨大化したシマリスが町を破壊する姿、逃げ惑う人々、シマリスを追って森にきた武装集団が森の動物たちを焼き殺そうとする姿、それを止める少女とその家族。力尽きたシマリスが森の動物たちによって見守られている姿。


 ただ、そこには精霊ピヨリティスの姿は映っていなかった。


 それらがすべて字幕とともに流れた。


 町を破壊されて最初は嫌悪感を抱いたり不快な気持ちになりながら見ていた人々は、次第にその不思議でちょっと奇妙な映像に魅せられていった。


 ラビール一家も近くで見ていた。自分たちが出ているのに少し照れ笑いを見せていたが、やがて映像が終盤になると思い思いの表情でながめていた。

 

 上映が終りスタッフロールが流れ始めると、人々からは拍手が送られた。


 ボリィたちも近くで見ていた、無事に上映が終り人々からの拍手で彼らもにんまりした。


 

 その映画は町長の目にも届き彼の目頭を熱くさせた。


 町長は声明を出した。それは動物たちに対してわれわれが危害を加えないこと、動物たちが危害を加えるかもしれないから収容させておくことの禁止、あくまでも自然として見守ること、家畜をしないこと、哺乳類や魚介類の肉を食べないこと。穀物や芋や野菜だけの食事をすること。


 もし人間側が動物たちを殺めてしまったらそれなりの処罰を受けることなど。


 その声明以降、町の人は動物たちに対しての気持ちや接し方を変えた。


 動物たちを同じ生き物として扱い、この星でともに生きているということ、動物たちが人を襲うのは自分たちに原因があるのだと理解し、そのなかで生きる動物たちの居場所を決して奪わないように心がけた。


 ラシナル町に住む人たちはもう二度と動物を襲ったりはしなくなった。


 それからしばらくして、認可の下りていない催眠ガスを町中で噴出させたということ、および、動物の巨大化の実験をしていた疑いでポーメットたちとその一部の研究員たちが逮捕された。



 そして月日は経ち、ピアメイトリィの森ではいつものように平和な日々が続いていた。


 紅葉も木から落ち始めて肌寒い季節になりかけのころ、ニャミィはククジェルの巣穴にやってきた。


 顔をのぞかせてニャミィは言った。


「なあ、魔法でなにかおいしい食べ物を出しておくれよ」


 ガルマが消えてからすっかり元気をなくしたククジェルは巣穴でうずくまっていた。


「それにククジェルはどんぐりを集めなきゃならないんだろ? 魔法でどんぐりも出してさ、ついでに、ねぇ」


 風通しのよい巣穴でククジェルは寝返りをうち「うーん」とうなった。


「ガルマのことを考えてるんだろ、気持ちはわかるけどさぁ、いつまでもそうやっていてもしかたないだろう、なあ」


 そのとき「きゃー!」と叫び声が聞こえた。


 ニャミィは目を丸くし、ククジェルは勢いよく起き上がるとあわてて巣穴から顔を出した。


 そこにはウサギが1匹走ってきてなにかから追われているようだった。


 その後方には人間の男がふたり猟銃を持ってウサギを追ってきている。


「こう寒いと肉が恋しくてたまらねぇぜ、まったく」

「ああ、しかしこんなことやって警察にバレないか?」

「バレなきゃいいんだよ」

「肉かぁ」

「あの声明以来、俺たちは肉が食えなくなったけど、やっぱりあの味は忘れられねーからな」

「そうだな」


 木の上からそのようすを見ていたニャミィが呆れたように言った。


「あーあ、まったく懲りないねぇ、人間てのは」


 ククジェルは迷わず木から飛び降りた。そして、その人間たちの前に立ちはだかる。


「お? なんだ、シマリスか」

「おい、あのシマリスじゃないのか?」

「あの巨大化して俺たちの町を襲ったやつか」

「ああ」

「そんなわけないだろう。ちょうどいいや、こいつもやっておくか」


 そう言って、猟銃を構えそれをククジェルに向けた。


 ククジェルは彼らが怯えて逃げていくイメージをした。


 男たちに見えたのは武装した集団が猟銃を構えて男たちを狙っている姿だった。


「あ? なんで?」

「に、逃げるぞ、早く!」


 男たちは逃げていき、森はふたたび平和になった。


 怯えて縮こまっているウサギにククジェルは言った。


「もう大丈夫だよ」


 ウサギはきょろきょろを辺りを見まわしてホッと息をついた。


「ありがとう」


 そう言ってその場を去っていった。


 それを見ていたニャミィが陽気な声を出した。


「まったく元気じゃないか、ねえ、だからさぁ、おいしい食べ物を出しておくれよ」

「えー、自分で少しは探してよ」


 ククジェルはニャミィから走って逃げた。


 落ち葉に交じって秋の花が咲き、紅葉をつけた木が秋風に揺れる。


 その風に乗って枯れ葉がククジェルの前を通り過ぎ上空に舞った。


 ククジェルはそれを目で追っていき空を見上げた。木々が通り過ぎていく。そこから青い空が見えて小春日和が訪れていた。


 これでいいんだよね。ねえ、ガルマ。




最後までお読みいただきありがとうございます。

ご評価を下さった方、本当にありがとうございます。励みになります。


『動物の尊厳』をテーマにしています。


人間と動物を別の生き物として書いています。


人間以外の動物たち(昆虫や爬虫類を魚類などをのぞく)は話し合うことができる設定です。


ラシナル町の人々は動物の肉を食べなくなったのですが、肉を食べないことを推奨しているものではありません。


あくまでも動物たちが人間たちに対しての思いを書いている物語ですので。


作者も鶏肉などをいただいたりします。


人に飼われている動物たちはどんな風に思っているのだろうというのを書いて見たかったのです。


ですからこれは作者のわがままでもあります。それを聞いて不快な気持ちにさせてしまったのでしたらすみません。


何か動物を飼おうとしているときや飼うかどうか迷っているときに、この小説を思い出したり、下記にある映画などを一度ご覧になってからでもよろしいかと思います。


ちなみに作者は動物は飼ってません。


この小説で少しでも動物に対しての接し方や考え方を改めて見直してみようと思っていただけたらありがたいと思います。作者自身も見直してみようと思っています。


参考にした映画『奇跡の旅』や『ベイブ』などです。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


最後になりますが、この小説をお読みになって何かを感じ取ってもらえたら幸いです。


おんぷがねと。

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