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魔女さんとの魔法な日常  作者: ゴマ麦茶柱
9/9

ファンタジーな年越し

「う~寒い寒い…」

大晦日。つまり、十二月三十一日。

ポケットに突っ込んでいた手を出して、息を吹きかける。

ふわぁっと広がる温かさはすぅーっと消えていって、相変わらず手は冷たいまま。

毎年の今日は昼頃からテレビは大騒ぎ。バラエティも歌番組も、一番組が1、2時間ずーっとやってる。そんな日。

当然、もう外も暗くなり始めた今の時間帯なら面白そうな番組の一つや二つあるだろうし去年だったら家でゴロゴロしてた。

けど、なんでこんな寒い中外に出ているかと言うと、移月さんのアパートに向かっているから。

三日くらい前の移月さん家から帰る直前、

「あ、大晦日は家で年越ししようよ。心、暇そうだし良いでしょ、じゃ、よろしくねー」

と言われて、そのまま何も言えずに玄関の戸を締められて逃げられてしまった。

確かに、暇と言えば暇。日本中が仕事とか学業を納めてゆっくり過ごすという習慣はもちろん私も例外じゃないけどそんな突然、来てね。言われて、何も言わせないのは少しおかしいと思う。第一、暇人認定されるのもなんかムカッとする。

私も華の高校生、女子高生。友達もそこそこいるし勉強だってちゃんとやってる…多分。だから別に暇じゃないもん。

とか何とか言ってたら着いちゃったよ。

「移月さ~ん」

「開いてるよ~」

家に入ると、暖房の温かさがぶわっと全身を包み込んでくれる。

「いらっしゃ~い」

「お、おぉ…」

いつもと違う雰囲気を感じ取っていたけど、どうやら本当にそうだったみたいでこたつの上にはお菓子が大量に並べられていた。

そして、こたつでぬくぬくと温まっている人が一人。

「アイス食べる?」

「大丈夫です」

ついさっきまで寒くて凍えそうだったのにアイスは流石に食べられない。

「予定とか大丈夫だった?」

「大丈夫ですっ」

「なんで怒ってるの…」

「別にぃ、なんでもないですぅ~」

そういうのは誘うときに聞くべきだと思いまーす。

「あ、親御さんとか大丈夫だった?」

「はい、それは。はい」

一応、移月さんは学校の先輩という事にしてあって、今日は移月さんの家で年越しするという事を伝えた。それに関しては母とも一度会ったことあるし、そこは問題なく納得してくれた。ただ、迷惑かけちゃだめよとしつこく念押された。そこはまぁ、大丈夫そう。むしろ、私にかけられそうでは…ある…。

上着とバッグを掛けてこたつに入って、久しぶりに見たざらめせんべいに惹かれて一袋開ける。

「ざらめせんべいって牛乳と一緒に食べると最高じゃない?」

「やったことないです」

「え~、おいしいのに」

袋の中で割ってからバリボリと食べる。ん~、久しぶりに食べたけどやっぱ美味しいなぁ。

「そういえば、ここってテレビ無いですよね?」

前に集金来たけど。

「あんま見ないからね」

「大晦日とかってどう過ごしてたんですか?」

「寝てた」

なんというか、移月さんらしい過ごし方だな。

「けど、何で今日は誘ってくれたんで―」

ピンポーン

「あ、開いてますよー」

廊下の方からガチャリと扉を開く音が聞こえると、

「お邪魔します~」

サユさんの声がした。

「こんばんは~」

目が合うとにっこり微笑んで手を振ってくれる。

格好は相変わらずのニットとむちっとしたデニム。手には薄茶色の巾着袋を持っていた。

「誘ってくださってありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます。大丈夫でしたか?魔界の方は」

「はい。実家と師匠《メル様》にはお世話になっている魔女の方と過ごすと伝えてあります」

え?サユさんには事前に日程調整できるように伝えてたってこと…?私、不遇過ぎやしませんかね?

「メル、なんて言ってた?」

「メル様は、そうか、人間界でもうまくやれているようだな。何か土産の品でも持って行け。相手が魔女なら魔界の物でも構わないだろう。とのことでした」

「相変わらず弟子には硬いなぁ」

ふふっと笑った後に、私と目を合わせる。

「心ちゃんも、家族の人には言ってきた?」

「はい、学校の先輩と過ごすと言ってきました」

流石に魔女の師匠とご近所のサキュバスさんと一緒に過ごすとはいえないし、伝わんないし。

「そっか、じゃあ今日はゆっくり楽しもうね」

「はい」

サユさんもこたつに入ると、思い出したように巾着袋を開く。

「なんですか?それ」

「魔界からお土産です」

巾着袋から取り出したのは葉っぱにくるまれた何か。竹皮に包まれたおにぎりみたい。

「これは…」

「魔界でも人気のお菓子、&!☆”@#%”です!」

「…え?」

「&!☆”@#%”」

「な、なんて言ってるのかわかんないです…」

「あ、えーっと、つまりは饅頭です」

魔界にも饅頭ってあるんだ。

「スタードロップって言う花が中に入っていて、饅頭の皮とスタードロップの食感が面白いんですよ」

葉っぱを開いて、一つ渡してくれる。見た目はいたって普通の饅頭。

一口頬張ってみると、歯が饅頭の皮を貫通して餡に到達した瞬間、ぐにゅりとし食感がした。ゼリーほど柔らかくなく、ナタデココより硬くない不思議な食感。

そして、饅頭の皮が普通の皮じゃない事にも気づく。噛めば噛むほどジューシーで爽やかな味が広がって餡とよく合う。

ごくりと飲み込む。

「めっちゃ美味しい…」

「よかったぁ」

「こ、これどこで買えますか?」

思わず食い気味に聞いてしまった。

「に、人間界じゃ買えないよ。また今度買ってきてあげるね」

「ありがとうございます!」

一口かじった饅頭の断面を見る。すると、中にはカラフルなまるで金平糖のような形をしたものが詰まっていた。

「それがスタードロップ。落ちてきた星と言う意味があるの」

「これが花畑いっぱいに咲いてるんですか?」

「そうそう。人間界で咲いている花とは少し違うでしょ」

なんというか、奇妙な世界。けど、こんなにおいしいんだ。

隣で一個もらった移月さんも美味しい美味しいって言いながら食べてる。

「それと、もう一つ」

袋の奥から取り出したのはこれまた葉っぱにくるまれている何か。でも、今度は魔界の言葉らしきものに交じって日本語も書かれている。

「『あくまき』…?」

「あ~メルが大好きなやつか」

「そうです。昔、メル師匠が日本に来た時にいただいた際に魔界に作り方を輸入したものです。元々、鹿児島県の郷土料理らしいです」

一袋受け取って開いてみると、黄金色の食欲をそそられるその姿が見える。そして中にもまた薄い袋が入っている。

「これは…きな粉?」

「そう。甘いきな粉をかけて食べるの」

袋を開けてきなこをかけて口の中に入れる。

……。

…………!

……………!!

ごくり。

「どう?」

「なんか、独特な味がして美味しいです!」

食感はもっちりしてもち米みたいなつぶつぶの食感がして餅みたい。少しえぐみに似た癖があるけど、きな粉と合って美味しい。

「これ、どこに売ってるんですか?」

「これは九州で買えますよ」

あ、まだ買える距離だ。

「それにしてもメルさん、輸入するほど気にいってたんですね」

「あ~…まぁ、どちらかというと名前に…」

「名前…?」

「ほら、『あくま』き…悪魔だけに…」

「……」

「……」

「(ムシャムシャ)美味しい(ムシャムシャ)」

「…あ、まだあるけど、心ちゃん、食べる?」

「いただきます!」



「もう九時なのかぁ」

「早いね~」

サユさんと神経衰弱、スピード、すぐにやめちゃったけどババ抜きをやってたら気づけばこんな時間になっちゃった。

「魔界でもこんな感じで過ごしてたんですか?トランプしたりとか」

「そこは地方とか血縁とかによるの。例えば、私はサキュバスだから本来、儀式とかは無いけど、上位種だからだったり師匠の立場だったりでゆっくりはできなかったかな。去年も式とかに出席してたしね」

「式っていうのはパーティとかなんですか?」

「パーティは出席したことないかな。むしろ、暗いイメージのものが多いかも」

「亡くなった方を惜しむような感じですか?」

「それが、それと全く逆なの。罪人の死刑を執行して、その罪人を生贄にしたり、吸血族は死刑を執行した罪人の血を他の罪人に飲ませたりするの。吸血族は冷めた血は大嫌いだからそれだけで生き地獄なんだって」

「なんか、酷いことしてますね…」

「私も人間界の風習を知ってからはすごいことしてたなぁって…。でも、由来は悪いものを振り払うっていうものらしいからむやみやたらに殺してるわけじゃ無いの」

悪魔って悪いものそのものな気がするけど…。

「ただいま~」

「あ、おかえりなさいです」

ビニール袋を持って冷蔵庫から出てくる。

「あぁ寒っ。じゃあ、よろしくね」

「はい」

「心ちゃん、何か作るの?」

「はい。せっかくなので年越しそばをと思って」

「年越しそば!聞いたことあるわ!」

「もしかして初めてですか?」

「そうなの!だからとっても楽しみ!」

サユさんがここまで心躍らせることがあるんだ。珍しい。

こたつから出てキッチンに立つ。

年越しそば。大変そうに見えて意外と簡単にできる料理。

先ずはそばを袋に書いてある通りに茹でて、その間に出汁醤油とみりんを煮ておく。

後は天ぷらを乗せたりしても良いけど、今日は一工夫、かまぼこを使う。

「かまぼこ?」

「はい」

どうやら気になったようでサユさんが見に来た。

板から切り離して、弾力のある感触が手に伝わる。

そこからいつも見るような形に切り分けていく。今回はそこから一工夫。

ピンクと白の境目に沿って切っていき、最後まで切らずに少し残しておく。

そうしたらピンクの部分を内側に織り込んで……できた!

おっとっと、そろそろそばが茹で上がった頃かな……よしよし上出来。

やっぱり久しぶりに料理してみると楽しいなぁ。

茹で上がったそばをどんぶりに盛り付けて、そこに煮ていた醤油とみりんの汁を投入。あ~いい匂い~。

そこにきざみのりとかまぼこを乗せて…完成!

「お待たせしました~」

三人それぞれの前にどんぶりを出す。

「これって…」

「そうです!うさぎです!」

「かわいいぃ」

サユさんが目を輝かせて箸でうさぎを摘む。

「心、意外と女子力あるじゃん」

「意外とって何ですか…」

箸でそばを掬い上げるように持ち上げて軽くふーふーっと冷まして啜る。

ん~美味しい~。冬はやっぱり温かいおそばにかぎるなぁ。

「うま~」

「あったまる~」

出汁の効いた汁が醤油とベストマッチしてて、かまぼこともよく合う~。

はぁ~幸せ~。

「心ちゃん、料理上手なんだね」

「えへへ、ありがとうございます」

「今度教えてほしいなぁ」

「はい!是非是非!」

「じゃあ私には毎日作ってくれ~」

「それは嫌です」

「なんでよ~」



「心、起きて起きて」

「んぁぇ?」

寝ちゃっていた…確か、おそば食べてそれから…えーっと…。

「はい、上着」

「うぅわぎぃ…」

「心ちゃん、起きて」

「サユさん…?」

ん…あ…ダメだ…まぶたが重い…意識が遠のく…。

「もぉ~しょうがないなぁ」

ん…体が持ち上げられて…運ばれる…………っっ!?

「さっむぅぅぅ!!」

「どう?目が覚めた?」

「は、はい…」

ようやく頭が仕事を始める気になると、サユさんにお姫様抱っこされてるという事が分かった。そして、扉を開けた玄関の前に運ばれてるという事も。

「中々、酷なことしますね~」

移月さんが笑いながら言う。

「はい、悪魔ですから」

うわっ。もうその笑みが怖いわ。

「ほら、心ちゃん、上着着て。それともこのまま運んでいく?」

「上着着させてもらいます…」




「もう結構人がいるね~」

「こんな寒いのによく来ますよ…」

「まぁまぁ。ほら、子供は風の子って言うでしょ?」

「それはそうですけど…」

「やった~大吉ぃ!心ぉ!見て~!」

「………私よりよっぽど風の子な人いますよ」

「あはは…」

起こされて早々連れてかれた場所は近所のお寺。なにやら、年越しの瞬間をここで過ごしたいとの事。そして、当の本人はと言うと、なんか調子いいらしいから自販機で当たるまで買ってくるとの事。

スマホを見る。あと五分で今年終了のお知らせ。

「今年はどうだった?」

「色々ありました。特に後半は」

「そうだよね。確か、移月さんと出会ったのもつい一、二ヶ月前なんでしょ?」

「はい。それからもう色々と…」

「あはは。でも、案外すぐに馴染めたんじゃない?」

「そうですね」

思い返せば不思議なものだ。あの日、移月さんと出会って、この世に魔法があるという事を知った。それだけじゃない。摩訶不思議な体験も魔界があるという事も、悪魔が本当にいるということも、そしてサユさんの様に日常生活のすぐそばに悪魔がいるという事も。それらをすぐに飲み込めるって自分でもびっくりするくらいに環境適応能力が高い。

「現代に生きる魔女や悪魔。そしてごく普通の日常を送っていた女の子。絶対に出会う事の無かったそれらの運命が結び合うとき、世界に祝福が訪れる~」

「あ、おかえりなさいです」

振り返ると、缶を三本ほど持った移月さんがいた。

「ただいま。ほい、これ」

温かい赤いラベルの缶をサユさんと私に渡す。甘酒だった。

「思ったより早かったですね」

「二本目で当たったからね」

「えっ…すごい」

「明日、死ぬかも」

「年末なのに縁起悪いのでやめてください…」

「あ、もうあと三十秒ですよ」

「心~なんか言ってよ~」

「え、言うって何を…」

え~無茶ぶりが過ぎる…。でもここで何も言わないのも違う気がするし…む~…。

「じゃあ、今年も色々ありましたがお世話になりました」

「お世話になりました」「お世話しました」

「来年もよろしくお願いします!」

「うん!こちらこそよろしくね!」「よろしく~」

「それじゃあ、新年を祝いまして!」

移月さんが甘酒の缶をカシュッと開けたのを見て私もサユさんも開ける。

「三…二…一!」

「「「かんぱ~い」」」

缶をぶつけ合い、同時に今年が終わる。何気にこれまでで一番充実した年越しの瞬間なのかもしれない。

それもそうかも。なにせ、今までで出会ったことのないもしかすると生きていて出会う事の無かったかもしれない、友達や仲間と言うにはおこがましい、隣人と言うにはそれだけには収まらない、師匠と言うには堅苦しい、けど家族みたいに迎い入れてくれるファンタジーな人達に出会ったのだから。

「さて、心。新年の一言お願いします!」

「え、えぇ~さっき言ったばかりじゃないですか!」

「これ…甘酒…?」

「はい。甘酒ですね」

「初めて飲んだけど…少し…えっちな感じがする…」

その唇ペロリがめちゃくちゃエロく見えた。

「ちょっとその話詳しく聞かせてもらえませんか?」

「はいは~い、帰りますよ~。あ~寒い寒い」

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